癒しはありません。覚悟を決めたらどうぞ!
夏の連休が始まった。
暇をもて余したココア、早速皆を遊びに誘おうと町に繰り出した。
(チノには断られた)
で、甘兎庵
「甘兎庵は今、浴衣週間中でーす。」
「そっかー千夜ちゃんは遊べないか~・・・あれ?エリア君は?」
「お休みよ」
「そうなんだ、どこにいるの?遊びに誘っちゃう!」
「んー、今頃列車の中かしら?」
「え?」
「里帰りよ、今エリア君は実家なの」
「えぇぇ!!?聞いてないよ!?」
「私も聞いたのは昨日だったわ・・・本当に勝手ね・・・」
・・・列車内
「(・・・もうすぐ着くな)」
既に何度も読んだ青山の本を閉じ、外の風景に視線を移す。
たくさんの建物、見慣れていたはずなのに・・・
「(・・・懐かしいな)」
見慣れた景色なのに、懐かく感じていた。
それだけその一年が楽しくて、毎日が騒がしかったからそう感じていた。
「(皆で山か・・・楽しかっただろうな)」
先日リゼから届いたメールには泊まりがけで山に遊びに行かないか?との連絡
そのメールは早めに返していたが、千夜にはすぐに言えなかった。
・・・昨日の夜
「いよいよ明後日ねエリア君!楽しみだわ~水着持っていっちゃおうかしら!」
「・・・あのさ、千夜」
「なぁに?もしかして日焼け止め持ってないとか?それなら私の貸してあげるわ。」
「俺行かないんだ。」
「え?」
「俺は明後日、山に行けないんだ。ちょっと用事があって」
「えぇ!?」
「楽しそうな千夜見てたら言えなくて・・・ごめん」
「用事ってなんなの?少し遅れるくらいならリゼちゃんに頼んで出発送らせてもらいましょう?」
「・・・家に帰るんだ」
「!!」
「明日ここを出る。一週間近くいないから・・・店主さんには話してる。」
「ま、待ってエリア君!」
「・・・」
「大丈夫なの?本当に行けるの?」
「っ!・・・大丈夫だよ。今の俺なら・・・きっと」
・・・
「(千夜に悪いことしたな・・・)」
本心を言うと・・・帰りたくない。
けど、春を過ぎ、もう一年近く帰っていないのだ。
そろそろ・・・両親に手を合わせなくてはいけない。
駅に着いた、荷物を持って改札を通った時だ
「エリアくん!」
「!」
自分の名前が呼ばれた、その方を見ると・・・
「良かった、すぐに見つかって。」
「お久しぶりです。それから年末年始はすみませんでした・・・清治さん」
どことなくエリアに似た男性・・・清治がいた。
・・・
清治の車に乗り、家に向かう。
「それにしても本当に久しぶりだね。妻も君に会いたがってるよ。」
「そうですか・・・えっと嬉しいです。」
「!、そうか、なら急いで帰ろう。」
・・・エリアの家
「さぁ、着いたよ。・・・まずは挨拶しておいで」
「・・・ありがとうございます。」
ドアを開け、家にはいる。
「っ!」
知らない家の匂いがした。間違いなく自分の家なのに
「?どうかしたかい?」
「・・・なんでもないです。・・・おじゃまします」
・・・
ここまでエリアを連れてきてくれた清治(せいじ)はエリアの父親の兄・・・エリアにとって伯父にあたる。
・・・なぜ伯父がエリアの家にいるのか、それは・・・
「ただいま、母さん・・・父さん」
この家にはエリアがいなければ誰もいないからだ。
・・・
仏壇にお供え物として、甘兎庵の羊羮を置き、蝋燭をつけ、線香を立てる。
仏壇には父と母の写真が飾られている・・・父の写真が増えたとき・・・自分はどうしていただろうか?
・・・
三年前、エリア中学二年生の頃
その日はひどい大雨で、エリアは学校から帰れなかった。
下足場前で、こんな日は頼んでもないのに母が来てくれたっけ・・・なんて考えていた。
母が死んでからは、父と二人暮らしだった。
仕事で忙しくても、家のために、なによりエリアのために頑張っていた父、可能な限りはエリアと一緒の時間を作ってくれていた。
家事だって不器用なのに、頑張ってくれていた。
参観日や運動会も来てくれた。クリスマスやお正月だって一緒にいてくれた。
母がいなくたってエリアが寂しがらないように、たくさんたくさん頑張ってくれていた。
エリアも成長するにつれ、それに答えようと沢山手伝いをしたり、父の負担が少しでも減るように頑張っていた。
物思いに耽っていても、雨足は遠退くばかりか強くなるばかり、そろそろ覚悟を決めて濡れて帰るべきか・・・と考えたいたが
『♪~♪~♪~』
携帯がなる、相手は父
「もしもし?」
「エリア、今どこにいる?」
「学校だけど」
「雨すごいだろ?傘持ってるか?」
「持ってない」
「仕事早く終わったんだ。今から向かうから待っててくれ」
「分かった、ありがとう父さん」
ピッ・・・
なんでもない会話、きっとそうだっただろう。
これが最後にならなければ
・・・
待てども待てども父は来ない。
雷まで鳴り出して、いよいよ濡れて帰ることも危なくなってきた
「(父さんどうしたんだろう。家からここまでそんなに遠くないのに・・・)」
心配になってきたその時だった
『♪~♪~♪~』
電話が再び鳴る、相手はまた父
なんだろう?もしかして車が故障したとか?それならどうしようか・・・と考えながら電話に出る。
「もしもし?」
いつもの優しい父の声を待っていたエリアの耳には、
「もしもし?エリアさんですか?落ち着いて聞いてください、こちらは○○病院です。和田清正(きよまさ)さんは現在心肺停止状態で危険な状態です。あなたの他にご家族や親戚にご連絡がとれるなら連絡を取って・・・もしもし?」
その言葉は・・・まるで聞こえなかった。
エリアが知っている大きな病院が父の名前を呼んでいるなんて、危険な状態だなんて・・・聞きたくなかった。
・・・
結局、伯父の清治に連絡が着き、清治はエリアを連れて病院に向かった。
交通事故だったらしい、雨でスリップした車に突っ込まれて病院に搬送、危険な状態が長時間続いていた。
それがエリアが車で聞いた話、清治はエリアの様子を見て車を急がせた。
だけど遅かった、たどり着いた病院のベッドには眠っているように目を閉じている父
エリアはただ立ち尽くことしかできなかった。
・・・
気がつけば葬式は終わっていた。
自分はただ母の写真と父の遺品を持って、座っていた。
親戚は自分をどこに預けるのかを話し合っている。
どこでもよかった・・・けど、ひとつだけワガママを言ってしまった。
「俺・・・あの家にいたいです。」
父と母と過ごしたあの家に居たかった。
たった一人でもいいから、あの家に居たかった。
しがみついてでも、泣きついてでもあの家に居たかった。
けれど、エリアはなにも分かっていなかった。家一つを維持するのがどれだけ大変なのか、そもそも中学生のエリアを一人にさせるというのも良くなかった。
その時だった、
「なら、俺が住む。」
清治が言ってくれた。
「俺はまだ実家から出てないし、仕事場も清正の家から遠くない。問題ないだろう。」
今にして思えば、清治はエリアのことを守るためにこういってくれたのではないだろうか。未婚の男性が親戚とはいえ中学生の男子を引き取るなんて、無茶なことではなかったのだろうか。
「これから、よろしく。エリア君」
清治はそういってエリアの手を差し伸べてくれた。
あの家に居れるならなんでも良かった。
だから・・・その手をとった。
・・・
それからしばらくは上手く暮らせてたと思う。
清治は実家暮らしだったけど、家事ができる人だった。
父と暮らしてたときよりきれいになった部屋や服、美味しい料理・・・けど、その時から少しずつ違和感を感じていた。
「(あ、あれ?)」
それからまたしばらくして、清治が結婚した。
エリアが中学三年生になった頃だった。
清治のお嫁さんもいい人だった、それこそエリアは完全に他人なのに、可愛がってくれた。
次第にリビングや玄関が変わっていく、知らない食器や靴が置かれている。
「(なんだろう・・・この嫌な気持ち)」
笑顔の新婚の二人、その光景が少しずつ少しずつエリアの違和感を大きくさせていく。
・・・そして今
「(今日来てはっきり分かった・・・もうここは・・・)」
仏壇に手を合わせて・・・瞳をあける。
「(俺の家じゃない)」
知ってるのとは違う家の光景に空気に匂い、家から聞こえる音も声も、作ってもらう料理も全部自分の知ってるものと違う。
ここはもう・・・違う人の家だ。
・・・そこからしばらくどう生活していたかは覚えてない。
時々来る千夜たちからのメールを見ると、楽しそうな写真が送られてきた。
これは山だろうか?キャンプファイアーの写真だ。
これは肝試し?千夜とシャロとお化け姿のココアが何故か泥だらけだ。
俺がいなくたって・・・楽しそうだ。
・・・
「もう帰ってしまうんだな。」
「はい、あまりお邪魔になってはいけないかと思いまして」
「邪魔だなんて、あそこは君の家だろう?」
「・・・でも、これから家族だって増えるかもしれないでしょう?もし部屋が足りなかったらあの家の俺の部屋も使ってください。」
「っ!」
「もうあの部屋に俺のものはありません。好きに・・・してください。それでは」
駆け足で去る、声をかけられた気がする。また来なさいって、けど
「(もう・・・俺に帰る場所はない)」
それが分かってしまったから、もう振り返ることはできなかった。
もう一つ、自分がここにいたいと思える場所があることなんて・・・その時は頭から抜け落ちていた。
喫茶店こそこそ話拡大編
エリアはお父さん似、従ってお父さんのお兄さんにも少し似ています。とても兄弟仲が良かったそうです。
清治さんはエリアを父親の最後に会わせてやれなかったことをすごく後悔していました。
エリアの母親が亡くなった時、エリアを連れたままでは辛いだろうと、実家に戻るように言っていましたが、エリアのお父さんは家族皆で過ごしたあの家を捨てられなかったそうです。それを知っているからエリアのことを守ろうとしてくれました。
リビングなどは生活の都合上変えるしかなかったけど、エリアの部屋とエリアの父と母の部屋は変えず、お嫁さんにも近づかないように伝えて、エリアがいつでも落ち着けるように掃除だけはしてくれていたそうですよ。
けど、エリアは変わったことにしか気付けなかったようです・・・