手紙を読んでから数日エリアは変わらず過ごしていた。
時々何かを考え、思い悩んで挫けそうになったら、皆の手紙を読んでいた。
少しずつ少しずつ、話したい言葉を選んで削って、また選んで・・・そんな日々
・・・甘兎庵
「今日ってココアが帰ってくるんだよね。」
「そうなの、今日はラビットハウスで皆で出迎えるの、だからエリア君も「俺も行くよ」!」
いつもと違い、自分から行くと言い出したエリア
「そこで皆に話したいことがあるんだ。上手く話せるか分からないけど」
真っ直ぐに千夜の瞳を見つめるエリア、瞳が今までより一際大きく輝いている。
「!、それなら皆に連絡しましょう。あ、後行くならエリア君にひとつお願いがあるの」
「お願い?」
・・・駅
千夜にお願いされたことは、帰ってくるココアを駅まで迎えに行き、そこから少し話をしてから、ラビットハウスに帰ってきてほしいとのこと。
「(話って・・・なにするんだ?)」
千夜からはなんでもいいから、と言われた。
そうこうしていると列車が着いた、あの列車だろうか?降りてくる乗客の中からココアを探すが見当たらない。この列車ではないようだ。
ベンチに座り、話したいことをもう一度まとめる。
まず、母のこと、それから父のこと、そしてここに来るまでのこと
自分がどういった人間なのか知ってもらうために、これまでの自分のことを話そうと思う。
・・・けど、もしも否定されたら?
そんなことない、ちゃんと皆聞いてくれる。
・・・聞いた上で、今までの自分を否定されるかもしれない。
そこについては否定しない、あり得る話だ。けど、そうなったら今度はこれからの自分を話したい。
まだなにも決まってないけど、これから自分がどうありたいのかを、話したいんだ。
少なくとも、皆は今の自分のことを認めてくれている。
・・・そんなの、真実か分からないじゃないか。自分は一度彼女達の優しさを否定し、関わるなと言ったんだ。なぜ、今度は自分がそう言われると考えない。
この数日何度も頭の中で繰り返した自問自答、そっと自分のポケットに手を置く、カサリ、と音がした。ここには皆からの手紙が入っている。
封筒の中にははがきサイズの紙が一枚入っていた。
そのどれにも、エリアと過ごして楽しかったことや感謝していることが書かれていた。それを何度も読んで、終いには覚えてしまった。
『列車で初めて会った時からずっと友達だよ!やっぱりあの時の出会いは運命だと思うんだ。だってエリア君に会えて私たちは毎日とっても楽しいもん!・・・今まで私が誰かの憧れになれるなんて、思ってもなかったんだ。だからこれからもよろしくね!』
『演劇部の助っ人の時には応援してくれてありがとう。ココアと千夜と一緒になってボケ倒す姿も、皆の悩みを聞く時の真剣な姿も、どっちも本来のエリアで、凛々しい姿だと思う。できれば、これからは一緒にココアと千夜を止める役をしてくれると嬉しいな。』
『コーヒーが飲めないのは、エリアさん悪くないのに、申し訳ないって顔をしていたのを見て、いつかエリアさんがおいしいと言ってくれるような、コーヒーを淹れたいと思いました。これからも試飲を手伝っていただけたら嬉しいです。』
『チノやメグとはできないゲームとか漫画の話ができる友達ができてすっごく嬉しい!エリアはすごく優しくて、でも時々厳しいところもあって、私にとってもう一人のアニキみたいなんだ!だからこれからもいっぱい一緒に遊ぼう!』
『今まで周りに男の人のお友達っていなかったけど、エリアさんと一緒にいるとお兄さんみたいって思ってます。時々甘兎庵に行ってエリアさんが一生懸命働いてるのを見て、すごく楽しそうって思いました。いつかエリアさんとお仕事してみたいです!』
『あんこのこともあるけど、バイト帰りにいつも体調とか気づかってくれてありがとう。けど、アンタだって疲れてるだろうし、いつでもお店にいらっしゃい、美味しいハーブティー用意しておくわ。相談でも、愚痴でも何でも話しなさい、その分私の話も聞いてもらうけどね。これからもよろしく。』
『エリア君が初めて来た日を思い出しながら書いています。あんこが珍しく懐いて驚いたわ。けど、それから一緒に働いて楽しいことしたり、少しだけケンカしちゃったりしながら過ごしてきて、エリア君がとっても優しい人だって分かって納得したわ。私、そんなエリア君のことが大好きよ。だからこれからも一緒にいたい。』
皆の気持ちが言葉になって形になって、今ここにある。
その全部を受け止めて、今ここにいる・・・だから「エリア君!」
「!、ココア・・・久しぶり」
考え事をしていると、とっくに列車が着いていたようだった。
エリアが帰って、戻ってからココアが帰ったので実に2週間、久しぶりの再会だ。
「えへへ、久しぶりだね。ちょっとだけ離れてただけなのに」
「入れ替わりだったもんね。どうだった?モカさん元気にしてた?」
「うん!元気だったよ。色々大変なこともあったけどね・・・」
「そっか、良かったら聞かせてくれないかな。千夜から少しだけ話してから来てって言われてて。」
「もちろん!けど、その前に・・・えいっ!」
ギュッ!
「!、ココア?」
ココアが抱きついてきた、いつものことだけど・・・何故?
「ごめんね、エリアが困ってる時に近くで助けてあげられなくて・・・お姉ちゃん失格だ。」
「ココア・・・」
「あのね?向こうでお姉ちゃんに言われたの、もう私はチノちゃんのお姉ちゃんで、エリア君の憧れなんだから頑張りなさいって、それなのに近くにいれなかったから・・・」
「そんなの気にすること「気にするよ!」!」
「前にエリア君に傷のことなんて忘れちゃうくらい笑わせてあげるって約束してたのに、肝心な時にいなくて、なにもできなくて・・・」
かなり気にやんでいる様子だ、こんな時は
「パンケーキおいしかったよ。」
「え?」
「マヤちゃんとメグちゃんに教えたパンケーキ、すごくおいしかった。教え方がいいんだろうね。」
「そんなことないよ、何度も失敗したって言ってたし・・・」
感謝の気持ちを言葉で伝えよう。
「それに、手紙すごい嬉しかった。今更かもしれないけど、俺もココアとの出会いは運命だったんじゃないかなって思う。ココアから始まって皆と一緒に入れて・・・俺は久々に上を向けた気がするから。」
そして、気づけば
「ここで過ごす日々が彩られたんだ。なにかあっても、なにもなくても、いつでも他愛ない話ができて、互いに互いを思いあって・・・毎日すごく楽しくてしょうがなかった。そしたら、今度は憧れができた。けど、俺の憧れはそんな顔のココアじゃないんだ。だから笑ってほしい。」
「!・・・もう、ズルいなぁ」
ごしごしと目を拭って、にっこりいつもの笑顔
「これからもエリア君の憧れでいてあげる!お姉ちゃんに任せなさい!」
「うん、任せた。ココア姉さん」
「!!今なんて!?」
「なんでもない、さぁそろそろ帰ろうか」
「うそだ!もう一回言ってよー!!」
軽いおいかけっこになりながら、ラビットハウスに向かって帰っていく。
・・・そして、ラビットハウスへ
入ると同時に、ココアの頭に皆が作ったココアモデルのうさぎのぬいぐるみが跳んできたりしたが、それぞれ再会を喜んでいた・・・そして
「さぁ、エリア君お願いね」
「・・・うん」
約束を守り・・・話すときが来た。
バータイムの邪魔はできないので、ラビットハウスの居住区に移動しようとしたら、チノの父タカヒロがここを使うといいと、お店を開けてくれた。机を動かして、皆で話せるようにして座る。
チマメ隊の三人には少しショックが大きいかもしれないと、あらかじめ言っておいたが、全員大丈夫だと言って聞かないので話すことにした。
話そうとするが、手が震えてしまう・・・そこに
「あぁ、忘れるところだった。あれ渡しとかないとな、千夜」
「!、そうね。ごめんなさいエリア君忘れてたわ」
そういって手渡されたのは、エリアモデルのうさぎのぬいぐるみ
エリアの好きなヒーローを模していて、手にはクリスマスに千夜もらったおもちゃのミニチュアを持っている。
「手が震えるなら、これを持ったらいいわ。皆で協力して作ったのよ。」
「!、ありがとう。」
うさぎを両手で持つ、不思議と落ち着いた気がした。
「ふぅ・・・よし、話すよ。」
・・・
そうして話したかったことを話した。
時々詰まったり、止まったりしたけど皆聞いてくれた。
母のこと、父のこと、これまでのことを話した。
「・・・ってことがあって、今ここにいるんだ。」
そして、ここからが本題
「俺は、あの家にいたくて、伯父さんの優しさを利用した。
だけど、俺がいたかったのは家族がいたあの家だったんだ。それに気づいたら俺の家はここじゃないって、自分勝手に決めて・・・伯父さんのくれた優しさを捨てた。
皆が手紙に書いてくれような俺はこんな人間なんだ。自己中心的で自分勝手・・・そんな人間なんだ。」
それはエリアの一番の傷だった。
母と父が愛してくれた自分がこんな人間だということが嫌だった。
そして今、自分の前にいる友達が認めてくれている自分はそんな人間だったと知られて、嫌われるのが嫌だった。
それを認めたくないから、傷を見ないフリをしていた。
そんな自分が嫌だった。
だけど、こうも思ったのだ。
皆ならこんな自分も受け入れてくれるのではないだろうか、と
「話を聞いて軽蔑されても仕方ない、呆れられても仕方ない・・・けど」
元に戻ってしまってしまったかもしれない、けど少しでも自分はここにきて変わったと言ってくれる皆なら・・・
「これからまた皆に認めてもらえるように、頑張るから見ていてほしいんだ。
それで、ただ俺は・・・」
否定してほしくないし、かといって肯定してほしいわけでもない、ただ知っていてほしい、これから頑張ることを
そして最後は、単純でシンプルな願い
「俺は、皆と一緒にいたいんだ・・・」
その願いは祈りにも似ていた。
・・・少しの間、静かになった。
エリアはうつむいている、目前には皆にもらったうさぎのぬいぐるみ
怖い、皆のことを信じてる、けど怖い
「エリア君、顔を上げて?」
「っ!・・・」グッ
千夜の声に答えて、顔をあげた。
視界に広がる皆は真っ直ぐにこちらを見ている。
チマメ隊は目に涙を浮かべている。やはり、まだ早かっただろうか
「エリア君の今ほしい答えは分かる・・・けど、まずはこれだけ言わせてちょうだい?
約束を守って、話してくれてありがとう。」
「!」
「エリアがすごく勇気を出して話してくれたのはよく分かるからさ、それにはちゃんと敬意を払わないとな。」
「今までずっとどんな気持ちでエリア君が生きてきたのか、よく分かったよ。
それでもやっぱり私たちは優しいところも素敵なところもいっぱい知ってるよ!」
「そうね。私たち皆、成長して進化していってるエリアのことを見てきたから、例え元にもどってしまったって、エリアがまた前を見て進むことができることは分かってるわよ。」
「その、私は上手く言えないですけど、いつだって相手のことを考えて行動できるエリアさんのこと、知ってますから!・・・だから」
「落ち着いてよチノ、泣きながらじゃなに言ってるか分かんないじゃん・・・」
「マヤちゃんも一緒だよ、でも私も、上手く言えないかな・・・」
高校生組はしっかりと、チマメ組は涙を拭いながら、順番に話している。
「エリア君の傷のことはよく分かったわ。その上で、前に言ったことをもう一度言いたいの。
私たちはエリア君を一人きりになんて絶対させない。」
「!」
宣戦布告だった言葉が今、エリアを救う言葉になる。
「エリア君が一人になりたいって言ったって一人にさせてあげない。追いかけて優しさをぶつけにいくわ。シャロちゃんが言ってた優しさのドッジボールよ。絶対に逃がさないわ。」
「そうだよね、千夜ちゃん。エリア君に寂しい顔なんてさせないって二人で宣言したもんね。これからは遠慮なしでドンドンいくからね!」
「けど、あんまりやりすぎると嫌われるぞ?・・・だけど、そこは私達でちゃんと止めてやればいいかな?なぁシャロ?」
「はい!けど、私達もガンガンいきましょう先輩。エリアが逃げられないって思うくらい、ここに縛り付けるくらいの気持ちで!」
「お、おぉ、シャロが珍しく燃えてるな。エリア覚悟決めといた方がいいんじゃないか?それに私たちもやらなきゃいけないみたいだぞチマメ隊。」
「そうですね、折角エリアさんがコーヒーを美味しいと言ってくれたので、これから常連として来てもらいます。毎日エリアさん専用コーヒーを淹れるので絶対に来てください。」
「!、チノが珍しく強引だ!けど、私も了解!エリアとはまだまだ遊び足りないんだ!だからこれからももっと私達と遊んでもらうからね!」
「私も!今度甘兎でスタンプカードのデザート食べにいきます!それにお手紙にも書いてたけど私、甘兎で働いてみたいです!だから色々と教えてください!」
「だそうよ、エリア君、これはもう関わるななんて言ってられないわね?エリア君が離れたってこっちから行っちゃうんだから!
それにね、エリア君・・・」
ギュッ!
席を立った千夜が、エリアのことを抱き締める。
「!?千夜!?」
千夜が自分からスキンシップしてくるなんてこと、今までなかったのだ。
何故、今までしていなかったのか、そして何故今行うのか、それについては・・・
「私にもね、エリア君に伝えてないことがあるの。」
「?なんのこと?」
「・・・今は言えないわ」
理由はある、けど今言うわけにはいかない。
「今エリア君の傷は今やっと、癒されたと思う・・・けどね?まだなにも終わってないの。これからやっと始まるの」
そう、エリアの心は癒されたのだろう。でもまだなにも終わってない。
「これからエリア君には色んなことが待ってるわ。楽しいこと、辛いことだって待ってると思う。」
いつまでも伯父と微妙な関係でいるわけにもいかない、いつか自身ともう一度向き合わなければいけない時がくる。
「だけど、忘れないで。忘れられない努力を私達もしっかりとするから」
また目を背けたい、逃げ出したくなる時がある、けどそんな時は
「いつだってここに帰ってくればいいことを忘れないで。
エリア君がずっといたいって思える場所はここにあるの。」
暖かいこの街が、いつもの喫茶店が、いつもの家が・・・
一緒にいたいと願う皆の元が
「そこがエリア君の帰ってくる場所なの。
もう帰る場所がないなんて絶対に言わせないわ。また迷子になったら手綱つけてでも引きずってここに連れて帰っちゃうから。」
そう、エリアは少し迷子になってただけだったのだ。
一つ帰る場所がなくなって、もう一つの帰る場所が見つからなくなって、一人ぼっちに不安になっていた。
そんな自分の名前を読んで、手を引いて、帰る場所はここだよって教えてくれた。
そして今、帰ってこれた。
千夜に、皆の優しさに包まれている。
「・・・」
怖かったんだよ、辛かったんだよ
家族の、伯父の、友達の気持ち裏切ったんじゃないかって、怖かったんだ
「ありがとう・・・皆本当に・・・」
けど、そうじゃなかった
皆そんなこと気にしてなかった、皆自分が帰ってくることを願ってくれていた。
母は離れないように手を繋いでくれていた、抱き締めてくれた。
父は自分が帰ってこれるようにあの日迎えに来てくれていた。
伯父は自分から手放してしまったけど自分が帰る場所を守ってくれていた。
友達は、新しい帰る場所から自分のことを呼んでくれていた。
皆、自分を待っていてくれた。
「う、あ・・・」
お礼を言った途端溢れる涙、嗚咽が抑えられず、一つまた一つと涙が溢れていく。
「・・・泣いてもいいのよ、泣き止むまで皆近くにいるから、泣き止んだら全力で笑わせてあげる、覚悟しててね。」
「ははっ、何だよそれ・・・そんなん言われたら、我慢できないじゃん」
もう抑えられない、千夜の腰に手を回して、抱きしめ返す。
「・・・うぁぁぁぁ!!!!」
声も涙ももう我慢なんてできなかった。
全力で泣いた。
今まで貯まっていた涙が全部流れた。
その様子を皆は、ただじっと見守っていた。
この後は絶対にエリアを笑わせてみせると心に決めて。
喫茶店こそこそ話
エリアがもらったうさぎのぬいぐるみはずっと大切にされていて、先の未来、エリアの子どものお気に入りおもちゃになったそうですよ?