叩きつけられた果たし状を読み、朝御飯を食べ終えて家を出たフユ
途中少し奮発して高い菓子折りを購入し、いざ甘兎庵へ向かう
・・・そうしてたどり着いた甘兎庵、普段は何気なく入れるお店も今日は違う、身体が少し震えて怖じ気づいてしまう
「(こ、これが魔王の城に向かう勇者の気持ち・・・)」
そんな先の見えない不安を噛み殺し・・・ドアを開く
そんな勇気とは裏腹に店内はいつものようなイベントはしていないがかわらない様子
「いらっしゃい・・・アンタ客じゃないね」
「っ!?は、はい」
フユに話しかけたのは以前千夜とエリアから聞いている千夜のおばあちゃん
「二人から話は聞いてる、奥に上がりな」
「あ、ありがとうございます」
「廊下進んで三つ目の部屋がお目当ての部屋さ」
そうして廊下を進む途中で
「・・・流血沙汰にならないかぎりは止めないから安心しな」
「!?」
そんな不穏な台詞を背後からかけられ、更にビクつきながら言われた通りの部屋へ向かう
そこには・・・
「あ、フユちゃんいらっしゃい」
「千夜姉!?」
机に置かれたおやつを食べながら座っている千夜
「ほらエリア君、フユちゃん来たわよ」
「ん?、あぁいらっしゃいフユちゃん」
千夜の隣に座って、ゲームをしていたエリアが顔を上げた・・・机の上の某チョコがけプレッツェルをポリポリと齧りながらフユに話すエリア、頭にはいつも通りあんこを乗っけている
「こ、これつまらないものですが」
そうして机を挟んでフユと千夜に並んでエリアが座りようやく話が始ま・・・
「え?これ結構するやつじゃん」
「あらホント、手ぶらでいいのに」
「これは負けてられないね、お茶いれてくるついでに大福もらってくる」
「最中も忘れちゃダメよ」
「了解~」
らない、割りといつものテンションで流れるようにエリアがお茶を淹れに行った
「(けどエリア兄と千夜姉喧嘩してない・・・よかった)」
違和感の感じるような仲のよさではなく、この町に来てから少ししか見ていないがよく知っている仲の良さ
・・・これを知ったから、フユは自分の気持ちに気づくことになったのだが・・・
「ッ「フユちゃん?大丈夫?」!、大丈夫だよ」
覚悟を決めていても、エリアへの気持ちを自覚した後では感じ方は違う
思わず曇ってしまった表情、それに千夜が気づいたがそしてそれをなんとか誤魔化す
「(まだ、まだその時間じゃない)」
まだ顔を曇らせるわけにはいかない
・・・
お茶と自慢の和菓子、そしてフユの持ってきてくれたお菓子が机に並ぶ
美味しそうで、実際に美味しいことは知っているが今は誰も手をつけない
あの引く程甘いものが大好きなエリアですらも、今は手を出さない、あんこも今は下ろしている
千夜とフユはエリアの言葉を待ち、エリアは気持ちを整え・・・そして話す
「まず俺は二人に謝らないといけないことがあるんだ」
「謝らないといけないこと?」
見当がつかず、フユが首をかしげる
「うん・・・千夜にフユちゃんにどうやって答えるの?って言われた時に俺は・・・千夜がいるからって答えたんだ」
そう言ってしまったあの時は本当に分からなかった、だけど
「今思えばその答えは間違ってるし、二人に対して失礼だったって分かったんだ
俺は千夜を言い訳にしようとしてた、千夜がいるからフユの気持ちに答えないなんて・・・そんなの言い訳だ」
エリアは間違っていた
フユの気持ちに答えられないのは千夜が
例え咄嗟に出た答えであろうと・・・千夜とフユのことを大切に思うのならそうではない、言い訳ではない言葉で言わなくてはいけない
「そのことを昨日千夜に謝ったんだ。だからフユちゃんにもちゃんと謝らせてほしい・・・ごめん」
「うん」
「それから今から俺はフユちゃんに対して酷いことを言う」
「っ!」
「だけどちゃんと言わなきゃいけないと思うから言うよ」
今からは兄ではなく、男して
真に想う心のままに・・・話す
いるからではなく、言い訳ではなく
「あの日フユちゃんが勇気を出して俺に伝えてくれた想いはちゃんと受け止めた
だからこそ俺もちゃんと伝える」
ここまで言って、少し言葉が詰まる
一度唇を開き、閉じて・・・グッと噛み締めてから・・・目を逸らさず想いに答える
「俺は千夜が好きで愛してる、だからフユちゃんの気持ちには答えられない」
「!!」
「!・・・エリア君・・・」
語られたエリアからの答えに涙を浮かべるフユ
言い訳ではなく、自分の想いを込めた答え・・・それは愛している千夜のため、そして大切な妹の気持ちにちゃんと答えるため
そしてエリアの名を呼ぶ千夜、だがそれは安堵からではない
隣に座るエリアの膝の上で握られている拳が強く握られたのが見えたからだ
「(絶対に俺がブレるな、耐えろ)」
どうしたってフユはエリアにとって大切な妹で、それこそ家族みたいな存在だから・・・そんな存在からの気持ちを真っ向から否定する、そんな身を切られる想いを今エリアは耐えている
自分の答えで一番傷ついているフユのために耐えている
少しでも自分がそんな表情を見せたらフユは自分を責めてしまうから
そんなエリアの想いが分かるから千夜はなんとも言えない気持ちになった
そしてエリアの視線の先には
「ご、ごめ、んなさい・・・」ポロポロ
涙を止めようと必死に目を抑えるフユがいる・・・その口からでるのは謝罪の言葉
「・・・フユちゃんが謝ることなんてないよ」
「だって、私のせいで、二人、ケンカしてたでしょ?」
エリアからの答えを受けて、罪悪感も増したのだろう
「!、気づいてたの、でも「それは私たちの問題」千夜・・・」
「今回は私もエリア君も感情が先走りすぎて、言葉も上手くでなくてギクシャクしたわ・・・けどそれはフユちゃんは悪くない、互いを信じられなかった私たちが悪かったの」
これ以上エリアを辛い目に合わせないためなのか、千夜が言葉を続ける
「だから気にしないで?」
「・・・うん、分かった」
ゴシゴシと涙を拭うフユ、まだ到底降り止まぬ涙を必死に拭う
「フユちゃん・・・」
きっとフユもこれ以上自分が泣いていてはエリアと千夜に心配をかけてしまうと思っているのだろう、だから必死に堪えようとしているのだ
大切な妹の涙を拭ってあげたいと思ったが自分にその資格はないことに気づき・・・用意していた言葉を述べる
「フユちゃんの気持ちに答えられない・・・そんな俺はもう君のお兄ちゃん失格だね」
ココアはお兄ちゃんに終わりはないと、そう言っていた
だけど・・・こればっかりはもうどうしようもないと思った、もう自分達は兄と妹ではいられなくなったから
今のままではフユは自分と千夜に罪悪感を感じながらこれからを過ごしてしまうことになる
そんなのダメなのだ、フユはこれから暖かくて優しいこの街で友達とたくさんの素敵な時間を過ごしていくのだから
「え?」
このまま自分と中途半端に時間を重ねて歪に過ごしていくくらいだったらいっそ・・・
「もう俺はエリア兄じゃない・・・ただの喫茶店の店員さんだ」
更にフユを傷つけることになっても、
約束を違えることになっても、
自分が悪役となってでも・・・
「これまでをなかったことにはできないけど、これからは変えれるから」スッ
さっきとは真逆で今度はフユを傷つけるために話を続けながら立ち上がる・・・もうここで終わりにするために、そうしないともう自分がもちそうにない
「待って・・・待って!エリア兄!」
ドアに向かって進む・・・それを止めるフユの声に振り向かず、告げる
「もう俺は君のお兄ちゃんじゃない」
バタン・・・そうしてドアを閉じた
これは自分への罰だと溢れる涙を乱暴に拭い少しだけ一人で泣きたくて、行く宛もなく駆け出した
・・・
「エリア、兄・・・」
フユにはなんでエリアがあんなことを言ったのかは簡単に分かった
これから自分達の間で余計なしがらみを生まないためだ、傷つけてでもフユのこれからを守るためにエリアにとって辛い道を選んだ
「・・・まさか、本当に言うなんてね」
「千夜姉は知ってたの?」
出ていくエリアを黙って見送った千夜がその口を開いた
「えぇ、昨日色々相談し合ったの。その時に聞いたわ」
このことはエリアの独断で決めたわけではない
もちろん千夜は止め、それどころか電話を繋いでいたいつもの皆からも止められた
それでもエリアは意思を曲げながった
それがフユを傷つけることになるんだぞと言われても、これがフユのためなのだと言って聞かなかった
エリアは皆ならこの想いを分かってくれるはずだと信じた
それに対して皆はこんな馬鹿なことをするエリアのことをたくさん責めた後に、ちゃんと慰めさせることを約束させて渋々了承した
「エリア兄は本気なのかな、本気で私とのこれまでもこれからも捨てるのかな」
「えぇ、良くも悪くも思い立ったら一直線だから・・・よく知ってるでしょ?」
「っ!・・・うん」
初めて出会った時も迷子の子猫のお母さんを探そうと、フユの手を引いて街を探し回った
見つかるはずなんてないのに、エリアは諦めず進み続け、そうしてお母さん猫を見つけた
エリアがやると決めた時の行動力と覚悟をフユはよく知っていて、それは簡単には曲げないこともよく知っている
なによりこうなってしまうことも承知で告白したのはフユだから、もう自分にはどうすることもできない
それでも、実際にこうなると堪えるものがある
覚悟はしていても辛い
「追いかけなさい」
そこに一石を投じたのは千夜
「っ!?でも私はもう「本当にいいの?」!」
続いて問いかける
「エリア君は今自分で自分を傷つけているのよ?そんなの許せる?」
「許っ、せない・・・けど」
「そうよね、私も許せない
だけど今のエリア君に私の言葉は届かないの・・・今までみたいに一人で勝手に・・・じゃなくてちゃんと皆と相談した上で、エリア君はこの道を選んだ
だから今のエリア君に届くのはフユちゃんしかいないの」
千夜はエリアの考えを聞き、止まらないエリアの意思を曲げられるのはフユしかいないと考え至った
「エリア君のことを一人の男の子として好きなフユちゃんの気持ちは本物だと思うわ、私もそうだから
だけどたくさんの時間を過ごしてきたお兄ちゃんと妹っていう二人の絆も本物でしょう?それは私にはどうやったって手に入らないもの
そんなフユちゃんとエリア君を見る度に悔しいくらいだったもの」
フユと同じように、千夜も胸の痛みを抱えていた
「!」
「ココアちゃん曰くだけどエリア君はお兄ちゃんとしてまだまだなの。迷ったり、間違ったりする、でもその度に強くなって進化していくって・・・だけど今はただ傷つこうとしてるの」
今、酷なことをフユに頼んでいるという自覚はある
自分がこんなことを言える立場でないことも分かっている・・・それでも、愛する彼を今助けることができるのは自分ではないから
「エリア君のこと助けてあげて」
だから、託した
そしてその千夜の想いが伝わったから・・・フユは視線を上げた
・・・
フユが甘兎庵を出たところで・・・
「!エル、ナツメ」
「あ、フユさん!」
「エリアさんはあっちに行ったよ!」
「二人がどうしてここに?」
「私はマヤからここに来てって連絡もらって」
「私はメグさんから、それからエリアさんの歩いた方向をフユちゃんに教えてあげてって連絡がきたの」
「そうなんだ・・・ありがとう!」
ちゃんとしたお礼はまた今度すると決めて走る・・・そのフユの背に
「マヤとメグの他にも皆いるからねー!」
「皆千夜さんから連絡もらってるみたいだよー!」
二人の声が送られた
「他の、皆?」
・・・その言葉の通り、道の途中でココア、チノ、リゼ、シャロ、マヤ、メグ、それに青山まで、皆がエリアへの道標となってくれた
そして
「フユちゃんのお兄ちゃんにココアお姉ちゃんが怒ってるからね!って伝えておいて!今度会ったらお説教するから!だから全部終わったらウチにおいで!」
「終わったらラビットハウスに来てくださいね、サービスします。秘蔵のコーヒー豆も出しちゃいます・・・それからエリアさんにはもっと苦いの食らわせます!」
「アイツへんな所も不器用なんだよ・・・なんてことフユはよく知ってるよな。だから頼む、実力を行使しても構わないから連れ戻してくれ」
「今回のことに関してはもう黙っておこうと思ってたけど・・・やっぱりこれは見過ごせない、この期に及んでこんなの許せないっ!だからお願いね!!」
「昨日から思ってたけど全くエリア分かってないよね。エリアが傷つこうとしたら私たちが黙ってるわけないのに。だから頼んだよフユ!けど今回の分は今度ブラバでサービスよろしくね!」
「ちょっとだけエリアさんとケンカになっちゃったこともあったけどフユちゃんも甘兎庵組の一員なんだよね。だったら私の方が先輩なのかな?けどこのままじゃそんなこと言ってられないからエリアさんのことお願い!」
「時々のビターな展開は物語を盛り上げますが・・・このままではバッドエンド一直線ですね。そんなことにはさせないために・・・お願いしますフユさん」
皆からエリアを追いかける理由と気持ちを受け取り・・そして
「見つけた」
「なにしにきたの?」
エリアはゲームセンターのような施設にいた
それなりに木組みの街を探索したつもりのフユも来たことのない初めての場所・・・そこのメリーゴーランドの前にエリアは立っていたが伏せた顔から見える目は真っ赤、恐らく泣いていたのだろう
「迎えにきたよ、エリア兄。帰ろう?」
「俺はもうお兄ちゃんじゃないよ」
「ううん、それを決めるのはエリア兄じゃない。私が決める」
「!」
強気なフユの言葉に驚き、伏せていた顔を上げて、ようやくフユの顔を見たエリア
その目に映るフユは怒っているように見えた
「勝手に私の気持ちもこれからも決めないで」
「っ!、それは、ごめん」
「だけどエリア兄の決めたことが間違ってるとは思わない。きっとそれだって一つの答えだよ」
「なら「だから」!」
「私の決めたことも聞いてくれる?」
「!、うん」
「ありがとう、とは言っても流石にしばらくは今回のことを引きずると思う。だって初めての失恋だから」
「ごめ「でももう謝るのはなしにしよう」!」
「私はちゃんとエリア兄に気持ちを伝えて、ちゃんと答えてもらえた。だからこれでいい・・・だけど」
ポロっとまた涙が溢れる
「エリア兄とのこれからを捨てたくない」
「!、フユちゃん」
「ある人に強欲で傲慢にって教えてもらって、エリア兄の気持ちを伝えた。
だけど心のどこかでこうなることは分かってた。
それでもちゃんと受け止めるって決めてたんだ、結局泣いちゃったけど・・・ちゃんと受け止めて、私はエリア兄や皆とこれから時間を重ねていこうって、決めてたの」
「フユちゃん」
「だからエリア兄、私を傷つけたとか私のこれからとかは全部一旦置いて、その上教えてほしい。
エリア兄はもう私を妹とは思えない?」
「けどもう俺たちはそうあれないんだよ」
「けどってことはそう思ってるんだよね?」
「!」
「エリア兄が少しでもそう思ってくれているなら・・・この手をとって」
そう言ってエリアに手を差し伸べるフユ
二人の絆はつい先ほど切れた
切れてこれまでの全てが消えた・・・だから
「エリア兄がそうあれないって言う原因を作ったのは私、それは私の罰だよ
けど、それでも・・・これまでエリア兄と過ごしてきた時間をなかったことにしたくない」
もう一度繋ぎ直すために、手を伸ばす
「都合のいいこと言ってるのも分かってる。
烏滸がましいのも分かってる」
その手は酷く強欲で傲慢、欲にまみれている
「それでもダメ、かな」
だけど
「エリア兄と、繋がっていたいって思うのはダメかな?これから時間を重ねてもう一回兄妹になりたいって思っちゃダメかな?」
何よりも純粋で真っ直ぐな願いだった
「・・・」
涙を流しながらこちらに手を差し出すフユをジッと見ていた
愛というものは酷く厄介だ、沢山の人にあげることができてもその度合いが違うだけで心からの深い愛は誰か一人にしか向けられない
そのせいで間違いなく大切な人だ、といえる人を切り捨ててでも、愛している人を選ばねばならない
現にそれを迫られ、フユを切り捨てた
自分から切り捨てたのにそれでもフユのことは大切な人だと思うのだからおかしな話だ、自分を傷つけてでも守ってあげたいと思うのだから
でもそのフユがそうはさせないと、手を伸ばしている
絶対に千夜がフユの背中を押したのだろう、下手すれば千夜以外の皆も、それでもフユは自分で決めて、こんなところにいる自分を見つけ出したのだ
自暴自棄になって、自分で自分を傷つけるエリアの手を止めにきたのだ
もう昔の恥ずかしがり屋で引っ込み思案だったフユはいない・・・本当に
「強くなったね、フユちゃん」
ギュッ、フユの手をエリアがとった
「!」
「それに比べて俺は本当にお兄ちゃん失格だ」
「!、そんなことない!」
「うん、そう言ってくれると思った」
今度はエリアの番
「だから聞かせて?こんな俺でもいいなら、もう一度俺をフユちゃんのお兄ちゃんにしてくれる?」
そんなの答えは決まっている
「もちろん!」
気持ちに答えられなくても、
互いのことを傷つけたとしても、
絆が一度と切れてしまったとしても、
あなたのことが大好きだから
喫茶店こそこそ話
この後手を繋いで帰ってきた二人を皆はフユだけ優しく迎え入れましたよ!
エリア?流石に今回は青山までも少し怒ってたので約束通り怒られてから、慰められました