緑茶風少年   作:アユムーン

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進化方法は布を持たせて共同作業

それはある日の甘兎庵でのこと

 

「やっぱり大きくなってるわよね」

 

「ん?」

 

今日は厨房で作業中のエリアを見た千夜が呟きました

 

「うんうん、小さくなってる」

 

「んん?」

 

続いてその千夜の隣にいたメグが続きました

 

「なにが大きくなって小さくなってるの?」

 

「「エリア君/さん」」

 

「?」

 

「ほらここ」

 

千夜がエリアの手首辺りを指差す

 

「その作務衣に着た時はぴったりだったのに、今は丈が足りなくなってるわ」

 

「そういえば」

 

「エリアさん気づいてなかった?」

 

「うん」

 

改めて見ると袖の丈が足りておらず手首から下が少し出ており、ズボンもくるぶしが見え隠れしていて、所々綻んでいる

 

「エリアさん身長伸びたんだね」

 

「そうかも」

 

「となるとその制服も作り直しね!元々それはお父さんのお古だったし、エリア君専用のを作りましょうか」

 

「それいい~「いや、いいよ」え?」

 

千夜の提案を断ったエリア

 

「どうして?」

 

「これ以上小さくなるなら流石に考えるけど、もう身長も伸びないでしょ?それに」

 

メグの疑問に湯呑みを拭きながらエリアが答えた

 

「来年はもう着ないからね」

 

「えっ…」

 

「あ、そうだったわね」

 

「えぇ!?」

 

最後の一言にメグが驚き、知っていた千夜のあっさりな反応に更に驚く

 

「でも綻んでるのは直さないとね。千夜やり方教えてくれる?」

 

「それなら私がやっておくから今日終わったら渡して頂戴」

 

「ありがと、千夜さんいつもすまないねぇ」

 

「あらあらそれは言わない約束でしょう?」

 

「はっはっはっ」

「ほっほっほっ」

 

そんな寸劇を見終えてからバイト後、女子更衣室にて

 

「ねぇ千夜さん、来年エリアさんいなくなるの?」

 

「!、やっぱり気になる?」

 

「うん…」

 

エリアも千夜もいつも通りだったがそれでもどうして気になってしまったので聞いてしまった

 

「エリア君が音楽の大学に行くっていうのは知ってるわよね?」

 

「うん、目指してみるとは聞いたよ」

 

「丁度進級した頃にそれを聞いた時にこの家から通えばいいって提案したの。おばあちゃんも店の手伝いするなら下宿続けてしていいって言ってくれたんだけどここから大学に通うとなるとかなり遠いみたいなの」

 

「!」

 

「でもお家からならいくつかのところに通えるみたいだから今のところは来年は帰る予定なの」

 

「お家?ってことは都会にいくの?」

 

「そう」

 

卒業旅行で向かった百の橋と輝きの街、そこにかつて両親と過ごし今伯父の夫婦が住んでいる家がある

 

そこから大学に通う予定で伯父と話もついたらしい

 

「そんな折角千夜さんと付き合えたのに」

 

「けどエリア君にとってはいいことだらけだもの。学びたいことが学べることも、伯父さんと過ごせることも」

 

「!、そっか…」

 

その卒業旅行で千夜のエリアの想いが繋がったように、エリアとエリアの伯父もようやく時間が動きだしたのだ

 

「エリア君の家族は私たちだけじゃないから。エリア君と伯父さんには一緒に過ごす時間が必要よ」

 

「そうだけど…このこと皆には?」

 

「まだ言ってないわ。ちゃんといきたい学校が決まってから言うつもりだって。私はお婆ちゃんに下宿の延長をお願いしてたからそのまま知ったの…黙っててごめんなさい」

 

「それは気にしないで、それより私は千夜さんとエリアさんが心配だよ」

 

「この件についてはエリア君とも話し合ったの、寂しいけどそれを考え過ぎてもいけないから普段は気にしないでおこうって」

 

今までとは違いちゃんと二人で話し合った結果こうなっていた

 

「それに二度と会えないわけじゃないわ!今時は遠くてもお話しもできるし、顔だって見れる!それにエリア君のことを離すつもりはないもの!」

 

メグから見ても今の千夜に落ち込んで悩んでいる様子はない

 

きっと二人でたくさん話し合って決めたのだろう

 

「そっかぁ…」

 

だとしたら言うことはないのかもしれない

 

「ごめんねメグちゃん」

 

でも知らせてしまったことがメグにとって酷だったと思った千夜が謝る

 

「ううん、大丈夫だよ。いつでも話してね!We are Familyだもん!」

 

「!!、ありがとうメグちゃん」

 

千夜にかけた言葉は本心だ、いつだって力になりたい、他の皆だってそう思ってるに決まってる

 

だけどほんの少しだけ心に引っ掛かりを残した

 

…次の日

 

今日は久し振りにチマメ隊で集まる日

 

2年前にエリアのサプライズバースデーを行った喫茶店にやってきた

 

今はチマメ3人揃って座れているけどあの時は当時の高校生組を合わせて8人もいたので座席を分けることになっていた、その時は

 

「あの時はここにエリアさんがいたよね」

 

「そうでしたね。確かエリアさんの笑顔を見つけるスタンプカードを見せていました」

 

「そうそう!そのことエリア知らなくて千夜のことめっちゃ怒ってた!」

 

「他にもアフタヌーンティーのケーキスタンドで色々ありましたね」

 

「ちょうどあっちの席で食べてるココアちゃん達を見て食べ方真似しようとしたよね」

 

「その時もエリアマナー無視して食べてたよね~」

 

3人揃えば思い出話に花が咲く、だけど思い出だけじゃなくて今や将来の話もある

 

ここに来る時も昨日甘兎庵で話したみたいに皆の身長が伸びていたことにたまたまいた千夜が気づいた

 

今は高校生になってから髪型を変えたこと

 

素直に姉に甘えられるようになったこと

 

そして将来どんな風になりたいか、そんな話をする

 

皆色々と変わっていっている

 

マヤもリゼみたいにかっこいいスーパーマヤとやらになりたいらしい

 

頂きは高いがマヤならなれるとメグもチノも思う

 

今だって颯爽とマナーに悩んでいる後輩を助けているし、後輩にだって憧れている彼女ならそう遠くない(現にリゼだって後輩であるシャロに憧れ好かれているのだから)

 

けど変わってほしくないな、とも思うから不思議なものだ

 

そしてそのくらいにリゼや上級生組には憧れる部分が多く、今自分達はそれに近づこうと一歩ずつ歩み続けている…と思う

 

「これはエリアさん風に言うのなら進化、というのでしょうか」

 

「エリアは否定するだろうけどね~」

 

なんかポケ○ンかデジ○ンみたいで嫌なんだけど…と言いそうなエリアをチノとマヤは想像したが

 

「ううん、エリアさんは褒めてくれるよ」

 

「え?」

 

メグは違った

 

「こうやって互いに変わったことに気付けることとか、どんな風になりたいって話せること、それから成長してること、エリアさんは褒めてくれるよ」

 

進化してる~と言われるのは少し照れているが、他の人にはエリアは遠慮なく言ってくる。照れもせずにまっすぐと称賛する

 

エリアは千夜に夢中に見えるけどそのくらい自分達のことをちゃんと見てくれている

 

迷ったり困ったりした時は手を貸してくれるし、涙を流して慰めてくれたこともあった

 

そんなエリアの一面を知ってメグは憧れた…喧嘩したこともあったけど

 

「私はやっぱりエリアさんみたいになりたいな」

 

お姉ちゃんのようなココア、しっかりもので先生みたいなリゼ、気品があるシャロに憧れる部分はある

 

だけど誰かのために一生懸命に動くことができるエリアをかっこいいと思った

 

もちろん全部かっこいいわけじゃない、エリアの情けない姿やカッコ悪いところだって知ってる

 

だけど皆のために頑張っていたから周りもエリアを助けようとしていた

 

少し前のメグはまだ助けるのに少し力が足りないからいつも少し後ろでそれを見ていた、これをエリアに言ったらそんなことはないと言うだろう

 

でもいつも近くでエリアを支えていた千夜と比べたら考えると自分ではまだまだ力不足だと思う

 

それにもう一つエリアは『助けてる』だけじゃない『助けて』が言える

 

「誰かを助けることができて、誰かに助けてが言えるようになりたい」

 

これもエリアに言ったらもう十分と言うだろうけど

 

自分でもどうにもこうにもならない問題に大切な人が困っていたら、それでもなにかしてあげたい、一人でダメなら皆に助けを求めて挑む…エリアはきっとそうする

 

だから自分もそうなりたい…と思ったと共に昨日の引っ掛かりがとれた

 

「そっか、あの二人のためになにかしたいんだ」

 

「あの二人って…エリアと千夜?」

 

「なにかあったんですか?」

 

「えっ?あ、えーと…」

 

エリアの進路のことはまだ言えないので言い淀む…そうだ!

 

「えっとね!」

 

閃いたことをかいつまんで二人に話すと二人とも大賛成で協力してくれるとのことで作戦を考えた

 

それから喫茶店を出て途中でバイトの面接に落ちたエルとナツメを拾って引き連れて、メグはあるお店へと向かった

 

…また次の日、今日は甘兎庵バイトの日

 

以前自身のバイトの面接をしてくれたエリアにエルとナツメの面接対策を任せて(押し付けて)、千夜と二人きりになれるようにセッティング、これはマヤの『話すなら逃げ場を奪ってからだよ!』というアイデアから

 

「あのね千夜さん」

 

「なにかしら?」

 

キッチンに並んで練りきりを作りながら千夜と話す

 

「今日のバイトの後お話ししたいことがあるんだけどいい?」

 

「なにかしら?お客さんいないから今でよければ聞くわよ?」

 

「ううん、後がいいの。時間がたくさんほしいの…ダメ?」キューン

 

少し目を涙で潤ませて頼み込む

 

「!もちろん!何時でも何処でも何時間でもウェルカムよっ!」ズキューン

 

その姿に心が撃たれたのか了承したのを確認

 

「(よしっ)」

 

で、この後

 

「ダメ?」キューン

「もちろん!何時でも何処でも何時間でもウェルカムさっ!」ズキューン

 

エリアにも同じことをした

 

これはチノのアイデア、本人曰く『あの二人は無条件でメグさんに甘いのでちょろいですよ』とのことで実際上手くいった

 

二人にはそれぞれバイト後にお家にお邪魔させてほしい、とお願いしたので

 

3人揃って甘兎庵の住居スペースへ

 

そして

 

「「それじゃあメグちゃん、こっちの部屋に…ん?」」

 

玄関で千夜とエリアがそれぞれ自分の部屋を指差して同じことを言ったので二人顔を見合わせる

 

「…もしかしてメグちゃん」

 

「私たち二人に同じこと頼んだの?」

 

「はい、えへへ」

 

「驚かせたかったの?メグちゃんもやるわね~」ナデナデ

 

「それはちょっぴり…でも本命はこれ!」

 

ズイッと二人に手荷物から出した袋を見せる

 

「なにこれ?」

 

「開けてみて!」

 

そう言われたので遠慮なく開ける、中にはいっていたのは

 

「これは…布?」

 

「にしては大きいし、それにこの生地は…」

 

「うん、この間生地屋さんで見つけたの。エリアさんの制服と似た生地」

 

エリアが普段バイトで使っている制服とよく似た生地

 

「これでエリアさんの新しい制服を作ろう!」

 

「えぇ!?」

「…千夜から俺の進路聞いたんだったね」

 

突然のメグの提案に千夜は驚いたが、エリアは勘づいた

 

「はい、けど千夜さんを怒らないで!私が聞いたから千夜さんは教えてくれたの!」

 

「分かってる。千夜も俺も隠すつもりはなかったし気にしてないよ。でもこの件に関してはもう千夜とちゃんと話し合ったから気にしなくていいんだよ」

 

「そうね。それに今の制服の手直しもしたから新しいのは「違うの」?」

 

「これはエリアさんと千夜さんのために私がしたいこと!」

 

「「!?」」

 

「進路のことはエリアさんはエリアさんの伯父さんと千夜さんにたくさんお話しして決めたことだからなにも言わない。けどエリアさん?」

 

「な、なに?」

 

「ここに帰ってきた時にお手伝いしないつもりなの?それにもっと大きくなって今の制服が全く合わなくなったらどうするの?」

 

「いや流石にもう伸びな「伸びるもん!190はいくもん!」それかなり稀有なケースじゃない?」

 

「千夜さんも、その時につんつるてんなエリアさんが見たい?」

 

「それは見たくないわね流石に」

「だったら女装でもさせるの?」

 

「それは願ったり叶った「千夜ァ?」ごめんなさい嘘です冗談です…」

 

「それにもしかしたら今のエリアさんの制服を誰か他の人が着るかもしれないでしょ?それはしょうがないことだけどそれはエリアさんの物なのにって私は思っちゃう

 

だからいつエリアさんが帰ってきてもいいように専用の制服を作りたいの!ここはエリアさんが帰る場所だって目印がほしいの!」

 

「「…」」

 

「だからお願いします!」

 

今度は甘えた様子は見せず、ちゃんと頭を下げて頼む

 

これはメグのわがまま、エリアにもう着ないからいらないなんて言ってほしくなかった…そしてただ二人のためになにかしたかった

 

以前のメグならきっとここまでできなかった、けどこの二人から協力して皆で問題に挑むことを教えてもらったからできたこと

 

見て、学んで、実行できた成長の証

 

それが分かるエリアと千夜は目を合わせ少しだけ困ったように笑い…そして

 

「はぁ…負けたよメグちゃん」

 

「そうね、ここまでお願いされたら断れないわ」

 

「!、なら!」

 

頭を上げて二人を見る

 

「これを使って一緒に作りましょう?」

「俺こういうのは不器用だから、お手伝いよろしくね?」

 

「うん!」

 

このことを聞いたチノは『だから二人はメグさんに甘いんですってば』と言ったらしい

 

それからバイトの後に採寸して切って縫って…数日後

 

「甘兎庵でーす!ライブやってまーす!」

 

街角でビラを配っているエリアがいた

 

「おーすっエリア!」

「こんにちは、宣伝ですか?」

 

そこにマヤとチノがやってきた

 

「やぁ、今度のイベントのね」

 

そういってからはい、と二人にもビラを渡す

 

「甘兎庵ロックバンド週間…ってなにこれ?」

 

「実は最近俺の実家の物置からでかめのスピーカーが発見されたらしく…邪魔だからと送られました…」

 

送られてきた時のことを思い出したのか遠い目をしている

 

「それを使っての演奏ですか?」

 

「バンド名はあまうさ・ざ・ろっくで、売れて高校中退を目指すっていう設定でやってる」

 

「なんか聞いたことある!?」

 

「まぁ楽器できるの俺だけなんだけどね」

 

「エリアへの負担が半端ない!?」

 

「でもメグちゃんもこれを機にブレイクダンス覚えるって頑張ってるよ」

 

「メグさんも限界越えようとしてません!?」

 

「千夜は賑やかしを頑張るってさ」

 

そう言ってやれやれと上げた両腕を包む袖の丈はぴったりだ

 

よく見ると制服は前より綺麗で新品に見える

 

メグから『エリアさんが今頃新しい制服なんていらないって言ってるからなんとか作らせたい』という相談に乗っていたマヤとチノはそれに気付き、微笑む

 

「いい制服だねエリア♪」

「誰からの贈り物ですか?」

 

その問いかけに…

 

「!、大切な人といつの間に進化してた妹からだよ」

 

ニッと笑って答えるのだった




喫茶店こそこそ話

今回メグ、千夜、エリアの合作で作られた制服

甘兎庵に帰ってきた時は毎回大切に着ていました

そしてこの制服はずっとずっと大事にされて…未来とある和風喫茶2号店を切り盛りする夫婦の息子に受け継がれるそうですよ?

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