ある昼下がりのラビットハウス
今日も今日とてエリアはここにやってきました
いつもならココア達と談笑していますが今日はいつもと違い一人カウンター席で肘をつき、右手にはペン、卓上にはノートを広げてなにかを考えています
勉強でしょうか?しかしノートは真っ白でペンも全く進んでいません
そしてそんなエリアの隣には青山が座っていて同じようになにやら考えています
エリアと違う点は青山の手に握られているのは万年筆、卓上には白紙の原稿用紙であることだけです
互いに頼んだ飲み物の氷が溶け始めグラスに結露が浮いていて、それを黙って見守っているチノが早く飲んでくれないかな…と思ったその時青山が口を開きました
「エリアさんなにかお悩みですか?」
「青山さんこそ」
隣でウンウン悩まれていたので互いに気になっていたようです
「私はいつもの執筆の行き詰まりです…」
「俺は学校の宿題です…」
遂にガックシと項垂れる二人
「でもエリアさんが宿題で手詰まりになるのは珍しいですね」
「あー、五教科系ならそんなに困らないんですけどこれ音楽の宿題で」
「噂のおもしろい音楽の先生からのですか?」
「それ誰情報ですか?」
「もちろん千夜さんから」
「あ、やっぱり」
「それでどんな内容の宿題なんですか?」
「えーとまず実技の方が課題曲の練習です。これは前やったからなんとかなるんですけど…問題は今やってる筆記で」
「筆記?音楽でですか?」
「はい、俺だけ追加で」
聞いただけでは個人に課題を増やすなんて中々酷いことではありますが…
「あらあら…もしよければそういった機関への連絡を「あーそういうんじゃないんです」?」
「えっと前に俺の目標を話したじゃないですか」
「お母様の音楽に追い付き追い越すことですよね」
「はい、それを音楽の先生に相談したんです。ちゃんと音楽のことを知ってる人に評価してもらいたくて」
癖こそあるが実力は確かな先生なら正当な評価をくれると踏んで相談したのだ
「なるほど」
「それで母さんの演奏が入ったCDと今の俺の曲を聴いてもらったんですけど…」
…
「♪~…どうですか?」
CDはフルートの演奏に合わせてエリアはピアノを演奏した
それを聴いた先生は暫く考え込んでから…
「…技術はそう遠くはない、といった感じ」
そう告げた
「!」
「けど決定的に違うものがある」
「違うもの?」
「そのCDの曲からは誰かに向けたメッセージを感じた。ただ演奏しているだけじゃなくて願いが込められている」
「!」
母が向けた誰か、それは間違いなくエリア
「貴方はその曲を誰に送りたいの?」
「!」
母と自分を繋ぐ音楽の中でも最も強く繋がりを感じられるのが今回演奏したうさぎの歌
誰かの夢を応援し、優しく背中を押してあげるそんな歌
母はこれからの人生を進むエリアを応援するためにあの曲を残したのだ
同じ曲だとしても先程の演奏にそれほどの想いを乗せたのか?と問われるとエリアは首を縦に振ることはできない
「貴方の演奏からはそれが感じられない、例え技術に遜色がないとしてもそれがない限り追い付くことはできない…ただの真似事よ」
…
「って言われてしまいまして」
「中々に厳しい…そして耳に痛いお言葉ですね…」
「でも言われて分かったんです。口では母さんを越えるなんて言いながら真似してただけだったんだって」
頑張り方が間違っていたわけでも、練習の仕方が間違ってたわけでもない
父と母を越えることを目標としているうちに真似事になりかけていたのだ
「俺がしたいのは真似じゃない、家族に俺の音楽を届けたいんです」
「そうですね…それをする為の宿題がこれなんですか?」
「はい、届けたい人が見えているなら次はどんなメッセージや気持ちを届けたいのかを書きなさいとのことで」
「もしかして作詞ですか?」
「作詞ってほどではないんですけど届けたい言葉を綴れって言われて」
誰かの言葉ではなく、エリア自身の言葉で想いを伝えるための宿題を出されたのだった
期限は夏が終わるまでとのこと、しかし音楽の先生はこうも言いました
『貴方なら気づいた時にはもう出来上がっているはずよ』
とのことです
「届けたい言葉を綴る…素敵ですね」
「素敵ですか?」
「はい。私も形は違えど読んでくださる皆さんに言葉を届ける仕事をしていますから、その素晴らしさは知っているつもりです」
「!なるほど」
「きっとエリアさんなら大丈夫ですよ。家族に向けたその言葉は少しこそばゆくなるほどの優しさが込められてますよ」
それはエリアのことをよく知っているからこそ分かること
「!…もう青山さんったら」
「ふふっ、私だって伊達にエリアさんのことを見守ってきたわけではありません」
「知ってます。いつもありがとうございます…それで青山さんは今どんな小説を書いてるんですか?」
やる気が更に出たところで次はエリアが青山に悩みを聞く番となったが…
「実は夏の怪奇短編の原稿で悩んでいて、もしよろしければ…あら?」フラッ
そう言うや否やふらっと青山の頭が後ろに振れて…
「あららー」バターンッ
「青山さん!!?」
そのまま椅子ごと倒れてしまいました
「ち、チノちゃーん!救急車ー!!」
「落ち着いてください!とりあえずウチに運びますからエリアさん青山さんを運んでください!」
「りょ、了解!!」
…
ココアの部屋に青山を運び、着替えやらなにやらをチノとココアとリゼに任せてエリアは部屋の前に待機していた
部屋から聞こえる声から、大事はなく青山はただの寝不足だったそうだ
「(よかった、お見舞いになにか買ってこようかな…)」
などと考えていると、青山の担当の凛が慌ただしくやって来た
「エリアさん!!翠ちゃんキトクハヤクとココアさんから連絡が来たのですか!!?」
「いつの時代の連絡手段だ!?…ただの寝不足らしいですよ。ここの部屋にいるのでどうぞ」
「ありがとうございます!!」
またまた慌ただしく凛が部屋に入ったのを見届け、ため息を一つ
「はぁ…まったくココアは…「エリア君!」!噂をすれば」
次にココアとリゼがお盆を持ってやってきた
「見張りご苦労様!」
「いやなんでまだいるんだよ」
「なんか帰るタイミング逃して…お二人は?」
「特製滋養スムージーとココア特製のパン粥を届けに来たんだよ」
「胃に優しくて栄養満点!」
「なるほど、それはいいね。怪しいものもなさそうなので通ってどうぞー」
「ありがとー!」
「いやホントに見張りなのかお前は」
今度は二人が部屋に入ったのを見届けた
「パン粥はうまそうだったな…今度作ってもらおう」
それからも暫く見張りをしていると…
「あ、エリアじゃん」
「エリアさんもココアちゃんからの緊急連絡を受けたの~?」
「マヤちゃん、メグちゃん、それにシャロに千夜も」
バイト終わりの四人がやって来た
「緊急連絡ってなにがあったの?」
どうやら連絡が来ていたようだが慌てていたので携帯を下に忘れてしまったので知らないエリア
「これよ」
千夜が見せてくれた携帯の画面には
【急募!貴方の怪奇、不思議体験が必要です!→詳しくはラビットハウスまで!!】
というココアからのメッセージが来ていた
「なにこれ怪しっ!?しかも青山さんのこと触れられてないし!?」
「え?青山さんになにかあったの?」
「さっき青山さん寝不足で倒れてさ、その原因がその怪奇短編の原稿に行き詰まってるからなんだって」
「そういうことね。青山さんらしいわ」
割りと青山被害に遭っているシャロが呆れますが
「エリアとココアと行ったあのゲームセンターのこととかうってつけじゃん!」※「捨てられ姉妹とたまたま教師になった人」より
というマヤと
「私も頭打った時に見た夢かもしれないけど並行世界の話ができるかも!」
続くメグ
「私もハロウィンの時に会った不思議な人の話ができるわね」※「さよならハロウィーン、また会う日まで」より
最後に千夜がそう言ってシャロを除く3人はノリノリの様子
「へぇー3人とも中々の体験してるんだね~」
「アンタが言うな!」
「えぇ!?」
「そうね、エリア君に言われたくないわね」
確かにハロウィンやマヤの言うゲームセンターといった具合で一番不思議体験をしているのは間違いなくエリアなのです
「千夜まで!?確かに最近ラビットハウスにちょっと人影が見えるけどさ」
「「「「そういうとこ!!」」」」
四人にツッコミをもらいつつ、部屋にはいっていくのを見届けた
…それから少しして皆の賑やかな声を部屋の外から聞いてから、大丈夫そうな青山の顔を見てから安心したのか皆帰っていきました…エリアもまた千夜が帰るタイミングで青山に一声かけてから一緒に帰りました
スーパーに寄るというシャロと別れたその後の帰り道
「そういえばエリア君は青山さんに不思議体験話さなくてよかったの?」
本当に一声だけお大事に、と伝えただけのエリアに疑問を感じた千夜が聞きました
「ん?んー…秘密にしときたいことだからさ、申し訳ないけど内緒」
「…ハロウィンの時のこと?」
「…うん」
あの時のことは鮮明に覚えている
もう会えるはずのない父と母に会えたあの日のこと
このことは千夜にも言っていないので今回青山にも言わなかった
それは信頼してないから話していないのではなく、あの思い出だけは自身の胸の中で大切にしたいから
それでも千夜も皆もあの日エリアには普通では考えられないようなことがあったのだということはなんとなく察していた
それでも
「なにがあったかなんて聞かないでくれるでしょ?」
「えぇ、エリア君が秘密にしたいことなら聞かないわ」
ちゃんとエリアが乗り越えて帰ってきたから誰も何も聞かないのだ
「ありがとう…あっ」
「あっ?」
「でもそういえば最近不思議体験してた。それは話してもよかったかな~」
「えぇ!?どんなの!?」
怪談大好きの千夜は興味津々の様子
「そんな大したことじゃないよ。最近夜中に一瞬外が光るんだ」
「?星とか車のライトとかじゃなくて?」
「そういうやつじゃないんだよ。ホントに一瞬ピカッてね」
「?ここのところはエリア君と一緒に寝てるけどそんなの知らないわ」
「千夜はいつもぐっすりだからね。けどそれが最近近くなってきてるのか光が強くなってるんだ。それから」
「?それから?」
「その光に見られてて呼ばれてる気がする」
「!」
「それがなんだかは分からないけどね…うん、やっぱ今の無し」
「いやいやいや!?無しにできないわよ!?いくら怪談好きとはいえエリア君が関わるのなら私も黙っては「大丈夫」え?」
「多分だけど悪いものじゃないよ」
「!」
「俺を呼んでるけどどこかに連れていこうとしてるっていうよりか…遊びに誘われてる感じ」
「あ、遊び?」
「そう、ココアみたいにエリア君あーそーーぼっ!って」
「…もしかして犯人はココアちゃ「そんなわけないでしょ」冗談よ…けどエリア君」
「ん?」
「もしもその光に着いていけるってなったら…どうするの?」
「…ごめん、分かんないや」
エリアなら乗り越えられると分かっていても、そんか得体の知れないものにエリアが着いていくのは少し不安だ
それでも今エリアはそれになにかを見いだしつつある
それを止めることはできない
…だから
「分からないならそれでもいいわ。けどちゃんと帰ってくるって約束して」
「!どこにもいかないよ。なにかあったって絶対に帰ってくるよ。今もこれからも」
どこかにいっても帰ってくると約束する
大人になったってずっと一緒だという約束を守るために、またもう一つ約束を交わす
「うん、約束ね?」
「もちろん!」
小指を絡ませて、そのまま手を繋いで帰り道を進む
また明日もこの道を歩くために進む
…その夜
ピカッ
「ん、今日もか…あれ?」
件の光で目が覚めたエリア…だが
「なんかまだ光ってる…」
いつもならすぐに消えているはずの光がまだ光っているのか窓から眩い光が差している
しかし隣にいる千夜はこんなに眩しいのに気づきもしていない
これはエリアにだけ見えている光
「…それでやっぱり呼ばれてる、よね」
今までなんとなく感じていたのが今確信に変わった
この光はエリアのことを待っている
「…行かなきゃ」
胸に走るこの感覚をエリアは知っている
行かなきゃ後悔するという焦燥にも似た感覚
何故か必要に感じたフルートとギターを背負って部屋を出る…その前に
「…いってきます」
眠る千夜にそう告げてエリアは駆け出した
…
玄関を出るとそこには
「!…列車?」
すぐ目の前に列車が止まっていた
眩く輝くその列車…だけど近所の人も誰も気付いていない
唖然としていると列車のドアが開いた
「…」ゴクッ
なんだが今になって怖くなってきたが…
「よしっ!」
覚悟を決めて列車に飛び乗った
喫茶店こそこそ話
エリア不在のため本日休業