エリアの不思議な一夜から数日、今日は日曜日で千夜とエリアのどちらもバイトがお休み
今日はプロガントに向かう予定なのですが…
「エリア君朝よ、起きて」ユサユサ
「……」
もう身支度も朝御飯も済ませた千夜にエリアが起こされていますが、なかなか目覚めません
「起きないとエリア君の秘密の本のこと言っちゃおうかしら?」
お約束の脅しをしてみるけれど…
「……」
一切起きる気配がありません
「…エリア君」
これは今朝だけの話ではなく、あの夜から毎朝のこと
あの日からエリアの眠りは深くなっていた
…
あの夜の翌日、青山と約束があるからといって二人で向かったラビットハウス
そこで夜のことをエリアから話してもらった
エリア曰く「ちょっと音楽の勉強をしてきた」とのこと
初めはついに甘いものの食べ過ぎで幻覚を見るようになったか…と半信半疑ではあったけどそこに居合わせたという青山の証言から信じるに至りました
ココアやリゼは臨死体験!?と慌てていましたが呑気に羊羮パンを頬張るエリア
時折少し寂しそうに笑うこと以外はいつも通りで大丈夫だと思っていた…しかし翌日の朝、エリアは遅刻ギリギリまで起きなかった
その次の日も起きなかった、そして日に日に起きている時間が短くなっている
授業中も眠く、バイト中も眠く、帰ってきてからそのまま倒れるように眠ってしまったこともあった
もちろん夜更かしはしていない、この一件からエリアが早く寝るようにしていることは千夜がよく知っている
それでも常に眠く、疲れやすく、元気もない、それが最近のエリア
もちろん周りの皆も心配しています
ある日千夜とシャロとエリアが訪れたラビットハウスでは
「やっぱり医者に診てもらった方がいいんじゃないか?」
「過剰な睡眠も病気と聞いたことがあります」
「でもエリア君は大丈夫の一点張りなんだよね」
というラビハ三姉妹の視線の先には机に突っ伏して寝ているエリア、片手には大好物のココアのパン、食べかけのまま糸が切れたように眠ってしまったのだ
「眠そうな時はよくあったけど最近は明らかにおかしいわよね…千夜はどう思うの?」
「そうね」
シャロから話を振られ、寝ているエリアの頭を撫でながら千夜が答える
「とりあえず遅刻ギリギリなのをなんとかしないといけないわね」
「いや、そこか!?」
「だって一緒に登校したいもの」
「いや、もっと他にあるだろ。原因を探すとか治療法を試すとか」
「でも最初に遅刻ギリギリだった日、エリア君が言ってたの。もしも次こうなったら気にせず先に行ってほしいって、悲しい顔でね」
「千夜を巻き込みたくなかったってところね」
エリアが起きるのを待っていたら千夜も一緒に遅刻するかもしれないから先に行ってほしい
それだけが今回の件でエリアがお願いしたこと
「なるほど、ここ最近朝エリアさんを見なかったのはやはりそういうことだったんですね」
「いつものハイタッチにエリア君がいないから寂しくて調子がでないよ…」
「私も話しかけたら眠いの我慢して顔あげてる姿を見るのが辛い…」
「眠気覚ましになるからとコーヒーを飲んでいる姿が見てられません…」
「ココアと先輩とチノちゃんにも影響でてきてるし、早めになんとかしないとまずいわよ」
「そうね、最近メグちゃんとマヤちゃんもASMR?っていうのをエリア君に薦めてるみたいだし
それに皆に心配かけることが一番辛いのはエリア君だものね」
撫でるのに飽きてきたので髪をグシャグシャにしていく…それでも起きない
「なんとかしないと」
手を止めてポツリ、とそう呟いた
…
結局その日エリアは起きず一緒に行く約束をしていたシャロが迎えに来たので千夜とシャロだけで向かうことになってしまった
プロガントで出店していたフユもナツメもエルもエリアの不在に疑問を持ち、事情を聞くと自分達もなにか考えてみると言ってくれた
そして千夜はたくさんのお土産を抱えて帰ってきて、そのままエリアの部屋へ
「ほらこれ、エリア君の好きそうなのたくさんあったのよ」
眠るエリアの周りにヒーローの指人形を並べていく
お婆ちゃん曰くさっきまで起きていたがまた先ほど廊下で倒れてそのまま眠り続けているらしい
揺すっても、つねっても、くすぐっても…声をかけても起きない
「…大丈夫よね、エリア君」
もう二度と起きないのではないかと思ってしまった
…
それからまた数日してもエリアの体調は戻らなかった
「エリアさん今日もおやすみだね」
「もう暫く会えてないし心配だね」
シフトのエリアの名前の欄に続く休の文字、それを見て更に心配するメグとエル
常連さんからもエリアは大丈夫なのか?という声が上がるほどに影響が出始めており、お婆ちゃんも千夜のお父さんも暫くは休めと言ってくれた
周りに心配をかけて、さらに店に影響が出始めている…エリアも休みを選択した
いつもならエリアと共にする開店準備をこなすメグの元に…一通の連絡が来た
「あ、チノちゃんから連絡が…!海!?本物の宝探しの予感だよ~!」
メールの差出人はチノ、どうやらココアがプロガントでゲットした小物入れにシスト(街歩き探索ゲーム)の地図があり、その舞台がなんと海らしい
大変な状況なのは分かっているけど引きこもっても状況はどうにもならない、それならいっそ派手に飛び出して遊んでみるのはどう!?というココアからのメールも来た
確かに最近エリアのことで皆の気が落ちていたし、遠出も卒業&進級旅行以来していないし、いつものメンバーで遊びに行きたい!
それに離れてしまう前にエリアと思い出が作りたい!そうと決まれば早速誘おうとエルに声をかけたが
「エルちゃんは海って…」
「プライベートビーチ毎年行ってたからそんなに…」
「興味ない!?」
よし、それなら次は
「千夜さんは海…「海…波…」!?」
夏っぽいワードを呟きながらメモしていく千夜
「夏メニュー悩み中だって」
「この夏ブラバには負けられない!甘兎ビックウェーブを起こすのよ!」
「思考の海に飲まれてる~!?」
…で
「へぇ~チノちゃんからそんなお誘いがあったのね。それに流石ココアちゃん」
「うん!それでエリアさんの気分転換にもなると思うからどうかな?」
「そうね、エリア君に行くように言っておくわ」
「ありがとう!…あれ?」
「千夜さんは行かないんですか?」
「えぇ、夏メニューが佳境なの!!…っていうのもあるけど、流石に私も抜けるわけにはいかないわ」
「!?でもエリアさんには千夜さんがいないと「ここはエリア君の帰ってくる場所なの」!」
「だからここで待ってないと」
だからお願い、と言われメグもエルもなにも言えなくなってしまった
…その夜
「!、エリア君」
「おはよ…っていうのはおかしいか、夜だもんね」
寝る前に顔を見ておこうと部屋に入った千夜を迎えたのは風呂の用意を持った先ほどまで寝ていたエリア
そのままなんとなくいつものように二人隣り合って座る
「なんだか久しぶりね」
「…だね」
起きているのは知っているが最近は少しすれ違い気味になってしまっていた
「今日お店大丈夫だった?」
「えぇ、エルちゃんも来てくれてるしなんとか。それでも音楽のリクエストが来た時は困ったわ」
「!…そっか、ごめんね」
「いいのよ」
「起きたらココアから連絡来てたんだ。シストの地図見つけたから行こう!って」
「丁度その話したかったの。エリア君行ってきて」
「へ?」
「きっといい気分転換になると思うし、それにエリア君少し寂しそうに見えるから」
「!…寂しそうだった?」
「うん、だから楽しいことがあればきっと体調も「千夜は?来ないの?」!…私はお店があるから」
「やっぱりお店、忙しい?」
「夏だから新メニュー考えたり、エリア君がお休みしてる分のお仕事だったり、色々ね」
「ここでだったら俺がお店に出るって言ったら絶対拗れるから言わないよ」
「ふふっ、そうね」
文化祭やクリスマスの時とは訳が違う、今回は千夜を支えるはずのエリアがまともに動けない…だけど
「だからこそワガママ言わせて欲しい」
「なにかしら?」
「俺は千夜と行きたい」
「!」
「今年はブラバっていうライバルも増えて、メグちゃんとエルちゃんに色々教えたりするので大変でしょ?」
それに夏の準備が毎年大変なのはよく知っている
「本当なら俺もそこにいるべきなんだけど、こんな身体じゃ足手まといだよね」
「そんなことないわ、それに身体のためにも今回の旅行はきっと「それに」!」
「多分だけど千夜、俺のことここで待たないとって思ってるでしょ?」
「…うん、なにがあったかは知らないけど
あの夜エリア君はちゃんと帰ってきてくれた」
なにがあったのか、深くは聞かない
ただエリアがちゃんと帰ってきてくれたことが嬉しかった…だけど
「ここはエリア君の帰る場所だから…守らないとって思ったの」
「…そっか」
一度エリアは迷子になったことがあった
その時にどこに行ったって迎えに行くと約束した
それからエリアの帰る場所は甘兎庵となった
だからこそ甘兎庵を守らないといけない
「ごめんなさい、こんなの余計なお世話だって分かってるの…それでも」
「分かってる、大丈夫だし余計なお世話なんかじゃないよ」
「エリア君…「俺の帰る場所は三つあるって前に言ってくれたよね」?うん」
「一つは俺の実家、父さんと母さんの思い出がつまっててこれから叔父さんと叔母さんと従兄弟と思い出を作る場所」
「二つはロイヤルキャッツ…ここは俺がっていうより皆で帰る場所、俺にもう一つの家族ができた場所」
そして3つ目は
「3つ目は甘兎庵…でもここも俺が、じゃなくて?」
「!」
あの日ロイヤルキャッツから帰る時に言った言葉を思い出す
そうだここは
「私と一緒に帰る場所」
「うん、学校とか用事とかは別だけどさ…俺は千夜と一緒に出掛けて、それでここに一緒に帰ってきたい
だから一緒に行こう、家族と一緒に!」
「~!!!」
昔ならエリアはこんなワガママ言わなかっただろう、それほどまでにエリアはいい方向に進化した
そして昔と変わらずエリアは千夜を想っているし求めている
それが堪らなく嬉しい
「…ホントはエリア君のこと抱っこできないわよ?寝ちゃったって運んであげられないかも」
「リゼさんいるし、大丈夫でしょ」
「エリア君が起きなかったら置いていくわ」
「それはそうしてほしいな、帰ってきたらお土産話たくさん聞かせてね」
「…嘘、起きなかったら皆を行ってもらって私はずっとエリア君の近くにいるから」
「!…それでも嬉しいかな」
「それでもいいなら…行くわ」
「勿論、俺頑張るよ」
「私も頑張るわ」
久しぶりに顔を見合わせて笑って、それから距離が縮まって…
…翌朝
「んん…ん…ここエリア君の部屋」
あの後そのまま寝てしまったらしく、エリアの布団で寝ていた
昨晩はその…致していないとはいえ互いに激しく求めあったわけで…
「///…あれ?」
思い出して赤面したところで気づく
「エリア君?」
同じように寝たはずのエリアがいない
「?…どこに行ったのかしら?」
トイレか?風呂場か?もしかしたらその途中でまた倒れたのではと考え、急いで廊下を進む…すると鼻腔に広がるいい匂い
「!、もしかして」
エリアを探す足を台所に向ける…そこには
「これでよし!あ、千夜!今度こそおはよう!」
「エリア君…どうして?」
エプロンを着けて朝御飯を作るエリアがいた
「分かんないけどなんか早くにスッキリ目が覚めてさ、それで朝御飯作ってた。ここのところは千夜が当番変わってくれてたでしょ?だから今日は俺が…っと」
ガバッとエリアの胸に飛び込んできた千夜
それを受け止め、胸が少しずつ濡れていく…それがなんなのかが分からないほど自分は鈍感ではない
「ごめんね千夜、心配かけた」
「いい、いいの」
「けど千夜のおかげだからさ」
「私はなにも」
「昔話でよく言うでしょ?眠りを覚ますには愛する人の口づけって」
そう、昨日自分達は散々それをした…というより一歩だけ踏み出した
「それはキザすぎじゃないかしら?」
「かな?それでさ、そろそろ俺言ってほしいことがあるんだけど?」
「!…そうね」
かなり久し振りになるこの言葉を交わす
「おはよう、エリア君」
「うん、おはよう千夜」
そうして堪えきれず二人から笑みが溢したのだった
喫茶店こそこそ話
その後エリアは無事復活したそうですよ?
眠かった理由?そりゃ生気を吸われてたからですよ?