主人公補正の無い主人公の妹に転生したので兄の強化に尽力したのにいざ本編が始まると微妙に別人でした   作:緒河雪那

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息抜きで書いた思い付きの一品

十二月三十一日、追記改編


壱之壱

少年……竈門炭治郎は走っていた。雪深い山の夜道を、家族の待つ我が家へ向けて。夜は鬼が出て危険だから泊まっていけと、忠告してくれた知人の制止を振り切って。

 

(何で俺は、家族を殺されて、禰豆子を鬼に変えられた『あの日』にいるんだ……?)

 

いきなりだが鬼の主食は人間である。当然ながら力も人間より遥かに強く、加えて快復力にも長け、不死……とはいかないが寿命と言うものが無い。

炭治郎はそんな人喰いの異形『鬼』の討伐を生業とする組織『鬼殺隊』の一員だ。それが何故か、運命の転機となった始まりの日にいた。

 

(鬼の血鬼術か!?)

 

鬼の中には人を多く食べる事で、血鬼術と呼ばれる異能に覚醒する者もいる。その能力は正に千差万別で、事前の予測は不可能と言っても過言では無い。故に時に干渉する者がいても何ら不思議では無い。

 

しかし、あれこれ考えるのは後! 今は家族を守るのだ、今度こそ!

 

不死に近い鬼をその頸を斬る事で唯一殺せる得物『日輪刀』も手元に無く、隊士としての知識と経験こそあるものの、今の身体は鍛える以前の炭売り少年のソレ。

 

対してこの先に待ち受けるは、鬼の原点にして頂点。

 

父から受け継いだ最後の希望「ヒノカミ神楽」も、上の妹の助言と指導である程度は型に成ってるが、飽くまでヒノカミ様に捧げる神楽として。戦闘への転用なんて、とてもじゃない。

 

(!! 何だ今の!? 禰豆子も一緒に父ちゃんからヒノカミ神楽を習ってる……? そうじゃ無かった筈……この身体の記憶か? もしそうなら、そのまま巻き戻った訳じゃ無いのか?)

 

何故か『以前』より身体能力が向上している上に、憶えの無い記憶もあるが……それがどうした!? 家族を護る為に有用ならその総てを活用すべきだ。

 

鬼殺隊隊士に「鬼からの逃亡」の思考が無い以前、竈門炭治郎に「家族を見棄てる」という選択肢は存在しなかった。

 

「今度こそ、護ってみせる!!」

 

その吐息は魂の炎が口から漏れるが如く陽炎となって揺らめき、日輪を模した片側だけの耳飾りが踊る。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんな炭治郎少年が目指す竈門家の前では、周囲の地形を盛大に破壊しながら、異形同士が死闘を繰り広げられていた。

周囲の木々は巨人が腕を振るったかの様に薙ぎ倒され、中腹にぽつんと一軒建つ竈門家の土壁には大きな孔が幾つも開いている。

 

一体は腕を口だらけの触手に変えた黒髪白皙の美青年、その血に適合した者を鬼へと変える鬼の始祖、鬼舞辻無惨。

もう一人はそんな無惨によってつい今し方鬼へと変えられた少女、竈門禰豆子。

 

無惨によって鬼へと変えられた者達は、呪いと言う鎖をもって無惨の支配下に置かれる。自身に反逆した鬼を抹殺する「死の呪い」もそんな呪いの一つだ。

それが何故か、この少女には効いて居ない。先ず今し方鬼と化したばかりでさぞ空腹だろうに、餌と成る人肉を求め手近な人間を……家族を喰おうとする素振りを見せない。

 

それ処か、祭具とおぼしき剣と薪割り用らしき手斧を両手に、刃をあの忌々しい剣士の刀と同じ色に染めて、あの忌々しい剣舞に酷似した動きでもって襲い来る始末である。

鬼化に失敗した? なら額の角は何だ? なら異様に延びた爪や牙は何だ? なら緋色に輝き炎を吹き出して燃える肌は何だ? それ以前に、鬼化に失敗したら(すべから)く死んでいる。

 

「このっ……化け物がぁっ!!」

 

奴と同じ耳飾りを持つ者がこの山に住んでいるというから、運試しがてら日光に耐える鬼を求めて家人の鬼化を目的に、自ら抹殺すべく足を運んだ。

本当は空間転移の血鬼術を持つ側近(鳴女)にあと三歩のところまで運ばせたのだが、元が貴族の無惨にしてみれば、一歩でもその足で歩けば自ら足を運んだ事に成るのだ。むしろ良く三歩も自分の足で歩いた褒めるべきか。

 

果たして、夜道に迷ったという体裁で竈門家を訪ねた無惨を出迎えたのは、あの髪型にあの耳飾りを片側だけ付けた少女だった。堪らず漏れる悲鳴を圧し殺す無惨を、(くだん)の少女は出会い頭で斬り付ける。

野生の獣並に勘の鋭い者は人と鬼を本能の領域で識別する……とは元鬼狩りの武人だった上弦の壱こと黒死牟の弁だが、躊躇いも容赦も無しに来客を襲うとは、この貧相で粗末なボロ小屋は魔物の巣窟……西洋の言葉で言う処のダンジョンだったか?

 

さて無惨の返り血を至近距離で浴びた少女は瞬く間に鬼へと転じ、その脇を通り抜け家の中へと進もうとする無惨へと、獣染みた咆哮を上げながら襲い掛かった。今も耳に残るあの忌々しい呼吸音を混ぜて……。

 

得物こそ違うものの奴と同じ動き、色と長さこそ違うが奴と同じ髪型、片側だけだが奴と同じ耳飾り……。更には速さこそ常識の範囲内だが、それでも無惨の繰り出す攻撃に全て的確に対処してみせ、次なる一撃を決められず千日手。

 

「鬼舞辻無惨!!」

 

不意に名前を呼ばれて振り向けば、奴と同じ耳飾りを目の前で対峙する鬼の少女とは反対側だけに付けた、奴と同じ髪色に奴と同じ痣を額に持つ少年が、不完全ながらあの忌々しい呼吸音と共に憤怒の形相で手斧を手にこちらへと駆け寄ってきた。

 

奴が……あの化生の怪物が、人の形をした無差別級の化け物が二人だと!? あ……悪夢だ、今年は厄年か!? 今日は厄日か!? それとも今月は厄月か!?

 

鳴女(にゃきみえ)ぇっ!!」

 

混乱と恐怖の余り顔から出る体液総てを撒き散らす無惨の悲鳴そのものな命令を受けて、虚空に琵琶の音が鳴り響く。と同時に何も無かった筈の空間に障子が現れ、無惨はそこへ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

再びの琵琶の音と共に、『以前』家族を惨殺した仇にして妹を鬼に変えた鬼の首魁、鬼舞辻無惨の飛び込んだ障子が消える。

そして無惨が消えた事でその向こう側にいた、無惨と戦っていた人物……緋色に輝き紅蓮に燃えるヒトガタが目に入る。

 

向こうも炭治郎に気付いたらしい。大きく息を吐くのに併せてヒトガタの纏う炎と輝きが消え、表皮も人のそれと大差無いものへと変化し、『以前』も戦いの中で幾度か見た、大人に成長した姿の妹が炭治郎に問い掛ける。

 

「お兄……ちゃん?」

 

声を聴かなくても、姿が紅く変わったままでも、その優しい、慣れ親しんだ匂いだけで判っていた。目の前に立つ無惨と戦っていた鬼が禰豆子だと。

 

「禰豆……子?」

 

ただ信じたく無かった。やはり『以前』と同じ様に、『今回』も間に合わず妹は鬼に変えられたのだと。

 

(確かに匂いも声も禰豆子だけど、禰豆子の髪型って一つ纏め……だったか? それと禰豆子って、こんなに引き締まってたか? いかん、『以前』と『今回』の記憶が混ざって……後大き……!)

 

「うん……随分と……早いね?」

 

そして間近で聞こえた声に我に帰れば、目の前に禰豆子がいて自分の頬に手を添えていた。もし禰豆子が鬼としての(さが)……食人衝動を自制していなければ、美味しく喰われていただろう。

 

そしてそこで気付く。

 

「何てはしたない格好してるんだ、禰豆子!? 嫁入り前の娘が家の外で裸だなんて、そんな慎みの無い……お兄ちゃんは禰豆子をそんな子に育てた覚え有りません!!」

 

いきなりお説教を始めながら、自分の市松模様の羽織りを脱いで禰豆子に着せようとする炭治郎。そらそうだろう。なんせ街でも美人と評判の自慢の上の妹が、雪の残る夜の屋外で裸なのだから。

 

「ああ……さっきので燃え尽きたのかな?」

 

対して当の禰豆子は、この周囲には兄しか居ない事を感知しているからか、頬を紅く染めながも気にした様子は見られない。まあ炭治郎しか居ないと言ってもそれも暫くの間だが。

 

「なあ禰豆子、小さく成ってくれないか? い……色々と見えそうなんだけど……」

 

そして羽織りを着せてはみたは良いが、一言で言って大きさが足りない。下は太股の大半が露になり、上は上で女の子だけが持つ渓谷が見え隠れしている。

 

「お兄ちゃんのケダモノ」

「グハッ!!」

 

ねずこ の けいべつ の まなざし

たんじろう は とけつ した 

 

「妹で欲情するなんて……まあ、私もお兄ちゃんしか……」

「そ……それも大事だけど、何があったこの惨状は!? 家は半分近く抉れて崩れてるし……他の皆は? 竹雄は? 花子は? 茂は? 六太に母ちゃんは無事なのか?」

 

そして思い出したかの様に、他の家族の安否を禰豆子に訊ねる炭治郎。その視線の先、竈門の家は既に廃材の山と化していた。血の臭いは確かにあるが、致死量じゃ無い……。

なら何処かに避難しているのかと禰豆子に訊ねようとした矢先、炭治郎のその声に答えるかの様に、二人に駆け寄る三つの小さな人影。

 

「「「兄ちゃん! お姉ちゃん!」」」

「竹雄、茂、花子、無事だったか皆!!」

「うん! 姉ちゃんが悪い奴から守ってくれたから」

「禰豆子お姉ちゃん凄かったんだよ! ごおーおでほおーおでしいーいで」

「お兄ちゃんも夜のお山、一人で大丈夫だった? 帰ってくるの明日だよね?」

「ああ、兄ちゃんは大丈夫だぞ。何せ長男だからな」

 

炭治郎と禰豆子の弟妹達。竹雄、花子、茂の三人だ。禰豆子の奮闘に未だ興奮覚めやらぬ弟二人に対して、夜通し雪化粧に覆われた山道を駆けてきたであろう炭治郎の身を案じる花子。

少し遅れて、末の弟六太の手を引いて母葵枝が歩み寄って来る。

 

「炭治郎……」

「母ちゃん! 六太!」

 

 

 

 

 

 

 

 

喪失の運命にあった家族を護れた事に安堵して、私……竈門禰豆子は笑みを漏らす。

 

(今日までの日々の研鑽は、確かにここに実った)

 

私は世に言う転生者だ。竈門禰豆子という『鬼滅の刃』の原作キャラに転生した、憑依とも言う。

竈門禰豆子に転生した事を知った私は、物語の発端とでも言うべきラスボス襲撃と竈門一家惨殺に備えて、先ずはヒノカミ神楽と全集中の呼吸の習得を、併せて未来知識を活かした鍛練でもってビルドアップを目指した。勿論、鬼滅の刃の主人公、兄炭治郎も巻き込んで。

幸いにして当時はまだ先代継承者の父炭十郎も存命で、流石に余命僅かな病人に対して、手本を魅せて貰うのを口実に毎日踊らせる何て無茶はさせられ無かったが、それでも原作では不明瞭だった部分を補完する様々な助言を得る事が出来た。

 

どうして私までヒノカミ神楽を憶えようとするのかと訊ねる兄に対しては、私は炭治郎の致命的なまでの説明力の低さ……擬音だらけで画も下手、幼稚で抽象的過ぎる……を理由に挙げて黙らせた。

 

――このままでは、ヒノカミ様との約束だと言う竈門家家伝のヒノカミ神楽は炭治郎の代で失伝する――

 

そんな事無い俺は長男だと抗議する兄だったが、弟妹達も思う処があったのか、自分達に何か説明する時も、その頃まだ赤子だった六太に話し掛ける時も、兄ちゃんは同じだと指摘。

それを受けて炭治郎は、この世の終わりみたいな絶望一色の顔色をしていたが……私は悪くない。

 

 

「お前に大事無くて良かったよ。それとその、禰豆子の変わり様は一体……」

 

「鬼……だと思う。で、でも!! 禰豆子は人を喰ったりなんかしない!!」

「鬼……聞いた事無い? 夜の闇と霧に住まう人を捕食する亡者。それが今の私」

 

家を開けていた長子の無事に安堵しながらも、異形と化した私の姿に不安の色を隠せない母に、お兄ちゃんと私はほぼ同時に答え、鬼について語る。

 

(想定より随分早い帰宅。この段階で私を鬼だと識別できるだけの見識があって、あの名前を既に識ってる……炭治郎も私の同類? それとも……)

 

「そんな……」

「お姉ちゃん、鬼に成っちゃったの?」

「うん。皆の事、凄く美味しそう……」

 

愕然とする母に続き問い掛ける花子。それに応えて舌舐りしてみせれば、血相変えたお兄ちゃんが「禰豆子ぉぉぉ!!」と叫びながら大慌てで私を皆から引き剥がす。

押されて判ったが、力も常人のそれでは無い。全集中の呼吸そのものはそれとなく教えていたが、いかに不意を突かれた形とはいえ、鬼の私がそれだけで力負けする道理は無かった。

 

(正体を探る為に発破を掛けたけど……鬼の危険性を識ってるのは兎も角、これは鬼と対峙した際の身体の捌き方を識ってるな)

 

そして今朝方までの、家を出るまでのお兄ちゃんには未来を識っている素振りは見られなかった事を踏まえると……逆行者?

 

「鬼に何か負けるな! 頑張れ! 頑張れ禰豆子!! 兄ちゃんがついてる!!」

「ああもう、耳元で煩い。お客が来るよ」

「お客?」

 

おうむ返しに訊ねる母の言葉と同時、お兄ちゃんも何かに気付いて……と言うより思い出したのか、麓の方へと視線を向ける。

果たして、視界一面倒された木々を越えて来たのは、この大正の時代に在っては成らぬ抜き身の刀を手にした人物。

 

「鬼狩り」

 




憑依禰豆子は鬼を亡者と呼んでるけど、鬼は元々亡霊や幽霊を意味する言葉が転じたもの



追記改編後の没案

禰豆子「お兄ちゃんのケダモノ」
炭治郎「被害者は……こっちだ……」
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