主人公補正の無い主人公の妹に転生したので兄の強化に尽力したのにいざ本編が始まると微妙に別人でした 作:緒河雪那
柱合会議。それは『柱』の位にいる鬼殺隊の最高戦力兼幹部が『御館様』と呼ばれる当代の当主の元へ集い開かれる、半年に一度の定例会議である。
普段であれば陽の当たる中庭とそこに面した座敷で行われるこの会議だが、今回は室内……大広間で行われる運びと成った。と言うのも、日光に当たると消滅する鬼が呼ばれていたが故だ。
「おい冨岡、胡蝶。テメエら……鬼を匿うたぁどういう了見だ? あぁっ!?」
そうガンを飛ばしながら義勇としのぶに問い詰めるは、『風柱』こと不死川実弥。
「派手に隊律違反する柱が二人も……こいつはド派手だわ!」
それに続き囃し立てるは、『音柱』こと宇随天元。
「どう落とし前を付ける貴様ら? 柱二人が揃ってこの愚行……頭痛がする」
一方で陰湿に責め立てる『蛇柱』の伊黒小芭内。
「冨岡のみならず胡蝶まで……残念だ」
肩を落とし落胆する『岩柱』の悲鳴嶼行冥。
「うむ、先ずはその鬼の首を斬ろう! 何処だ!?」
自らの日輪刀を片手に訊ねるは、『炎柱』煉獄杏寿郎。
「止めて下さい煉獄さん。貴重な鬼舞辻の情報を我々に提供してくれて、理由は不明ながら我々と同じく鬼舞辻と敵対していて、更には我々の戦力強化に協力してくれる禰豆子さんを鬼と言うだけで斬るなんて……」
「む……。そうは言うが胡蝶、脳五つに心臓七つとはよもや、にわかには信じられんぞ」
しのぶの言う事も一理あると一旦は止まる杏寿郎だが、その提供された情報が問題だった。なにせ、他人……それも鬼の目を通して語られた、本来なら見えない体内の話である。
「それについては私も同じ疑問を抱きました。ですが、専門的な知識のある者が触らなければ判別出来ない程小さな体内の異常を、禰豆子さんは手の届かない距離から『視た』だけで判断したのは事実です」
「相手は鬼だぞ? 血鬼術の可能性は無いのか?」
小芭内が極々当然の疑問を投げ掛ける。一部の鬼が自らの血を媒介にして使う超常の力『血鬼術』は非常に多岐に渡り、寧ろそう考えるのが自然だ。
「禰豆子さんの血鬼術は自身の血を霧や煙の様に散布して感知範囲を広げる事とそれを衝撃波に対する緩衝帯とする事と、その血が着いた対象を爆裂或いは焼却しての直接攻撃、或いはその炎を手足や武器に纏わせての攻撃力の上乗せ、そして鬼の細胞を焼き殺しての再生能力の阻害です」
「いやいや、派手に多過ぎだろ。血鬼術の百貨店かよ?」
「遠くにあるを識別する能力であって、体内は判らない……と?」
しのぶの挙げる禰豆子の血鬼術、その概要の多さに思わず突っ込む天元と、その中に体内の様子を知る事の出来る能力が無い事に気付く行冥。
「はい。そもそも、鬼舞辻と渡り合う程の未知の呼吸の使い手が鬼と化した……それが今の禰豆子さんですよ? 無策で手を出せばどう成るか……寧ろ、敵の敵は味方。ではありませんが、有効に活用すべきです」
「ふん! 未知の呼吸……ねえ……? そいつらの死にかけてた親父さんがその呼吸でもって生前人喰い熊斃したって話、本当かよ?」
未だ納得いかない様子の実弥の疑問に答えたのは、しのぶでは無く天元だった。彼は元忍であり、鬼との戦闘以外にもこういった情報収集も担当していた。
「おう、マジだぞ。雲取山大熊連続殺人事件……判ってるだけで六人を喰った九尺のバケモンみてえな熊を単独で討伐した、超ド派手な英雄様だ! …………どうして生きてんのか不思議な位に地味地味な病人だったのも併せてな」
「何と立派な御仁だ……。その子供が鬼に惑わされ味方するとは嘆かわしい。早く殺……!!」
炭十郎の行いに感動する行冥。だがそれ故に、息子である炭治郎が妹とはいえ人喰いの鬼を庇い生かすのが赦せないらしい。
そんな炭治郎抹殺を口にしようとする行冥の脇腹……肝臓に、しのぶの呼吸を使った拳が伸び寸止めで止まる。
『蟲の呼吸 蜂牙の舞 真靡き 拳』
「滅多な事言わないで下さい悲鳴嶼さん! 炭治郎君に……と言うか竈門家の人達に手を出したら、禰豆子さんが……呼吸を使う鬼が本気で殺しに来ますよ!?」
顔を蒼くして行冥を牽制するしのぶ。そんな彼女に小芭内は疑念と侮蔑の混ざった蛇の様な視線を向ける。
「何を怯えている胡蝶。高々鬼の小娘一匹くらいで……?」
それに答えたのはしのぶでは無く、もう一人の当事者にして最初に話題の鬼禰豆子と遭遇した柱、今まで沈黙していた義勇だった。
「お前達はあの破壊の跡を観てないからそんな事が言える。見渡せる範囲一面に渡り木々が軒並み薙ぎ倒されていた。先の胡蝶では無いが、無策で挑むのは愚行だ。敵の敵は味方と言う。いたずらに敵対するのは極力避け、その力を鬼舞辻無惨討伐に利用すべきだ」
その言葉に誰もが押し黙る。別名『失語柱』をここまで饒舌にさせるって何者だよと。
その頃、待機用にと宛がわれた一室では、炭治郎と禰豆子の兄妹、そして相席していた甘露寺蜜璃が談笑していた……のだが。
「ね……禰豆子……?」
「ど……どうしちゃったの、禰豆子ちゃん? 顔真っ赤にして、もしかして怒ってる?」
一瞬、禰豆子の顔に紅く輝く枝葉の様な模様が走り、口元の牙と額の角が伸びる。直ぐにそれは納まったものの、それを目の当たりにした炭治郎と蜜璃が揃って引いていた。
「怒ってません、激怒しかけました。お兄ちゃんを殺そうとか言う声が聴こえたので……」
(善逸かな? 俺には何も聴こえ無いけど……。そう言えばこの禰豆子、カナヲ程じゃ無いみたいだけど眼も良いみたいなんだよな)
「に……兄ちゃんなら大丈夫だから、禰豆子は絶対に人を襲うなよ? 兄ちゃんとの約束だぞ?」
「解ってるよお兄ちゃん。お兄ちゃんや家族の皆の不利益になる様な事はしない」
その言葉と元通りに戻った柔和な禰豆子の雰囲気に、自然と自分達も緊張を解き肩の力を抜く炭治郎と蜜璃。
「で? 蜜璃お義姉ちゃんはいつまで私のお兄ちゃんに抱き付いてるのかな? お兄ちゃんもニヤけない」
「ふえ…………? あ……あわわ……ご、ごめんね炭治郎君!」
禰豆子に指摘され、慌てて距離を取る二人。完璧に左右対称な息の合った動作で。
(蜜璃さん、大きくて柔らかくて良い匂いだったな……。って、俺はナニ考えてるんだ!? 平常心だ、竈門炭治郎。禰豆子の不機嫌な匂いがまた上昇しているぞ)
「お……お気に為さらず。て言うか禰豆子、蜜璃さんの事をお義姉ちゃんってお前何言ってるんだよ?」
「? 蜜璃さんは将来の旦那様探して鬼殺隊に入隊したんですよね?」
「そ……そうだよ。でも、誰でも良いって訳じゃ無いの。さっきも話したけど、やっぱり恋する女の子としては、自分より強い殿方と添い遂げたいなって」
「なら、お兄ちゃん以外に居ませんね。お兄ちゃんが蜜璃さんに劣ってるのは経験値くらいです」
「う~ん。確かに炭治郎君は悪い子じゃ無いし私も好きけど……何て言うかこう、キュンと来ないのよね」
蜜璃のその一言を聞き、戦闘形態に変身大人化して蜜璃の胸倉を掴む禰豆子。最愛の兄炭治郎を及第点以下と言外に言われ、完全にブチ切れている。
「おいゴルァ! 私のお兄ちゃんに魅力が無いって言うの? 肉体言語で教育してやろうか、この乳柱!?」
「ふぇ~ん。炭治郎君助けて~」
「落ち着け禰豆子。それと確かに蜜璃さんは今日の会議から柱就任だそうだけど、『乳』じゃ無くて『恋』だから」
炭治郎に泣き付く蜜璃と、禰豆子を窘めながらもズレた突っ込みを入れる炭治郎。
そんな混沌とした処へ、蜜璃を呼ぶ声が届く。
「は~い」
(た……助かった、のか?)
憑依禰豆子は竈門家(特に炭治郎)が絡むと非常にキレ易いです
その沸点の低さは無惨様と良い勝負です
原作と違って修行前の柱合会議。なので恋柱就任と同日としました