主人公補正の無い主人公の妹に転生したので兄の強化に尽力したのにいざ本編が始まると微妙に別人でした   作:緒河雪那

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修行編その壱


弐之壱

私の兄炭治郎は現在、水柱・冨岡義勇の師でもある水の呼吸を担当する育手(そだて)鱗滝左近次の下を訪ねるべく、彼が住む狭霧山を目指して小さくなった私こと竈門禰豆子が入った籠を背負い駆けていた。

 

(さて、例の御堂か……)

 

鬼の気配がする。それに気付いて目を覚ました私が声を掛けるより早く、兄も匂いで気付いたか急に立ち止まった。

透き通る世界で籠の中から周囲を透かして視れば、そこは原作で初めて炭治郎と禰豆子が戦った鬼が棲家兼狩場としていたあの御堂だった。

 

(日没前に到着出来たのは全集中の呼吸による身体強化の恩恵か、それとも兄が逆行者で路順を知っていたからか……)

 

「禰豆子。このお堂の中から鬼の匂いがする」

「うん、私も視えるし聴こえる、あと嫌な匂いも……」

「うう……妹が万能過ぎて俺の長男としての威厳が……」

「お兄ちゃんも呼吸と型を極めたら視える様になるよ? 透視と未来視。お父さんもしてたし」

「父ちゃんが? 兎も角、兄ちゃん行ってくるから、ここで待っててくれ」

 

そう言い私の入った籠を下ろし、御堂に乗り込もうとする兄。気合いが入ってるのは良いんだけど……。

 

「待ってお兄ちゃん。今のお兄ちゃんは日輪刀処か武器に成る物何も持ってない徒手空拳なんだよ? 御堂から叩き出して日光で消毒するにしても、頑強なのはお母さん譲りの石頭だけで特別体格に恵まれてる訳でも無いのに、作戦はどうするの?」

「う……それは……」

「自分を餌にして外まで誘導するにしても、そんな戦法が通用するのは周囲に気を配れない程に飢えてるか余程の阿呆だけ。カチコミは私が行くから、籠を軒下の日影に入れて」

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、大人化して戦闘形態となった禰豆子が鬼の棲むお堂に乗り込んで直ぐの事だった。

お堂の中から乱闘の騒音と怒号、それに続き壁に何かがぶつかる音が二度三度と鳴り響き、それに伴い壁に亀裂が走ったかと思うと、脆くなった壁をぶち抜いてお堂の鬼が出てきた。

 

「あっ……暑……熱つ……助……」

 

庭先と言うべきか拓けた処へ無理矢理放り出され、日の光を直に浴びた事により一気に灰化するお堂の鬼。当然の事ながら必死に起き上がり、禰豆子から逃れてかつ安全地帯の日影を求めて、何と炭治郎のいる方に向かって来た。

 

「母ちゃん直伝!!」

「…………」

 

咄嗟に炭治郎は、ヒノカミ神楽の呼吸で強化した身体能力を使ってお堂の鬼に頭突きを叩き込んだ。

白眼を剥きふらふらと彷徨って、日向に出たかと思えば身体が重力に引かれて傾き肉体が崩壊、二重の意味で崩れる。今度こそお堂の鬼は完全に消滅した。

それを確認した炭治郎は一息吐き、禰豆子の無事な姿を確認すべくお堂に目を向け……そこで鬼を見た。

 

(あれ? 何で『鬼』が禰豆子の着物着てるんだ?)

 

なお、この場合の『鬼』とは比喩表現である。

 

「お兄ちゃん……何危ない事してるのかな?」

「う……」

(ヤバイ、禰豆子がお説教状態だ。角生えてる)

「鬼狩りになろうって人が自分を大事にしないなんて……今回は太陽が味方してくれたけど、こんなの何度も無いよお兄ちゃん」

 

禰豆子の言いたい事は炭治郎も解る。だけど可愛い妹にだけ戦わせて長男の自分が観てるだけなんて、それが最適解と頭では解っていてもやはり気が進まない。

 

「そんな表情(かお)しないのお兄ちゃん。何事にも相性があるんだから、適材適所、役割分担だよ」

「そうは言ってもな……」

「現状が御不満? なら身体を鍛えよう、技術を磨こう、知恵を付けよう。そんな訳で鱗滝左近次さん、宜しくお願いします」

 

禰豆子が声を掛けると同時、炭治郎の背後で人の気配がした。慌てて炭治郎が振り向けば、そこには『前回』も炭治郎の師匠だった天狗面の老人……鱗滝左近次がいた。

 

「あ……俺、竈門炭治郎って言います。貴方が鱗滝左近次さん……ですよね? お堂の中に居るのは俺の妹で……」

「竈門禰豆子。鬼です」

「うむ、挨拶と自己紹介が早い。そして先程の向かって来た鬼に対して咄嗟に頭突きを決めたあの判断の早さ、実に素晴らしい。二人共既に知っておる様だが改めて名乗ろう。儂は鱗滝左近次、鬼殺隊志願者に水の呼吸を教える育手(そだて)をしておる」

(うわ、鱗滝さんに褒められた……。『前回』は、もし禰豆子が人を喰ったらどうすると問われて、答えに窮していたら「判断が遅い」って叱られたな)

「時に炭治郎。もし妹が人を喰ったら貴様はどうする?」

(あ……やっぱり『今回』も訊いてくるんだ)

 

炭治郎は少し懐かしさすら憶えながらも、一方で、鬼殺隊になろうって人間が人を主食にする鬼を連れてくんだから当然かと考える。

だから『前回』指摘された様に、「その時はこの手で禰豆子を斬って自分も腹を斬る」と答えようとするより早く、禰豆子が人喰いを否定した。

 

「人喰いだなんて、そんな事しませんよ。日光耐性が得られなくなる」

「…………待てそれは…………人を喰った事の無い鬼は太陽を克服するのか?」

「ただの勘……なんですけどね。でも実際、鬼に感染して以来今まで一度たりとも人喰いをせず極度の飢餓状態にある私は、睡眠で快復する様に進化してる訳で……これで餓死したら、どんな超絶進化を遂げるんでしょうね?」

「う~む。匂いで判断する限り、人を喰った事が無いのも、睡眠で快復と言うのも共に嘘では無い様だが……」

 

柔らかな笑みと共に問い掛ける禰豆子に、お面越しにでも判る疑わしげな視線を向ける左近次。

 

(仕方の無い事とは言え、禰豆子には『今回』も『前回』と同様に相当な我慢を強いる事になるな……)

 

そして考えてみれば、鬼だって生き物なんだからお腹が空くのは道理だ。人間、疲れたら寝て体力を回復させるけど、禰豆子はそれを応用して人喰いの代わりとしているのか? 

 

(偉いぞ禰豆子)

 

そして確かに謎である。日光を浴びるか日輪刀で頸を斬らない限り不死身の鬼が、一度も人を喰わず餓死なんてしたら……否、そもそも死ぬのか? 不死身の鬼が? 

 

 

 

 

 

そして移動している道中、左近次が「それにしても……」と炭治郎に声を掛けてきた。

 

「お館様から頂いた文を読んだ時には俄には信じられなんだが……否、実物を目の当たりにした今でも信じられんが、まさか理性を保ち儂等鬼殺隊に協力する鬼がおるとは……」

「私はお兄ちゃんに力を貸してるんです」

 

背負った籠の中から左近次に答える禰豆子。それに炭治郎は「……だそうです」と相槌を打つ。

 

「やっぱり禰豆子って鬼としては珍しいんですか? 鬼舞辻無惨の呪いの影響を受けてない、奴の配下に無い鬼って」

「珍しいどころの話では無い! 気力で呪いから脱したと言うならまだしも、最初から支配下に無いなど……」

 

 

 

 

 

斯くして始まった炭治郎修行の日々、再び。数々の罠が仕掛けられた空気の薄い狭霧山を駆けて肺を鍛えるところから始まり、素振りによる筋力強化、投げられての受け身、そして呼吸と型の習得。

 

「だが炭治郎。お前は家伝の呼吸……ヒノカミだったか? を使い鬼と戦いたい。と以前言っておったな」

「はい。妹の禰豆子に出来たんだからっていう意地もあるんですけど、やっぱり俺にはこっちの方が慣れてるので」

「…………その様だな。教えてもいない常中を始めた時は自分の鼻を疑ったぞ」

 

左近次の言葉に苦笑を漏らす炭治郎。炭治郎は修行を始めるより以前から、『今回』の禰豆子の入れ知恵(原作知識)で起きてる間はヒノカミ神楽の呼吸を行い呼吸に身体を慣らしていた。

幼い頃から暇さえあれば雲取山を駆けていた事も幸いして、基礎の基礎と呼べる身体造りの段階は『前回』の三分の一で終える事が出来た。

 

(有り難う禰豆子。兄ちゃん頑張るからな)

 

なお(くだん)の禰豆子は、身体を作り替え……当人の言葉を借りるなら進化する為か、左近次の元へ来て以来眠ったままだ。

 

(涎滴しながら「お兄ちゃん……美味しく食べて天国に逝かせてあげるね」とか言う寝言言ってたのは聞かなかった事にしよう)

 

「さて炭治郎。お館様から既に聞き及んでると思うが、お前の使う呼吸が日の呼吸……別名『始まりの呼吸』と同じと言う事もあって、今日から暫く他の育手(そだて)を招く事と成った」

「他の育手(そだて)……あ! もしかしてお館様が仰ってた、桑島慈悟朗さんですか?」

「知っておったか?」

「名前だけは。確かお館様は雷の呼吸の育手(そだて)だと」

「うむ。奴と儂は同期でな、現役時代は共に柱を勤めたものよ」

 

そんな師弟の会話が朝餉と共に交わされたある日の昼食前、鱗滝邸を訪れる人物が二人。杖を突いた義足ながらも未だ背筋の通った頑健な老人と、その後を追う()()()()()

 

「ほれ、来たぞ」

「俺、竈門炭治郎です! 貴方が桑島慈悟朗さんですか? 今日から暫くお願いします」

「ほおほお、お館様の文にあった通りの礼儀正しい子じゃな。いかにも、儂が雷の呼吸の育手(そだて)にして元鳴柱、名を桑島慈悟朗じゃ!! ほれ善逸、お前も挨拶せんか」

「う……解ったよじいちゃん。えっと……俺、我妻善逸」

(善逸って、あの珍妙なたんぽぽ『禰豆子談』? 俺が知ってるのと違って、何か黒いんだけど……)

 

 

 

 

 

(えっと……この部屋かな?)

 

保護者であり師でもあるじいちゃんこと桑島慈悟朗に連れられて、彼の元同期である鱗滝左近次の元を訪れた我妻善逸だったが、初日から早速サボっていた。

この邸宅を訪れた時から善逸の異常聴覚が捕らえていた、人のものとは違う三人目の音の出所を探る為に。

 

そっと襖を開けて、そこで視た、見付けた、出逢った。異形の眠り姫に。

人形の様に造り物めいた可愛さでありながら、今にも目を醒まして動き出しそうな活力に充ちていて、死人かと思う程に蒼白い膚をしながらも、瑞々しく生命力を感じさせる少女に。

 

「何何何なのこの可愛い()!? え? 何この音? 鬼の音? これで鬼? こんな可愛いのに鬼なの!? 今は寝てるみたいだけど、きっと目を醒ましたら綺麗な眼をしてるんだろうな……。それと寝てるのに全集中の呼吸してるみたいだけど、どんな声で喋るんだろう? きっと小鳥の囀ずりみたいな……それとも鈴を転がす様な?」

 

唐突に背後を取られ、口を塞がれる。

 

「騒ぐな。禰豆子が起きる」

「!!!!」

 

善逸の背後に現れ口を塞いだのは、左近次の弟子・竈門炭治郎だった。このまま(つつが)無く修行を終えれば同じ最終選別に挑む事になる、自分の同期に成るかも知れない少年だ。

 

(ッア゛ーーーーー!!! 叫びたい!! でも声出したら炭治郎に殺されるぅ!)

 

炭治郎のかなり本気な殺気に密接状態であてられ混乱する善逸。そんな彼の目の前で、異形の眠り姫が目を醒ました。

 

(ああ……やっぱり思った通り、紅玉色の綺麗な目だ)

 

「ごめんな禰豆子、起こしちまって……」

「私に飽きて男色に目覚めたの? この裏切り者」

(何か俺と炭治郎の関係が激しく誤解されてるー!)

「待て禰豆子、兄ちゃんは普通人だ! こいつは我妻善逸、暫くの間一緒に修行する事になった人だ」

 

自ら拘束していた善逸を傍らに転がし距離をとりながら、必死に弁明する炭治郎。禰豆子はむくりと起き上がると布団から出て、二人の間を通って部屋から外へと出ていく。

 

「カナヲちゃんとアオイさんに言い付けてやる」

「誰ちゃんと誰さん? って、誰か二人近付いてる? 女の子の足音?」

「え? この匂いは!! 待て禰豆子、誤解を広めるな! 広めないでくれ!! 広めないで下さいお願いします!!!」

 

禰豆子を追い掛けて辿り着いた玄関先。そこには体格に対して大きすぎる気がする荷物を背負った二人の少女がいた。

 

「炭治郎さん、禰豆子さん、季節の物をお持ちしました」

「炭治郎、禰豆子ちゃん、お義母様から預かりもの」

 

噂をすれば影と言うやつか、今し方話題に出た二人、神崎アオイと栗花落カナヲだ。話の内容から察するに、二人の背負った荷物の中身は竈門兄妹の母葵枝から預かった季節物らしい。

 

「二人共、遠い処有り難うね。重かったでしょ?」

「す……好きでやってる事だから……」

行住坐臥(ぎょうじゅうざが)、これも修行の一環です」

 

慎重に日向に成っていない部分に座り、二人から荷物を受けとる禰豆子。その背後では、追い付いた善逸が炭治郎に噛み付いていた。

 

「炭治郎テメー! 禰豆子ちゃんだけじゃ飽き足らず更に追加で二人の美少女と母親公認とか、羨ましすぎんだろ! チクショー!! うちには人の事カス呼ばわりするクズみたいな兄貴分しかいないのに……不公平だ! 換われ!!」

 

そんな騒々しい善逸に、彼と初対面のアオイは軽蔑と非難の混ざった視線を向ける。隣のカナヲも、幼少期の経験から表情にこそ出せないものの、内心対応に困っていた。

 

「誰ですあの騒がしいの?」

「お兄ちゃんの師匠さんの同期の人の弟子。お兄ちゃんの同期に成るかも知れないって」

「て事は、私達とも?」

 

カナヲの呟きにも似た声は、禰豆子の耳に届いていた。

 

「カナヲちゃん私達って……二人も鬼殺隊に入るの?」

「うん。蝶屋敷にはもう、私より巧くしのぶ姉さ……師範の手伝い出来る人がいるから」

「ほんと、葵枝さんと花子さんが食事の用意を始めとした家事方面で協力してくれる様に成って以来、私達の負担が激減しましたよ。他にも竹雄さんと茂さんには重い物や大きい物持ったりで助けて貰ってますし、勿論、六太さんも……」

 

竈門兄妹の家族を手放しで褒めるアオイ。それに内心で嬉しく想いながらも、まだ幼児と言って良い歳の六太に出来る仕事なんてあるのかと疑問符を浮かべる炭治郎。

 

「六太が……?」

「はい。通いの患者さんが来た時に、しのぶ様や私が離れた所にいる時には呼びに来てくれたり……」

「そっか……母ちゃん達も頑張ってるんだな。俺も負けずに頑張んないとだな」

「お兄ちゃん、そこは『俺達』とか複数形にするとこじゃ無いかな?」

 

 

 

 

 

そんな和気藹々とした少年少女五人の遣り取りを、少し離れた庭先から見詰める老人二人。この邸宅の主にして水の呼吸の育手(そだて)鱗滝左近次と、彼の元同期、雷の呼吸の育手(そだて)桑島慈悟朗だ。

 

「あれが報告にあった鬼か……。お館様から頂いた文の内容を疑っておった訳では無いが、この目で視た今なお未だに信じられん」

「儂も最初は……否、今でもお前と同じだ。だがここへきてからだけでも二月半、その間眠ったままで何も口にしておらん」

「そして今に成って目覚めたのは食事の為……と言う訳でも無さそうじゃな、あの様子だと」

 

竈門禰豆子は不思議で謎に充ちた、今までの常識を全面的に否定して破壊する鬼だった。理性を保ち人喰いをせず、代わりに長期間の睡眠を必要とし、本来なら捕食対象である人間に協力的(家族のついでとは当人の談)で、おまけに全集中の呼吸常中を会得している。

 

 

 

 

 

次の日、夜明けと共に禰豆子は再び眠りに就いた。

 




老人二人が同期なのはオリ設定

黒善逸(雷に射たれて金髪に成る前)登場

アオイは選別前(炭治郎の同期にするかは未定)

禰豆子は原作と違って時々起きる
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