主人公補正の無い主人公の妹に転生したので兄の強化に尽力したのにいざ本編が始まると微妙に別人でした   作:緒河雪那

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今回はあの兄弟が登場


弐之弐

過去へと戻った炭治郎が、再び鱗滝左近次の元で修行を初めてから早九ヶ月と少々。水の呼吸に於いて師から学ぶべき事を学び、後はその技を馴染ませ自身のものとする段階まで来ていた。

 

「本来ならば「次は儂の用意した課題を突破して魅せよ」……と言いたい処だが、今のお前には障害には成っても試練に成らんだろう。炭治郎、お前が優秀なのを喜ぶべきか、また若者を死地に送り出さねば成らんのを嘆くべきか……」

「え……ええっと……。その事なんですけど俺達、扱う呼吸が独特と言う事もあってですね、次は煉獄さんの所へ行って現役の方に鍛えて貰おうと思ってます。もし鱗滝さんのお許しが頂けるのなら」

「元よりそういった予定だったな……。良かろう。杏寿郎君にはよろしく頼むぞ」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして狭霧山を降りた炭治郎と禰豆子の竈門兄妹は、煉獄邸のある駒沢村では無く、何故か景信山の麓にいた。

 

「禰豆子、何だってこんな処に……。早く行かないと煉獄さん待たせてるんだぞ」

「行程を前倒し出来てるから問題無い。それに昼夜交代で移動しているから、当初想定の四倍の速さで移動出来てる」

「そ……そうだけどな……」

 

確かに禰豆子の指摘した通り、二人は全集中の呼吸を応用した身体強化でもって、更には昼夜交代で移動を担当する事で、常人には不可能な速度での強行軍を終えていた。

これなら一日山の麓で自主休養に充てても、距離と速度的に到着は充分余裕である。

が、早く強く……せめて『前回の自分』に負けない位には成りたい炭治郎は焦燥感に顔を顰める。

 

そして、炭治郎にとっては夜間に於ける移動方法も非常に由々しき問題だった。

だっておんぶである。寝ている炭治郎を、禰豆子が。

 

妹に片腕で子犬よろしく軽々と持ち上げられ、苦もなくおんぶされるなんて、それだけでもう長男の心とメンタルはボゴボゴ、尊厳とプライドはズダズダである。

しかも、昼間炭治郎が背負う側の時は日光避けの箱に入って貰う都合から小型軽量化して貰ってるのに対して、そのままの炭治郎をおぶる禰豆子の方が三倍近くも速いなんて……これが(獲物)(捕食者)の差か。

そして、今は亡き長年愛用していた十年ものの布団より寝心地も良いなんて……。悔しい! でも後五分……。

 

「身体造りの為には負荷を掛けるだけじゃ無くて、休養も確り取って快復させないと。未来に大きく跳ぶには、過去の大きな助走が必要なのだ」

「だからって無断で休むのはどうなんだ?」

「…………お兄ちゃんは真面目だな~。それとも、私と二人きりでお出かけするの、嫌?」

 

自分の腕に抱き付き上目遣いで見詰める禰豆子に、炭治郎は心の奥底を揺さぶられ、庇護欲を刺激される。

 

「そ、そんな事無いぞ禰豆子! 兄ちゃんが禰豆子の事嫌になるもんか!!」

「うん! 私もお兄ちゃん大好きだよ」

 

夕闇迫る逢魔が刻。人が眠るにはまだ早く、鬼が活動を行うにも早いこの時間帯は、二人が並んでいられる貴重な時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん起きて! 近くに鬼がいる」

 

それは唐突な出来事だった。妹の背中で熟睡していた炭治郎は、突然に起こされ、事態を把握する前に地上に下ろされる。

 

「? 禰豆子!?」

「私、先行って出来るだけやっておくから! お兄ちゃんは生存者を護って!」

 

一方的に告げて尋常成らざる速さで遠ざかる妹の背中を、見慣れぬ山道の中、匂いだけを頼りに追い掛ける。

そんな中炭治郎の鼻は、妹と違って人喰いをした事のある鬼の異臭の他に、進行方向に『前回』も嗅いだ事のある匂いを捉えた。まさかとは思うが、禰豆子はこれを感知して寄り道したのか?

 

「禰豆子がどんどん人間辞めてる……」

 

既に鬼だと言うのは割愛する。そう言う意味じゃ無いので!

 

 

 

 

 

 

 

 

家を揺らす震動と何かを壊す音に目を覚ましてみれば、月明かりが照らし出す自身に迫る異形の陰を、背後の何者かが回し蹴りで蹴り跳ばすところだった。

異形を蹴り跳ばした何者かは自分達と同じか少しばかり歳上らしい少女で、だが彼女もまた額には角が生え、血色の眼をした、口元には牙が覗く異形の姿だった。

 

異形の少女は自身の蹴り跳ばした異形を追って廊下に出た後に、月明かりの下で待ち構えていた壮年の男性と、獣の如く爪の延びた拳で殴り合いを始めた。

 

「テメエ! ここは俺の縄張りで、コイツら二人は俺が見付けた獲物だぞ。俺が二人共喰うんだ、他所行けや!!」

 

怒りを露に少女に殴り掛かる男性。だが少女はその拳を半身になって躱し、伸ばされた手首を掴み脇に反対側の手を添え、相手の勢いを利用して地面に叩き付けた。

 

「あぐっ……くそ……」

 

悪態を付きながら立ち上がる男性に、悠然と歩み寄る少女。ある程度距離が近付いた所で再び男性が少女に襲い掛かるが、少女は事前に男性の一挙手一投足を知っているかの様に対応し、攻撃はまるで届いていない。

 

「兄さん!」

 

呼ばれて顔を上げれば、廊下を挟んだ反対側の部屋で寝ていた筈の双子の弟無一郎が、怪物同士の戦いで壊された物が散乱する廊下を突っ切って兄有一郎の下に滑り込んできた。

 

「お前! 何危ない事してんだ!? あんな化け物の真後ろ通る何て……」

「ゴメン兄さん。……でも、アレって……」

 

弟の、無一郎の言いたい事は解る。鋭く延びた牙に爪、そして額に生えた角。戦いの余波だけで人家を破壊する人の域を越えた剛力に、人を食糧と見ている節のある男性の発言。

不意に、この半年間度々家を訪れてる女性……確か、産屋敷あまねと名乗ったか……の姿がちらりと浮かぶ。自分達は人喰いの怪異と戦い異形を狩る剣士の末裔なのだと。

 

「…………鬼……だな」

 

眠るまでは昔語りの絵空事と断じていたが、確かにソコに存在している以上、一介の(きこり)に過ぎない自分達の祖先が(さむらい)か否かは別として、人喰いの異形が存在している事については認めざるをえない。

そんな思いを呑み込み有一郎が言葉を発したその時、左目の上に火傷痕の様な痣のある少年がやってきて、一瞬自分達を視る目を驚きに見開いた後二人に訊ねる。

 

「君達、無事か!?」

「あ、ああ……。俺も弟も無事だ。で……アンタは?」

「僕も大丈夫……です。でもお兄さん危ないですよ、怪物同士戦ってるのに……」

 

こちらを気遣う発言に真夜中という時間帯から、痣の少年が自分達を助けに来たらしいというのは予測出来たが、それでも痣の少年は正体不明の不審人物だった。

故に有一郎は弟を背に隠しながら痣の少年に誰何するが、対する痣の少年はそれを無視して道具入れから「借りるよ」と言いながら返事を待たずに鉈を取り出し、少女鬼に投げ渡した。

 

「禰豆子!」

 

それが少女鬼の名前なのか。少女鬼改め禰豆子は痣の少年を視る事無く背後に手を廻し、まるで背中にも眼が在るかの様な自然な動きで死角に投げられた鉈を受け取る。

そして自身の手首を傷付け鉈に自らの血を付着させたかと思うと、血に濡れた刀身が赤く紅く朱く燃え上がり、有一郎を庇った時以来の攻撃を選択。

 

目にも止まらぬとはこの事か。両膝、股関節、両肩、両肘、頚、一息のうちに九の燃える斬撃が男性鬼に叩き込まれ、気付いた時には血溜まりに肉塊が倒れ付した。

 

「熱! な……何だコレはー!? 傷の治りが遅え……。テメエこの阿婆擦れ! 俺に何しやがった?」

 

人の形を喪いながらも口汚い言葉を吐く男性鬼に、痣の少年が怒り心頭と言った様相で抗議する。

 

「誰が阿婆擦れだ!? 誰が!? あぁん!! 禰豆子はな! 街でも評判の別嬪だぞ!! ゴルァ!!」

 

今にも飛び出して行きそうな痣の少年だったが、禰豆子に視線で制され踏みとどまる。

そして禰豆子は追加で男性鬼に自らの血を振り掛け、肉塊は更に激しい緋色の炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや二人共! 実に良くやった! よもや見習いの段階で二体の鬼を仕留めるとは!! 俺も先達として負けてられんな!!」

 

鬼の襲撃から一夜明けた次の日、炎を頭に被ってる様にも見える髪型の声の大きな男性が、痣の男の子と鬼の女の子の二人を手放しで称賛していた。

 

「あの……煉獄さん? 鬼と戦ったのは禰豆子で、俺何にも全くしてないんですけど」

「謙遜するな溝口少年。鬼の被害に遇った者を護るのもまた、鬼殺隊の重要な使命だ。何も鬼の頚を斬るばかりが俺達鬼殺隊の勤めでは無い」

「あの……竈門です」

 

そこへこの樵小屋に住む双子の弟、時透無一郎が「あの……」と声を掛ける。何事かと皆が視線を向けた無一郎は、突然頭を下げる。

 

「僕にも戦い方を教えて下さい」

 

それに真っ先に反応したのは、双子の時透兄有一郎だった。やはり兄としては弟が戦いに関わるのは捨て置けないのか、有一郎は無一郎を半ば必死の様相で説得する。

 

「何言ってるんだ無一郎。良いか。鬼との戦い何て、そんな事出来るのは選ばれた人間だけだ」

 

同じく弟を持つ兄故か、有一郎の心境が少なからず解る杏寿朗と炭治郎。時透兄弟の様子を見守る二人が何か言おうとするよりも先に、炭治郎の背負う箱の中から禰豆子が「そうね……」と相槌を打つ。

 

「でも、選ぶのは自分自身よ。他人の私達に出来るのは、飽くまで岐路を示すだけ。もし誰かの導く方を選ばなかったからと言って、誰にも非難する権利は無いし、だから逆に、誰かに後悔の根源を押し付ける資格も無い」

「禰豆子さんは後悔しているんですか?」

 

無一郎の問いに、禰豆子は「ええ」と肯定を返す。

 

「きっと、どっちを選んでも後悔していた。なら我が儘に……(われ)が儘にすれば良いのよ」

 

禰豆子の自嘲を込めた啓す様な物言いに、有一郎は「あーもう!」と頭を掻きながら声を上げる。

 

「俺も一緒にその鬼殺隊とやらに入る! そんで少しでも俺の肝を冷やす様な危ない真似したら、ソッコー除隊! これだけは譲らねえからな!!」

「うん! 有り難う、兄さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

それから更に四ヶ月半後、煉獄邸での稽古を終えた炭治郎と禰豆子の兄妹は、母親や下の弟妹達が世話に成っている鬼殺隊の医療施設兼孤児院『蝶屋敷』に帰還していた。

それを最初に見付けたのは末の弟六太と、その相手をしていたカナヲだった。

 

「にーちゃ」

「え!? 炭治郎」

「ホントだ兄ちゃんだ!」

「兄ちゃんお帰り!」

 

早速六太に竹雄と茂も加えた弟三人に取り囲まれる炭治郎。そんな中を「ただいま」と挨拶を返しながら進んで蝶屋敷に上がった炭治郎は、背負っていた箱をそっと下ろした。

 

「ちょっと待ってろ、禰豆子を出すから」

 

そして炭治郎が背負っていた箱から、四頭身の禰豆子が「フゥ!」と飛び出す。それを見て下の妹花子がパッと顔を輝かせる。

 

「何コレ!? コレお姉ちゃん? 可愛い!!」

「私はお人形じゃ無い」

 

抗議の声を上げながらも、抱き付く妹を力任せに振り払う事はしない禰豆子。

その代わりに鬼の能力で小型化していた身体を元に戻し、逆に大人化して、花子と手近にいた六太を抱き寄せる。

 

「わわ……! お姉ちゃん今度は大きくなった」

「ねーちゃ、スゴー」

「茂と竹雄もどう?」

 

見た目二十半ばの肉感的な姿と成った姉の誘いに、顔を赤らめて目を反らす弟二人。大きくなったのは何も背丈だけでは無い。

 

「否、俺達は……な……」

「俺達そんな子供じゃねーし」

 

その傍らではアオイと共に遅れて出迎えにきた葵枝が、予定外の帰還を果たした長子に何事かと訊ねる。

 

「でもどうしたの炭治郎。確か最終選別……とか言ったかしら? 試験を終えるまでは、ここには帰らない予定だったでしょ?」

「最初はそのつもりだったんだけど、充分鍛えるまでの間に時期を逃しちゃってさ。それに、鬼の禰豆子を連れてく訳にも行かないから預けにね」

 

炭治郎の言葉に成る程と頷く葵枝。そしてその事で何やら気付いたらしいアオイは、嬉しそうに笑みを浮かべ炭治郎に声を掛ける。

 

「そうなると炭治郎さん。最終選別は私やカナヲと一緒ですね、お互い頑張りましょう」

「そうだな。良し、俺素振りしてくる」

 

 




当初は炭治郎も戦わせる予定でしたが、「最終選別を終えて正式入隊する前の段階で日輪刀を預けて貰えるのか?」と言う事で、今回の戦闘も禰豆子のみに
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