獅子の騎士が現代日本倫理をインストールしたようです 作:飴玉鉛
今年も一年、よろしくお願い致します。
早速新年一発目の投稿です。作者からのお年玉です。
皆様も作者へお年玉をください。
軽率に評価してくださると嬉しいです。
感想もちょーだい!()
肉を大量に仕入れたからと、食糧問題が解決したわけではない。
狼を六頭と熊を二頭屠ったのだ。肉だけは大量にあるが、肉ばかり食っては飽きるし胃もたれする。調味料とて無限ではなく、塩がなければ工夫だけではどうにもならなくなるだろう。
故にユーウェインは大きな農村を見掛けると、腹を括った。サクソン人の国だ、民族も違うため言葉は通じない。だがどうせすぐに立ち去る村であるし、略奪しに来た訳ではないのだ。ラムレイとリリィを置いて単身交渉に向かうと、よそ者の来訪に警戒する彼らに呼ばわった。
無論彼らにとっての異国語である、どう繕っても警戒されるだろう。そのためユーウェインは真っ先に魔法盾から大量の肉を出した後に、
農村の男達の数は二十。男たちは農具を手に顔を見合わせている。
彼らは戦いの術を知らない普通の農民達である。いざとなれば返り討ちにするのは容易だ。
だが武力をチラつかせたくはない。それでは交渉ではなく恫喝になってしまう。身の危険が迫らない限りは穏便な応対を心がけたいところだが――それにしても男の数が少ないのが気になった。
女子供は剣と盾で武装した異国の旅人の前に出さず隠しているのだろうが、大きな村であるのに男達の人数が不釣り合いに感じるのだ。……彼らには彼らの事情があるのだろう。気にしない事にする。
農民とは強かである。無学かつ粗野だが生き残る事に関して真摯で、身内とルールを大切にする。団結しなければ生きていけないほど過酷な世界だからだ。必要とあらばよそ者を殺める事も躊躇うまい。
殺気が強まり、目を血走らせていく彼らを見て、これは駄目だなとユーウェインが諦め掛けたのと同時だった。沈黙していた年配の男……恐らく村長と思われる男が若い男達を一喝する。
人を殺してはならない、などと諭しているのではないだろう。ユーウェインの装備する盾と剣、髪の艶や顔立ち、肌の張りなどを指差して――旅の騎士である可能性を指摘しているようだ。
あくまで想像である。しかし間違いではあるまい。血気に逸っていた男性陣の殺気が鎮まり、こちらを伺うような顔色となった。そうして彼らの中で最も体格の良い一人の男が歩み寄ってくると、何事かを早口にまくし立てたかと思いきや唐突に殴り掛かってきた。
田畑と向き合っているから筋力は弱くないのだろう、身長も今のユーウェインより頭一つ分は高い。他の農民達も体格は良いから豊かな村なのかもしれない――と思いながら拳を掌で受け止め、そのまま軽く握ると男は顔を歪めて膝をつき、降参を訴えるように異国語を叫ぶ。
解放してやると、男はユーウェインに頭を下げ、信じられないものを見たとでも言いたげな仲間達に「こりゃ駄目だ」と笑いながら示す。
もともと村人たちにとって肉は高級食材だ、穀物との交換に難色を示してはいなかった。
サクソン人の彼らは、ブリテン人のこちらへ偏見を持っているはず。ともすると険悪な形相で追い払われる事も覚悟していたが、どうやら本当に彼らは強かなようだ。人種を気にするよりもまずは食糧が第一であり、人種の垣根は都合よく見て見ぬフリをしてくれるらしい。
軽率で無思慮だが。ユーウェイン以外のブリテン騎士なら、殴り掛かられたら拳の返礼があり、そこから必然的に武力での制圧が成され結果的に食い物の略奪を働く事になっていただろう。
俺以外にはやるなよと忠告してやりたかったが、ユーウェインのつたないボディーランゲージの限界で、彼らにそれを伝えてやるのは困難だった。男たちが村の蓄えを取りに行き、村長らしき老人はこちらに頻りに頭を下げている。彼が血気盛んな若者たちを諭してくれるのを期待しよう。
殴り掛かられ怒っているかもしれないと思っているらしい。青褪めた顔の村長に対して苦笑いを浮かべて、肩を竦めてみせると、彼はこちらが怒っていない事を悟りあからさまにホッとしたようだ。
――サクソン人は侵略者である。仲良く手を取り合って同胞になろう、などとは言えない。
どこまでいってもブリテン人は彼らに対する隔意を捨てない。
度重なる戦争でサクソンの人々にも怨恨が積もり、垣根を捨て去る事はあるまい。だがこうして触れ合ってみると、自分達と何も変わらない同じ人間なのだと理解できた。だから思う。自分が王になったらこの村の人間たちを追い払うか、配下の者が暴走して殺めてしまうのだろうか、と。
考えたら気分が沈んでくる。だが目を逸らしてはならない問題でもあった。やらなければやられるのだ、人は個々では善良でも群れるとそうでなくなる。残酷で、気紛れで、冷淡なのが大衆だ。
少しでも火種があれば、容易く鬱憤を爆発させるだろう。日々の生活が苦しいのも奴らのせいだと逆恨み、あるいは正当な怨みを発散させるべく暴力にも訴えるのは想像に難くない。
うんざりだ。勝手にやっていろ。俺を巻き込むな。そう言いたいが、本当に言葉にしてしまうと無責任になる。人々の模範となり、大衆が少しでも模範へ倣えるようにするのが王族の勤めだろう。
ではどうすればよいのか。アングロ・サクソン人との融和を目指す? 不可能だ。夢物語である。理想を掲げるのは結構だが、理想とは別に現実的な施策を行わねばならない。どうするのが正解なのか、考え続けるのがユーウェインの仕事だ。はっきり言って、投げ出したいのが本音だが。
――と、一人の老婆が出てきた。
どこから現れた? 気配がしなかったが……農民達がさして反応を示していないという事は、彼らの姿に埋もれてこちらが気づかなかっただけだろう。そう納得していると、老婆が懇願するように跪く。
男達が慌てて老婆を助け起こそうとするのにも構わず、困惑するユーウェインに老婆はたどたどしいブリテン語で語り掛けてくるではないか。博識な老婆である。微かな魔力の残滓――若かりし頃は魔術でも修めていたのかもしれない。だが高い対魔力を有するユーウェインに通じる魔術は使えまい。
「騎士、さま……お願い、あります。聞いてく、だ――さ。い」
「……なんだ。聞くだけ聞いてやろう」
偉ぶった応答だが、下手に出るよりはいい。無理難題を吹っ掛けられたら無視したい。頼めば何でもしてくれる、などと勘違いされては堪らないからだ。
老婆は両手を重ね、祈りながら額を地面につける。必死な様子に顔を顰めつつ願いを聞いた。すると老婆は言う。藁にも縋るように。
「ムラの、女、子供、探し、行った男ら、が――戻って、来ません。わたしは魔術師でし――た。魔力、の残滓、が、あり。妖精、幻想種、いずれかの、仕業。どうか、お助け、を」
「………」
くどいようだがサクソン人は敵である。今回は利害の一致と、ユーウェインという精神的異形の者だからこそ穏当に交渉できていたのだ。そのユーウェインとていずれはサクソンと戦う。
無視すれば良い。助ける義理はない。だが――義を見て何もせずに無視するようでは、嫌悪してきた野卑なる者達と同じ穴のムジナになる気が――いや、そんな事はどうでもいい。困っている人を見て、力になれそうなのに何もしないのは、どうにも据わりが悪い気分になる。
ユーウェインは天を仰ぎ熟考した。どうすればいい。これは、一人旅ではない。リリィを故郷に送り届ける為であり、自分の良心に従って巻き込むのは本意ではなかった。だが――しかし……。
ユーウェインは苦虫を噛み潰した表情で、老婆に訊ねた。
穀物を持ってきた農民達を尻目に言葉短く問を発する。
「どこに行けばいい」
バッと顔を上げる老婆に、苦い顔をするユーウェイン。良心に負けてしまった。見て見ぬふりはできなかった。リリィの安全を護らねばならないのに、これこそが無責任な安請け合いである。
敵対民族の事だ、無視すればよかった。なのに、できなかった。ユーウェインは己の甘さを呪う。非情に徹せない未熟を悔やむ。感涙しはらはらと涙を流す老婆が、指をさすのに口を引き結んだ。
東。ここがウェセックス王国であるなら、隣接するブリテン領には東に向かわねばならない。道すがらの、ちょっとした寄り道だ。多少の余分ぐらいなら偶然である。そう、自分に言い聞かせて。
――老婆の手に不出来な木彫りの人形があるのを、見なかった事にした。
いなくなった孫の玩具かと思うのに、目を逸らし。
枯れ木のような皺だらけの肌と顔に、憐れみを覚える自分に唾を吐く。
己は正しい事をしようとしているだけだと思っても、心がその正しさを自認しようとも、なんら益にもならぬサクソンとの触れ合いに心を揺れ動かす自分を、王子としての己が責めるのが苦しい。
「――糞ッ」
肉と交換した穀物を盾に納めて村を離れた。ユーウェインは一人になると、手近の岩石に対して裏拳を叩きつけ、木っ端微塵に砕け散らせると無理矢理に自身への憤慨を呑み込む。
呪わしきかな、我が生まれ。浅ましきかな、我が魂。思うがまま振る舞おうにも、まとわりつく立場がそれを阻み。思うがまま善行を積もうにも、無駄に回る智慧が損得を訴える。煩わしい。
「兄さん、どうでした?」
「リリィ……」
村から離れた位置に隠れ、ラムレイに付き添われたリリィが交渉の成果を訊いてくるのに、ユーウェインはなんと言えば良いものかと束の間逡巡した。リリィは同行者である、迷惑を掛けそうなのに子供扱いして煙に巻くのは誠意に欠けるだろう。隠し立てするのも憚られたユーウェインは、村で何があって、何を頼まれたのかを包み隠さず話す事にした。
リリィが嫌がれば、或いは逆に賛同してくれたら――と、免罪符を欲する姑息な行為なのかもしれなかった。だが心根の清らかなリリィは、賛同するでも反対するでもなく、愚かなユーウェインの行いを『肯定』してくれた。
「――困ってる人を助けるのに、国も人種も関係ありません! 兄さんは立派な判断をしたんです、胸を張ってください!」
「………」
十歳も年下の女の子に励まされた。そう気づくと、気恥ずかしさに顔が熱くなる。
煩悶する内心を聡く汲み取られ、気を遣わせてしまったのだ。大人として恥ずべき醜態だろう。
だが一方で嬉しくもあった。更にその反面これだけ純粋な娘が、遠くない将来サクソンを憎むようになるのかと思うとやるせなさを覚える。そうなってほしくなく、青年は祈るようにリリィの頭に手を置いた。
「ああ――そうだな。その通りだ」
「兄さん……?」
「……なんでもない。リリィ、すまないが俺の寄り道に付き合ってくれ」
「もちろんですっ!」
フンス、と鼻息荒く握り拳を作るリリィの顔に笑みが咲く。その無垢さに救われた気がした。
本当はやる必要がない。だが、必要とか不要とか、そんな秤を持ち出すこと事態がナンセンスだ。なぜなら今のユーウェインは旅の騎士を気取っている。騎士ならば、弱者に寛容であるべきだと定めた。
そこそこの規模の村だ。陳情は彼らの国にも上げられているはず。対応は必ずあるはずで、シンリックは竜の討伐に出向いていたのだとしたら――彼はもしかすると、犯人は竜であると考えていたのかもしれない。無論あの赤竜がそんな真似をするとは思わないが、間が悪かったのだろう。時期が悪く発見報告が挙げられたせいで、シンリックは元凶を誤認したのかもしれなかった。
であれば、その赤竜に大恩を受けた身として、シンリックに救われたはずの人々を代わりに助け出そう。
東へ――ただ、東へ。ウェセックス王国を出る為の道のりで、あくまでもこれは
すると渓谷があり、その先に山があった。大きな山々である、規模の小さな山脈とすら言えるかもしれない。ユーウェインは川を見掛けると傍に向かい、ラムレイから降りる。
「――
闇雲に東へ向かっていたのではない。いや、最初はそうだったが、途中からは確信があった。
近くに妖精がいる。それも、強大な。妖精と聞けば真っ先にモルガンが思い浮かぶものの、それとは性質が異なる……例えるなら血腥く、獣臭い、生々しき妖精の匂いがしていた。
余りに匂いが濃すぎて鼻が曲がりそうだ。しかしユーウェインしかこの匂いを感じていないらしい。リリィはユーウェインの防寒マントに包まれている為か寒さに震えず、雪の積もった山々の神秘的な光景に感嘆しており。ラムレイは凍っていない川の水に夢中だった。
最も鋭敏な聴覚を有するユーウェインが、予兆を感じ取る。――何者かが近づいてくる。
小さな地面の揺れ。川の水面が揺れる。次第に揺れが大きくなり、次いでラムレイが接近に気づいて水面から顔を離した。主人の言いつけを忘れていないのか、リリィの服の襟を咥えると勢いよく宙に放ち、突然の事に悲鳴を上げて目を回した幼女を背中で受け止めた。
リリィが馬上の人になる。「ラムレイ、いきなり何をするんですか!」と可愛らしく怒るリリィだったが、ラムレイとユーウェインが警戒を露わにした様子に気づくと、やっと地響きが近づいているのを察知して左右を見渡した。
丘を越えてやって来たのは――巨人、だった。
大きい。普通の巨人よりも一回りは。全長八メートルは超えており、小さな山が歩行しているかのようである。剥き出しの上半身は脂肪で膨れているが、ユーウェインはその下に分厚く大量の筋肉があるのを見て取る。下半身も同様だった。粗末な腰布をベルトで締め、背中に城の塔に等しい棍棒を背負っているのが戦慄を誘う。
違和感。巨人――にしては、妙な気がする。が、どこがと言われても明言できない。それにどこからどう見ても外見は巨人だ。しかも見せ掛けの肉体には有り得ない質感もある。
巨人は敵意を見せるでもなく、平然としたまま川の近くに膝をつけると、こちらに気づいていない様子で顔を川に突っ込んだ。豪快に水を飲んでいる。魔法盾に手をやり、いつでも剣を抜き取れるように警戒しているユーウェインに遅れて気づいたような素振りで、巨人はのろのろと視線を向けた。
【ぉぉおお? なんだぁ、オメェら。ここはオラの縄張りだど! 勝手に入るんじゃねえ、用がねぇんならとっとと
聞き取りづらい……いや、感じ取り辛い思念だった。
だが意思が伝わる。ユーウェインは彼の思念を受けて、害意がないと一先ずは判断してから訊ねた。無論のこと警戒は解いていない。
「……お前の縄張りか。勝手に立ち入ったのは詫びよう。迷惑をかけるつもりはない。すぐにでも立ち去りたいが……その前に聞きたい事がある」
【なんだぁ?】
「ここから西に行った所へ村がある。その村の女子供がいなくなったらしい。更にいなくなった者を探しに出た男達もだ。俺はそれを探している。お前は何か知らないか?」
【おぉぉ? うぅむ……人間がいなくなったぁ? それは困ったなぁ。人間、いなくなれば、人間、探す。オラの縄張り荒らされる】
悩ましげに考え込む巨人。どうやら彼は人間に対する理解があるらしく、青年の知る巨人よりも知能が高い事が伺い知れた。
人がいなくなれば原因を探るのが人間だ。必然、近場の者は被害を被る。特に人ならざる者は。故に巨人は面白くないのだろう、考え込みながらユーウェインの問いに応じる。
【……たぶん、あいつらの仕業だなぁ」
「アイツら?」
【悪さばっかする妖精だぁ】
妖精。それを聞いたユーウェインは、やはり、と思う。
それだけここ近辺の気配は濃い。妖精の仕業と聞いても納得できてしまうほどに。匂いが濃すぎて、感覚が麻痺してしまっていた。
【オラも迷惑ばっか掛けられてっからなぁ。たぶんソイツらがやったんでねぇか】
「……その妖精がどこにいるか分かるか?」
【知らねぇ。けんど、いそうなとこなら見当がつくぞぉ】
「本当か? なら案内してくれ」
いいぞ、と。巨人は頷く。
彼は立ち上がるとさっさと背中を向けて歩き出した。
ラムレイを見て、付いてこいと指示を出す。するとリリィを乗せたまま、ユーウェインの後ろに付いて蹄の音を鳴らした。
暫く歩き山に入る。傾斜があり、普通の人間なら音を上げそうなほど険しい道のりだった。
空気が綺麗だ。清々しい。呼吸するだけで美味しいとも思える。
居心地が良い……だのに、妙に胸騒ぎがした。
「……兄さん。なんだか私……嫌な感じがします」
不安げに眉根を落としたリリィが言う。
同感だ。警戒心が鎌首を擡げる。すると、巨人が振り返ってきた。
【おぉ。なんでぇ、人間、いたぞぉ】
「なに?」
彼の思念に思わず釣られる。
傾斜を登りきった先へ平らに開けた場所があり、その先に洞窟があった。
奥行きはそこまでなく、すぐそこに木製の牢の扉があるのが見て取れる。目と注意を引かれてよく見ると、暗がりに人が囚われているではないか。
無意識に駆け出す。リリィを乗せたラムレイも後に続いた。
牢の中には、二十人もの女子供がいる。だが、男はいない。彼女達は暗い瞳で身を寄せあい、ユーウェインが「おい」と声を掛けるとのろのろと顔を上げて、希望に目を輝かせた。
だがユーウェインの背後を見て、悲鳴を上げる。
【――もるがんの子、だろぉ。おめぇ】
「ッ……?」
【妖精ならいるでねぇか。
嘶き。悲鳴。
ラムレイがリリィを庇うために振り落とし、落馬したリリィが痛そうな悲鳴を上げたのだ。
振り返った先で、巨人がラムレイを鷲掴みにしている。
牢に囚われた女の悲鳴。ラムレイを囚えた巨人。全てを悟ったユーウェインは、恐ろしく凪いだ声で問い掛けた。
「貴様、男達はどうした」
【おぉ。うるせぇから喰っちまった】
「――――」
【こども、おんな、肉、柔らかくて旨い。オラぁご馳走は後に取っておく質でよぉ。雑味の多い男は早々に喰っちまう】
言いながら――巨人は、その輪郭を崩した。
体躯はそのままに。しかし人型の頭が、山羊のそれへと変じたのである。
悍しい姿だ。まさに、絵に描いたような悪魔だった。
リリィは直感的にか、幼さに見合わぬ判断力で、急いでユーウェインの背後まで駆けてくる。
【人間、探し始めた。そろそろ、ここらも潮時なのかもなぁ。けんど、オラぁ運がいい。もるがんの匂いした人間、きた。間違いねぇ、もるがんの血。オメェ、もるがんの子供?】
「……おい。その薄汚い手を離せ」
次第に、凪いだ心が泡立つ。灼熱の炎が、灯った。
ラムレイは友だ。大事な、友達だ。それが苦しんでいる。リリィを庇って捕まっている。己のせいで。嘶き、暴れるラムレイを鷲掴みにする
ユーウェインは不変である。だが感情がないわけではない。固定されているのは在り方と精神性であり、それを侵す影響を受けないだけで、彼の中の喜怒哀楽は人間らしい波を起こしていた。
故に、ユーウェインは聖者の如き青年なのだ。善を愛し、悪徳を憎む。普通の人間が当たり前に持つ感性がある。そしてそれに対して真摯で、誰よりも素直なのである。
自制はする。我慢もする。だが、一片も配慮する必要のないモノに怒りを覚えた時、ユーウェインという青年は誰よりも激しく激怒するだろう。何故なら日頃から抑圧を覚えている。解き放った怒りは、大きくなる。大きくうねる。そして普段温厚な人間ほど過激に憤怒を振り回すのだ。
沸騰し始めた怒りが、ユーウェインの中で波濤となる。
【オラぁツイてるなぁ。ここらでの狩りは、オメェで最後だ。もるがんの血、取り込みゃあ、オラの元気ももっともっと付く】
「聞こえなかったのか? その手を、離せと。そう言った」
【だからよぉ。オメェ、オラに食われろぉ。そしたらよぉ、その人間、いらねえ。解放してやるど】
「――最後だ。その手を、離せ」
漆黒の呪力が、主の甚大な怒りに呼応して体から溢れ、甲冑となる。
卑劣な騙し討ち。友を苦しめる所業。
無辜なる人を食らい、殺め、更に犠牲を増やそうとする悪行。
全てがユーウェインに教えている。――我慢する必要のない邪悪であると。
巨人がラムレイを握る手に力を込める。ユーウェインが逃げられないようにするためだろう。
ラムレイが、苦しんだ。リリィがラムレイの有様に悲鳴を上げた。
箍が、外れる。
瞬間、ユーウェインの姿が掻き消えた。――晴天。午前、九時。
彼の身に刻まれた祝福、聖なる者の数字が効力を発揮し、その身の力が三倍化したのだ。
抜剣。抜き放たれたのは虹の聖剣である。跳躍と共に悪しき妖精の腕を斬り飛ばしたユーウェインは、着地すると切断面から血を吹き出す妖精に振り向いて、酷薄に告げた。
「貴様――逆鱗に触れたな」
赫怒は、静かだった。
虹の聖剣が激甚なる憤怒に侵され、黒き魔剣へと変貌する。
生誕より初、心置きなく暴力を振るう妖精の子が、ここに登場していた。
オリキャラのサーヴァント風ステータスとかっている…?
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アンジェラはいる
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シンリックはいる
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両方いる
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両方いらない
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主要キャラなら今後もいる