獅子の騎士が現代日本倫理をインストールしたようです   作:飴玉鉛

12 / 93
お年玉第二弾です☆
前のお話もお見逃し無く。




12,巨神殺し

 

 

 

 

 腕を斬り飛ばした際に噴出した鮮血。その滴が顔に掛かり口に入る。同族の神秘が掛け合わさり、不可思議なる共鳴がなされたらしい。血を触媒として、彼の妖精の起源が脳裡に駆け巡った。

 

 妖精の名はインデフ。正当な名は失くして久しい。だが古かりしアイルランド――ケルトの地を支配していた神性、巨人の血族(フォモール)に連なっていた記憶だけは残されていた。

 フォモールは山羊や馬、牛などの頭部を有する獣面の神族であり、人食いの怪物としての側面も併せ持つ邪悪な神格だ。

 伝説に名高いのは彼の魔眼の邪神であろう。魔眼王――彼の魔眼の類似品は人の身にも稀に宿る、死を視覚化し触れたものを殺す異能だが、本家本元はそんな()()()()()()()とは物が違う。

 彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。インデフはフォモールの内にある■の一角であり、魔眼王の姿も記憶に焼き付いていた。

 

「――――」

 

 数瞬。血を媒介に過ぎった魔眼王の姿を想起しただけで、ユーウェインの魂魄に夥しい死の影が手を伸ばしてきた。憤怒に白熱する意識の隅で――大いなる女王が死の記憶を祓い落とす。

 

 ダーナ神族に追い落とされ、アイルランドの地から放逐されたフォモール巨神族。神代の終焉が近づくにつれ神格も零落し、妖精に落魄れたフォモールのインデフは、未だ神に近しい権能を擁するモノを食らい嘗ての神格を取り戻そうと企図していた。人を食らうのはその一環だ。

 ――それがどうした。その目論見も、悲願も、跡形もなく踏み潰す。

 呪に染まる魔剣。原始の呪いはしかし、邪なものではない。聖剣は魔剣へと転じたが、その力は些かも衰えず、寧ろ担い手の性質に最適化され最大限の性能を発揮し得る宝具と化した。

 ユーウェインの口腔から、山脈を震撼させるほどの怒号が迸る。その身が内包する因子と祝福が掛け合わさり、まさに日輪の巨人とでも言うべき呪黒の太陽が潜在能力を解放する。

 妖精モルガンの最高傑作、持てる業の集大成――黒太子が馳せる。黒き極光を漲らせた魔剣が翻り、振り下ろされてきた塔槌を跳ね返した。切断された腕を再生させていたインデフがたじろぐ。小山に等しい雄偉なる巨体が揺れ、黒太子が剣を振るった余波で地表が剥がれた。

 

「――兄さんっ」

 

 轟音に掻き消される小さな声。懸命に魔力の結界を張り、暴虐の余波から牢を守ったリリィを黒太子が一瞥し、驚きも醒めぬ巨人の懐に踏み込んだ獅子の如きユーウェインが告げる。

 

「飛べ」

 

 剛拳一撃。巨人の胸元で黒い太陽が破裂したような衝撃――巨人インデフは堪らず吹き飛んで、()()()()()()()叩きつけられた。

 遠方に上がる土煙。ユーウェインは振り返り、歩を進めると魔剣を振るって牢戸を切断する。怒りに我を失っているようでも彼は冷静さを保っていた。魔剣の切っ先を西へ向けて女子供へ命じる。

 

「行け。帰る道ぐらいは分かろうよ」

 

 白皙の相貌が余りに恐ろしかったのだろう。言葉は分からずとも、言うことに従わなければ殺されるとでも思ったのか――腰を抜かせた子供達を抱え、強かなる女達は気丈にも走り出した。

 彼女達が逃げ去るのを見送る事はせず、ユーウェインは隣の山を見遣る。すると、胸部の肉が裂け、胸骨を剥き出しにした悪魔が起き上がっている。この一撃で古き戦の記憶が蘇ったのか、肉体を再生しながら悪魔は嗤った。握る塔槌を振りかぶり、悪魔が地を蹴る。

 山々を震えさせる跳躍、一息にインデフがユーウェインの下へと飛来して、大気を引き裂き塔槌を振り下ろした。黒き柱と化すまでに膨張した魔剣が迎撃し、激突の瞬間、大地に激震が走る。

 

【■■■■■■■■■■■■――――ッッッ!!】

「雄ォォォォオオオオオオ――――ッッッ!!」

 

 ミシ、と双腕の筋肉を膨れ上がらせたユーウェインが咆哮する。木々を薙ぎ払いながら着地したインデフがメェェェと悍しい雄叫びを上げた。再びの正面衝突。膂力拮抗、青年を起点に地面が陥没する。

 魔剣と鍔迫る塔槌を支えに、その巨体からは想像も付かない(ましら)の如き軽妙な体捌きで悪魔が跳んだ。ユーウェインの背後に回ったインデフが、巨木のような脚を回して強力な回し蹴りを放つ。

 魔剣を立て、腕を添えて防ぐユーウェイン。蹴撃を凌ぐや刃を回し防御と同時に反撃も成し、インデフの片脚を切断する。――ニヤリと嗤う悪魔の貌。ハッとするも遅い。残った片脚で地面を蹴ったインデフは失った脚を再生させながらリリィに襲い掛かった。

 

 堕ち、記憶を失くし、神格を零落させ、それでも戦の要訣は忘れていない。即ち敵の弱きを叩く。インデフが嘲笑い、ユーウェインは臨界を越えて憤怒を燃やすも、不死の如き再生能力を持つ悪魔を止めるには間が足りなかった。逃げろ! 叫ぶ声は遅く、自身に腕を伸ばすインデフに、リリィは。

 

 

 

「やぁぁぁぁ!」

 

 

 

 魔杖を全力で振り抜いて、巨人の腕を跳ね上げた。

 

【――メ?】

 

 轟音一閃。

 所詮は小娘と侮ったインデフの不覚よ。リーリウム・ペンドラゴンは護られるだけの小娘ではなかった。齢五つなれど幼き人型の竜王は、その魔力量だけなら英霊と化した未来の己を凌駕する。

 生身である。生者である。胸の真ん中で稼働する魔力炉心は全開であり、ブリテン島に有る魔力濃度はサーヴァントを遥かに超える魔力をリリィに発揮させた。

 とはいえインデフは力だけの雑魚ではない。リリィが無力な獲物ではないと悟った瞬間驕りを捨て、速やかに叩き潰す事を選択した。戦力の一角として認め人質や盾にはできぬと判断したのだ。となると未熟なるリリィには何も出来ない。たちまち叩き潰されるだろう。

 だが、竦むリリィの傍にはまだ一行の一員がいる。

 

『………!!』

【――メッ?】

 

 インデフの背後から、意趣返しの不意打ちを食らわせる駿馬。

 渾身の突撃(チャージ)。神秘孕みし稀代の名馬、ラムレイの突貫をまともに受けたインデフはたたらを踏み――それだけの間があれば赫怒に燃えるユーウェインが迫るのは当然だった。

 

「俺から目を逸らすとは余裕だな、インデフッ!」

【メェ――ッ!】

 

 待て、とでも言いたかったのか。

 無論待つわけもなく極大の魔力を噴射した漆黒の聖者が魔剣を振り下ろす。

 唐竹割りに頭の頂点から股までを両断したユーウェインは、返す刃で左右に別れたインデフの体を消し飛ばさんと魔力を全開にした。以前囁かれた竜の思念、培ってきた剣の技が合一し真価を引き出す。

 魔剣の殻が弾け飛び七色の極光を宿した聖なる魔剣。下段より逆袈裟に振り上げられた一閃と共に、ユーウェインは高らかにその真名を唱え上げた。

 

「――色褪せじの虹霓(ロストカラード・カレドヴールフ)ッ!」

 

 虹霓の鍛剣(カレドヴールフ)の真名解放。解き放つは丘断ちの剣。迸る七色の極光は黒き輪郭を帯び、悪魔を消し飛ばして尚も突き進み隣山を大きく斬り抉る。後に残るのは暴虐の跡。軌道上が禿げた森林。

 静寂が落ち、戦の終わりを物語っているようだ。

 だが歓声を上げるリリィを横に、ユーウェインは険しい顔を崩さない。軽度の共鳴を経た為か悪魔の有する()()に勘付いていたのだ。――古の巨神フォモールとは原始の一族。司る権能も原始のそれ。

 即ち火、水、土、風、病。そして彼の魔眼王は死を司り、インデフは嘗て、生を司った。最盛の頃は死したる同胞を余さず蘇生させた強力なるフォモールの()の一角であったインデフは、その権能を太陽の光の神に封じられ打倒された。果ては神格を貶められ、力を見る影もなく減じた今、インデフは己の生しか操れない。再生能力の正体がそれであり、そしてそれも無制限とはいかなかった。

 

 だが――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 インデフは仮初の不死。インデフがこれまでの数百年で食らった命の数は、人と魔を問わず合わせ――実に()()()にも届いた。果たして地の底から響き渡る怨嗟。嘗ての玉座に返り咲かんとする妄執。

 ()()()()()()()()()()()()()()()、現れたるは古の魔。

 食らった命は、虫や花、樹木も含める。故に命の強度は玉石混交。数字通りの命とは限らない。しかし現実に蘇った悪魔を目の前に、ユーウェインは認め難きを認めた。認めざるを得なかった。

 

「――俺だけだと手に余る」

 

 膂力は三倍化した今で互角。

 魔力量、タフネス、速度ではインデフが上。

 戦下手でもない。

 そして質量差からくる衝突の不利もある。

 これより成すのが堕ちたる神の討伐であるのだと悟った黒太子だが、諦めてはいなかった。

 野放しにはできない。必ずここで滅ぼす必要がある。

 だがどうする? どうすればいい? 苦境に唸る黒太子に、幼き竜の子が気炎を吐いた。

 

「兄さん、私も一緒に戦います!」

 

 リリィは不満だった。護られるばかりでは嫌だった。

 決然と意志を表明するリリィに、その魔力を知るユーウェインは束の間迷うも。庇いながら戦える敵ではない、リリィもまた強大な潜在能力を秘めている――子供を戦わせるなど、本来なら認められないが。

 形振り構える余裕はない、か――と。ユーウェインは渋々認めた。

 

「分かった、共に戦おう」

「はい! ――って、あわわわ!? に、兄さん!?」

「お前の遅い脚と下手な立ち回りに合わせられるか。リリィ、お前は機を見て砲撃してくれ」

 

 ユーウェインはリリィを担ぎ、肩車する。そして彼女に砲台の役目を任せ、そして友を見た。

 

「援護、任せる」

『………!』

 

 嘶きは猛々しく。

 未完の英雄二人。未覚醒の天翔る竜馬一頭。

 対するは赤黒く全身を染め、零落した神性を解き放ち全霊を振り絞って戦わんと猛る堕神。

 

 神代最後の時代、神話を閉じる戦いの一つが開戦した。 

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 伝説に曰く。

 

 アイルランドの堕ちたる妖精との血戦は、七日七晩繰り広げられたという。

 

 炸裂する力と力。瀑布の如き魔力の濁流。繰り広げられる激闘。時刻によって優勢と劣勢を代わる代わるに交換し、加速度的に堕神の命が失われていく。同様に立ち向かう者達の疲弊も積もった。

 地形が変わり、地図を書き直す労に見舞われる山脈()()()山々。地面が溶岩の如く灼け溶けて沸騰する地獄絵図。雑多な命が減る度に純化し在りし日の姿に回帰する邪神――やがてその激突はブリテン島に住まうありとあらゆる魔と精霊が知るところと相成った。

 

(――未熟。円熟を迎えぬ今のイヴァンではまだ勝ち切れぬか。やむをえまいな、一時ばかり助力してやろう)

 

 ――歴史に名を記されぬ悪魔を、本来ならば人知れず闇に葬り去るはずだった妖精の女王が、自らの権能を以て異界領域内限定で落日を迎えぬ『不夜』のギフトを貸し与え――

 

(うーん、男の子の頑張る姿は実にそそるねぇ。けど彼を応援するのは無粋かな? 仕方ない、ボクは我が姫の疲労を溶いてあげよう。キレイなお花が咲きますように、とね)

 

 ――男の子が好きな花の魔女は、贔屓の英雄が奮闘する様を鑑賞し、僅かな花束を姫に贈り。

 

(おっと。そこで逃げたんじゃあつまらない。英雄の卵が赫々たる戦果を上げる……それが王道だ。前日譚にありがちな、安っぽいハッピーエンドの為、少しばかり迷ってしまうといい)

 

 ――徒歩で来た花の魔術師が、残機が一万を切るなり逃げ出そうとしたインデフを幻術によって惑わす。

 

 混迷究る情勢に在りて、古代の骨董品なぞに騒がされたのでは堪らぬと、それぞれがそれぞれの存在を認知せずに助勢した。ある種、間が良かったのだろう。彼ら彼女らが互いを察知したなら、行われるのは盤外の殺し合いに相違ないのだから。故に非人間(ヒトデナシ)達は舞台に在る者の性能を見定める。

 そして、非人間だけが在る世ではない。血戦の騒ぎを聞きつけた当国の騎士もまた駆けつけ、ニンマリと好戦的な笑みを浮かべながら観戦していた。

 

(――あれが、ウリエンスのユーウェインだな。恐ろしく強い……ああ、怖いな。怖い怖い。手弱女の俺なんざ見てるだけで腰が砕けちまいそうだぜ――)

 

 

 

 

 己らの戦を観覧する者など意識の埒外。気に掛ける余裕も、気付ける余地もなく呼気を吐く。

 

 

 

 

「ッハァ……! いい加減、しつこい……! 色褪せじの虹霓(ロストカラード・カレドヴールフ)ゥッ!」

 

 妖精の女王と花の魔術師により()()()()()()()()()山脈を舞台に、渾身の一刀が幾万回目の死をインデフに下す。――零落せし生命の巨神は困惑し、恐怖し、動揺し、錯乱していた。なんだこれは、と。

 妖精の血を引くとはいえたかが人間、たかが小娘。なぜ殺せない? なぜ自分が追い詰められている? 極限状態の黒太子は総身より汗も流せぬほど疲弊して、もはや意識を保つのが精一杯であるはずなのに、精神が肉体を凌駕しているかの如く剣を、拳を、精妙に振るって確実にこの身を滅さんとしている。戦い続ける内に研ぎ澄まされる剣腕が、とうの昔に限界を越えているのに、何度も限界を踏破して冴えを増していた。

 そして、黒太子の肩に座り杖を振り回す小娘。こちらは疲労など知らぬと、額に汗を浮かべながら、術理もへったくれもない無尽蔵の魔力放出による砲撃を延々と繰り返し、巨神の身を焼き払い続けて。

 

「えーいっ! やぁーっ! とぉーっ!」

 

 場違いな、可憐なる掛け声。砲撃精度は勘の良さも相俟って既に百発百中。

 撃てば当たる、避けられない。避けようにも張られた弾幕が逃げ道を塞ぐ。

 七日間にも及ぶ死闘は、両者の呼吸を阿吽のそれへと昇華していた。巧みな機動で最良の砲撃位置を取る黒太子、彼の危機は竜の子が巨神の腕を撃ち抜いて遮る。

 空腹となれば四方を駆け回る駿馬に跨り、急いで補給(食事)を終えて、朝も昼も夜もなく戦闘行為に心身を最適化した。そうして――気のせいか。またも巨神を切り裂いた魔剣が()()()()()()()()()()()()()()()

 

 神造叡智、神造鬼才、ここに結実の兆しを見る。

 

 如何に早く、速く、疾く、有限の不死を殺し尽くすか。幾度の死を経ようとも心折れぬ精神構造を如何に破壊するか。追い求め、最短効率で虐殺の技を磨いた死力の極致。

 一撃が重く、鋭いという矛盾。只管に疾く、二つの斬撃に二つの剣が重なる不条理。其れこそは多重次元屈折現象事象飽和現象の併せ技――ありとあらゆる物質を刳り貫く回避と防御を能わせぬ術理。

 巨神の血に共鳴しての不具合、神域の才、異形の精神、神造の肉体が合一した果てに、足りぬ技量を三倍化した身体能力が大幅に補填して織り成す――人域の極みたる魔剣の技。朦朧とした意識の中に手応えを残し、真に我が物とするのは十年後――獅子の騎士の絶技とのみ語られる非現実の理。

 

 ただでさえ一撃により数十の命が消し飛び、魔剣の真名解放で数千が消えている。残機が一万を切った時、インデフは認めた。勝てぬ、と。寧ろ死滅し絶滅するのはこちらであると悟った。

 故に『悪しき妖精/堕ちた神霊(インデフ・マク・デー・ドウナン)』は、此度の敗北を受け入れ戦略的撤退を図る。なに、どうせ落魄れた身、返り咲くその日まで如何なる屈辱も受容しよう。どんな卑劣な手を取ってでも必ずこの黒太子を食らい、その身に流れる血を我が物とする。今度はどうするか、寝込みを襲うか? 毒を盛るか? 人質を取るか? 彼奴らが本気を出せぬ人里で襲うのもいい。阿呆のフリをしてユーウェインらに接触したインデフだが、狡猾さと執念深さは並大抵ではない。

 今は逃げよう。逃走に利する切り札は残している。戦闘には使えないが、インデフの操る権能はもう一つあったのだ。それは女子供を攫い、探しに出た男を捕獲したもの。――フォモール神族の多くが有した『黒死病(ペスト)』の権能だ。零落した今では凶悪な病を発揮できず、精々が力弱き者(ムシケラ)()()()()誘引の香でしかないが、これを使えば逃走中にムシケラを招き寄せられ、奴らの追撃を断つ盾に使える。

 

 インデフは斬られるのに任せるまま背を向けた。逃げる気か――看破した未完の英雄が猛攻を浴びせるのにも構わずに駆け出し、歩幅と速度の差を利してインデフは一目散に逃亡した。

 如何に強くとも所詮は人。本気で逃げの一手を打つ巨神を止める手立てはない。

 脚を斬ろうとも即時再生するのだ、止められるはずがなかった。

 

【――――】

 

 だがしかし、事此処に至って漸く悪しき妖精は気づいた。

 辺り一帯が異界化している。内部の破壊の余波を外部に漏らさぬだけの結界が張られ、さらには結界に触れたモノを結界中心部に転移させる惑わしの術が展開されていた。異界の正体は、妖精の物。惑わしの術は夢魔のもの。合点がいった。なるほど道理で、小娘が疲労で死なぬはずだ。道理で小僧の力が尽きぬはずだ。とっくの昔に退路は絶たれていたのである。

 

【ク――】

 

 インデフは思念に拠らず、自らの肉声を以て叫んだ。

 

【我の敗北である。だが履き違えるなよ小さきモノ達よ。我はお前達に敗れたのではない、お前達を庇護する魔のモノらに敗れたのだ! 我の首はお前達の勲にはならない! 仮初の勝利に驕るがいい! 身の丈に合わぬ力に酔え! いつか地獄の釜に落ちた時、我が礼賛がお前達の魂を呪うだろう!】

 

 負け惜しみである。だが、事実でもあった。

 しかし、やはりというべきか、巨神の断末魔をユーウェインは一蹴した。

 

「うるせぇッ!」

 

 荒々しき怒号。

 不変の弊害か、覚えた情を簡単には忘れず、弱められない彼は情が()()。だが執念深さもまた異常だ。インデフに対する赫怒は僅かたりとも翳らず、常の礼節をかなぐり捨てた青年は吼えた。

 

「勲なんざ無用、貴様は首だけを置いて藁のように死ね。称賛も報酬も何も要らん、ただ貴様が滅んだという結果だけがあれば良い。誰の助けがあろうと関係ない、そんなもの俺の眼中には無いッ!」

 

 ただ、死ねと。旅の騎士は悪しき妖精との戦いに、一切の価値が無いのだと断じた。

 インデフは死の間際に絶句する。山羊頭の悪魔は唖然とする。今や見る影もないが、嘗て栄華を究めたフォモールの王だった身を討って――なんら誇るものがないだと? 雑兵の死より価値がないだと?

 そんな、そんな馬鹿な。そんな馬鹿な事があっていいのか? もはや数えるのも馬鹿らしい真名解放――氷のように冷たく、しかし灼熱の炎の如く熱い赫怒の剣が己を切り裂くのに、インデフは余りに呆気なく最後の命が絶えたのを知った。

 

 汗の一滴も流れない極度の疲労を滲ませたまま、怒りだけを燃料に駆動し続けた騎士は、砲台の役を全うしたリリィを下ろして吐き捨てる。

 

「眠れ、永久(とこしえ)に。地獄の底が、貴様にはお似合いだ」

 

 勝利の余韻、達成感など無い。巨神の成れの果てが地に倒れ伏すのに、ユーウェイン達はただただ疲れ果てているだけだった。

 誇りもせず、害獣を駆除しただけの心地だけが、彼らへの報酬だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




リリィの魔力放出(砲撃)は、劇場版FateHFのセイバーオルタが、バーサーカーに打ち込みまくっていたアレの白い奴です。あれ、ただの魔力放出なんですよね…(最後以外は)

魔力炉心が息してる非英霊状態のアルトリア(三姉妹)はバグである。
魔力お化けである。
そりゃエクスカリバー連発しても無問題ですわよね。
※なお連発されるエクスカリバーをかいくぐるピクト人とかいうエイリアン。

ユーウェインくんの声、容姿ってなんだと思いますか?

  • マーリンの声に似てるらしいっすよ(意味深
  • 中性的な感じ
  • ギリシャ男性像の理想的マッチョ
  • 騎士&騎士なコテコテな感じ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。