獅子の騎士が現代日本倫理をインストールしたようです   作:飴玉鉛

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お待たせしました。





43,メイドとは完璧だ。一点のミスもない

 

 

 

 

 王位に就いた陛下は片時も休まず働き忙しそうであった。

 

 朝と昼は国内の有力な諸侯と歓談し、今後の施政について論議して。夜は魔術灯を光源とした華やかなる社交界に顔を出し、貴婦人らと面識を持って文化を語り。自らの事業の崇高さ、音楽や文字を初めとする流行の必要性を説く。女性であっても文官として身を立てられる社会の構築を説き、フォーローザ城で実際に得られた成果を語る。

 誰もが真摯に耳を傾けたわけではない。寧ろ殆どが右から左に聞き流しておべっかに終始し、真に内容を理解するでもなしに陰でこき下ろす者もいたほどだ。先進的で開明的な事業が常に人々から理解される訳ではない、そうした人の世の逆境に陛下は立ち向かっている。

 理解が得られないからと諦める理由にはならない。陛下は精力的に働いた。みだりに強権を行使するべきではなく、恐怖で縛り付ける遣り方は不満となり火種となる。もどかしげにする私に陛下はそのように説いて、可能な限り和を尊ぶという茨の道を進んでいる。

 

 私には合わない遣り方だ。愚図共など力で押さえつけてしまえばいい。私腹を肥やし民から搾取する事しかできぬ者など粛清するべきだ。陛下の施政を批判するなら代案を述べろ。代案がないなら黙れ。なおも囀るなら舌を抜いてしまえばいいと思う。

 だが陛下はそうはしない。陛下は慈悲深く寛大で、根気が強いようで――その実、人間というものを根本的に信頼していないようだ。良い噂よりも悪評の方が広まり、治世を脅かす悪因となると考えているらしい。陛下がはっきりとそう言われたのではない……陛下は王冠を戴いてより常に笑顔だが、眼が欠片も笑みを含んでいない事を私は察していた。陛下の素と姿勢を知るからこそ、内に潜む他人への蔑視を感じ取れたのである。

 

 私は静かに陛下の執務を眺めていた。……陛下が人を蔑んでいる事には、少なくない衝撃を受けたものだが。私なら既に武力を振りかざしていたであろう事を思うと温厚だと言えた。

 寧ろ陛下にも人間らしい好悪があるのだと分かり安心した部分もある。噂に聞く聖者ユーウェインのように、誰にでも分け隔てなく慈悲を振りまくような御方ではないのだ。少なくとも私は嫌われておらず、蔑まれても居ない。なら殊更に気にするほどの事ではあるまい。

 

 陛下はギルドという組織を造りたいそうだ。女の生理を助けるナプキンなる物も造り女の社会進出を行いたい――文官の人手不足解消のために。他にも下水システムや公衆トイレ、公衆浴場などの設立などを推進し是が非でも衛生観念を浸透させたいと言っている。

 だが殆どが思ったように進まない。陛下が王子であった時代から進め、育ててきた文官達を引き連れて職務に当たるも、一国の革命に等しい整備は遅々として進行できていないのである。

 人手不足――現状に満足し停滞している者達を走らせる苦労。そうした現実の壁に激突しながら陛下はボヤいた。こうなることが解っていたから、派手な武勲が必要だったというのに、と。

 

 どういう事だろうか?

 

 独り言に近い愚痴に反駁すると、陛下はかぶりを振った。子供が気にする事じゃない、気にするなと。だが気にするなという方が無理な話だ。陛下の武勇は片鱗だけとはいえ知っているつもりだ。数多くの英雄詩が陛下の強さを証明している。なおも必要な武勲とは?

 ……個人としてではなく、王としての武勲だろうか。だとするなら、陛下は本来、サクソンの王国へ親征するつもりであったのだろうか。攻めれば必ず勝つ、それだけの武勇が陛下にはある。その武勲で無能共を黙らせ、威光が機能している内に事業を一気に展開するつもりだった? だとするならなぜそうしない。私は陛下に親征するべきだと訴えた。

 すると陛下は驚いたようだ。

 

「……オルタは賢いな。まさか俺の愚痴一つで狙いを見透かすとは」

 

 それだけ賢いなら俺の仕事を手伝うか? と陛下は仰った。望むところであると鼻息を荒くすると、冗談だと笑って流されてしまった。

 陛下は答えてくれなかった。何か――隠し事をしている。私は自身の勘に従い陛下の秘密を暴こうと思った。野次馬根性などではない、その秘密を知らねばならないという直感があったのだ。

 だが多忙を極める陛下の秘密を、私はなかなか暴けないでいる。陛下は慎重に、丁寧に事を推し進めようとしているようで――人を育てる事に腐心しておいでだった。

 ――陛下はまず、誰からも歓迎される解決策を打ち出した。ずばり、食糧問題である。

 貧困に喘ぐ者達の多さたるや、社会問題として解決策を示すのが王たる者の務め。これを陛下は家畜化した魔猪の飼育、その他に陛下の聖なる泉から引いた水で無理矢理作った田畑で応えた。

 穀物や肉を放出し、功績を示す。食糧問題に関してなら、宮廷の愚物共も何も言えない。文句のない功だ。焼け石に水だが食糧問題を打開する希望の目を提示して、その施政に人々が喝采を上げている内に下水システムを広める。王の為さる事に誤りはないという空気を生み出そうとしているのだろう。王への信頼を深めていく狙いは明白だ。

 

 滞っていた事業をやっと緩やかに始動できた。――これが一年間の事だ。

 

 陛下はご自身の寝食すら削って働き通し、そして私に秘密を悟らせる事がなかった。

 私は恥じた。自分が恥ずかしくて仕方なかった。陛下の許にいたら美味しい物が沢山食べられる? 陛下に剣技を師事する? ……なんと幼稚な我儘なのだろう。確かに食うには困らなかった。だが陛下が私事にかまける余裕など一秒たりとも存在していない。

 私はただ、陛下の仕事を眺めるくらいしか、できる事がなかった。何かをしようとしても何もさせてもらえない。子供を国事に関わらせるなど亡国の兆しだろうと、陛下に一蹴されるのだ。

 私だけが何もしていない。ただ保護され、養われている。……こんな無力感は初めてだ。堪えられない……堪えてはいけないとも強烈に思わされる。だが何をどうしたら良いのかまるでわからない。

 

 一年も経つと私は痺れを切らし陛下の寝室に突撃した。今日も一日働き通した陛下が眠ろうとしているところだが、少しだけ時間を割いてもらって私に仕事を手伝わせてもらおうと息巻いたのだ。

 だが、私は陛下の寝室に入れなかった。

 

「――おっとぉ! 不埒者を捕えたと思ったら獅子のお嬢さんじゃんかよ」

 

 獅子の姿の私の存在は、市井にて謳われる『獅子王陛下』の随獣と見做されている。どこに行こうとも気にされないようになっていた。

 にも関わらず赤毛の傭兵は私の()()()()()()()()。変身の指輪の魔力を見破れたのは陛下の他にはいなかったから油断していたのだろう。反応も出来ずに捕まって、私は瞠目してしまう。

 ()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()、あっさり私を捕らえた傭兵の名はニコール。陛下に対して対等に振る舞う不遜にして不敬な男。傭兵のくせに宮廷道化師でもあるニコール様は、微笑ましい悪戯を見咎めてしまったような表情で私を解放した。

 

「貴方は……ニコール様。私が視えているのですか?」

「ったりめぇよ。節穴に今のユーちゃんの護衛が務まるかってんだ。そんでオレに対して堅苦しくする必要はねえよ。所詮は傭兵だからな」

 

 私の身分は平民だ。ペンドラゴンの血筋に連なっているらしいが、顔を見た事もない男の血統を誇るつもりも、振りかざすつもりもない。私は私の力で手に入れたものしか認めない。

 故に一応は公職に就いているニコール様……いやニコール殿に対して丁寧に接する。義兄には私の丁重な物腰は冷笑的に見えると揶揄されたものだが、かといって不遜な態度を取るほど子供じみた真似はしたくなかった。これは成長……なのだろうか。心ある者が必死に働く中、何もしていない事でストレスを覚えてしまっていたから、子供のままではいたくないと無意識に思ってしまっているのかもしれない。

 ニコール殿は肩を竦めて、ちらりと陛下の寝室を見遣る。固く閉ざされた扉の前――彼は寝ずの番で警護に当たっていたらしい。普段の彼の剽軽な態度からは想像も付かないほど生真面目だった。

 

「そういやオレらはまともに話したこたぁなかったっけな。オレはニコール、ユーちゃんの御母堂から鞍替えして、ユーちゃん専属の傭兵様に成り上がった風来坊よ。道化っつう愉快な肩書もある」

「存じています」

「だろうな。オレもそこそこユーちゃんの仕事に関わってるし、昼間はいっつもユーちゃんに張り付いてるお嬢さんがオレを知らねえ訳ねえもんよ。で、お嬢さんはユーちゃんになんの用だい? 良い子は寝る時間だぜ、いつでも良い用事なら明日の朝に出直せや」

 

 目元の黒子とも相俟って匂い立つほどの色気がある美男子である。容姿のレベルで言えば陛下にも比肩するだろう。しかし私としては、ニコール殿の目元にある黒子から発される魔力が気になった。

 彼は基本的に女を避けて通る。彼を目にした女の多くが恋煩い、言い寄る様子を何度か見掛けた覚えがあった。本人は非常に迷惑そうにしており、そうした女に手出しをして遊んではいない。

 はっきりいうと、私は陛下の周りの者の中で、ベルセルクル騎士団のシェラン団長と並んで、最もこの男が頼りになるのではないかと思っている。傭兵や道化という表面的な立場を除き、本質を見れば、この男が陛下にとって第一の忠臣であるように感じられるのだ。

 

 私はニコール殿になら打ち明けられると思い、訴えかけることにした。

 

「ニコール殿、そこを通して頂きたい。私は陛下に話が――」

「駄目だ」

 

 にべもなく切って捨てられて鼻白む。変身の指輪を外して人の姿に戻った私が不満げにしているのを見てか、ニコール殿はガシガシと赤毛を掻いた。

 

「大方まぁーたわたしにシゴトくーださい、とでも言うつもりなのかもしれねえけど、駄目に決まってんだろ? ユーちゃんはそう簡単に子供を働かせたりはしねえよ。よそとの兼ね合いとかがねえ限りは。行儀見習いとしてならともかく、お嬢さんは保護されてる立場なんだろ。いずれ故郷に帰される奴に時間割かせるのは、オレからすると偲びなくってなんねえよ」

「しかしニコール殿、私にも出来る事は――」

()()

 

 はっきりと断じられ、押し黙る。

 できる事はあるはずと思ってはいても、それが自分では思いつかないのだ。

 そこで私は気づいた。私は陛下に甘えて、陛下に私でもできる仕事を考えてもらおうとしていたのだと。唇を噛む私に、ニコール殿は嘆息する。それから何事かを考えて、そして頷いた。

 

「……でもま、お嬢さんなら別に構わねえか」

「………?」

「お嬢さんは()()()()()()なんだろ?」

「――なぜそれを……!?」

「仕事柄オレぁ情報通でね。身元も知れねえ奴をユーちゃんの近くに置かせるのも不用心が過ぎるってんで、一応お嬢さんに関しちゃ一通り調べておいたのさ。ユーちゃんに訊いたら故郷だけは教えてもらえたんでね、案外あっさり、お嬢さんの身元は突き止められたぜ」

 

 指摘されても私は驚いただけで、『だからどうした』としか思わなかった。

 ペンドラゴンだからなんだ。そんなものに今更なんの価値がある。王の威名を利用するならともかく、私という個人の成したものは何もない。斜に構える私に、ニコール殿は苦笑して口の中で呟く。

 

「反抗期なのかねえ?」

「………?」

「まあいいや。んなことよりお嬢さんを見込んで、教えといてやるよ」

 

 何を教えてくれるというのか、ニコール殿が周囲に視線を走らせる。

 何か秘め事を明かすかのように、彼は身をかがめて私の耳元で囁いた。

 

「――寝てるユーちゃんを起こそうとしても、絶対に起きないぜ」

「……どうしてです」

「疲れ果てて泥のように眠っちまってるからさ」

「………」

 

 そんなバカな。確かに常人ならすでに倒れてしまわれるほどの激務を熟しておられるが、陛下は常人などではない。その証拠に朝起きてこられてからは、いつもと変わらない顔色なのだ。

 

「断言するが、そこらのこそ泥が入り込んで、陛下に刃物を突き立てようとしたら、抵抗する事もないままあっさり殺されちまう」

「! ばかなっ。陛下の武勇をニコール殿もご存知のはずでは?」

「知ってるから言ってんのよ。……ま、論より証拠か。入ってみろよ。ほら」

 

 ニコール殿がノックもせず寝室の扉を開く。

 陛下の寝室は一国の王のものに相応しい、大きなベッドのあるものだ。

 寝台の上には、陛下が横たわっている。眠っていた。ニコール殿に手を引かれて入ってしまった私が声を上げてしまうのに、陛下は目を覚ました素振りを見せない。

 訝しむ私をよそに、ニコール殿が陛下の衣服に手をかけた。余りに不遜、不敬である。咎める私に構わず手招きし、こいつを見ろと示して。躊躇った末に陛下の肌けた胸元を覗き込んだ私は息を呑む。

 

「!!!!」

 

 総毛立ち、鳥肌が立つほど生々しい爪痕――深刻な傷跡があった。

 心臓に届いているのではないかと思うほどに深い傷、否……これはもはや致命傷だ。

 絶句する私にニコール殿が言う。

 

「ユーちゃんは例の巨神との戦いで死にかけてな。いや、今もぶっちゃけ死んでるに等しいんだっけか? ともかく、体力が滅茶苦茶なくなっちまってる。この一年の激務で、寝たら殺されても起きやしねえぐらい疲れてるのさ」

「――――」

「ユーちゃんがサクソンを攻めようとしねえのは、ユーちゃんがこんな体だからだ。シェランとオレ、弱ってるユーちゃんだけじゃサクソンを倒せねえ。だから国力を上げて、人を育て、戦力を整える為に時間を掛けざるを得なくなっちまってる」

「――なぜ」

「んぁ?」

「なぜ、ニコール殿は、私にこの事を……」

 

 陛下の負った苦しみを知り、顔を顰める。陛下はこの事を隠していたのだ。なのに陛下の許しなく秘密を明かしてきたニコール殿に真意を問うと、彼は至極あっさりと白状する。

 

「そりゃオメェ……お嬢さんがとんでねえ魔力と才能を持ってるからだよ」

「………」

「オレはお嬢さんに期待してんのさ。ユーちゃんの求める戦力の一角を埋めるのに、お嬢さんは不足がないと睨んでる。ま、ユーちゃんには怒られちまうけど、ぶっちゃけお嬢さんよりもユーちゃんの方が遥かに大事なんでね。怒られる事を恐れるようじゃ親友は名乗れねえ」

「……ではニコール殿は、私に陛下の身辺を守る近衛の座をたくそうと――?」

「おう。ユーちゃんの露払い役だ。大概の奴は一撃で殺っちまうユーちゃんだけどよ、数を熟すのは無理なんだわ。んなもんで雑兵を散らす役が要る。相手方の腕っこきも殺れる力量があれば尚よしだ」

 

 私は陛下の状態を知った衝撃で、頭の回転が鈍っていた。

 そんな私の様子にニコール殿は苦笑する。

 

「……ま、すぐにはユーちゃんも受け入れちゃくんねえさ。お嬢さんがどんだけ覚悟を示してもな。だから今はとにかくユーちゃんの世話をしてやってくれよ」

「世話、ですか……」

「おう。明日の朝、変身の指輪外して、日の出前にここへもう一回来な。オレの妹がユーちゃんとこで侍女やってるからよ。ソイツにお嬢さんの指導をさせる。侍女としてのな」

「なぜ侍女なのです」

「仕事くれくれ言ったとこでもらえる訳ねえだろ? だからユーちゃんの傍に常に張り付いて、世話しながら仕事の要領を見て盗みゃいい。やろうとしてることの全体像を想像して、裏付けを取って、ユーちゃんが何か言う前に動けるようになれりゃ上等だ。流石にそこまでやりゃお嬢さんの本気を認めるだろ。後は行儀見習いとして使ってくれるだろうし、オレも推薦してやる。どうだ、やるか?」

「やります。陛下の体の事を知った今、そうせねばならぬ気がするのです」

 

 使命感に燃える私に、ニコール殿は眩しそうに目を細めた。

 帰んな、と言われて寝室を出される。ニコール殿は眠っておられる陛下を守る護衛として残るらしい。私は頷き、そして目標を立てた。私もニコール殿のように信頼され、警護を任される程になる。

 そのためにもひとまず侍女として出発だ。ゆくゆくは陛下の近衛騎士になる――存外悪くない立ち位置のように思えた。何より、陛下の為さる事で、ブリテン全土に平和と繁栄が齎されるような気がしたからやる気は充分だった。

 

 ニコール殿に感謝しよう。前途が開けた思いがある。私は受けた恩義を忘れない。いつかなんらかの形でお返ししよう。

 そう思い――しかしほんの微かに恨みに思う事となる。ニコール殿に紹介された妹殿……ニコ()()の指導は、下手な剣術指南より遥かに厳しかったのだ。指導役を請け負ってくれたニコ先生に一時殺意を覚えるほどに――

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

「――いいですかオルタ。メイドとは完璧です、一点のミスも許されない。陛下の行動ルーチンとパターンを頭に叩き込み、先回りして御召になる衣服を完璧な状態で用意なさい」

 

 時に講義を。

 

「そして陛下の一挙手一投足の全てを常に観察し、いつどこで何を求められるか、ルーチンとパターンを一日刻みで更新し続ける必要があります。陛下は謙虚な御方です、我々召使いにも気を遣いご自身の事は自ら為そうとなされる。しかし陛下に身辺の事でお手を煩わせたのではメイドの名折れ。陛下のご気分を害さぬようにしつつも――そこ、手を止めない。陛下の眺める窓に僅かの曇りも汚れもあってはなりません」

 

 時に鞭を打たれ。

 

「足音を立てるなと何度言えば分かるのです? 貴女はメイド未満の下女、下女風情が陛下のお気を散らしかねない雑音を発するなど言語道断。立つ時の姿勢は、こう。背筋を伸ばし、脚は踵を揃え、両手は前で重ねて下ろしなさい。振り返る際の挙動はこの通り、首だけ、顔だけを回さず体全体で速やか且つ品を持って動くように。他所様の貴族の目があるところで我々の掻いた恥は陛下の恥となる事を心得なさい。――うすのろ。そこは昨日教えたはず。貴女は本当に物覚えが悪い。家畜の猪の方がまだ覚えは早いのでは? さては貴女、豚以下の低能なのですか? でしたらメイドになる資格はありません。暇を差し上げるので下がりなさい」

 

 時に罵倒され、貶められ。

 

「紅茶を淹れる時はこれこのように。陛下のお好みはこれで、昼はこれ、夜はこれ。覚えましたね? では王都におられる糞豚――失礼、お貴族様方のお好みを全て余さず覚えなさい。明日テストします。え、早すぎる? もっと覚える時間がほしい? 黙りなさい、どんな無理難題もやれと言われたら完璧に熟してこそのメイドです。炊事・洗濯・清掃・戦闘・防諜・外交・教育・音楽・軍事教練、全て、全て完璧に、陛下が雑事に煩わされる事なきようになさい」

 

 教えられた事の全てで見本を見せられ、ぐうの音も出ないほど完璧である様に感嘆させられる屈辱。私はニコ先生が嫌いで嫌いで仕方なくなったが、同時に先生ほど完璧なメイドもいない事を骨の髄まで理解させられてしまった。これが陛下に仕えるメイド達の長――

 素直に敬意を懐きはする。しかし……しかし! お仕置きと称した折檻、お尻ペンペンだけは絶対に赦さん……! 覚えていろ先生、いつか必ず吠え面掻かせてやる……!

 

 

 

 ――私が陛下の許に身を寄せてより二年。一年は無為に過ごし、残り一年をメイドとしての修行に当てられた私は、遂に陛下のお傍に辿り着いた。

 

 

 

 朝、ご起床なさって寝室から出て参られた陛下に、私は楚々と頭を下げる。

 

「――おはようございます御主人様――」

 

 待っていろ御主人様。奉仕の時間だ……!

 

 

 

 

 

 

 




Q,起き抜けに保護してたはずの子がメイドになって出迎えてきた時のユーウェインの心境と表情とは?

A,うん……。

オルタの姿はどちらがお好みです?

  • 聖剣の黒王
  • 聖槍の下乳上
  • どっちも好き!優劣はない!

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