獅子の騎士が現代日本倫理をインストールしたようです   作:飴玉鉛

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49,獅子の旅々 (序)

 

 

 

 

 ラムレイの首筋を撫でる。暫くぶりの遠出だ、頼むぞ――そう声を掛けると彼女は嘶いた。

 騎乗者は王服による拘束を解き、旅装に身を包んでいる。数年越しに目にした主人の旅装が好ましいのか、馬中の戦乙女は頗る機嫌が良さそうだ。

 感受性の豊かな駿馬である。こうも喜ばれると、寂しい思いをさせていたようで、些かばかり後ろめたいものを感じてしまうというものだった。

 

「いやぁ、ユーちゃんが一緒だと余計な荷物持たなくて良いから助かるぜ」

 

 質素な騎士服の上に簡素な外套。極剣を腰に佩いた道化が気楽に言う。

 城門より出て王都の外にやって来た青年は『尽きぬ荷車の盾』を装備していない。

 正確には装備する必要がないのだ。

 今は亡き魔女の術式が生きているのである。荷車盾の格納口と担い手を連結し、彼の意志を鍵として亜空間に接続している。望んだ物をサイズや重量を問わず格納できる力は有用極まった。

 事実上、彼がいるのであれば、軍集団の行軍に求められる物資全般を運搬する必要がない。担い手であるユーウェインの任意で、いつでも好きな時に取り出せてしまうのだから。

 

 真紅の鬣、真紅の馬体を誇る神馬パッスランドに跨った友の物言いに、王は苦笑する。

 

「荷運びは王の仕事ではないんだがな」

「べっつにいいだろぉ? 助かるのはホントなんだから」

 

 ユーウェインは丸腰だ。身軽な出で立ちであり、武装していない。しかしその気になればいつでも愛刀も、神話礼装も取り出せる。加えて咄嗟に武具を取り出せずとも困らない理由もあった。

 

 ――群れの中で最も大きな白鴉がユーウェインの肩に留まっているのだ。

 

 鴉と獅子。この二つは騎士王の象徴として広く知られていた。白鴉を連れていたのでは、旅の最中でもすぐ正体を知られてしまうだろう。しかし連れて行かない訳にもいかない。

 白鴉は並の騎士よりも強い上に賢く、伝令役として有能なのだ。使い魔でもある為、騎士王と視界を繋げる事もできる。有事の際に備え、連れ歩かない訳にもいかないだろう。

 更にこの使い魔は武具でもある。真名は三百諸侯の鳥剣(ケンヴェルヒン)――剣と名に付いているように、白鴉は鴉であると同時に剣でもあった。彼らは担い手の望む形状、重さの武具に変身する力がある。白鴉が傍にいる限り、ユーウェインはいつでも武装しているようなものなのだ。

 

 ――こんな逸話がウリエンス国にはある。

 

 罪を犯したとある騎士が、国から脱走して野盗に身を窶そうとした。しかし彼は、空から突然降ってきた白剣に貫かれたのだ。白い剣は罪人を穿った後、白い鴉となって飛び立っていったという――白鴉は法の番人である、ウリエンスでそう信じられるようになった所以だ。

 

 そしてこの旅には騎士王の象徴として白鴉より著名なものも同伴している。

 

「御主人様。私の支度も整いました。いつでも行けます」

 

 馬にも劣らぬ巨体の魔犬カヴァスに騎乗して来たメイド、オルタである。

 変身の指輪を嵌めている為、傍目には一頭の獅子に見えるだろう。

 白鴉と黒獅子を連れていたのでは、正体を隠す気がないと思われても仕方ないが、元々お忍びの旅行ではないのだ。名を偽る必要性をユーウェインは感じていなかった。

 

「……なぜ指輪を嵌めている?」

 

 御主人様呼ばわりにも慣れたものでユーウェインは軽く流した。が、獅子に変じているオルタには呆れてしまう。

 彼女を連れて行くつもりはなかったのだが、同行すると言って聞かない為やむなく同伴を許した経緯がある。王都で留守番をしていてほしかったのだが、旅の安全性を考慮すると仕方がない。

 オルタは十五歳の誕生日を境に、正式に近衛騎士に任じている。意外と生真面目な気質の彼女は、警護対象の王の傍を離れる事を頑として認めなかったのだ。万一の際、周辺を薙ぎ払える火力の持ち主でもある事から、連れて行けない理由もないため同行を認めるしかなかった。

 

「御主人様は『獅子の騎士』の異名もお持ちです。私を見てなお陛下に害をなさんとする頓狂な輩など、即座に斬り捨てられても文句は言えないかと」

 

 これである。フンスと鼻息荒く、オルタは至極真っ当なやる気に満ちているが、ニコールとユーウェインは白けた貌で互いを見遣るだけ。ラムレイに騎乗したユーウェインが友に水を向けた。

 

「……おい、ニコール。この猪娘は殺伐としているな」

「堪んねぇよなぁ。プライベートでまで肩肘張られると、遊びに出掛けるオレらの方が気疲れしちまうよ」

「へ、陛下? ニコール殿も! 何を緊張感のない事を……! 陛下の近衛として、常に気を張るのは当然の心構えでしょう……! まして陛下のお体の事を考えれば尚の事だ!」

 

 近衛に任じられたばかりという事もあって、意気軒昂なオルタからすれば梯子を外された気分なのかもしれない。が、それはそれ、これはこれである。

 信じられないとばかりに声を荒げ、正論を主張するオルタにニコールが苦笑した。

 

「こいつぁ認識の齟齬があるらしい。なぁユーちゃん。どうもオルタ嬢はオレらの慰安旅行に不服があるみたいだぜ」

「困ったな」

 

 台詞ほど困っていなさそうなユーウェインである。だがポーカーフェイスが張り付いていた王の貌ではなく、私人としての表情にはありありと「なんで今更言い出すんだ」という思いが現れていた。

 

「なあオルタ。俺の体を気にかけてくれるのは嬉しいが、肩から力を抜いてくれ。俺も臨戦態勢の子ライオンに気を散らされるのは御免だぞ。それとも、オルタは俺が慰安に行くのは反対か?」

「本音を言うなら反対です」

 

 オルタは真面目腐って言う。彼女の意識が完全に近衛騎士のものである証左として、オルタは漆黒の甲冑で身を固めていた。まるで戦場に向け出陣せんばかりに気負っているようだ。

 暗黒に属するかの如き出で立ちの印象を裏切らない、合理的な見方で所見を述べる。

 

「慰安そのものに反対しているのではありません。しかし火急の事態に見舞われたわけでもないというのに王が国より離れるなど……不慮の事態が起これば陛下の瑕疵となりかねず、陛下ご自身の容態も優れない現状で遠出など言語道断。不届き者が騒ぎ立ててはなんとするのです」

「俺も考えなしに国から離れようとしている訳ではないんだが……」

 

 ニコールの言を容れたのはユーウェインであるが、彼とてなんの手立ても用意せずに旅立とうとしているわけではない。立つ鳥跡を濁さず――というのとは違うが、きちんと手は打ってあった。

 留守は忠義が厚く、貴族社会にも精通し、代理として既存の統治機構を運用するに能う手腕を有するウォルフレッド伯爵に任せていた。荒事にもベルセルクル騎士団を宛てられる。白鴉の大半も残してあるため王権を揺らがず火種が生まれたらユーウェインもすぐ気付ける。

 彼らが留守を守ってくれるなら、騎士王が帰還するまでの時を稼ぐのは容易だろう。ついでに言うなら、ユーウェインとしては寧ろ、なんらかの変事を企てる輩が出る事を期待していた。

 

 王が長期不在になるだけで揺らがぬ国になったかテストしているのだ。いずれ夷狄たるサクソンやピクトと戦争をする事になる、その時にユーウェインが出陣しない事は有り得ない。王が不在の間、国がどうなるかを見定める良いテストケースになるだろう。

 不埒な事を企てる輩がいるのであれば、今の内に炙り出して粛清する。冷徹かつ合理的な王としての思考が、ユーウェインにそうした方策を打ち出させていた。

 故に戦時下でない今の内に、瑕疵が生じるなら望むところなのだ。それ即ち王が是正すべき、水面下の問題を浮き彫りにする事に繋がるのだから。また、その程度の瑕疵で揺らぐほど、ユーウェインの築いた国の鼎は決して脆くなどなかった。

 

 ――そうした裏の考えを、一から十まで説明する気になれない。

 

 冠を一旦置いたユーウェインは、反論に要する手間を億劫に感じていたからだ。

 故に普段なら簡単には行わない行為、強権を振り翳す真似をした。

 

「いいから付いてこい。あんまり白けさせるようだと置いていくぞ」

「なっ……!? 陛下、それは――!」

「陛下と呼ぶな。名前で呼べ。全く……王の休暇をなんと心得る。少しくらい羽目を外させてくれ、頼むから」

「う、くっ……」

 

 煩悶するオルタだったが、仕える主君にそう言われたのではどうしようもない。

 抗命してでも諫言を続けるべきか悩むオルタは若かった。さっさと愛馬を促して出発したニコールとユーウェインに、メイドにして騎士である乙女は言葉を探す。だが結局何も言い返せなかった。

 自分が思いつく問題が、まさかユーウェインに思い至れない訳もないと思ったのもある。しかしどうにも憧れの近衛へなれたにしては、想像していたのとは違う扱いに納得がいかなかった。

 

 くぅん……とカヴァスが情けなく鳴いた。それでハッと我に返ったオルタは愕然とした。

 ユーウェイン達が本当に自分を置いて行ってしまっているのに気づいたのである。

 慌ててカヴァスを走らせ追い縋ったオルタが抗議した。

 

「陛下――いえ、御主人様ッ」

「名前で呼べと言ったはずなんだがな」

「くっ……ゆ、ユーウェイン様、せめて警護の者の増員を! 何かが起こってからでは遅いと思われないのですかッ!」

「思わんな」

 

 がなる姫騎士にちらりと一瞥だけを寄越したユーウェインは言う。

 

「お前とニコールがいる。一軍を相手にしたとしても、お釣りが来るとは思わないか?」

「ぅ――」

「ギャハハハハ! オルタ嬢赤くなってやんのぉ! なに? 今どんな気持ちなの? 頼りにされてると気づいて恥ずかしいんですかぁオルタちゃぁん!」

「に、ニコール殿……! 侮辱には剣で以て応じるが!?」

「煽るな煽るな……沸点低いんだからなこの猪娘は」

 

 ぎゃいのぎゃいのと騒ぐ二人に、ユーウェインは失笑混じりに苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 湖の乙女達に聞いたところオルタの聖剣の真名は嵐を往く星の路(タービュレンス・カリバーン)と云うらしい。

 剣を杖の芯にしているというリーリウム・ペンドラゴンのきみをいだく希望の星(アラウンド・カリバーン)、アルトリア・ペンドラゴンの勝利すべき黄金の剣(カリバーン)の姉妹剣であり、それぞれ不老の加護が備わっているようだ。

 にしてはオルタは十歳頃にカリバーンを手にしているにも関わらず、十五歳まで順調に成長しているのだが、その点に関してはオルタが成人するまで不老の加護は封印していたらしい。

 十歳のまま肉体の成長を止めては色々と差し障りがあるからで、オルタが近衛騎士になったのと同時期に、黒い聖剣は真の機能を限定解除されたようだ。

 

 これに対してオルタに不満はないらしい。

 

 というのも、主君であるユーウェインの肉体年齢が十八歳でストップしているからで、永遠に若い主人に相応しい肉体年齢でいられるのは好ましい事だと認識しているらしかった。

 普通は年頃の婦女子が大人になれないのは憐れむべき事なのだろうが、生憎ユーウェインは普通ではない。客観としては判断が付いても、主観的な美醜観念が不能となっている為だ。

 元々人の容姿を美しいとも醜いとも感じた事のないユーウェインからしてみると、年齢は背丈の短長で戦闘や日常生活に便利か不便か、加齢により体力の成長と衰えを判断する材料でしかない。

 故に若いまま固定されるのであれば、本人が嫌がらない限りは別にそれでいいじゃないかとしか思わないのである。――権力者の永遠の夢、若さを保つ加護に対する認識がその程度だった。

 

 黒と赤の神馬が路を行き、その傍らを黒獅子の皮を被った白い魔犬が歩む。それぞれの騎乗者はのんびりとしていて、早急な事案に追い立てられていない為か安穏とした空気感を醸していた。

 

「――そういえば」

 

 ふと思い出したようにオルタが口を開く。ユーウェインの目には魔犬に跨った少女騎士が話しているように視る事も叶うため違和感はないが、ニコールの目には獅子が人語を発しているように見える。そのためニコールや一般の者からすると摩訶不思議な光景に見えるだろう。

 が、オルタも獅子生活に慣れている為、人前では決して言葉を紡がない。それどころかメイドを卒業して以降、近衛騎士となってからは魔力で精製したバイザーで貌を隠すようになっていた。

 獅子としては話さず。騎士としては無貌で在る。――その在り方を是としたオルタの内心を知るのは、本人である彼女のみであろう。

 

「私の愚妹が……いえ体面を考えれば姉と呼んでやった方が良さそうですね」

「ん。アルトリアがどうかしたのか?」

 

 気儘にフランスへの道程を歩んでいる最中であるが、ユーウェインの意識はプライベートに切り替わっている。故に王としての仕事に関わる話題を出されても堅苦しくなく応じられた。

 既に決まっている事だ。長らく伏せてきた婚約者の名も公表している。故に諦めも付いていると言うべきかもしれない。決まった事に喚き立てるのは、無様な醜態であると断じられる。

 オルタは努めて冷静に頷いた。

 

「アルトリアがユーウェイン様の妃になるそうですが、その場合、やはり私は血縁を隠すべきなのでしょうか」

「隠すべきだろう……と、言うべきなんだろうが。オルタに関しては無理だ。何年俺の許でメイドをしていた? 今更貌を隠した所で、お前の面貌を見知らぬ者など宮廷にはおらんだろうよ。瓜二つの貌の王妃がやって来てみろ、血縁は必ず露見する。リリィは……追々考えよう」

「王妃の姉妹が王の近衛騎士をしている……あまつさえ過去にはメイドをしていた。これはアルトリアにとって醜聞になるのでは……?」

 

 些か気に病んだ面持ちで主の顔を伺うオルタに、ユーウェインは失笑する。

 

「けしからん輩に突っつかれたなら、王妃の影武者として起用されるケースも想定されていた、その為に雑事を学んでいたのだとでも言っておけ。騎士王の妃は他国の王妃とは器も、役割も違う。である以上は既存の常識に当てはめて批難するのは、批難した当人の見識が足りぬ証拠であろう――とな」

「尤もではありますが……」

「――その雑事ってぇのはメイドの真似事も入るんですかね騎士王陛下?」

「無論だ。下の者の労苦を自ら積極的に学ぶ勤勉な姿勢、天晴だと思わないか道化師よ」

「そんなら影武者は普段、騎士として傍に侍らすんすねぇ……。王妃に瓜二つの影武者と陰で不貞を働きかねませんなぁ。どんな子が生まれてもどちらかに似てるのは間違いねぇんですからねぇ」

「下衆の勘繰りだな。あんまり口さがない真似をしていては性根が知れるというものだぞ。口を噤んで置物になっていた方がまだしも上品に見えよう。沈黙を金としたらどうだ?」

「あ、あの……あまりそうした事は口にしない方が……」

 

 ディスカッションへ移行する二人に、オルタはやや頬を染めながら苦言を呈した。

 緊張感のないやり取りとはいえ、当事者が傍にいるのは忘れないで欲しい。

 

「オレは単に、(あげつら)って来そうな奴らを真似してみただけなんだけどな」

「底の浅い舌鋒には欠伸が出るが、まあ……有り得そうではある」

「馬鹿ってのはどこにでもいやがるからなぁ……馬鹿ほど自分(テメェ)が馬鹿だと自覚しねぇもんさ。頭も軽けりゃ口も軽い、考える前に口を動かすもんだから始末に負えねえ。やだねぇ、馬鹿の相手は」

「人の不義に想像を働かせる輩は、自身に疚しい事があると自白しているようなものだ。オルタも人の陰口は叩くものじゃないぞ? 俺も人の事は言えんかもしれんが、悪口というものは言っている時は気持ちが良いからな。ついつい口を滑らせる事もある。が、却って自らの品位を落としてしまう事は心の片隅に置いておかねば、いざ自制せねばならぬ時に苦慮する羽目になるぞ」

「斯く言うオレらも『バカの相手は嫌だ』って悪口言っちまってるしな」

「は、はぁ……」

 

 なんとも返事に困る話だ。

 とはいえ人間、誰しもが聖人君子ではない。無意識に他者をこき下ろし、嘲笑うか見下すかをしている。そういう意味ではユーウェインが最も人を見下しているのだから身につまされる金言だろう。

 雑談の延長のように、そのユーウェインが言う。わざとなのか、演技くさい調子で。事実として雑談でしかないのだから、緊張感がないのも当たり前ではある。

 

「――自分は馬鹿だ。この心理を念頭に置けば、紡ぐ台詞にも思慮は働く。他者からどう聞こえるかを意識ばかりしていては言いたい事も言えんがな。自らの知能に驕って他者を見下していると、俺のように居丈高な人間になってしまうぞ。謙虚で在ろうとする姿勢は尊ぶべきだ」

「ユーちゃんが言うと重く聞こえるねぇ。ところで王サマ。王サマにも今の台詞は返ってくるんじゃねぇのってオレぁ思うんですが」

「俺はいいんだよ。王様なんだから。王は偉ぶるのも仕事の内だろう」

「うっへぇ……正当化しやがりましたよこの人。間違ってねぇのがまたなんとも……」

「そういう貴様は自身を省みないのか?」

「オレも赦されるんですぅ。オレってば道化ですしぃ? 人を褒めるのも貶すのも自在自儘が権限として認められてんですよねこれが。他ならぬ目の前の王サマに。つまりオレが正義だ」

「………」

 

 かんらかんらと笑う二人にオルタは微笑を溢した。

 なんとも息の合うやり取りに、深い信頼関係が伺えてくる。

 羨ましいと思う反面『いつかは自分もニコール殿のように――』とも思う。

 ……いや、無理だ。少なくともニコールと同じ様に接するのは。

 だから自分なりに、と思うのが正道だろう。オルタはそう思った。

 

「お。見えたぜユーちゃん――」

 

 ぱっかぱっかと蹄を鳴らして幾日か。

 見えてきた物にニコールが声を上げた。

 

「――カメリアード王レオデグランスの居城だ」

 

 それは早期からユーウェインの後援者、ブリテン王の後継となる事を支持してくれるのではないかと目される、親ユーウェイン派の諸王の一人だ。嘗てはウーサー王に仕えた公爵であり、高い権威と実力を有した有力者でもあるが、先見の明にも長けた人格者でもあるという。

 その居城へ脚を運ぶのは、彼に非公式で挨拶するのと、ついでに船でも借りられないかと頼みに行くためだ。他意はない。ないが――しかし、英雄の宿命なのだろう。些細な事でも、様々な憶測の元となる騒ぎを生み出してしまう星の下に、彼らは生まれていた。

 

 

 

 

「――まあ。なんと素敵な御方なのかしら……!」

 

 

 

 

 カメリアード王レオデグランスと非公式の会見の場を設けた際、彼の娘の一人である王女が一人の男に熱い眼差しを注ぎ込んだ。

 白い妖精を意味する名の王女が熱視線を送っているのは――愛の黒子を持つニコールだ。

 露骨に「ゲェ」と溢した傭兵にとっては予想外。貴人ともなれば最低限度の対魔力はあるはずで、その最低限で『輝く貌』の魔力は通用しないと油断していたところにこれである。

 恋に恋するお年頃――鳥かごの中で育てられた可憐な王女は、燃えるような恋と外の世界へのあこがれを持っていた故に、愛の黒子の魔力を無意識に受け入れてしまったのだ。

 

「ニコール様……」

 

 ラヴなハートの熱い視線。恋で点火したドラゴンブレスの心の臓。

 彼女の父王が瞠目する前で、ユーウェイン一行は顔を見合わせる。

 ――王女は、清純で以て知られる美貌の乙女。名をギネヴィアといった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【速報】ギネヴィア出番終了【悲報?】

ガニエダぁ!

  • 慈悲はない(無慈悲)
  • 慈悲はある(あるだけ)
  • さよなら、天さん…!

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