獅子の騎士が現代日本倫理をインストールしたようです   作:飴玉鉛

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お待たせしました。




55,踏み外した足音

 

 

 

 

 

 乳母から渡された赤子を腕に抱く。

 首が据わり、目が機能している。見えるもの、聞こえるもの、触れるものの全てが新鮮なのだろう。赤子は自らを抱き上げた青年の顔に手を伸ばし、丸く柔らかい指でペタペタと触れてきた。

 無性に、目頭が熱い。涙こそ流さなかったが、胸を衝く想いに心が痛んだ。まっさらな命だ。この赤子がどう育つのかは、まだ分からない。説明の出来ない切なさを覚えてしまう。

 

『どぅわっ!? こ、このガキ、オレが抱いた瞬間に脱糞しやがった!』

『なんで胸をまさぐるんだよオレぁ男だぞ! 乳なんか出ねえっての!』

『おいバカやめろ、ユーちゃんも笑ってねぇでお守りしろオラァん! オメェの養子だるるぉん!?』

 

 想起される記憶。いつもの勝手で出掛けた男を思い出すと、なぜこんなにも辛くなるのだろう。あの男の事だ、いつの間にかひょっこり戻って来るのは目に見えているはずだというのに……。

 

 ニコールは強い。武力という一点だけを見ても、あの男に伍する武人は無鎧の熊騎士団の長であるシェラン以外にいなかった。将来的にはわからないが、今のブリテン人の中にニコールを倒せる者はいないだろう。最高位の武人であるペリノア王もあの男と比べると見劣りする。

 強いだけではなく、ニコールは切れ者でもあった。機転が利き、人の心の機微にも敏く、如何なる苦境に陥っても切り抜けようとする胆力も併せ持っている。芸にも長け、話術をはじめとする多くの分野にも明るい。政戦両略に長けたあの男こそ万能と称するに値するだろう。

 どんな怪異を前にしても、どんな策謀に絡め取られようと、ニコールであれば何も心配は要らない。全力を出したユーウェインから勝ちを奪える可能性が最も高く――いや正直に言うと、今のユーウェインよりもあの男の方が強い。すぐにバテてしまう今の己では、到底あの男を斬り伏せる事は叶わないのだ。それほどまでにあの男の逃げ足は速い。

 心身ともに身軽な男だ。あらゆる財宝、あらゆる身分、あらゆる柵に囚われない。あの男には義務も責任もない、故にどんな時にもクレバーで、無理だと判断したら逃走するのに躊躇はしないだろう。

 

 ニコールは危険を感じるとすぐに逃げる。――だから一切の心配は無用なはずだ。

 

 意識して不吉な予感を振り払う。赤子(ランスロット)を抱き上げたまま、ユーウェインは玉座の間で跪く人ならざる女を見下ろした。

 女の名はニミュエ。そしてもう一人はヴィヴィアン。――ヴィヴィアンは乙女というよりも、貴婦人と称すべき気品があった。精霊の貴種、人外の貴族らしい浮世離れした佇まいである。

 そんなヴィヴィアンが謁見を願い出てきた。

 彼女はランスロットを引き取って、養育したいと言っているのである。湖の精霊は黒王の契約に縛られたモノ――罪を贖う為に国の統治と、文官の育成を熟すモノ達だ。彼女達には本来、黒王に物申す権利はない。故に黒王は冷めた目でヴィヴィアンを見下ろした。

 

「ランスロットの養育をしたい……か。なにゆえに斯様な戯言を言上する?」

 

 意図が読めない。

 平坦な声音で問いを投げると、王と赤子の乳母以外のいない玉座の間で、湖の貴婦人は優雅に微笑んだ。ニミュエのような見せ掛けではなく、本物の上品さを以てヴィヴィアンが朗々と謳う。

 

「嗚呼、陛下。幻想の終に立ちし御方。偉大なるブリテン王ユーウェイン・モナーク様にご報告いたしますわ。ベンウィック王バン様に、御身に抱かれております赤子が理想の騎士として、栄光の王に仕える事になると予言した魔術師はニミュエなのです」

「ほう……そうか。それで?」

 

 ヴィヴィアンからニミュエへ視線をスライドさせると、ニミュエは若干気まずそうに身動ぎした。どうやら彼女は黒王に拭い難い苦手意識があるらしい。縮こまるだけで、口を開こうとはしない。

 邪気はない。欲もない。故に何を考えているのかが分からない。

 胡乱な思いでユーウェインは思案した。

 ――ベンウィック王バンは、ランスロットの実父だ。その彼に予言者として接近し、斯くの如き予言を吹き込んだと告白された事に、黒王は一定の評価をせざるをえない。

 あの予言がなければ、バン王はランスロットを養子として出さなかっただろう。となるとすんなりブリテン王ユーウェインとの間に同盟を結ぶことも叶わなかったかもしれないのだ。

 だがそれでどうして、ランスロットを引き取りたいと言い出したのか。ひとまず話を聞いてやる気になり、ヴィヴィアンに先を促すと、黒王の反応に手応えを感じたらしき貴婦人の声に熱が入る。

 

「誓って申し上げますわ。わたくし共に私心なく、ブリテンに住まう一個の生命として、ブリテンの静謐の為に御身に願い出たのだと。ランスロット王子を理想的な騎士に育て上げ、以て我々の奉公とさせて頂きたいのです」

「……分からんな」

 

 ヴィヴィアンの熱意を受け流し、ユーウェインは目を眇めた。

 

「貴様らは人ではない。人の世の動乱には本来、なんの関心もなかろう。人がどれほど血と涙を流そうと、なんら感じるものはあるまい。……ああ、人の争いが波及し、湖を穢されたくはないか。ともあれそんな貴様らが綺麗事を並べ立てても空虚な響きしか持ち得ない。――湖に棲む幻想の女よ、本意を明かすが良い。飾り立てた建前などで、この私を欺けると思っているのなら……その侮りに報いを与えねばならなくなる」

 

 黒王の威に触れ、ヴィヴィアンが微かに硬直する。冷や汗を浮かべる姉の脇腹を、ニミュエが肘で小突いて囁いた。『だから言ったじゃんかよぉ。最初から包み隠さず正直に言いなって!』――と。

 ニミュエは過去の経験で黒王を欺くのは困難だと知る。妹からの抗議にヴィヴィアンは頷いて、吐息を一つ溢した。ヴィヴィアンが居住まいを正し、改めて述べる。

 

「……失礼しましたわ。ですが、私心なき事に嘘偽りはございません。我々がランスロット王子を養育したいと申し上げた意図も同様。ですのでより詳しく申し上げますと、ランスロット王子こそが陛下の敷く治世における、整地を行う者になるかと存じますわ」

「は。整地ときたか。……その心は?」

「ランスロット王子が成人するよりも早く――すなわち十五年後には、少なくとも陛下はサクソンに勝利し、ヴォーティガーンを討ち、白竜アルビオンを滅ぼしている事でしょう。ですがその後、アルビオンやヴォーティガーンの遺すであろう残滓を駆逐せねばならなくなります」

「それを成すのがランスロットだと? 私や我が騎士らでは成せぬとほざくつもりか」

「いいえ。お聞きください、陛下。陛下はブリテンの統一後、何をなさいますか? ブリテン内の残滓を討つよりも為さねばならないものがありましょう。すなわち大陸からの魔の手を払う事――大陸からの侵略に備えねばならなくなり、果ては遠征に打って出るのではありませんか? ブリテンの留守を守り、かつ火種の掃討を成す騎士が必要になるはずです」

 

 黒王は笑った。声を上げて。

 サクソンに勝利するという前提を否定する気はない。敗けたら死ぬのだ、何もかも終わるのである。敗北した後のことは考えるだけ無駄であり、故に彼女の言を否定しない。

 サクソンに勝つ。これはもはや決定事項だ。である以上、勝利を前提に未来の絵図に思いを馳せるのもまた王の務め。その観点から見ると、ヴィヴィアンの台詞は絵に描いた餅よりも美味そうだ。

 

「何より陛下。陛下は信の置ける教育係にあてがないのではありませんか? 我々ならば絶対確実に、ランスロット王子を素晴らしい殿方に育て上げられますわよ?」

未来(さき)は貴様の考える必要のない領分だが、最後の一点のみには一考の価値がある。が、私の養子を預ける理由としてはまだ弱い。私の首を縦に振らせる対価はあるのか?」

「――では、星の内海で鍛えた最高位の聖剣を献上いたしましょう」

「要らんわ、戯け」

 

 黒王はヴィヴィアンの言に鼻を鳴らし一蹴する。鼻白むヴィヴィアンはまだ黒王を見極められていなかった。最強の聖剣、聖槍――そんなものは黒王には無用の長物であるのだと。

 彼に斬れぬモノはない。人も、魔も、竜、霊、さらには形なきモノや因果の干渉、存在を認識できたのなら人理をも斬り裂ける超越者である。星の触覚、神霊、異星のモノも例外ではない。

 黒王は終焉の剣を担いし技剣の極みである。黒王そのものが最強の聖剣であるのだ。星の鍛えた神造兵装ならぬ、最高位魔術師たる女神の鍛えた神造人間――彼からするとどんな聖剣も魔剣も、雑多な刀剣と等価の武装に過ぎなかった。黒王が愛着を示す武装など、それこそ魔女の形見である神話礼装と、長年使い続けた愛刀ぐらいなもので。それ以外は等しく鈍らの剣に過ぎないのだ。

 

「子の教育係のあてがないのは認めよう。貴様の想像する未来にも一定の具体性があるのも認める。だが私の言う対価とは、私自身に対するものではない。貴様は気づいているか?」

「では……何をお求めなのです?」

「恍けるな。先程から貴様は、私に利する点しか述べていない。貴様ら自身の利に一切触れていないのだ。我が臣であれば、無私の奉仕に感心するところだが、貴様らは贖いの為に我が許に侍る輩。我が国の臣などではない、であれば無私など望むべくもなかろう。そんな貴様らが無償で働くだと? 貴様らがランスロットを育てるのは、まさか善意であるとは言うまいな?」

「………!」

「私が求めるのは、ヴィヴィアン……貴様らがランスロットの養育を引き受ける事で、何の益があるのかを明かすことだ。安心して子を任せられる……これほどの対価が他にあるとでも?」

 

 黒王の指摘に、ヴィヴィアンは密かに瞠目する。

 これが騎士王――他の王であれば、既に頷いているところなのに、彼は己の利のみではなく相手の利にまで気を配るのか。人類は未だ幼い、『幼年期の人間』の王とは思えぬ。侮っていた……ニミュエから話を聞いてはいたが、まさかここまで成熟しているとは……。

 だがヴィヴィアンは驚嘆こそすれど、怯む事はない。何故なら彼女に悪意はない。よからぬ企てなどないのだ。ならば何を焦り、怯える事があろうか。腹を据え、精霊は言う。

 

「……全ては貴方様の為ですわ、陛下」

「私の為だと?」

「はい。正確には『ブリテン王』の為でしょうか。ブリテンの王である事には人ならざるわたくし共にとっても特別な意味がございますの。ましてや陛下は()()アヴァロンの女主人たる御方の系譜。わたくし共に能うもので、陛下に尽くすのはある種の義務ですのよ」

「………」

 

 ヴィヴィアンは――無自覚ではあったが――黒王のウィークポイントを的確に突いた。

 ポーカーフェイスを崩し、微かに不快そうに眉を顰めた黒王だったが、深く追求する事はなく。寧ろ触れたくない話としてさっさと流してしまう。ここで追求していれば、あるいは……。

 だが黒王が触れる事はない。妖妃モルガンは黒王にとって触れてはならぬもの故に。煮詰まった愛憎の象徴に、どうして自ら触れる事があろうか。果たして、黒王は淡々と話を進めた。

 てっきり追求を受けると想っていたヴィヴィアンは首を傾げる。しかし一人で納得した。既に知っているのなら、わざわざ聞くまでもないかと。

 

「よかろう、貴様の言を容れる。だが3つほど条件がある」

「あら……? ……拝聴いたしますわ」

「……1つ、養育期間はランスロットが成人するまでとする。2つ、月に一度ランスロットを連れて私に顔を見せに来い。3つ、言を違えランスロットを立派な男に育て上げられなかったのなら、貴様らが責任を取れ。現在結んでいる我が国への奉仕契約を、貴様らが死ぬまで終えられぬものに延長する。異論は認めん」

「異論などとんでもない! 充分でございますわ。わたくし共の願い、聞き届けて頂き感謝の念も絶えません。ああ、陛下は不要と申されました聖剣も、完成の暁には献上いたします。忠義の証として」

「……話は終わりか? ならば明日、もう一度ここへ参るといい。ランスロットの処遇を我が妃に伝えた後、貴様らにランスロットを預ける」

「ありがとうございます」

 

 楚々と一礼するヴィヴィアンから目を切り、玉座より離席した黒王が退出していく。

 ランスロットは黒王の髪を握り、無邪気に笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤子を肩車する。

 髪を引っ張られても特に責めもせず、ユーウェインはされるがまま歩いた。

 付き従えるのは赤子の乳母のみ。異国の女であり、ニコールからケルト語を学んではいても、まだ完全な意志の疎通を図るのは困難であった。フランク語も修めているユーウェインとなら意思疎通は容易であるからこそ、心情的に離れ難いものを感じているのであろう。

 

『エレイン。すまんがお前は役目を失くした。望むなら国へ帰してやるが、どうする』

『……陛下……その前にお聞きしたいのですが……ニコール様は……?』

 

 ランスロットの乳母エレインは、異国の王の言に曖昧に微笑む。なんと答えたものか判断が付かないのだ。その上で彼女が恐る恐る訊ねてくるのに、ユーウェインは聞こえなかったように言う。

 

『帰国してもなんの不都合もないように親書を書いてもいい。お前の名誉を一切傷つけず、寧ろお前の働きと献身を讃え、褒美として金銀も贈ろう。返答は急がずともいいが……』

『……いえ、お受けします。寛大なるお心遣いに感謝を』

『そうか……』

 

 何かを察したように俯いたエレインは、静かに帰国したい旨を告げる。

 少しだけ残念で申し訳ない気持ちになるが、ユーウェインは引き止めようと思わなかった。役目がなくなった乳母が、いつまでも身内のいない異国にいたいと思うはずもない。多少の居づらさを感じるかもしれないが、祖国に帰りたいと思うのも当然だった。

 ……あの男は本当に罪な男だ。

 せめていつ帰るかを告げてくれていたのなら、こんな後味の悪い事をしなくとも良かっただろうに。だがこれでいいのだ、女盛りの乳母を何年も待たせた挙げ句、辛い生活環境に留め置ける訳がない。

 

「兄上!」

 

 なんとも居堪れない空気になるのを引き裂くように、明朗闊達な少年がやって来る。

 ユーウェインを兄と呼ぶ少年は二人しかいなかった。木剣を片手に駆け寄ってくる少年を迎え笑みを象る。駆けてくる勢いそのままに、腰に抱きついてくる少年の名は――ガウェインだ。

 

「ガウェイン……どうした?」

 

 笑顔を浮かべて見上げてくる異父兄弟の髪を撫でてやりながら問うも、白皙の美少年が全身に痣を拵えているのを見つけ、やや顔を顰める。騎士見習いとしてユーウェインの従者を務める彼を、こうまで痛めつけられる者がいるだろうか。不埒な輩なら厳罰に処さねばならないが、と剣呑な思いに駆られつつ広間に目をやると、そこには見慣れた少女騎士がいた。

 オルタである。

 ガウェインが訓練用の簡素な服を着込んでいるのに対し、彼女は黒衣のバトルドレスを纏っていた。ガウェインを追って来ていたらしき彼女もこちらに気づき、慣れた所作で恭しい礼をしてくる。

 

「聞いてください兄上! オルタ様が、オルタ様が酷いのです! 剣の稽古を付けてくれると言ったのに、私に木剣を振らせてくれず、一方的に打ち据えてくるばかりなんです!」

「何? ……オルタ、どういう事だ?」

「ご機嫌麗しゅう存じます、陛下。何やらあらぬ誤解をなさっておいでのようですが、誓って私はガウェインを打ってイジメているわけではありません」

「お前の事だ、スパルタに稽古を付けてやっているだけなんだろう。だが説明はしろ」

 

 泣きついてきたガウェインには悪いが、相手がオルタと分かった以上は不安はない。意味もなく目下の者を虐めるような卑しさを、オルタが持っているはずがないのだ。

 それによく見れば、ガウェインも泣きついて来たのではなく、不満があって訴えてきているような雰囲気である。辛さに耐えかねたような、軟弱な面構えをしていなかった。

 

「一人で稽古をしていたガウェインを見かね、私が稽古を付けてやろうと言ったまで。貴様は防御に専念し一時間ばかり耐え抜けば良い――と。ただそれだけの事です」

「その稽古の意味が分からないのです! 耐えるばかりでどうして敵に勝てるのですか? 剣を振らねば敵は倒れません! せめて訓練の意図を教えて頂けねば身が入らないではありませんか!」

「……オルタ。ガウェインに稽古を付けてやろうという意気は良いが、なぜ稽古の意味を教えてやらんのだ」

「は。これから先、ガウェインが騎士として身を立てた後、彼にもまた数多くの理不尽や不条理が襲いかかるでしょう。その時に容易く泣き言や不満を溢すようでは騎士としてやっていけない。故に今の内から理不尽な扱いや、意図の読めぬ稽古に触れ、逆境に打ち勝つ精神を養おうとしていました。が――どうやらガウェイン()()にはまだ早かったようだ。反省します」

「ムッ……! オルタ様の仰りよう甚だ遺憾! 坊やなどと謗るのはやめて頂きたい、私はもう一人前の男なのですから!」

 

 嘲るように横目で見遣るオルタへ反発する少年に、ユーウェインは苦笑混じりに失笑した。

 

「止せ、ガウェイン。お前の未熟さが露呈しただけの事だ」

「し、しかし兄上……」

「確かにオルタの遣り様は些か首を傾げるが、理がないでもない。どうあれ、オルタから稽古を付けて貰おうと思ったのはお前だろう。そのお前が真っ先に泣き言を言うものではあるまい」

「……確かに、そうですね」

「分かったなら良い。稽古に戻れ」

「はい。ですがその前に……兄上、その赤ん坊はどうなさったのです? まさかそれが噂に聞く兄上の養子ですか?」

 

 ん、と唸る。異様に大人しくなったランスロットは、どうやら木剣を見ているらしい。

 興味があるのか手を伸ばしているが、流石に触れさせてやるつもりはなかった。

 オルタを手招きし、首を傾げながら寄ってきた彼女へ赤子を預ける。すると戸惑って抱き留めるオルタの横でガウェインに告げた。

 

「そうだ。名はランスロット、血の繋がりはないが……そうだな、お前の甥になるのか。湖の精霊共が養育したいと申し出てきた故、明日から預けることになった。とはいえ湖に引きこもるわけでもなし、見掛けることがあれば目を掛けてやれ。オルタもな」

「甥……分かりました、では不肖このガウェイン、叔父として恥ずかしくないよう精進してまいります!」

「うん、良い返事だ。……オルタは?」

「ぇ、あ……む、無論、心得て……あっ、コラ! 髪を掴むな……! やめろ!」

 

 きゃっきゃと笑顔を弾けさせ、前髪を掴む赤子にオルタも困り顔。レアな表情に相好を崩し、ユーウェインはオルタに促した。

 

「気が変わった。ガウェインの稽古は私が引き受けよう。オルタはランスロットを連れて、アルトリア達の所に行くと良い。今日を逃せば、ランスロットは成人するまで月一でしか会えんからな」

「まことですか! 兄上が稽古を付けてくださると!?」

「……拝承しました。では、私は失礼します」

 

 期待に顔を輝かせるガウェインを尻目に、赤子を抱いている故かぎこちなくオルタは一礼して踵を返す。

 無双と謳われる兄上の剣技、その一端だけでも物にしてみせましょう! と意気込む弟に、永遠の青年は穏やかに頬を緩める。その前に乳母エレインをエスコートして、彼女を安心させてやる所からが騎士としての稽古のはじまりだ。女性を尊ぶ精神が、幾らか弱者を慮る優しさに繋がる事を期待しよう。

 

 ユーウェインは思う。己の思い描く未来に――欠かせない人がもっと増えてくれたらいい、と。そしてその中には既に、あのふざけた男も入っている。早く帰ってこいと、ユーウェインは密かに念じた。

 

 

 

 

 

 

 

 




Twitterの方でやったアンケートで、『巻いていけ(未来編の為に)』が勝利してしまったので、ダイジェスト方式を採用する場面も増えていくと思われます。無論、欠かせぬ部分はきちんと描写しますので、その点に関しましてはご安心くださいませ。

流石にね、作者もね、この調子でやると生前編完結が年末になりそうなのでやむを得ないと思いました、まる。


以下落書き
ネタが浮かんできてしまいました。
進撃の巨人を元ネタにした実況風作品。
題して【進撃の巨人‐地鳴らしは福音の足音‐】です。
原作主人公エレンをプレイヤーキャラにして如何にして壁内人類を味方にしつつ地鳴らしを完遂するかを描いていく感じ。

ちなみにR18いくかいかないか。

※やる気はありません。この落書きを見てしまった誰かに託します()

ガニエダぁ!

  • 慈悲はない(無慈悲)
  • 慈悲はある(あるだけ)
  • さよなら、天さん…!

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