獅子の騎士が現代日本倫理をインストールしたようです   作:飴玉鉛

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お待たせしました。腱鞘炎ヤバくてスマホ持てない(涙)
遅々として書くのが進みません…。痛くて気も散る…。散文になってるかもですが…お楽しみください。






60,イングランド統一戦争 ①

 

 

 

 

 嫌に湿った風が吹き、地表を攫う。

 

 将帥アンジェラの差配の下、執拗なまでに出された斥候が敵影を捉えた。

 

 青褪めた兵の貌。信じられないモノを目にし、吃りながら上げられる報告。泰然と受け止めた将帥が瞑目し、言葉短く令を下した。進発――と。

 

 敵軍集団の位置情報と進路を予測しながらの接近。

 開戦の時が近いのを肌で感じ取り、剣呑な雰囲気を醸し出していく。

 竜を模した兜を被りし純白の騎士は、軍勢を率いて王の命を思い返した。

 

 ――戦術は不要。正面からの決戦を以て敵軍を粉砕すべし。

 

 戦場に在って駆け引きを行わせないとは、狂気の沙汰だ。小細工抜きの力押しを命じた王は、戦下手の馬鹿王と謗られるだろう。国王の勅令の意図を、歴史が解明する事はないだろうから。

 だがそれでいいのだ。なぜならブリテン人を相手にする時に限り、余計な駆け引きなどする必要はない故に。何せ――ブリテン人の戦術はたったの一つ。陣形も何もなく、精強な騎士を前面に押し出しての正面突撃しかしない。戦場の華となり名誉を勝ち取ろうとするのが騎士という人種である。

 

 ならば戦術など無用。地力で勝るのはサクソンだ、正面衝突を演じた場合、負ける可能性など有り得るはずもない。

 

 二つの軍は示し合わせたように、視界を妨げる物のない平野へと向かうや、一定の距離を空けて向き合った。

 じとりとして、重さを持った空気。薄い雲に覆われた空の下、整然と整列し対峙する東西の両軍。東方は原住民である騎士の群れ、西方は侵略者にしてイングランドの覇者の軍である。

 華々しい騎士の軍勢は、騎兵と歩兵のみのたったの五百。対するは北欧戦士の血脈を継ぐ四千の大軍だ。兵力差は実に八倍、行軍を妨げるもののない、平野での決戦ならば勝負は見えていると言ってもいいだろう。――だが、サクソン人達は呆然とした。理外の存在を目の当たりにし、自軍が勝利する当たり前の結末を忘れ去ってしまう。

 

 彼らは唖然とし、東の空を見上げた。

 

 曇天に覆われた空に、太陽の代わりの如く燦々と煌めく光輝の戦艦城があるのだ。

 輝ける彼の城こそは、人類史に記されし科学と魔術の融合(オーバーテクノロジー)の産物。空想の伝説と切って捨てられ、しかし確かに実在した、幻想終焉の世に生まれた英雄が集いし武威の席――過去・現在・未来を通じ、全ての騎士達が列される栄誉を夢見る憧憬の的。

 

 だが、敵対する侵略者達にとっては、余りに身近な絶望の兆しである。

 

(なぁおい、今日のお天道様(おひさま)はどうしちまったんだ? 曇ってるってぇのに、わざわざ雲の下までお越しになるなんて)

 

 サクソンの兵が、譫言のように溢す。

 

(何言ってんだ、ありゃあ船だよ。水の上じゃなくて空の上に浮くなんてご機嫌じゃねえか……へへ、よぉぅく見たら、城にも見えらぁ。城って飛ぶもんなんだなぁ……)

 

 一つの城塞都市が宙にある理不尽。生ける神話を目の当たりにした人理の者達は我が目を疑い、此度の戦が尋常の戦でない事を知る。

 あれが噂に聞く、酔漢の戯言として聞き流されていた先住民の武の象徴。常識外の神秘、オカルトとの対峙に恐慌をきたす前に、サクソン人達は己が正気を疑う羽目に陥った。

 

「惑うな、イングランドの覇者たる(つわもの)共!」

 

 アンジェラの覇気に満ちた大音声が、浮足立つ軍勢の心を落ち着ける。

 

「物の道理より外れた超常の力は、ブリテンの蛮族共のみの特権ではない! 空にある城は気に留めるな、アレはこのオレと超常の者共に任せろ! お前たちは目の前の木っ端共を粉砕する事のみに注力すればいい! オレ達の勝利は確実! その証左を今示そう!」

 

 見ろ! と、陣頭に立つアンジェラが大きな身振りで背後を示す。軍勢が左翼の背後を見遣るや、今度は明白に驚愕した。

 ()()()()()()()()()()。否、山脈とも見紛う巨大なる白き竜が飛翔して現れたのだ。

 西方の空を埋め尽くさんばかりの巨体の非常物に、しかしサクソン人達は恐怖しない。寧ろ大いなる勇気が腹の底から湧いてくるではないか。彼らは自然と悟る。自ずと察する。

 あの白竜はサクソンが掲げる軍旗が象りし――

 

「――そうだ。我らの守護神、アルビオンである! そして見ろ!」

 

 今度は右翼の背後を示すアンジェラ。すると右翼最後尾にて、黒馬に跨っていた老人が変生する。彼こそが卑王ヴォーティガーン。原始の呪力が渦を巻いて、巨大化していく卑王が魔竜と成った。

 どよめく者等。サクソンの軍勢にアンジェラが語る。

 

「アレこそ白竜アルビオンの血を受けし者! 黒き魔竜! イングランドの覇権を現す者だ! すなわち我らの勝利を決定づける盾にして矛! そして、二頭の竜だけではないぞ――」

 

 四千の軍勢より外れ、最後尾に陣取っている傭兵団。彼らの先頭に立つ巨雄と、その麾下の異端の猛者共を女英雄は指し示した。

 

「――お前たちは知っているだろう。強壮なる傭兵、ピクト人の朋たちを! 総勢千名から成る無双の軍勢、ブリテンの神秘憑き共を根絶やしにする悪魔! 奴らを腰抜けの傭兵と混同はするな、誇り高きサクソンの兵共、お前たちは知っているはずだ! ピクト人の勇猛さを! 敵を蹂躙する暴虐を! ならば怯え、竦む事はない! 戦え、そして殺せ! このオレと共にブリテン人の猿共を殺し尽くし! このイングランドの覇権を我らのものにするぞ!」

 

 オオオォォォォォ――!

 

 盾を、鎧を叩き、鬨の声を上げる軍勢。麗しき白騎士の、戦場指揮官としてのカリスマ性にサクソン兵の士気が爆発する。彼らとてブリテン島に住んで長い、故に先代の戦いを知る。祖父が、父が戦い、そして優位に立ったのだ。ならばその子孫である自分達も勝つ。

 戦勝を確信した侵略者の軍勢の歓声に――しかしブリテンの騎士達の軍は沈黙していた。白竜を見ても、魔竜を見ても、恐ろしきピクトの軍勢を見ても恐れる素振りはなく、整然と軍列を保っている。彼らは知っているのだ、己らの英雄を。そして数多の英雄を束ねる騎士王を。

 

 八倍の敵。単騎でブリテン島ごと滅ぼし得る二柱の竜。蛮夷の王。それがなんだというのか。怯懦に塗れる事はない、自分達の戦いが、同胞達の未来を作る正義の行ないなのだ。

 長年に渡る侵略者との戦いに終止符を打ち、無繆の栄光を掴み取る為、死を恐れず戦う。騎士達はその本懐を遂げる事に一切の疑念を持たなかった。そしてそんな騎士達の赤心に応じるかの如く、彼らの上空にある戦艦城より十八もの光の柱が降り注ぐ。

 

 其れは世界の最果てにて輝ける聖なる光。

 聖槍ロンゴミニアドを路とした、英雄達の出陣の兆しである。

 

 

 

 卿ら――宿願成就の時だ。

 

 

 

 天に在る城より光の槍が投錨され、路となった柱の中から十八人の騎士と王が降臨する。 

 彼らこそ白円卓の騎士たち。黒円卓の王たち。 ケイ、ベティヴィエール、アグラヴェイン、ベイリン、アルトリア、ユーウェインを除き、白と黒の円卓に列されし全ての英雄が現れたのだ。

 綺羅びやかな騎士甲冑を身に纏った者ら。彼らが五百騎の騎士らの陣頭に立つ様のなんと壮麗な事か。だが彼らに増して、声だけで戦場に在る者達を圧する、清冽なるカリスマのなんと心地よき事。

 

 

 

 不倶戴天の敵であるサクソン人は、白い蜥蜴と裏切り者の竜擬きを引き連れて来た。滅ぼす他にない蛮族も飼いならし、この戦場に現れたのだ。これは一つの事実を表していると言えよう。

 

 

 

 戦意が高まる。騎士らの双眸に炎が灯った。

 戦艦城より軍楽隊の演奏が鳴り響く。士気を掻き立てる音の敷布を背景に、騎士王は告げた。

 

 

 

 すなわち、サクソンは認めたのだ。人ならざるモノと蛮族の助けなくして、到底我らに抗する事は叶わぬと。ならば教えてやるがいい、我らブリテンの心血――下郎如きに劣る道理なし。

 

 

 

 円卓の騎士の内、年少の青年騎士サー・ガウェインが先頭に進み出る。

 白銀の甲冑を纏った彼の手には先月、湖の乙女より齎された聖剣が握られていた。

 エハングウェンに持ち込まれた神造兵装、三振りの聖剣の一つ。

 太陽の熱線を顕す騎士剣を手に、凛々しき青年騎士は敵軍勢を睥睨した。

 高まる魔力――開戦の一撃を手向ける栄誉を任された騎士の姿に、サクソン人の統一国家ウェセックス王国の兵士らは緊張する。虚空の白竜が睨みつけ、地に在る魔竜が力を溜め、ピクトの王は太陽の燦めきなど眼中にも入れずに宙の城を見詰めていた。

 

 王の玉声に、熱が籠もる。比類なき覇の威力は、味方に無限の勇気を。敵に死の悪寒を覚えさせる。ブリテンの王は、遂に命じた。決戦の火蓋を切る始まりの勅令を。

 

 

 

 憎きサクソンの所業を思い出せ。悍しいピクトの悪行を思い出せ。夷狄は先祖伝来の土地を奪い、虜としたブリテンの民を奴隷とした。男を殺し、女を犯し、子供を喰らい、流れた涙を笑い、募った憎悪を啜り、尚も足らぬと奪い、壊し、虐げてきた。この屈辱を晴らすは今だ。――進軍せよ。侵略者の流した血と、積み上げた骸の数だけ、我らの国に静謐の齎される日は近づく。戦え我が騎士らよ。卿らの背には、守るべき民の……父と母、妻や子の安寧がある事を忘れるな。命令はただ一つ――殺せ。侵略者を、殺せ。進軍せよ!

 

 

 

「――来るぞッ! 総員、抜剣! ウェセックス王国の興亡は、この一戦に掛かっている! 勝利への路はこの手で拓くぞ、全軍――オレに続けェッ!」

 

 従兄より預けられた『凍える冬の魔剣』を抜き放ち、白き竜騎士が白馬を駆りて疾駆する。鬨の声を上げてサクソンの兵が追従した。

 先頭を往くはサクソンの姫。古今無双の女騎士。悪名高き『叛逆』の銘と、誉れ高き『英雄喰い』の勇名を手に、ブリテンの白騎士――ガウェイン目掛けて疾走する。

 

 太陽の騎士ガウェインは、両の目でしかと敵を見据えた。

 そして、聖剣を虚空に放ち、充填していた魔力を開放する。

 

「――この剣は太陽の現身。あらゆる不浄を清める焔の陽炎!」

 

 中空に放たれた聖剣が焔の柱と化す。太陽の光となった柱がガウェインの手に収まり、触れるもの悉くを溶解させる破滅の光を解き放つ。

 

転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)――ッ!」

 

 開戦の号砲が鳴らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ先に動いたのはアンジェラだった。

 だが何よりも疾く先頭に躍り出たのは、意外にも黒き魔竜である。

 サクソンの兵たちの頭上を滑空し、魔竜の巨体が襲い掛かるは地上の英雄。薙ぎ払われてきた太陽の聖剣による一撃を大きく開いた顎が喰らい尽くした。

 驚愕に目を見開くガウェイン。魔竜ヴォーティガーン――星の聖剣エクスカリバーの極光すらも飲み干す、暴虐の化身たる卑王にとって、星の聖剣にも及ばぬ太陽の聖剣など恐れるに値しない。

 ――円卓共を殺す。雑多な騎士共など余波でも殺せる。ヴォーティガーンの頭には、如何にして天空に在る化け物を、白竜や白騎士、ピクトの王に押し付けるかしかなかった。

 アレの相手をするよりも、ブリテンの誇る神代の英雄らを纏めて相手にする方が良い。戦艦城の艦首に立ち地上を見下ろす騎士王の視線に怯えながらも、魔竜は決死の思いで先ずはガウェインから殺してやろうと息を溜めた。――瞬間である。

 

「防げッ! ヴォーティガーンッ!」

【………!?】

 

 アンジェラの警告に、魔竜は反射的に従った。急制動を掛けて、翼で自身の体を包み込み、原始の呪力を最大で放ち防御態勢を執る。それと同時だった。遠く地上から離れた戦艦城の艦首にて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。呪力を切り裂かれ、直撃を受けた魔竜の背に大きな裂傷が刻まれる。激痛に悲鳴を上げて墜落した魔竜――防御していなければ首が落ちていた。その確信に恐怖して、魔竜が戦意を喪失しかけるも。その無様さを嗤える者など何処にもいなかった。

 ――いや。いた。

 ただ一人、いいや、群れが嘲笑を湧かせる。裸身に緑の戦化粧を施した、強靭なる蛮族どもだ。嗤いながら駆け出した戦士達。その先頭の王が屈み、満身に力を込めて跳躍する。

 

 ピクトの王フアイル・マヴ・カウ。魔竜を一撃で撃墜して太陽の騎士を救った様を見て、彼は一見のみで全てを見抜いていた。戦闘本能のみで、知ったのである。空のアレを前に、デカさも、硬さも、無意味であり。アレを殺さずして勝利など有り得ぬのだと。そして白竜と魔竜では、アレからするとただのデカい的にしかならぬ、と。

 高揚している。ピクトの王は嘗て無い胸の高鳴りに恍惚としていた。微かに残った理性で配下の戦士達に、地上の敵の駆逐を命じ、蛮王はただ一度の跳躍で天空の戦艦に向けて辿りつかんとしていた。

 

「――主砲、照準合わせ! 撃て!」

 

 戦艦城の艦橋にて、鉄の騎士アグラヴェインが命じる。

 艦首の真下にある砲塔が、飛翔してくる蛮王目掛けて解き放たれた。

 其は最上の聖槍による全力砲撃。騎士王の承認の下に預けられた一撃。

 光の槍が迫るのに――しかしフアイルは両腕を広げ、真正面から()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()腕で、戦艦城に手刀を突き刺し。腕力のみで身を翻した蛮王が艦首に着地する。

 

「……呆れた奴だ。担い手である私が放ったわけではないとはいえ、聖槍の光を浴びていながらまるで痛痒を覚えていないとはな」

 

 失笑して、蛮王を迎えるのは騎士王。聖刀を収め、神話礼装を抜剣した騎士王を睨みつけ、蛮王は笑顔で告げた。たどたどしい、ケルト語を。

 

「オレ、オ前、好キ――抱キ締メテヤルゾ」

 

 緑の原始巨人のにこやかな笑顔に、騎士王ユーウェインはその武威を肌で感じて嘆息した。

 

「気色の悪い事を抜かすな、ピクト人」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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作者は騎士王一択。

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王様系英霊。付いていくなら誰?

  • 征服王イスカンダル
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