獅子の騎士が現代日本倫理をインストールしたようです   作:飴玉鉛

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最終話はもう近い。ハードな展開にやられた人、もうちょっと耐えてや。ワイのメンタルが耐えきれたらFate的ハッピーエンドはもうすぐや!





75,かみのこ、おうのこ、ひとのこ

 

 

 

 

 

 越えてはならぬ一線。

 

「母上。我が妃が何者かによって攫われた。貴女は何か知っているな? 答えろ、妖妃モルガン。事と次第によっては、私は貴女を斬り捨てねばならない」

 

 一線を越えた疑惑。

 

「久方ぶりに面会に来たかと思えば、開口一番にそれか。妾のイヴァンも随分と冷たくなったものだ。妾は哀しいよ、よもや愛する我が子が殺気を伴って現れるとは。胸が引き裂かれる心地だ」

 

 揺るがぬ確信。

 

「……まともに答えるつもりはないのか?」

 

 冷たい殺意。燃える敵意。

 

「ある。だがよいのか? そなたは以前に言ったはずだが。もう二度と会う事はない、しかしそなたが妾を赦せる時が来るまで、命を預けておくと。そなたが死ぬのは、妾に引導を渡した後だとな」

 

 子は母を敵と見定めた。

 

「何事もケースバイケースという奴だ。私は過去の私ではない、そして貴女には私の勅令を反故にした疑いが掛かっている。疑わしきは罰せよ、罪あらば裁け……私が貴女から学んだ事だ、モルガン」

 

 だが。

 

「フフフ……うん、それでいい。王らしくなった、もはや王としてすら妾の父王を超えている。自らの言に責任は負っても、縛られてしまうのは愚かしいからな。昔のそなたにはそれが出来なんだ」

 

 『敵』は、的確に『王』の側面を突く。

 

「戯言で煙に巻く気か?」

「否。否だよ妾の……いいや。いいや、もうイヴァンと呼び幼子のように扱えぬ王よ。戯言などで誤魔化されるそなたではあるまい? 故に正直に答えようとも。――さぁ、聞きたい事を糾すといい」

「……我が妃を拐かしたのは貴女か」

「否定する。妾はこの神殿から一歩も出ておらんし、策も練っておらん。誰にも会わず、連絡もせず、魔術も使わず、優雅に空を眺めるだけの日々を送っておったのだ。妾は何もしておらぬよ」

「――私が何も知らぬと思っているな。()()……()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()? ()()()()()()()()

「ほう……」

 

 妖妃は感嘆した。そこへ気づいたのかと。

 気づいた上で――アレを友と呼んでいるのかと。

 

「ニコールの霊基を取り込んだ時、全てを知った。だが侮るなよ――あの男は私の友だ。例え私の為に生きるように設計されていようと、私と共に生きたニコールの生涯は、何者にも謗られる謂れはない。造物主であっても、私の友を軽んじる事は赦さん」

「至極尤もだ。元よりあの者を操る事など妾にも叶わなかった。アレがそなたの許で生きたのも、死んだのも、全てアレが決めた事よ。で――妾がホムンクルスを野に放っていたのかという問いだが、答えは是だ……おっと待て、妾を斬るにはまだ早い」

 

 極刀の柄に手をやった王に、敵は。

 騎士王最大にして最悪の仇敵は、両手を上げて降参を訴えた。

 

「妾が創造し、活動していたホムンクルスは一体だけよ。名はモルゴースだ。だがそれに妾が命じたのはただ一つの使命……そなたの調律よ」

「……なに?」

「今こそ話そうか。妾はそなたが幼い頃……妾は凡庸な肉体を改造した」

 

 語られるのは、騎士王の誕生秘話。

 

 次第に険しくなる魔人の貌。

 友の肉体が、亡き実の弟妹達を用いて鍛造されたという悍しい真実。

 そして自らの肉体と才覚が創られたもので……。

 妖妃が理想的と感じた精神から外さぬ為に、『不変』のギフトで縛っていた現実。

 

「妾のギフトはそなたをそなたのまま、他に迎合できず、共感できぬままに固定した。既にそなたは妾のギフトを完全に取り込んでいる故に、最早不要な祝福であろうがな……デメリットとして、そなたは溜め込んだ感情エネルギーを排出できず、そのままであればそなたの心は壊れ廃人と化していた事だろう。故に――半夢魔たるアンブローズが一時そなたの許にいる事を許容したのだ。そしてアンブローズの代用品が造れた故にアレは排除した。その代用品がモルゴースよ。そなたの心が壊れぬように、夜な夜なそなたが眠っている間に感情エネルギーを排出させていたのだ。妾が命じていたのはそれのみだ。まあそのモルゴースも、活動限界時間を迎えておるがな。最近はそなたの許に現れてはいまい。今頃モルゴースは生きているのか死んでいるのか……妾も知らん」

「……………」

 

 王は、無言で自身を見下ろした。

 今まで『有って当たり前』であったが故に、気にも留めていなかった。

 しかし、有る。確かに有った。

 鳥肌を立たせた王は少し刀を抜き、鍔を鳴らしながら納刀する。

 斬撃。それが、『不変』のギフトが象っていた枠を両断した。

 

 だが今更だ。

 魔人の在り方は、長年の末に固着し、彼の変容を食い止めるのが当たり前と化している。

 故に斬っても殆ど意味がない。魔人は変わらない。

 しかしデメリット――感情を自然に排出できない欠陥だけは取り除かれた。

 心量の莫大さも変わらないだろう、感情で変貌する事もない。

 だがこれで、彼の軛はなくなった。

 

「流石だ。全く理解不能な業だよ。であれば――その『視たいものを選んで視れる魔眼』で妾の言に偽りがないことも分かろう?」

「……ああ。遺憾だが、確かに貴様は嘘を吐いていない。では訊こうか、貴様は確かに私の妃に手出しはしていないらしいが、心当たりはあるな?」

「ふむ……あると言えば、ある。しかし確実ではない故に、少しだけ未来を見透してみよう。妾が千里眼を用いてもよいか? 妾は王に忠実だ、そなたの赦しなく未来は視れぬよ」

「……いいだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()視る事を赦す」

「承った」

 

 にこりと微笑み、妖妃は悠然と瞑目し――その上で激しい頭痛を堪え、未来を視る。

 

「……喜ぶといい、誉れ高き騎士達の王よ。そなたの妃は、明日には帰ってくる」

「なんだと」

「断言しておこう。妾が偽りを述べていないか確かめながら聞け。――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()。……どうだ、不安は晴れたか?」

「…………」

 

 王の魔眼が、克明に妖妃の言葉を視覚化し、偽りの色に染まっていないのを映す。

 

 念の為、彼は神殿内部を視た。視たのは、物質に宿った記憶だ。

 流石に生命体の記憶は覗けないが、単なる物質であれば視る事が出来る。

 何年も前に神殿に封じられた妖妃を、その始まりの日まで遡り検めた。

 妖妃は――神殿どころか、この部屋から一歩も出ず、漫然と窓から空を眺めている。

 それだけだ。ほんとうに、妖妃は何もしていない。

 常人なら気が狂って死んでいるだろうに、退屈が心を殺しているだろうに。

 妖妃は正常なまま、何もしていなかった。

 

 精神構造が人のそれではない。完璧に、妖精――旧き神のものなのである。

 

 舌打ちした魔人は極刀を仕舞った。

 彼の勘は、明確に怪しいと告げている。だが証拠がない。

 もどかしげに歯を食いしばり、王は妖妃へ背を向けた。

 その背中に、妖妃は慈しみに満ちた言葉を放つ。

 

「いい加減、親離れした方がよいな、王よ」

「――ほざいたな。私が……親離れしていないだと?」

 

 ぴたりと脚を止めた王は、振り向きもせずに反駁した。

 妖妃は、微笑んでいる。

 

「していないであろう。そなたは妾が怪しいと思っている。であれば問答は無用だ、そなたは妾を斬ればよい。なのに斬らぬまま去ろうとした、親離れができていない証拠だ」

「ふざけた事を。子離れもできていない貴様と、貴様との訣別を済ませた私を同列に語るな」

「妾は子離れを済ませたよ。他ならぬそなたに、この神殿に封じ込められた時に」

 

 そう言った妖妃を、王は振り返る。

 穏やかに微笑む妖妃の美貌に――嘘はなかった。

 

「妾に残された望みはたった一つだ。それが果たされる時を妾は待っているに過ぎん」

「……望み?」

 

 ――反駁した事を、魔人は後悔した。

 せめて目を逸らして聞けばよかったのだ。

 妖妃は美しく、透明な笑みを湛えて言ったのである。

 

「妾はそなたに斬られて死にたい。妾が過去の遺物となる前に、古い友と同じ様に逝きたいと切に願っている。そなた以外に妾を斬れぬ……いいや、そなた以外の刃で死んではやれぬ、と言うべきか。故に待っておるのさ、子離れを済ませた妾を、親離れしたそなたが斬り捨てる時を。――今はまだその時ではないらしい。残念だ」

「………………」

 

 王は、顔面を歪め。苛立ちを押し殺し、禁じられた神殿を去る。

 青年は――永遠に腐らぬ不変の魂は、想った。己は果たして、母を斬れるのか、と。

 斬りたくないと思ってしまう心が、青年の心を責め苛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 果たして、妖妃の言葉は真実であった。

 キャメロットにて報せを待っていた王の許へ、湖の騎士と共に妃が帰って来たのだ。

 

「――無事だったか、アルトリア!」

 

 キャメロットに帰還した王妃を出迎えた王は、一目で分かる安堵を満面に浮かべていた。

 風雲急を告げる凶報、王妃の拉致事件。この事態に際して王国は挙国一致し解決を図っていたのだが、王妃は自らの手で不埒者を成敗し、自力での帰還を果たしてしまった。

 捜索に駆り出された騎士達は無駄骨だった訳だが、そんな徒労を気にする者はおらず、ただただ麗しの王妃の帰還を喜び、王もまた素直に自らの妃の勇猛さに感心した。

 

「………?」

 

 一瞬。そう、ほんの一瞬。平素な妃の貌に、怪訝な目を向けた王だったが、観衆の目もある為かすぐに表情を戻した。

 大々的に勝利王の帰還を取り沙汰し、祝宴を開いた王。宴の席で誰しもが殺到して、王妃へ何があったのか訊ねた。センセーショナルな話題なのである、中には下衆の勘繰りを以て近づく者も居た。

 そこで勝利王たる妃は、完璧な微笑を湛えたまま実情を語った。曰く――妃の許へ挑戦状が届けられたのだ。その者はサクソンの王に仕えた宮廷魔術師であり、ブリテン島から追い出された同胞と、今も同地に残る同胞の怨みを晴らす為に、近く大規模な襲撃を仕掛ける、と。

 無辜の民草を重点的に狙い殺戮する。止めたくば指導者である自分を討ちに来るといい。もし一人で来なければ自分は潜伏し逃れるだろう――妃はこの挑戦に乗り、そして老魔女を討ち果たした。

 語られる戦いの様相。決着の瞬間――手に汗握るとはこのことか。妃として経験を積んだ勝利王の語り口は真に迫り、殆どの観衆は固唾をのんで最後まで話を聞いて、妃の勇気と義心を称賛した。

 勝利王アルトリアの勇名は史に記され、語り継がれるだろう。騎士の鑑だとすら大衆は絶賛した。アルトリアの成した武勇伝として、表向きはそういう話として決着することになったのだ。だが――勘が良い者、演出された場の空気に呑まれず冷静だった者には嘘だと見抜かれた。しかし追求はできない。他ならぬ絶対者、騎士王が勝利王の武勇を讃え、妃の語った話を『これが事実だ。詮索するな』と暗に示していたからだ。

 

「――何があった?」

 

 捜索に当たっていた騎士達を下がらせ、自身は妃を伴って自室に籠もり、近衛騎士に人払いを命じた王は端的に問い掛けた。

 

「何も。先程の話が全てですよ、ユーウェイン」

 

 だが、アルトリアは頑として口を割りそうになかった。笑顔の仮面を貼り付け、懸命に隠し通そうとする様に、ユーウェインは沈黙する。何かがあったのだと、明らかに見て取れる反応だ。

 ユーウェインは黙って、アルトリアを見詰める。目と目を合わせ、見つめ合う。

 顔色が悪い。肩も震えている。嘘を嘘と見抜かれていると悟っていても、アルトリアは何も言わなかった。頑迷にも見えるほど、口を噤む。アルトリアは徹底していた、ユーウェインの魔眼が無機物から記憶を覗けると知っている故に、纏っていた衣服や手荷物はあらかじめ処分されている。嘘を看破されても強固に口を閉ざし押し通そうとしていた。最適解だ。

 ユーウェインは、半刻にも亘る根比べに白旗を上げた。こうなったアルトリアは、絶対に折れないと彼も知っているのである。だから遣り方を変えた。

 

「俺を信じろ。お前は自分の夫を信じて真相を話せないのか?」

 

 瞳が揺れる。心も揺れる。しかし、アルトリアは言った。

 泣きそうな貌で、今に決壊してしまいそうな辛そうな貌で。

 

「――いいえ。貴方を信じているからこそ、言えないんです。分かってください。私にこれ以上何も訊かないで……お願いします……言ってしまったら、私は耐えられなくなる……」

 

 一般的な夫婦であれば、妻のこの言い分に、不倫の可能性を浮上させていただろう。

 しかしユーウェインはそんな可能性を思い浮かべもしなかった。

 だが泣きそうな自分の女を、そのままで頷くほど易い男でもない。ユーウェインは言った。

 

「ばかか、お前は。俺はお前に耐えろとは言っていない。耐える必要はないんだ、アルトリア。耐えられなくても俺が居るだろう。俺によりかかれ、辛い話を溜め込むな。健やかなる時も、病める時も、共にいて共に悩む、対等のパートナーになると誓ったはずだ」

「ユー……ウェイン……!」

「良いんだ、耐えなくて。だから何があったのかを教えてくれ。俺はお前の夫で、俺の妻はお前なんだよ。辛い時にこそ支え合えなくて何が夫婦なんだ。アルトリア、俺に縋れ。例え何があっても俺はお前の味方だ」

 

 抱擁されて、見開かれた双眸から滂沱するもの。涙腺が決壊し、高潔な志を纏い錦の旗を掲げてきた気高い少女は、声を上げて泣いた。

 外見相応の少女のように。アルトリアは耐えられない痛苦を吐き出すように泣き喚いた。

 そうしてアルトリアは嗚咽し、吃りながら、声を枯らせながら真相を告白する。背中をとんとんと優しく叩きながら、少女をあやす青年は相槌だけを打ってアルトリアの苦しみを受け止めた。

 

「堕ろそう」

 

 全てを聞いたユーウェインは言った。え……と、アルトリアは呆然とする。

 サクソンの魔女を名乗る外道の事などどうでもよい。誰と誰の子がユーウェインとアルトリアの子と融合させられたかなど知らん。抱擁を解き、両肩に手を置いて、目線の高さを合わせたユーウェインは、アルトリアの瞳を見ながらはっきりと伝えた。

 アルトリアは、しゃくり上げながら反駁する。

 

「で、でも……半分は、半分は私達の子供、なんですよ……?」

「だがお前の重荷になっている。いいかアルトリア、履き違えるなよ。俺は、お前との子供であるロオも愛している。二人で生み育んだ命だからだ。だが、その子はまだ生まれてもいない。お前とお腹の中の子供、どちらが大切かなんて考えるまでもないだろう」

「い、いいんですか……?」

「よくはない。罪もない赤子を殺そうとしているんだ。それでもお前は悪くない、俺が勝手にやる。全部俺のせいにしろ、この罪は俺のものだ。俺の判断で子供を堕ろす。アルトリア、お前は悪くない」

 

 悪くない。その言葉にアルトリアは、胸を塞いでいた思いが軽くなる気持ちになった。そんな自分を責めたくなる。しかし自分を責めるなと、ユーウェインの目は雄弁に語っていた。

 罪は全て俺が貰う。だから安心しろと彼は言っているのだ。それに甘えたくなって、甘えては駄目だと思って……アルトリアは滂沱の涙が再び溢れるのを止められなくなる。

 一頻り泣きじゃくる妻を、ユーウェインはもう一度抱き寄せて胸を貸した。ピクトの血は根絶やしにする、それは絶対に覆らない。そのために、自身に仕官してくれたトリスタンも殺すのだ。自分の子供だからと見逃していいわけがない。まだ生まれていなかったから、辛くはあるが耐えられる。耐え続ける人生だ。それでもいい、構うものか。何故なら己は男で、父で……夫なのだ。

 

 ――()()()()()()()()

 

 これで終わらない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――ち、父上! 大変です、外をご覧ください!」

 

 扉の外で待機していた近衛騎士オルタの制止を振り切り、あまつさえ王を父上と呼んでしまうほど慌てているランスロットが、扉をノックもせずに入ってきた。慌ててユーウェインから身を離すアルトリアに面食らいながらも、ランスロットはそれすらも捨て置き叫んだ。

 不敬である。何より失礼である。だがランスロットの尋常ではない形相に、只事ではない事を感じたユーウェインは、テラスの方へ向かい戸を開くと外を見た。騎士道を体現するランスロットがこうまで慌てているのだ、彼の無礼を咎めるのはその後だ。

 

 そこで見たもの。それが――長きに亘る騎士王伝説最終章の入り口だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 其れは、天啓。

 清浄なる地上の理想郷、キャメロットの上空に、聖なる光纏いて降臨せしモノ。未開の地に主の教えが広まり、機が熟したと判じた故、主の威光を知らしめんが為に主は試練と救いの糸を垂らす。

 主の御使いとして現れたる白磁の有翼広げしは、天使。天使ミカエル。

 民衆は。騎士は。王が倫理として浸透させんと働き掛けてきたモノの実在を見る。聞く。

 あまりの光輝、あまりの聖性。呆けて見上げる、天使の姿。

 奇跡だ。この一幕は確実に聖書に書き足されるほどの奇跡の光景だ。

 

 

 

「これより生まれ(いず)る王の御子は、大いなる禍を齎す悪魔である」

 

 

 

「お、おのれ……ッ! 妾の邪魔立てをするか、ヤハウェ――傲慢なアラヤ……!」

 

 ――妖妃の影モルゴースは、やり過ぎた。

 神殿の窓から天使を見た妖妃は、歯噛みして憤怒を燃やす。

 モルガンは王の子を取り出すだけにするつもりで。攫った子と、災厄の子を同時に手元で育て、手駒とするつもりでいた。だがモルゴースはモルガンの記憶と能力を精巧に再現されたモノだが、妖精エリウの性質として子を親から引き離す事を忌避した。

 故の融合、だからこその措置。それがモルガンの想定を歪め、王の決意を呼び、王の決意に呼応した人理の意思が――形となった唯一神が好機の到来を確信し動き出した。

 

 

 

「しかし禍の子を真に洗礼せしめたなら、この国と民は永遠の栄華を築くであろう」

 

 

 

 最後に地上に残った人理及ばぬ地に、神秘を駆逐する物理法則の施行。その大義は全てに優先される。――ブリテン島の外であれば簡単にはいかないが、ブリテン島内であれば話は別。ここで撃ち落としてやろうと殺意を燃やすも、王の勅令がある故にモルガンは動けない。

 歯噛みする。アレが現れ、己の下には王の子が運ばれて来なかった事で、モルガンは自身の策が狂った事を理解した。そうして妖妃は王妃の腹にまだ王の子が居て、怪物の子も同様であると悟る。

 そして王の勅令が妖妃を躊躇させ、自身に手出しができないように。王もまたアレに手出しができないだろうと理解していた。抱える怒り、如何ばかりか――果たして妖精王は怒り狂っていた。

 

「……おのれ。おのれ、ミカエル。おのれヤハウェぇぇえ……!」

 

 目が充血するほど開眼し、握り締めた両の手からミシミシと空間の拉げる音を立て、強制的に人の夫から人の王へ変わらざるを得なくされたユーウェインは赫怒を懐く。

 手出しできない。できる訳がない。民心を慰撫し、精神の在り方の教材として基督教を広く民衆へ認知させたのは、他ならぬこの騎士王なのだ。ドルイドの神を斬って、ドルイドの衰退と消滅を決定づけた故に、信仰の行き場を失くした人々の為……巨神ダナン討伐より十年以上経った今、基督教こそがその後釜として民達の心に根付いていき始めている。教会を建てたいという声も出始めていた。ここで騎士王が天使を斬れば――否、下手人は解らずとも天使が害されたなら、信仰は大いに揺らぎ混乱を生む事になるだろう。

 

 そんな事は、王として絶対に看過できない。だからユーウェインは激怒していた。

 

 

 

「人よ、悪魔を洗礼せよ。並ならぬ悪魔に洗礼を与えるには奇跡の器――【聖杯】が必須である。王よ、悪魔を洗礼せよ。聖杯を探し出し、泉の水を器に汲み、悪魔に与えよ。さすれば悪魔(ピクト)は去り――聖なる子、王の子のみが残るであろう」

 

 

 

 大衆の目に触れ、基督教を信仰する者は信心を深め。信仰していなかった者も信心に目覚め。平伏して天使の降臨を有り難きものと受け止める。

 周知された。認知された。隠し通せぬ、秘密裏に堕ろせぬ。呆気に取られるアルトリアも、赫怒するユーウェインも、誰にも最早止められない。聖杯を、探し出し。悪魔を洗礼し。以て永遠の栄華とやらを求める声に、王たる者として応じねばならなくなった。

 

 騎士王伝説最終章、二十年にも亘る聖杯探索の始まりだった。

 

 人理の侵食が、遂に本格化する。

 

 

 

 ――王は王として、しかして夫として。案を折衷し、産まれた子を島流しする事を決定した。悪魔を国に置いてはおけないと、表向きには公表して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やはうぇ君
・今作では人理確立の為に形になったもの。西暦五百年ぴったしに真エーテルが綺麗に枯渇し無くなったとかおかしい……おかしくない? ソロモンの件とか、ソロモンの死後に神秘が衰退していくとかどう考えてもアラヤの回し者にしか見えない。むしろアラヤなのでは……? 色々作為を感じなくもないのでオリジナル設定ぶっこんだ。それがこれ。

せいはい君
・奇跡の力で悪魔を分離させられるよ! 絶対手に入れなきゃね!(強制)

もるがんP
・色々計算外が起こった。感想欄で読者に掌ドリルさせることに定評がある。プーリン事件とかいろいろ。功罪ありすぎてお気に入り&解除、高評価からの低評価を多数齎し作者のメンタルブレイクにも繋がった。おのれもるがんP。fgoでも多分出るけど本作とは別人。

ゆー君
・色々キレそう。今一番斬りたいのは有翼の不審者と人理やはうぇ君。

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