獅子の騎士が現代日本倫理をインストールしたようです   作:飴玉鉛

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ぉまたせしました…。


80,国の親、親の心労

 

 

 

 

 

 聖杯探索を初めてより数年。手掛かりは何も得られないままだった。

 

 宮廷魔術師マーリンによると、聖杯とは2種類あるらしい。一つが単なる魔力リソースとしてのものだ。これは『聖杯』の名を冠し、願望器としての力はあるが、蓄えた魔力の範囲内でしか願いを叶えられない代物らしい。こちらは珍しいものではあっても、複数個存在してもおかしくはなく、神域の天才が身命を捧げれば人為的に作り出せる可能性もあるらしい。よってこれは不要だ。

 話に聞く限り、()()()()()で予言の通りの奇跡は起こらない。万能の願望器とやらは、願いを叶えようとする者の想像力が及ぶ範囲内でしか、その効力を発揮できないだろうからだ。

 想像力の及ぶ範囲内なら、とうの昔に実現できている。悪魔と人を斬り分ける想像が、この身はおろか他の何者にもできなかったから難儀しているのだ。膨大な魔力を用いての人為的な奇跡などで、都合の良い結果を手に入れることは不可能だと断じざるを得ない。

 

 本物の聖杯とは、基督教の聖遺物を指す。救世主キリストが最後の晩餐に用いたとされ、本来聖杯とはこれを称するという。杯の形をしていないこともあるという前者の聖杯とは違い、本物の聖杯は正真正銘の杯の形状を持っているらしく、この聖遺物は過去確かにあったというから、聖杯が地上のどこかに存在することは疑いようはないだろう。

 では何処にあるのか? 基督教圏であるのは間違いない。でなければ予言が成り立たない。外国にあることも考えられなかった。聖杯なんて物を手に入れているなら秘匿せず、大々的に喧伝しているだろうからだ。そうして国の大義を謳い上げ、自国を絶対の正義にする。

 国が持っておらず、個人が手に入れ秘匿していたとしても、超抜級の聖遺物を隠し通せはしないはずだ。なんらかの痕跡、あるいは気配のようなものは残るであろうし、そうであるならマーリンが既に見つけ出している。そのマーリンが見つけられていない時点で、諸外国はおろかどの個人も聖杯を手に入れられていないことになった。これはもはや絶対の前提条件である。

 

 以上のことから、聖杯はまだ実体を持っていないか、位相の異なる次元に隠されていると判断できた。そして予言を成就させる気がヤハウェにあるなら、聖杯は間違いなくブリテン島にある。

 位相の異なる次元に隠された聖杯を探す……具体的な座標さえ掴めたら、騎士王になら見つけ出せるだろう。だがその座標が不明なのだ。どうしようもなかった。

 

「今回も駄目だったみたいだな」

「は……申し訳ありません」

「責めているわけではない。だがこのままだと、困ったことになる」

 

 玉座の間には、ユーウェインと一人の騎士だけがいる。

 なんの因果か美形揃いの円卓でも、最も優れた美貌の持ち主と讃えられ、更には円卓第二の騎士と称される英傑だ。名をトリスタン、聖杯探索を行なう騎士の筆頭である。

 真紅の長髪を背に垂らし、愛剣である『慈悲の剣カーテナ』を差したトリスタンは、定期の報告にてなんの成果もないことを詫びた。ユーウェインは無表情のまま応じ、トリスタンの許に歩み寄る。

 

「時にトリスタン卿、今回貴公を召喚したのには理由がある」

「……なんでしょう」

 

 いつもなら、トリスタンは報告に来ない。ユーウェインは報告に部下を寄越せばいい、わざわざ戻って来て報告する手間を掛けるぐらいなら、聖杯を探し出すことに注力しろと言っていたからだ。

 なのに呼び出された。トリスタンは一向に手掛かりを得られないことを責められるのだと思っていたようだが、探している物が物だ。責めるのが酷なのはユーウェインも重々承知している。こんなことで忠義の騎士を叱りつけるような、狭量な主君になったつもりはない。

 

 しかし、ユーウェインは一区切りを付けようと思った。いい加減トリスタンに伏せておくのも不義理であるし、なにより()()()()()()()からだ。

 

「面白いものを見せてやろう。そら、私の手には何がある?」

 

 一足一刀の間合いに立ち空の手を差し出す。訝しげなトリスタンにユーウェインは冷淡な貌のまま。もしや透明な何かを握っているのかと、微かに目を開いて見詰めるトリスタンの前で――肉体自体が神造兵装の域にある聖剣王は、無色透明の刀を形成してみせた。

 驚嘆して瞠目する慈悲の騎士、嘆きのトリスタン。其れは魔力ではない、異能でもない、それは物質として存在しない、人間なら誰しもが有する想像力が生み出した空想の刃。極刀を模した刃渡りを、トリスタンは寸分違わず確実に見て取れてしまう。

 実在の剣を持たずとも、気迫一つで鮮明なイメージを想起させ、物理的なダメージを受けたと錯覚させる。空想に過ぎないはずの刃は現実の物質も破断せしめるだろう。遠見の水晶のように、遥か彼方から視ている者でもこのイメージに灼かれ、質量を感じ取ってしまうのだ。

 

「私が目的のものを斬れないのは、想像力が足りないからだと思ってな。小賢しい小手先の業だが、なかなか面白い手品を身につけられたと思わないか?」

「……凄まじい剣気ですね。それで斬られてしまえば、たとえ意思持たぬ無機物でも両断されてしまうでしょう。世界そのものを騙せてしまえる、斬撃のイメージ……怖い御方だ」

「そう褒めるな、所詮は戯れだ。が、児戯としては上等だろう? とはいえ貴公に見せたかったのはこれではない。そうだな……トリスタン卿、構えるがいい。これから貴公に斬り掛かるぞ」

「は……?」

 

 突然の勧告にトリスタンは呆気に取られた。だがユーウェインが微かに殺気を放射すると、反射的に彼の肉体は臨戦態勢になる。

 弓兵としても最上位に近い実力者だが、剣士としてはそれを上回る伝説の騎士である。反応は迅速であり、王に斬り掛かられることに『なぜ、どうして』などという余分な動揺は付いてこない。トリスタンは慈悲の剣を抜き放って王に相対した。

 それを見て取ったユーウェインが、ゆるりと始動する。まるで散歩でもしているかのような緩やかな歩みでトリスタンの間合いに侵入し――慈悲の騎士を以てしてもピクリとも反応させない。

 トリスタンは目を限界まで見開く。自身の首元に、空想の刃が突きつけられていたのだ。冷や汗を掻いて固まるトリスタンの反応に、ユーウェインはやはり冷徹な眼差しのまま空想を解いた。

 

「見えたか、トリスタン卿」

「――は、い。……()()()()()

 

 そう、見えていたのだ。ゆっくりと、むしろ遅いほど緩やかに動く王が。

 意識の間隙を縫ったとか、死角から死角に動いたとか、そんなものではない――それならトリスタンは反応してのけた。だが文字通り動けなかったのだ。どれだけ念じても。

 慄然として総身に鳥肌を立たせる騎士へ、ユーウェインは淡々と解説する。

 

「これはな、フアイル・マヴ・カウの首を刎ねた技だ」

「ピクトの王を……」

「なぜ貴公ほどの男が反応できなかったか分かるか? それはな、私は今、時間にして()()()()()()()()からだ」

「……は?」

「分からんか。私は今二回斬撃を放ったと言っている。時間の流れを斬り、その隙間に入る時点で一度、二度目は貴公に剣を突きつけるところだ。早い話、防御も回避も()()()()わけだよ。零時間なのに相手の目に映ってしまうのは……単なる残像だな。私が動いたという結果に合わせて、現実が過程を補正して相手の瞳に映しているのさ。貴公が見た気になっているのはそれだ」

「………」

 

 唖然とするトリスタンに言葉はない。それが事実なら――無敵ではないか。

 

 たとえどんな者だろうと、この剣技を前にしては生き残れない。絶対の死を約束されてしまう。……トリスタンを上回る技量の持ち主、ランスロット卿が言っていたことが理解できた。

 彼は言っていた――騎士王の剣技は、魔剣である。何者も再現すること能わず、敵対すれば一合と斬り結べぬまま屍を晒してしまうだろう、と。幾ら王が強くとも、流石にそれはないと自負していたトリスタンだが、もう賛同するしかない。無双――本当の意味で王は最強だ。

 

 なのに、王は恐ろしいことを言った。

 

「私は更に三段階、今より上を行ける」

「―――」

「魔力で肉体を強化して一段、実剣を振るって一段、この身に宿る様々な因子を解放してもう一段だ。上に行っても特に意味はないが……つまるところ、この技には魔力も何も要らんわけだな」

「れ……連続して放てる、と……そういうことですか」

「その理解でいい。どう言い訳したところで剣術は殺人剣だ、敵を殺すのに無駄な労力を費やす必要はない。最小の力で、目標だけを、最速の内に斬る。これだけでいいし、一撃だけしか放てん技など欠陥品以外の何物でもあるまい。……ああ、剣理の哲学などはどうでもいいんだ。そんなことより、貴公にこれを見せた理由も言っておこう――」

 

 ユーウェインは空想の刃を握っていた手で、トリスタンの肩に手を置く。そして彼の耳元で王は囁きかけた。

 

「――貴公を殺さねばならんからだよ。とっておきを見せてやったのは、謂わば手向けのようなものだな。私に斬られてあの世に逝ったとなれば、地獄の底もさぞかし通りがよかろうさ」

 

 一瞬。

 どころか数秒。

 いいや、それでも足りない。数分は沈黙させられた。

 脳内に渦を巻く疑問。恐怖。困惑。重苦しくのしかかる圧力に屈さず、内にある混沌とした疑惑を言葉に出来たのは、殺害予告を出したはずのユーウェインに殺気がないからだった。

 緊張の余り喉を枯らせ、吃りながら、騎士トリスタンは問い掛ける。

 

「な……なぜ、ですか。私が何か……罪を……それとも、な、なにか、至らぬところが、」

「誤解はするな。私とて本意ではない」

 

 畏怖ゆえに、そして意味不明ゆえに言い募ろうとするトリスタンを遮り、騎士王は嘆息してトリスタンから離れていく。

 冷たい嫌な汗でぐっしょりと濡れる、屈強な騎士の肉体。嵐の夜に怯える子供のように震える事しかできない騎士は、未知に等しい死の確信に立ち向かう気力が湧かなかった。

 なぜなら相手は王である。騎士として忠義を尽くしてきたつもりだ。これで相手が敵なら、勝ち目が見えずとも覚悟を決めて相対できたのであろうが、なにゆえに忠誠を誓った王に殺されねばならないのか全く理解できない。だから震えるのだ。思考が具体性を持てない。

 

「貴公ほどの騎士を失うのは無視できない損失だ。これは嘘偽りのない本心だと誓おう。王たる私が、なぜ忠義の騎士を殺さねばならん? 冗談にしても笑えん。そうだろう、トリスタン卿」

「では……冗談だったと?」

「それこそまさかだ。私がこんな質の悪い冗談を好かんことぐらい、貴公にも既知のことだろう。掛け値なしの真実だよ、私は貴公を殺す。これは決定事項だと宣言しよう」

「―――」

「貴公は円卓でもランスロット卿、ガウェイン卿、ラモラック卿以外では相手になるまい。故に貴公を確実に始末するには、この私が出る他になかろう。私は貴公を殺す。例え何処に逃げようと地の果てまで追い殺す。何処に隠れようと必ず探し出して殺す。子供がいれば殺し、妻がいれば殺し、一族郎党諸共、血の一滴も残さず鏖殺する。私はやりたくないが、そうしなければならない」

 

 なぜか分かるか?

 

 問う王に、トリスタンは混乱したまま小さく首を横に振った。分かるわけがなかった。

 

 トリスタンは殺されるだろう。抵抗は無意味だ。

 騎士王に命を狙われてしまえば、何処に逃げても、何処に隠れても意味がない。

 瞬間、彼の脳裏をよぎったのは、二人同時に愛してしまった二人のイゾルデ――不義である。不実である。そう想うのに、愛してしまったのだ。その二人も殺されてしまうのであれば、トリスタンはこの王に立ち向かわねばならないはずで……だが、勝てない。殺される。

 王には疵一つ付けられない。トリスタンは恥も外聞も捨て、跪いて、せめてイゾルデ達だけでも助命を願おうとした。自身の命よりも、愛した者の生を願おうとする姿勢に、王は目を眇める。そして跪こうとするトリスタンを手を上げて制し、言の葉を続け様に紡いだ。

 

「本当は話すべきではないのかもしれない。黙って実行し、万一の可能性も摘み取るべきなのだろう。だが敢えてこの話を貴公にしたのは――貴公が紛れもなく、忠義の騎士だったからだ」

「………」

「貴公は今、跪こうとしたな。恐怖に屈したからではない、何か守りたい者の為にプライドを捨て慈悲を乞おうとした。答えろサー・トリスタン。貴公が助けようとしたのは、イゾルデという女だな?」

「ッ……!? ……は、い。お、王よ……ど、どうか、彼女達を見逃しては、いただけませんでしょうか……」

 

 状況や因果関係を把握できずとも、現状に対応して最優先にするべきものを間違わない騎士の姿に――王は冷徹な佇まいを霧散させた。

 微笑み、王は騎士に歩み寄ると、その肩にもう一度手を置いた。

 騎士王がなぜイゾルデの名を知っているのか不思議で、絶対者に触れられたことで凝固するトリスタンだったが、ユーウェイン王は構わない。嬉しげに、悲しげに、讃えて謳った。

 

「――真摯に他者を愛し。誠実に婦人と向き合い。軽率に行為に及ばず、軽薄に懊悩を放棄しなかった。貴公はまさしく騎士の鑑と讃えられるべき男だ。私は貴公を臣下に迎えられた事を嬉しく思う」

「………は、ぁ?」

「認めると言った。合格だよ、サー・トリスタン。貴公が死ぬ必要はない。トリスタン卿の忠誠と、騎士道を忠実に体現する精神に報い、私が貴公を処断しようとした理由を知る権利を与えよう」

 

 王は語った。呆然とする騎士に。

 彼の体にはピクト人の血が流れていること。

 ピクト人の正体と、懸念すべき最悪の事態。

 是が非でも絶滅させる必要がある理由を。

 

 トリスタンは最初、上手く飲み込めずにいたが、最後まで聞くと得心したのだろう。

 重々しく頷き、王が自分を殺そうとした理由を了解した。

 

「――理解、致しました。我が王よ、貴方は私がイゾルデ達と交わるか否かを見ていらっしゃったのですね。もし子を残そうとしていたら、私の首はこの胴に繋がっていなかった、と」

「ああ。安易に誘惑に流されなかった貴公だから、信じてもいいと思った」

「……イゾルデ達は、陛下の手の者なのですか?」

()()()()()

 

 昏い貌をする騎士に、王は平然と嘘を吐いた。だが騎士はそこに嘘の気配を感じ取れない。実直な正義漢だ、もともと人の嘘を嘘だと見抜くのが苦手でもある。ゆえに、あっさり信じ安堵した。

 ――イゾルデ達は、本当にトリスタンを愛している。わざわざ男女の仲を引き裂く趣味は騎士王にはない。幸福な結末を辿れるのなら、そうなってほしいと素直に思うのだ。

 

「私から厳命するのは、決して女を抱かず、精を吐き出すなという事だけだ。男として辛いのは分かるが……それで貴公が死ぬ必要はなくなる。貴公には誘惑を跳ねのける強い理性があると信じよう」

「……背けば死あるのみなのでしょう?」

「無論だ。故にもう一つ話しておこう。私が貴公を聖杯探索の筆頭騎士に任じた理由だよ。トリスタン卿、もし聖杯を見つけ出し、手に入れることができたなら、貴公の縛りは無用になるのさ」

 

 ユーウェインは根気強く、簡潔に、トリスタンに説明した。

 聖杯を巡る予言の内容を――そして悪魔と言われる子供の正体を。

 トリスタンは次第に表情を明るくしていった。聖杯とやらの力に希望を持てたのだろう。

 

「――話した通り、聖杯さえ手に入れば貴公の中の悪魔の血も取り除ける。そうなれば貴公が死ぬ理由も、子孫を残してはならぬ理由もなくなる。だから、トリスタン。貴公は聖杯を見つけろ。仮に聖杯を手に入れたのが貴公ではなくとも、私は予言の悪魔ではなく最初に貴公を洗礼することを約束しよう」

「ッ……! 陛下、感謝致します……!」

「……やめろ。自分でも滅茶苦茶を言っている自覚はあるんだ」

 

 まさか感謝されるとは思わなかったユーウェインは、居堪れなさそうに貌を顰める。

 頻りに恐縮し、感謝と改めての忠誠を誓われたユーウェインは、良心の呵責ゆえか巨大な不快感を味わった。()()()()()()()()()()()()()()()、そんな計算をしている自分が不快なのだ。

 円卓の騎士という生き物は、本当に度し難い。高潔で、私心が薄く……野蛮人だと蔑むには、いささか近しくなり過ぎている。何年も重用していれば、流石に情の一つも湧いてしまうのだ。

 

 決意を纏って退室していくトリスタンを見送り、玉座に戻ったユーウェインは無造作に腰を落とし、肘置きに凭れて頬杖をつく。目を閉じて、王は心労を解きほぐすように精神を統一した。

 

 

 

 ――あぁ、もう、本当に。うんざりだ。

 

 

 

 何が楽しくて自分の力をひけらかし、殺すなんて強い言葉を連呼して、みっともない脅し文句を垂れ流さなくてはならないのか。恥だ、こんなものは恥でしかない。頭を掻き毟って恥辱に耐える。

 刀一本で快刀乱麻、山積みの難題を悉く斬り捨てられたら楽だ。だが武力など国の運営では然程役に立たない……いや、立たせるべきではない。そんな野蛮な真似をしても後が辛くなるだけだ。

 

 トリスタンは、良い男だった。

 とぼけたところはあるものの、善良で、悪を憎み、正義を為す気持ちの良い男だったのだ。騎士として忠実で、有能で、婦女子に容易く絆されはしても軽薄に胤を撒きもしない。イゾルデ達に命じて交わらぬようにさせていても、獣欲に負けて女に無体を働きもしなかった。

 そんな信頼の置ける男だと知ったから、ひとまずは殺さずにおこうと判断した。トリスタン自身の武力と名声も利用価値が高いのも理由の一つではある。殺さずに済ませられるなら、それでいい。頼むから、剣を執らせてくれるな。ユーウェインが願うのはそれだけだ。

 

 ――大陸に国軍と円卓の騎士を派遣して半年。アグラヴェインならなんとかするだろう。

 

 今はブリテン島に残った国軍と、騎士達で、加速度的に増えてきた野盗を処理し治安維持に専念せねばならない。やることは依然なくならない。成人した息子たちにも仕事を任せ、下積みをさせてはいるが……その護衛に最低一人円卓の騎士を付けているものの、不安はある。

 食糧難の解決策は見つからない。雨が降らない理由も見当たらない。魔術や宝具で天候を操る試みも失敗した。畜産業も縮小させられていっている。飢えて人心が乱れ賊が出て、叛旗を翻す豪族貴族はいないものの、不穏な空気も流れ始めていた。

 どこから手を付けても、また別のところから問題が発生する。永遠に終わらないイタチごっこをしている気分にさせられた。ストレスが溜まるも、それを発散する暇もない。

 

 ユーウェインは思った。もしかするとトリスタンを問答無用で処理しなかったのは、猫の手でも借りたい現状、あれほど有能な騎士を失くしたくなかったからなのかもしれない。

 どこまでも打算的で汚い発想だ。反吐が出る。

 

「――兄上!」

 

 ――ひとりで居るのを見つけたからだろう。天真爛漫な笑顔を咲かせ、玉座の間の裏から一人の少女騎士が駆け寄ってくる。

 彼女はユーウェインよりも一回りも二周りも年下のガウェイン、アグラヴェインより更に一回り年下の、異父兄妹であるガレスだ。ケイにはボーマンと渾名される、清廉潔白という意味での綺麗な手の持ち主である。ユーウェインからすると、普通に自分の娘と言っても通じる歳だ。

 ガレスは金髪に愛嬌のある顔立ちの少女騎士だが、まだ見習いとして長兄であるユーウェインの従者をしていた。厨房に立たなくなって久しいユーウェインの、噂に伝え聞いた料理上手さに関心を持ったガレスは、ユーウェインにねだって料理を学び、王の厨房に君臨した。今や雑なガウェインには似ず、屈指のメシウマな従者として脚光を浴び、もうユーウェインはガレスの料理なしでは生きていけないのではないかと思わされている。……ついた称号が『厨房の騎士』なのは、ちょっと可哀想だと思わなくもないが。

 

「どうした、ガレス。またぞろリリィの悪い虫でも騒ぎ出したか?」

「いいえ、そうではなくて! わたし、もう従者として一年は兄上の許で学びました! ええそうです、今日で一年ピッタシなんです!」

「ああ……そうだったか?」

「そうなんです!! 叙勲! わたしも叙勲して騎士にして下さい! 約束通り!」

「あー……」

 

 ユーウェインはぷんすかと猛るガレスの可愛い貌を見ながら呻いた。

 率直に言って、嫌だ。だがそのまま言ってもガレスは納得しないだろう。嫌な理由も面倒臭いという実も蓋もないもので、適当な理由を考えるのも億劫であった。

 

 思えば円卓の騎士選抜大会も、第二十五期を決めて以来、一度も開催していない。そろそろ二十六期を決める大会を開いてもいいかもしれない。騎士達の良いガス抜きにもなる。

 そこで、ユーウェインは言った。

 

「分かった。ただし、今度の円卓の騎士選抜大会で、良い成績を残せたらだ。上位入賞したら叙勲してやるし、円卓にも入れてやる。その代わり結果が奮わなかったらもう一年従者をやれ。いいな?」

「本当ですか!? わーい、やったー! よーし頑張るぞー!」

「まあ、円卓の騎士になっても、ガレスは俺の厨房からは離さ――って、聞いてないか」

 

 修行だ修行だー! と叫んで駆け去っていく様は、王に対するものなら不敬以外の何物でもないが。兄妹として接していた以上は咎める気にもならない。まるでガウェインとリリィを足して2で割ったようなガレスには、なんとも緊張感を解きほぐされ気が抜けてしまう。

 

「………」

 

 再び一人になった空間で、ユーウェインは手慰みに召喚した極刀を振るう。

 風切り音も何もなく、衣擦れの音も動作の気配もない。ユーウェインは、ゆるゆると頭を振りながら玉座の間を後にした。

 

 遅れて、1分。

 斬撃の通り過ぎた空間へ、ほんの微かに亀裂が入り。

 次の瞬間には何事もなかったように、世界が修復された。

 

 ユーウェインが戯れに斬ったのは――『この時代』に打ち込まれようとしていた錨だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【速報】コイツを回復させる必要あるんですか疑惑【寝てる子を起こすな】

【続報】FGOの第一部第六特異点、消滅【悲報?】
(本作は原作とは世界線が違います。第六特異点は原作だと西暦1200年代のエルサレムですが、本作ゲーティアが目をつけたのは史実として残るここのブリテンでした。ほんとならここを特異点にするつもりだったんですね。でも斬られちゃったので特異点化せず、おまけに魔神柱が一つ永遠に失われる手痛い結果に)
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