獅子の騎士が現代日本倫理をインストールしたようです   作:飴玉鉛

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85,妖精の子、荷を下ろして

 

 

 

 

 友を、殺してしまった。

 友に、呪いを刻んでしまった。

 

 ――失意に暮れる、孤独の日々。

 

「じゃあ、お姉さんが仲直りの手伝い、してあげようかな?」

 

 明けない夜はないけれど。

 沈まない陽も、ない。

 朝と夜を繰り返し、曙へ誘う()()主。

 小さきものは、逡巡しながらもその手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 地面に横たわり、微睡みの縁でこっくり、こっくりと船を漕ぐ友の首筋を優しく撫でる。

 

 瞼のほとんどが閉ざされようとしていた。

 

 瞳の奥にある光が、次第に消えていこうとしている。

 

 ――彼女が危篤であるとの報を受けたユーウェインは、職務の全てを放り捨てて、友の傍を離れずに寄り添うことを選んだ。せめてその魂が、安らかに逝けるように、と。

 

 思い出を語ることはない。言葉は不要だった。

 

 緩やかに、静かに流れる時を共に過ごす。

 

 最期の瞬間、友は蚊が鳴くように嘶いた。まるで先に逝ってしまう事を謝るかのように。最期まで共にいてくれた事に感謝しているかのように。彼女は友の姿を目に焼き付け、逝った。

 閉ざされない目。光の消えた瞳。

 瞼を閉ざしてやりながら黙祷を捧げる。友の死は初めての経験ではないが、しかしこうして看取るのは初めてだ。えも言えぬ寂寥が場に落ち、ユーウェインは細く長い息を吐いた。

 

「ユーさん……? ラムレイは……」

「ああ。馬とは思えんほど長生きしてくれたが、流石にな……」

 

 ブラッシングの櫛を取りに行っていたリリィが戻って来た。

 貴女はいつも疾すぎるんだよ、とリリィは恨み節を溢す。最期に立ち会えなかったのは、幼少の時に旅路を共にした同士として、一抹のやりきれなさを残したのだ。

 今、ラムレイが逝った。老衰による、大往生である。

 享年は50歳だ……50年も生きた。馬の平均的な寿命を、倍近く生きたことになる。

 本当ならもっと長く生きられたかもしれない。しかし神代の終わった現在、如何に神馬と化していたラムレイでも寄る年波には敵わなかった。それだけの事であり、この話はそれで終わりである。

 

 ラムレイは、幼かった頃のユーウェインにとって、唯一の友だった。

 

 やんちゃだった仔馬ラムレイの世話をしてやったのはユーウェインで、逆に世話を焼いてやっていたのだとラムレイも思っているだろう。兄妹であり、姉弟でもあったのではないかと思う。

 楽しかった……。

 ラムレイに乗って旅をした。どこに行くにもラムレイの背に乗っていた。

 リリィを故郷に送り届ける時も。邪神インデフと戦った時も。その後の多くの冒険も。常に共に在り続けて、王になった後もそれは変わらなかった。人を相手には言えない弱音も、大衆への怨みも、ラムレイにだけは吐き出せた。そのラムレイが、逝った。

 

「じゃあな……お前の子供たちの事は任せてくれ」

「おやすみなさい、ラムレイ」

 

 ラムレイを囲い、思い出を同じくする者同士で、見送る。

 遺体の姿を整えた。

 リリィは、折角持ってきたのだからと櫛で鬣を梳く。女の命だからと。

 

 彼女の遺体を葬るのは、彼女自身の仕事だったらしい。

 ユーウェインにも任せておけるかと言わんばかりに、埋葬も、火葬も、鳥葬も不要とした。自分には疾風のような葬送が似合うと、骨も肉も、皮も、一つ残らず解れて消えていく。

 疾走していた。ラムレイの肉体が、ラムレイの意地のように、五体が塵となり風になった。死した後にも疾走するのは、流石は神代最後の駿馬といったところだが。それにしても、

 

「おいおい……俺の手元にも何も遺さないのか……」

「ふふ。()()()じゃないですか。手の掛かる()()に、手間を掛けさせたくなかったんですよ、きっと」

「馬鹿な奴だ。()()の葬式ぐらい、手間とは思わんというのに」

 

 気遣いの仕方が間違っている辺り、結局のところユーウェインとラムレイは似た者同士だ。

 影も形も無くなった友に呆れ、厩の整えられた土に両手を置く。

 この土の上で、ラムレイが死んだ。思い出を懐かしみ、悲しみ、涙する事を赦さないように彼女は駆け去って逝ったのである。なんともはや、馬鹿馬鹿しくも爽快な死に様だ。

 

 死を悼むのも阿呆らしくなる。

 あんな走りを見せられたら、風が吹く度に共にいるかのように錯覚してしまうだろうから。

 

 さてと、と。リリィが純白の正装についた土を叩き落としながら立ち上がって、冗談めかしてユーウェインに手を差し出してくる。もう一方の手にはいつの間にか召喚した宝剣が握られていた。

 破壊されたマルミアドワーズの破片を集め、復元して自身の神話礼装に仕立てた物だ。最初はリリィもマルミアドワーズを旦那に返そうとしたが、とうのユーウェインが要らんと突き返した為、リリィの物になったという経緯があった。この神話礼装と、聖剣の鞘、元々の愛用の杖である選定の杖、三つの宝具を合わせたものがリーリウム・ペンドラゴンの武器である。

 

「――ユーウェイン卿、準備が整ったみたいですよ」

 

 呼び掛けられ、白髪の青年は苦笑いを浮かべてリリィの手を取った。

 

「俺を待っていたんだな。遠方の様子も探れるようになったとは、お前も成長したらしい」

「いつまでもマーリンの後塵を拝していたのでは、顧問魔術師の名折れですからねー」

 

 フフンと得意げに笑って、リリィは引っ張り上げた旦那の手を取ったまま歩き出す。気恥ずかしさから振り払ってしまいたくなるも、人目のつく所まではこのままでいいかと気紛れを起こした。

 ――ユーウェインは昨日王位から退いた。今のユーウェインは先王であり、一介の騎士を気取るには実績も名声も高すぎるが、円卓の騎士の一角であるというスタンスを取っている。

 ローマ遠征の総司令官の座もアルトリアに譲った。

 身軽な立場に逃げたのだとユーウェインは嘯いたものだが、彼がそんな無責任な人間ではないことは誰でも知っている。何か考えがあってのことだろうとアルトリアも受け入れた。

 

「――王冠という荷も捨てた。後は、後始末を済ませるだけだ」

「ローマを後始末扱いとは剛毅だね。勝った気になるには早いと思うけど」

「勝った気も何も、この程度は別に苦でもない。死に瀕していた国を保ってきた労力に比べれば遥かに楽だ。なんせ勝てば良いだけなんだぞ。勝利条件の決まっている戦争など楽すぎて欠伸が出る」

「まあ……ブリテンの統治に比べたら児戯だって姉も言ってたし。マーリンの眼で敵軍の陣容も割れるしね。言われてみたら確かに楽かも……戦争だとマーリンが鬼札過ぎるなぁ……」

「敵の位置から策まで筒抜けだからな。俺が居なくても勝てるだろうよ」

 

 しみじみと頷くリリィに、ユーウェインも失笑して相槌を打つ。

 

 『現在』を見通す千里眼で自陣営の情報を暴かれ丸裸にされるなど、軍の指揮官からすると悪夢でしかない。なんせなんの対策の打ちようもないのだ。こと情報戦でマーリンの与した側が後手に回ることは有り得なくなり、軍事的リソースを無駄なく運用できるようになるなんて、相手が知れば狡いとしか言えないだろう。ユーウェインなら真っ先に殺しに掛かるレベルの理不尽だった。

 だが敵の泣き言に貸す耳はない。狡かろうがなんだろうが、勝てばいいのである。戦争とはそういうものであり、敗けた側の言い分なんて聞くだけ無駄であった。

 

 そうした軍事的観点を抜きにしても、負ける気がしない。

 

 何せ自力が違う。国としての、ではない。人間としての、だ。

 

 ルキウス・ヒベリウス、あるいはティベリウス率いるローマ軍が人間と人間以外の混成軍で、魔術師も数多く揃っているとは言っても、ローマのいち兵士とブリテンのいち兵士とでは、大人と子供に近い身体能力差がある。神代の人間と人理の人間の差だ。更に円卓の騎士を初めとする英雄達は、その神代の人間を塵のように消し飛ばせる自力と、大軍を一撃で滅する宝具を有している。幾ら数値上の兵力差が天と地であろうとこの差は覆せまい。

 可能性があるとすれば大陸側で唯一、濃い神秘を受け継ぎ続けているローマ皇帝だ。彼だけが円卓を倒す可能性があるが……やはりルキウス一人では円卓が勢揃いしている面子には勝てまい。マーリンの言によれば、ルキウスは全力のユーウェインの剣撃を一度は避けられるかもしれないとのことだが……その程度であればやはり脅威足り得なかった。

 ユーウェインは円卓の者らに言っている。大陸にいる者にも言うつもりだ。遠慮は無用――宝具を撃てるだけ撃ちまくれ、と。自国内ではないのだ、環境に配慮する必要はなく、敵軍を跡形もなく粉砕すればいい。後先考えず勝つ事だけを考える……そのなんと楽な事か。

 

(楽……楽、か)

 

 我ながら残酷なことだ。戦争という最悪の蛮行を、楽と言い切ってしまえるとは。それはひどく野蛮だし、傲慢でもある。敵の命を塵芥同然と見做して、『敵』は人間ではないとまで断じて、殺生の罪悪感を紙切れよりも軽いものに感じているのだから。

 だが実際問題、楽だし、罪悪感も軽い。……自国の養い切れない、枯れた農村を潰し、密かに国民を何度も粛清したやりきれなさに比べたら、遥かに気が楽である。それは嘘偽りのない本心だ。

 

 王様稼業は鬼畜でなければ務まらず、完全な鬼畜では畜生以下のけだものに成り下がる。

 その塩梅、匙加減が難しい。自分が間違わずに済んだのは……多分、道を見失わずに済む道標があったからだろう。その道標の一人であった妻の一人が、リリィだった。

 いつまでも純粋で、幼女だった頃の感性を失わないまま付いてきてくれたリリィが、その曇りなき眼でユーウェインの行ないを常に見ていてくれたから、道を踏み外すことなく歩んでこれた。

 繋がれた手をユーウェインは無理矢理には振り払わず、先導していくリリィに言う。間もなく兵や騎士たちがいる所に着くからだ。このままでもいいとは思うが、流石に恥ずかしい。

 

「そろそろ離せ」

「えー? 珍しくなすがままになってくれてたし、アルトリア達に見せつけてやろうって思ってたのになぁ……」

「やめろ馬鹿、兵の目もあるんだぞ。俺の積み上げてきたイメージがぶっ壊れるだろうが」

 

 とぼけて反駁してくるリリィに呆れる。するとリリィは笑った。

 白百合のように無垢な、変わりのない無邪気さだった。

 

「あはは、『完全無欠の聖人、完璧超人の騎士王様』だもんね、ユーさんは」

「……俺をおちょくるとは偉くなったな、リリィ」

「わたしが偉くなったんじゃなくて、ユーさんが偉くなくなったんだよ。だってもうユーさん王様じゃないんだしぃ? 立場で言えば対等だよ? もちろんアルトリアともね」

「ん……? チッ、言われてみたらその通りだ。リリィに一本取られるとは俺もボケたか?」

「あっ、ひどーい!」

「何が酷いだ。いつまで小娘ぶっている? いい歳こいた婆が可愛こぶるな、痛々しいぞ」

「――は? ば、婆? 今ババアって言ったの? かっちーん……今のはド(たま)に来ちゃったよ……」

「ならどうする?」

「どうも出来ないのが辛いっ! いいもん、グウィーちゃんに言いつけてやるから!」

「貴様……ッ、娘に泣きつくとは落ちるところまで落ちたな……!」

 

「二人して何を騒いでいるんだか……イチャつくのは後にしてくれませんかねえ」

 

 頭を空にして脊髄反射だけで戯れていると、迎えに来た男が呆れたように諌めてくる。

 神殺しの槍、聖遺物ロンギヌスの守護者、神槍の騎士――或いは双剣の騎士とも言われる、アルトリア第一の騎士だった男、ベイリンだ。予備役に編入したとはいえ、未だ実力は衰えていない。

 今年で54歳で、ユーウェインより2つ年下の老人だが、此度のローマ遠征にも従軍する。公には引退していても、最後に気兼ねなく大暴れできる舞台に登らない訳にはいかないと言っていた。

 

 ユーウェインは露骨に鼻を鳴らして振り返る。

 王様をやっていた時は四六時中、自身の一挙手一投足、言葉の全てに細心の注意を払ってきたのだ。もう余程の間抜けぶりを晒さない限り、馬鹿になっても良いじゃないかと思う。

 

「よぉ、老いぼれ。腰の具合はいいのか? 無理してぎっくり腰になるなよ」

「おじいちゃん! おじいちゃんじゃないですか! お小遣いください!」

「オレより年寄りのくせに何言いやがりますかね……顧問殿も悪乗りしない。婆のぶりっ子は見ていて痛々しいですぜ」

「言われてるぞリリィ。婆は婆らしくしろだとさ」

「――ベイリン卿、わたしに手向かうとは愚かな……奥方に浮気と庶子の存在バラしちゃおっかな? それとも弟さんと交際してた女の人と、良い仲になりそうだった事がいい?」

「やめろ! 若気の至りを今更ホジくり返すんじゃねぇよ! それに弟の件に関しては未遂だろ!? オレはアイツの女だって知らなかった――」

「言い訳は情けないですよベイリン卿」

「うぐ……ったくストレスフリーになった途端これだ。やってらんねぇ……いや別にいいんだけどよ、そろそろ出征式なんだ。息子の晴れ舞台だってのに、親父が遅れてくる奴がありますか」

 

 それもそうだと頷いておく。同時に円卓連中がリリィに頭が上がらない理由が分かって微妙な気持ちになる。妻が三人もいる自分に言えた口じゃないが、弟の女に手を出しそうになるとは……。

 ブリテンの騎士は下半身事情が複雑怪奇だ。庶子の管理やらなんやらをしていなかったら、目を背けたくなる事態に発展していたかもしれない。妻帯した後のガウェインですら美女と見たら口説くのだ、折檻するのが面倒で面倒で仕方なかった。同時になんでこんな事まで世話を焼かなくちゃならんのかと頭を抱えた覚えもある。あの時は本気で王様を辞めたいと思ったものだ……。

 まあ今となっては良い思い出……思い出……とは言えないか。またやれと言われなら断固として関わり合いを拒否するだろう。男と女の修羅場ほど疲れるものもない。

 

「……行くか。嫌なことを思い出して消沈するのも馬鹿らしい。お前も思い出させるな」

「うわ、ユーさんが一気に老け込んでる……反省しなよー、ベイリンさん」

「してる。あん時の姫さん(アルトリア)の冷たい目は堪えた……閣下(オルタ)のシゴキもキツかったなぁ」

 

 ユーウェインは肩を落として、出兵式の式典の場へ歩を進める。

 哀愁漂う後ろ姿だったが……待ち受ける戦争への不安は、欠片もなかった。

 

 

 

 ――大ローマ帝国との戦争。

 其れは、第三者が絶望的と称するもの――

 

 ――しかしブリテン王国の英雄達に悲観の色はなく。

 戦力差を正しく認識する先王に至っては、楽勝だと楽観していた――

 

 

 

 そして事実。兵力差の比率が実に1対100ほどもありながら。

 

 ブリテン軍は、ローマ軍に対し圧勝する事になる。

 

 僅か1万のブリテン軍が100万のローマ軍を撃破し、戦況は殲滅戦の様相を呈したのだ。

 最終的にブリテン軍が3千の死傷者を出す頃には、ローマ軍の残数は僅かに10万を切っていたと言われ。追い詰められたルキウス・ヒベリウスは、スワシィの渓谷にて敵軍の総大将を討っての起死回生を図るも、無惨な結果となるのは明らかであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どう考えても真面目に働くマーリンがチートすぎて…。
軍事情報丸裸にしてしまえる千里眼はナーフされるべき。
寧ろマーリンいたら戦略戦術無意味なのがね…(ルキウスは戦略と戦術の天才)

ローマ百万&ルキウス&人外達&魔術師&諸王
VS
ブリテン1万&聖剣拘束無し強化アルトリア&戦闘技能超化オルタ&自重なし絶対英雄ユニット死なせない魔力補給タンクウーマンのリリィ&軍事情報丸裸にするマンのマーリン&一部超化の団結力MAX円卓(宝具使用自重なし)&行軍楽々のエハングウェン投入軍団

ファイっ!(無双ゲー)
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