真・仮面ライダー-----終章-----『仮面ライダーワールド序章(プロローグ)』 作:狼と踊る男
時刻は、午後七時を少し回った頃。
耕司のキャンプでは、夕食の準備が進んでいた。
鍋からはカレーの香りが漂い、焚き火の明かりが森の闇をやわらかく照らしている。
だが、その輪の外に一人だけ、少し離れて座っている者がいた。
風祭真。
そして、その足元に寄り添うラテだった。
真「……」
真は何も言わず、夜の森を見つめていた。
風の音。
虫の声。
焚き火のはぜる音。
そのすべてが、今の真には遠く聞こえているようだった。
セーラ「不思議な気分ね。またこうして、あなたが目の前にいるなんて」
真「……」
セーラは真のそばに立った。
その視線は、真本人ではなく、真の足に頬をすり寄せているラテへ向かう。
セーラ「その子、本当によく懐いてるわね」
ラテは、怪人体だったシンの時と同じように、今の真にもすっかり心を許しているようだった。
そこへのどかも近づいてくる。
のどか「撫でてあげてください、真さん。ラテも喜びますよ」
真「君か……」
セーラ「撫でてあげたら? その子も、そんなに懐いてるんだし」
真は少しだけ迷った。
だが、ラテが見上げるように鳴くと、ぎこちなく手を伸ばした。
ラテの頭に触れる。
背中をそっと撫でる。
ラテ「わふ……」
ラテは気持ちよさそうに目を細めた。
その顔を見て、のどかもセーラも、そして真も、わずかに笑みを浮かべる。
そこへ、肩にベリーを乗せたあゆみもやって来た。
あゆみ「すごいですよね、勝さんと瀬川さんは。二人とも人類の危機を救ったなんて……」
ベリー「流石、仮面ライダーだ」
真「仮面ライダー……? そういえば、さっきも彼らのことをそう呼んでいたな」
ベリー「平和のために戦う戦士の名さ。君もそうだろう、シン」
真「いや……だとしたら、俺は違う」
真の声は静かだった。
だが、その奥には強い拒絶があった。
真「俺は、自分のためにしか戦わない」
あゆみ「じゃあ、何で私を助けてくれたんですか?」
真「それは……」
真は言葉に詰まった。
あゆみは真の隣へ腰を下ろす。
スカートが地面につかないように手で押さえながら、体育座りのように膝を抱える。
そして、ラテを撫でながら、真を見た。
あゆみ「真さんはきっと、誰よりも優しいんですよ」
真「俺が……優しい?」
あゆみ「ラテちゃんが、のどかちゃん達を除いたら真さんに一番懐いているのが、その証拠だと思います」
真は、ふっと目を伏せた。
真「だとしたら、ラテは勘違いをしている。俺は優しくもない。平和のために戦うつもりもない。ただの人殺しだ」
あゆみ「人殺し……? 真さんが?」
セーラ「過去に起こった無差別殺人のことを言っているなら、それは違うわ。あれは、あなたを改造した鬼塚が起こしたことよ」
真「俺には、その時の人を殺した感触が残ってる」
セーラ「……」
真「それに、俺は怒りに任せて所長を殺した。自分の意思で」
のどか「人を……殺した……」
真「相手がどんな人間だったとしても、俺は力の差がありすぎる相手を、一方的に虐殺したんだ」
焚き火の音だけが響く。
誰もすぐには言葉を返せない。
それでも、あゆみは真から目を逸らさなかった。
あゆみ「それでも、やっぱり優しい人ですよ」
真「こんな俺の、どこが……?」
あゆみ「どんな相手だったとしても、自分のしたことをそんな風に考えられるのは、命の尊さを考えられる人だからです。そんな人が、優しくない人だなんて、私には思えない」
真は黙った。
あゆみの言葉を信じていいのか。
それとも、ただの綺麗事として聞き流すべきなのか。
真にはまだ分からない。
真がこの二年間で得たものは、安心ではなかった。
追跡。
恐怖。
孤独。
そして、守らなければならない息子・新。
その小さな命だけが、真を今も人として踏みとどまらせている。
そこへ、ちゆが歩いてきた。
ちゆ「皆さん、晩御飯ができました」
あゆみ「行きましょう、真さん」
あゆみは立ち上がると、真の手を取った。
真「……」
真は抵抗しなかった。
あゆみに引かれるまま、焚き火のそばへ歩いていく。
のどか・あゆみ・ひなた「いっただっきまぁぁ~す!!」
三人の明るい声が、夜の森に響いた。
他の者達も、それぞれ控えめに「いただきます」と口にし、カレーライスへ手を伸ばす。
真だけは、しばらくスプーンを持ったまま動かなかった。
隣に座ったあゆみが、こちらを振り向く。
あゆみ「おいしいですよ?」
その笑みに押されるように、真はスプーンを口へ運んだ。
一口。
温かい。
味がある。
当たり前の食事が、妙に胸に染みる。
真の口元に、ほんの少しだけ笑みが浮かんだ。
それを見て、あゆみものどか達も、少しだけ安心する。
真本人やセーラがどう思っているのかは、まだ分からない。
それでも、この場にいる者達はもう、真を怪人としてではなく、仲間として見始めていた。
耕司「どんどん食べてくれ。おかわりもたくさんあるから」
ニャトラン「……なぁベリー、それうまいのか?」
ベリー「あぁ。僕はこれが好物なのさ。君達もどうだい?」
ベリーが食べていたのは、草だった。
ペギタン「えっ、遠慮するペェ」
エンエン「ぼ、僕達にはカレーがあるから」
グレル「おぉ」
ラビリン「ラビリン達は虫じゃないラビ!!」
少しだけ場が和む。
その直後だった。
???「へぇ~、おいしそうだね? それ」
耕司「誰だ!?」
その場にいる者ではない声。
全員が一斉に周囲を見る。
森の闇の中。
空中に、緑色の煙が集まっていた。
煙は高さ三メートルほどの位置で渦を巻き、ゆっくりと下りてくる。
やがて、その煙は輪のような形を作った。
その中心に、人間の子供のような存在が浮かび上がる。
薄気味悪い笑みを浮かべた、緑色の子供。
彼はまず、勝を見た。
ネオ生命体「やぁ!! 久しぶりだね? お兄ちゃん!!」
ひなた「えっ!? 何々、この緑色の変なの知り合い!?」
勝「あぁ。こいつはネオ生命体!!」
のどか「ネオ生命体?」
ちゆ「確か、勝さんが話していた怪人ですね?」
勝はゆっくりと立ち上がった。
その表情は険しい。
勝「以前倒した蜘蛛の怪物が蘇っていたから、もしやと思っていたが……お前もか。どうやって復活した!?」
ネオ生命体「それがね? 王様が僕のことを『かわいそうだから』って復活させてくれたんだ!!」
勝「王様……?」
ネオ生命体「それでね、今日は僕の新しいお友達を紹介するために来たんだ!!」
勝「友達だって?」
ひなた「いるんだ、友達?」
あゆみ「ちょっと意外……」
ネオ生命体「紹介するよ!!」
ネオ生命体の体の前に、再び緑色の煙が集まった。
それは小さな人間の形を取り始める。
やがて、赤ん坊ほどの大きさになった。
だが、その赤ん坊は普通ではない。
背中には、昆虫の外殻のような皮膚が見える。
人間の赤ん坊にはとても見えなかった。
誰もが言葉を失う。
ただ一人、真だけがその子の正体を知っていた。
真「新!!」
のどか「真さん、あの子を知ってるんですか?」
真「あれは……俺と愛の子供だ!!」
のどか「あの子が!?」
セーラ「じゃあ、あの子も真と同じサイボーグソルジャーの力を……」
真「ちょっと待て!! 結城はどうした!? その子と一緒にいたはずの男はどうした!?」
ネオ生命体「あぁ、あのお兄ちゃんならいらないから返してあげる。はい!!」
ネオ生命体の輪の後ろから、一人の男が浮かび上がった。
結城卓也だった。
意識を失ったまま、宙に浮かされている。
ネオ生命体はそれを、物を投げるように一同の方へ放った。
耕司「危ない!!」
勝「任せろ!!」
耕司と勝が飛び出し、結城の体を受け止める。
地面へ叩きつけられることはなかった。
だが、結城は気を失ったまま反応しない。
ネオ生命体「僕のお友達をお世話してくれていたから、サービスで殺さなかったから安心して」
真「貴様……新を返せ!!」
ネオ生命体「嫌だよ。せっかく手に入れた友達だもん!!」
真「何!?」
あゆみ「無理やり連れ去るのを、友達なんて言わないよ!!」
ネオ生命体「うるさいなぁ。じゃあさ、友達のおじちゃんが僕のお願いを聞いてくれたら、返してあげてもいいよ?」
のどか「おじちゃん?」
ちゆ「友達のお父さんだから、おじちゃんってことじゃないかしら?」
のどか「あぁ、なるほど」
ネオ生命体「明日の十二時までに、大きな船におじちゃん一人で来てね。来てくれたら、友達は返すよ!!」
真「大きな船……?」
ネオ生命体「じゃあね!! はははははっ!!」
真「待て!!」
真が跳んだ。
空中のネオ生命体へ手を伸ばす。
だが、相手は煙のように姿を崩し、掴むことはできなかった。
真の手は空を切り、その体は地面へ落ちる。
緑色の煙は、ある方向へ吸い込まれるように飛んでいった。
耕司と勝が真へ駆け寄り、肩を貸して起こす。
同じ頃、結城も呻きながら目を覚ました。
結城「ぁぁっ……ぁっ、真!? 真、大変だ!! 銀色の変な奴と、緑の子供が新を!!」
真「結城、落ち着け!!」
真は、今起こったことを手短に説明した。
ネオ生命体。
新の誘拐。
大きな船への呼び出し。
結城は青ざめた顔で聞いていた。
勝「しかし、あいつの言っていた大きな船とは一体何のことだ?」
真「何だっていい。俺は行く」
結城「おい真!! まさかお前一人で行く気か!?」
真「そのまさかだ。奴は俺一人で来いと言った。それに、俺なら新の居場所が探知できる」
勝「ネオ生命体は強い。一人で行くのは危険だ。俺も一緒に――」
真「近寄るなぁ!!」
勝の手を、真は払いのけた。
あゆみ「真さん!?」
結城「真!?」
真「俺に近寄ると、皆傷つく!! 皆不幸になる!! 皆死ぬんだ!! もう俺と新には関わらないでくれ!!」
叫ぶように言い残し、真は夜の森へ駆け出した。
ネオ生命体が消えた方角へ。
誰もすぐには追えなかった。
あゆみ「真さん……」
のどか「真さんは、どうしてあそこまで人と関わるのを拒絶するんだろう……?」
結城「……多分、あのことが原因だ」
耕司「あのこと? 彼に一体何があったんですか?」
結城は、真から聞いた話を語った。
財団の身勝手な野望。
知らないうちに、バッタの遺伝子と人間の細胞を組み合わされ、怪人へ改造されたこと。
愛した人が、自分を庇って銃殺されたこと。
父親も、その乱戦に巻き込まれて死んだこと。
一度に、ほとんどすべてを失ったこと。
もう普通の人間として生きることも許されない体になったこと。
そして、どれほど強い体を得ても、大事なものを結局何一つ守れなかったと、真が嘆いていたこと。
結城「だからあいつは、自分と関わった人が、愛ちゃんや親父さんと同じようになるんじゃないかって怖がってるんだ……」
結城は拳を握りしめた。
結城「あいつは、体は強くなった。でも、心はもろくなっちまった」
誰も笑わなかった。
誰も軽く受け止めなかった。
結城は、その場にいた仮面ライダーとプリキュア達へ頭を下げる。
そして、そのまま地面へ手をついた。
土下座だった。
結城「なぁ、君達は真に近い力を持ってるんだろう? 頼む!! あいつの力になってくれ!! この通りだ!!」
ただの人間である自分では、真を助けることができない。
その悔しさが、結城の声に滲んでいた。
だが、のどか達にとって、答えは最初から決まっていた。
のどか「もちろんです!!」
結城「行ってくれるのか……?」
耕司「もちろんだ。なぁ?」
勝「あぁ。どの道、ネオ生命体は放っておけない」
のどか「私達も同じです。ネオ生命体を放っておいたら、地球が蝕まれちゃう!!」
あゆみ「それに、私も真さんに助けてもらった。今度は私が、真さんと新君を助ける番です!!」
結城は顔を上げた。
目に涙が浮かんでいる。
結城「ありがとう……ありがとう!!」
何度も頭を下げる結城を残し、一同は真の後を追った。
やがて夜が明け始める。
東の空が淡く白み、森の輪郭が少しずつ浮かび上がっていく頃。
真は、見晴らしの良い崖へたどり着いていた。
まだ、ネオ生命体の言っていた大きな船らしきものは見えない。
それでも真は休まなかった。
再び歩き出そうとした、その時。
背後から気配を感じ、真は構えた。
木々の間から足音が近づいてくる。
真は警戒を解かずに待った。
そして、飛び出してきた者達の姿を見て、目を見開く。
のどか「真さん……やっと追いついた……」
真「お前達……どうやってここが?」
耕司「ベリーとラテのおかげさ」
真「ベリーとラテが?」
ベリー「そうさ。僕は君の反応を察知できる。それにラテは、君の匂いをしっかり覚えていたようだ」
ラテ「わふっ」
真「俺は来るなって言ったはずだ。何で来た?」
のどか「結城さんから頼まれたんです」
真「結城から……?」
のどか「うん」
ちゆ「ただの人間である自分では力になれない。だから、同じように力を持つ私達に力になってほしい。そう言っていました」
ひなた「それにさ、友達のために力になりたいって思うのに、仮面ライダーもプリキュアもない訳じゃん?」
真「……」
勝「それに、奴が再び現れたのは、俺がちゃんと死んだことを確認しなかったせいでもある。そのせいで、あなたの子供まで危険にさらした。責任を取らせてくれ」
真「それは、あんたの責任じゃないだろう」
耕司「あなたが自分と子供のために戦うと言うなら、俺達は同じ仮面ライダーの仲間のために戦いたい」
真「同じ仮面ライダー……? 俺は、そんないいモノじゃないって言ったはずだ!!」
あゆみ「そんなことありません!!」
あゆみが真へ近づいた。
そして、真の両手を握る。
真「……」
あゆみ「真さんの手は、私とセーラさんを助けてくれました。それに、あったかいじゃないですか。真さんの手」
真「違う!! 俺の手は、冷たい化け物の手だ!! 俺は誰かを傷つける!!」
あゆみ「そんなの、誰だってやりかねません。誰かを傷つける事に改造人間であろうがなかろうが関係ないんです」
真「……」
あゆみは手を離さなかった。
その目は、真っ直ぐだった。
あゆみ「他の人があなたを怪人だと恐れたとしても、私にとってあなたは立派な仮面ライダーです。ううん……真の仮面ライダー」
あゆみは、はっきりとその名を告げた。
あゆみ「仮面ライダーシン」
真「仮面ライダー……シン……」
風が、崖の上を通り抜けた。
真は、自分の手を見た。
化け物の手だと思っていた。
人を殺した手だと思っていた。
それでも、誰かがその手を「助けてくれた手」だと言った。
あゆみ「それに私も、新君に会ってみたいんです。駄目ですか?」
真は、しばらく黙っていた。
やがて、わずかに表情を緩める。
真「……いいや。会ってやってくれ。新もきっと喜ぶ」
あゆみ「はい!!」
のどか「その時は、私達にも会わせてください!!」
ひなた「あたしも会いたい!!」
ちゆ「私も」
耕司「俺も会わせてもらおう」
勝「あぁ」
皆が、もう新を取り戻した後の話をしていた。
そのことが、真には不思議だった。
こんな自分と新を、当たり前のように受け入れようとしている。
その事実が、胸の奥の硬く冷えた場所を少しだけ溶かした。
真はいつの間にか、心の底からの小さな笑みを浮かべていた。
その様子を見届けるように、ベリーがセーラへ声をかけた。
ベリー「セーラ。君にはちょっと頼みたいことがあるんだ」
セーラ「私に?」
ベリー「行ってほしい場所がある」
セーラは一瞬、黙ってベリーを見る。
それから、静かに頷いた。
セーラ「……聞かせてもらうわ」
~3章~『復活の戦士達』
新訳版3話『4人目のヒーリングっど♡プリキュア』へ続く