真・仮面ライダー-----終章-----『仮面ライダーワールド序章(プロローグ)』 作:狼と踊る男
新訳版1話『さようなら。仮面ライダーシン』
フォッグ・マザーは、今度こそ完全に消滅した。
仮面ライダーZO――麻生勝も変身を解き、一同のもとへ戻ってくる。
ベリーは周囲の気配を探った後、静かに告げた。
ベリー「フォグの気配はもう感じない。今度こそ完全に倒したようだ」
その言葉を聞いた瞬間、一同の体から力が抜けた。
張り詰めていた緊張が、一気にほどけたのだ。
ひなたはその場にへたり込む。
ひなた「疲れたぁ~……」
ちゆ「まぁ、あれだけのことがあったものね。私も正直、かなり疲れたわ……」
のどか「……」
ラビリン「のどか?」
あゆみ「どうかしたの?」
のどかは、周囲を見回した。
戦いは終わった。
ネオ生命体も、フォッグ・マザーも倒した。
それでも、胸の奥に何かが引っかかっている。
のどか「そういえば……ダルイゼン、どこへ行ったんだろうって思って。まだ近くにいるのかな?」
あゆみ「そういえば、途中から見なくなったような……。でも、どうして近くにいるって思うの?」
のどか「うん……なんて言うか、誰かに見られてるような気がして……」
誰かに見られている。
その言葉に、一同はすぐ警戒した。
耕司も勝も、周囲の気配を探る。
Jパワーを知るベリーも、空気の流れを読むように辺りを見渡した。
だが、何もない。
木々が揺れ、崩れた岩が転がり、遠くで炎がくすぶっているだけだった。
結局、のどか自身も「気のせいかもしれない」と思うしかなかった。
だが、その感覚は間違っていなかった。
それが本当に何だったのか分かるのはのどか達が元の時代に帰った後の話である・・・
勝「それにしても、あなた方親子が無事でよかった」
真「あぁ。皆のおかげで、俺も新もこうして無事でいられた。本当にありがとう」
真は腕の中の新を見た。
小さな体。
穏やかな顔。
真「ほら、新も皆にお礼を言わないとな。なぁ、新?」
だが、新は答えなかった。
いや、違う。
声が聞こえない。
真「新……?」
真は新の体を軽く揺らす。
新は真の腕の中で、きょとんとした顔をしている。
眠っているわけではない。
意識もある。
怪我をしているようにも見えない。
それなのに、真には何も伝わってこなかった。
いつもなら、新の思いはテレパシーとして流れ込んでくる。
まだ二歳の子供だから、言葉としてはっきりしたものではない。
それでも、不安、喜び、痛み、眠気。
そうした感覚は、必ず真に届いていた。
今までは、そうだった。
真「……聞こえない」
あゆみ「あの、真さん? 新君、どうかしたんですか?」
真「新の声が聞こえないんだ」
あゆみ「新君の声?」
ひなた「あれ? 新君ってもう喋れるんだ?」
のどか「そういえば、新君って今二歳ぐらいでしたっけ?」
真「そうじゃない。俺と新は、テレパシーで意思疎通ができる。だが、今はそれが全く聞こえない」
のどか「それって、どういう……」
ベリー「……真。僕にも、新君のテレパシーが伝わってこない」
真「ベリーにもか?」
真とベリーは、同時に困惑した。
その足元で、ラテが小さく鳴く。
ラテ「くぅぅ~ん……」
のどか「ラテ?」
のどかは聴診器を当て、ラテの心の声を聞いた。
その内容は、思いがけないものだった。
ラテ「ボトルから、真おじちゃんと新君の力を全部感じるラテ……」
のどか「真さんと新君の力?」
ベリーの目が鋭くなる。
ベリー「グレース。すまないが、もう一度変身して、真と新君をスキャンしてみてくれ」
のどか「えっ? うん、分かった」
のどかは頷き、ヒーリングステッキを構えた。
のどか「プリキュア!! オペレーション!!」
ラビリン「キュンッ!!」
キュアグレースへ変身したのどかは、真と新へステッキを向ける。
グレース・ラビリン「キュアスキャン!!」
光が二人を包み込む。
スキャン結果は、なぜかその場にいる者達にも共有されていた。
真の体。
新の体。
そこに、異常は見つからない。
むしろ、二人とも健康そのものだった。
だからこそ、一同は余計に首を傾げる。
何を確認するためのキュアスキャンだったのか、すぐには分からなかった。
ベリー「真。すまないが、君ももう一度変身してみてくれないか?」
真「……分かった」
真は新をあゆみに預け、静かに立ち上がった。
意識を集中する。
いつものように、体の奥に眠る力を呼び起こそうとする。
怒り。
本能。
守るべきもの。
これまでなら、それが引き金となり、肉体が怪人の姿へ変わっていた。
だが――。
何も起きない。
真「……変身できない?」
真自身が、信じられないという顔で呟いた。
あゆみ「急にどうして……?」
ベリー「やはりそうか」
ベリーは静かに言った。
ベリー「恐らく、ネオ生命体と共に、真と新君はグレースの浄化技を受けた。その時、エコーの力も加わっていた」
グレース「エコーの力……」
ベリー「あの白いヒーリングフラワーは、ただネオ生命体を浄化しただけではない。真と新君の体に残っていた、異常なバッタ因子……改造によって人間の体を蝕み、変質させていた力そのものを、無害なものへ変えたのだと思う」
ひなた「つまり……どゆ事?」
ちゆは息をのんだ。
ちゆ「ベリー。あなたはこう言いたいのかしら。真さんと新君は……元の、普通の人間になったって」
ベリー「フォンテーヌの言う通りだ。二人はもう、ただの人間だ」
その言葉に、真は動けなくなった。
ベリーは続ける。
ベリー「もちろん、二人の過去が消えたわけではない。改造された事実も、新君がその力を受け継いで生まれた事実も変わらない。だが、今の二人の体からは、変身やテレパシーを生み出していた異常な力が感じられない」
ベリーの話を、全員息を呑んで聞いていた
ベリー「本来、人間の体にバッタの遺伝子を強引に組み込むなど、自然なことではない。言ってしまえば、体を蝕まれているのに近い状態だった。ヒーリングっど♡プリキュアの浄化と、エコーの想いを届ける力が、その歪みを『病』としてお手当したのかもしれない」
グレース「お手当……」
ベリー「あぁ。だから、二人が別人になったわけではない。記憶も、心も、そのままだ。ただ、シンへ変身する力と、バッタ細胞由来のテレパシーが消えた。そう考えるのが一番近いだろう」
真は何も言えなかった。
普通の人間。
その言葉が、頭の中で何度も反響する。
そんなはずはない。
もう二度と元の体に戻ることなど不可能だったはずだ。
真は、不思議な力で変身していたわけではない。
体の隅々まで細胞を改造されていた。
仮に戻る方法があるとしても、それは今より遥かに進んだ未来の医療か、財団すら及ばない技術が必要なはずだった。
それが、今。
いつの間にか。
自分だけではない。
生まれながらに改造兵士の力を受け継いだ新までも。
ただの人間に戻った。
いや、なった。
真の思考はそこで止まった。
腕の中の新が、真へ笑いかける。
その笑顔は、何も変わらない。
テレパシーは聞こえない。
けれど、新はそこにいる。
生きている。
怪物としてではなく、追われる兵器としてでもなく。
ただの子供として。
真「……」
真の目尻に、涙が浮かんだ。
声を上げて泣いたわけではない。
それでも、涙は止まらなかった。
この二年間、無意識に押し殺してきたものが、少しずつ溢れていく。
あゆみ「真さん……」
ちゆ「あゆみ。少し、そっとしておきましょう」
のどか「きっと、ずっと心にため込んでいたんだと思う。今は、思う存分流し切ればいいよ……」
あゆみ「そうだね……。これでもう、苦しむことなんてないよね?」
ちゆ「そうであると、願いたいわね」
真は両膝をつき、新を抱きしめていた。
新は笑っている。
ラテは真の膝へ寄り添っている。
その光景を、一同は静かに見守った。
だが、数秒後。
ひなた「……あっ!!」
突然、ひなたが素っ頓狂な声を上げた。
泣いていた真まで、思わず動きを止める。
ニャトラン「おいおい、ひなた。なんだよ、そんな声出してよぉ!?」
ひなた「忘れてた……」
のどか「何を?」
ひなた「家に連絡するの、忘れてた……」
のどか、ちゆ、あゆみの表情が固まった。
三人「あっ……」
昨日から無断外泊をしている。
戦いに次ぐ戦いで、それどころではなかった。
だが、戦いが終わって気が抜けたことで、ようやく思い出してしまったのだ。
のどか「どうしよう……」
ちゆ「とりあえず、連絡しておきましょう。気が重いけど……」
ひなた「パパ達、めっちゃ怒ってるよねぇ~……」
あゆみ「うちのお母さんも、きっとカンカンなんだろうなぁ~……」
四人は重いため息をつきながら、スマホを取り出した。
真達は、その薄い板のような道具を不思議そうに見ている。
だが、四人のスマホには、揃って同じ表示が出ていた。
圏外。
のどか「圏外だ……」
ちゆ「まぁ、そうよね。ここ、山の中だし……」
ひなた「良かったぁ~! とりあえず助かったぁ~! 圏外じゃしょうがないもんね!!」
ちゆ「ひなた。時間が過ぎれば過ぎるほど、後が怖いことになるわよ」
ひなた「とか言いながら、ちゆちーもほっとしてるんじゃないの?」
ちゆ「それはまぁ……否定はしないけど……」
正直、のどかとあゆみも少しだけほっとしていた。
先延ばしになっただけだと分かっていても、今すぐ叱られずに済むと思うと、少しだけ気が軽くなる。
だが、その横で真達はまだスマホを見つめていた。
耕司「それは何だ?」
ひなた「えぇっ!? 今時スマホ知らないんですか!?」
のどか「ひなたちゃん!?」
ちゆ「ちょっと、失礼でしょ!? すみません、この子ったら……」
耕司「いや、構わないんだが……」
セーラ「連絡を取ろうとしたところを見ると、携帯電話のようだけれど。そんな機種が開発されていたかしら?」
あゆみ「あの、普通に出回っているんですけど……知りませんか?」
真、耕司、勝、セーラは、それぞれ首を横に振った。
見たことがない。
知らない。
その反応に、のどか達は困惑する。
今時、スマホを知らない人がいるのだろうか。
その時、ちゆの脳裏に、三件の新聞記事が蘇った。
1992年。
1993年。
1994年。
嫌な予感がした。
ちゆは、恐る恐る尋ねる。
ちゆ「皆さん。今年って、西暦何年何月何日でしたっけ?」
勝「今年? 1994年7月17日だが。それがどうかしたのか?」
一瞬、空気が止まった。
ちゆは、信じたくないという顔で、それでも納得したように呟く。
ちゆ「……やっぱり」
のどか、ひなた、あゆみは完全に思考が停止した。
のどか達にとっての現在は、20××年。
あゆみにとっての現在は、その2年前
だが、今いるこの世界は、1994年7月17日。
ようやく、彼女達は自分達の置かれた状況を正しく理解した。
ひなた「うっそぉぉ~~~!? あたし達、過去に来ちゃってるの!?」
のどか「それじゃあ、家に電話がつながらないはずだよ!? どうしよう……」
耕司「ベリー。彼女達をどうにか未来の世界へ返す方法はないだろうか?」
ベリー「すまないが、流石にそれは僕には分からない。力になれなくてすまない」
のどか「ううん。いいの。ベリーが悪いわけじゃないから」
のどかは少し考え込む。
のどか「あれ? それなら、何でダルイゼンがこの時代にいたんだろう?」
ちゆ「多分だけど、私達を包んだ光にダルイゼンも一緒に取り込まれて、この時代に飛ばされてきたんだと思う。いくらビョウゲンズでも、時間をさかのぼる術なんてそうそう持っていないでしょうし」
のどか「あっ、そっか」
ひなた「でもさ? それなら、あたしらこれからどうすればいいのぉ~!? この時代で家に戻っても意味ないじゃん!?」
ちゆはあゆみへ向き直った。
ちゆ「ねぇ、あゆみ。そういえばあなたはどうやって、二年前から二十四年前の世界に来たの?」
あゆみ「何だかややこしいね、その言い方……。それが、私にもよく分からないの。この目覚まし時計が急に光ったと思ったら、暗いトンネルの中を飛ばされて、この時代に出て来たの」
あゆみはジカンコエ~ルを見せる。
ちゆ「そう……何か手掛かりが掴めると思ったのだけれど……」
その時、ベリーが顔を上げた。
ベリー「皆。そのことで、グレース達に伝えたいことがあると、ある人物達がテレパシーで僕に告げている」
ちゆ「私達を呼ぶ人達? ベリー、それって一体……」
ベリー「地空人。この地球の奥深くに住む、地下世界の住人だ」
グレース達は顔を見合わせる。
未来へ帰る手がかり。
それが今、ようやく見えようとしていた。
~終章~
最終話・新訳版『真・仮面ライダー終章』へ続く