人が神に対抗できる手段は限りなく少ない。
まつろわぬ神とは結局のところ天災だ。人が隕石を殴り倒せないように、地震を鎮められないように、噴火する火山を斬り伏せられないように、抗いようもなく受け入れるべき真実なのだ。
けれど。それでも。
僕はまつろわぬ神に立ち向かわなければいけなかった。
幸運なことに僕の手札には神にだって通用しうる切り札はあった。
それはひとつの
その才能は檻の中で最大限に発揮されまつろわぬ神である女媧ですら欺き、神に対抗しえると証明された。
それは自分を他人だと思い込む才能……つまり──自己暗示の才能だ。
僕がアマリリスとなるために自己を捨て去って
自己を見失った空っぽの器に、べつの誰かなのだと狂信的に暗示をかけ他人を流し込む狂気を。
自分も神様も欺いてしまう、
それを使えば、僕はまつろわぬ女媧を欺き、一発の弾丸を打ち込めるのでは。
そうして僕はスミスの衣装を着こんで、
かつん。
恐怖と不安がざわついて、引き返そうとささやいた。いつものことだ。彼らは牢に閉じ込められた時から僕のすぐそばに居て、情けない僕をさらに不甲斐なくさせた。
でも退くわけにはいかない。
ああ、それに絶好の機会じゃないか。
僕はいままでまつろわぬ女媧にいい様にされた借りがある、これを返さないでいていい筈がないし、横からかすめ取られるのも気に入らない。
懐にある唯一行使できる権能の存在を、熱として認識できた。スミスから譲り受けた神殺しの鉾が、武者震いをするかのごとく胎動していた。
かつん。
人である僕が勝てるのだろうか、一矢報えたら御の字だと思う。でも僕には、そう分の悪い賭けだと思えなかった。
スミスのいった予定調和という言葉にすがっているだけかもしれない。だけど負けるつもりも毛頭なかった。
……そうだ、今は記憶が薄れてしまっているが僕がはじめて神を弑逆したときの感覚に似ていた。あのときは不安を胸に、そろりそろりと進んで、少しの高揚が私の背中を押していた。
かつん。
鉄鋲の歩みが石の回廊に反響し、丸窓をぬけて空へ溶けた。
外はもう陽が落ちる寸前だ。
まつろわぬ女媧の定めた刻限は夜。
……逢魔が時をすぎて、闇と魔の時間。
つまりかの女神の本領だ。──今この時より、まつろわぬ女媧はもっとも力を増す。
私が相手にするのはこれまでとは一線を画す、全力の女媧となるだろう。
臆すれば、先刻のごとく呑まれること請け合いだ。
しかし私の胸中に恐怖など微塵もありはしなかった。
まつろわぬ女媧は私の存在に気付いている。なにせ此処は彼奴の本拠たる塔なのだ、できない道理はない。
しかし私はこうして奥深くまで入りこめている。私では阻まれたはずだ。
……だが贄たるアキであったならば素通りができる。
故に私は限界まで
そして私はここまで辿り着いた。
重厚な扉を開け放って、羽織った長いケープを翻す。
──さぁ、