緋色の王 太極の乙女【完結】   作:につけ丸

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1.魔術師

 アマリリスは()()()()()()()()をうかべて、わらった。

 

 「わたしは大丈夫。だから泣かないで」

 

 失明したはずの彼女は、謝りつづける僕にそんな言葉を掛けてくれた。

 1番苦しんでいるのは彼女なのに、でもアマリリスは決して悲観していなかった。ともすれば喜んですらいて。

 

 僕は気づいた。

 

 きっと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 

 疑問があれば、質問の答えを。

 

 挫けそうならば、ほしい言葉を。

 

 他人の願いを受けいれて、願いを叶えようとする人なのだ。

 

 ”だれがキミから()()()の?” 僕の質問に

 

()()だよ、なまえはしらない」 隠すでもなく躊躇うでもなく、答えは当たりまえのようにかえってきた。

 

 怒りも憎しみも恐もなく、ただ無機質に。

 そうして身をささげてまで、彼女はだれかに与えようとする。

 名も知らない誰へ尽くそうとする姿は、ぜんまい仕掛けの人形じみていた。

 

 僕のこころがはなれていくのを、止められなかった。

 

 でもみとめたくもなかった。だから僕は彼女をすくう方法をさがしはじめた。

 

 彼女から彼女をうばうものは()()

 

 なんだそれ? 僕の率直な感想だった。

 けれどなぞだらけでも、手がかりにはかわりない。

 

 牢のなかをぐるぐる回って、至る所をあさって思考をめぐらせた。創作物にあるような都合のいい抜け道も、便利な道具も見つからなくて、そもそも僕は凡庸なにんげんだった。

 結局、答えも、手がかりも、見つかることはなかった。

 

 ”ここから出る方法ないの?” 

 

 困りはてた僕は、彼女にすがった。情けなくって仕方なかったけどもう手立てが思い浮かばなかった。

 

「"わからない。でも、ここから必ず出してくれるってスミスは言ってくれたよ」

 

 スミス。しらないだれか。

 聞きだそうとしたけれど、とっても強いヒーロー。それだけしか彼女はこたえなかったし、しらなかった。

 

 からだをうごかせばお腹がすく。

 でも檻のなかにたべものはなくて、石くれからにじむ水滴だけが飲み水だった。

 

 アマリリスは食事をひつようとしない。食事もしなければ排泄もしなかった。

 人間ではなかった。頭を振る。そんなわけがない。

 でも僕は腹のむしが大いにないて、身からでる汚物をとめられなかった。

 時間とともに檻のなかは劣悪なものへと変わっていく。

 

 そして状況も変わりはしなかった。

 

 

 帰ってきた彼女は左指がなかった。

 

 帰ってきた彼女は右足の骨がなかった。

 

 帰ってきた彼女は左の乳房がなかった。

 

 帰ってきた彼女は耳がなかった。

 

 夜がおとずれるごとに達磨へちかづいていく彼女。僕のこころはむしばまれていた。

 無力をなげくばかりでなにもできない僕は、坂をころげおちるように歪んでいった。

 

 帰ってきた彼女は頬がなかった。──彼女と代わりたい。

 

 帰ってきた彼女は爪がなかった。──彼女へ変わりたい。

 

 帰ってきた彼女は左の肺がなかった。──彼女になりたい。

 

 いつしか願いは変質していった。

 

 ──また"夜"がくる。

 アマリリスはもう歩けなかった。ひとつになった肺であらい息をくりかえし、ひとつだけあった毛布は包帯になっていた。

 

 僕は彼女を、みることも、はなしかけるのも、やめていた。

 水滴をかきあつめて水鏡をつくり、そこからのぞく僕に淡々とかたりかけていた。

 

 ──キミはだれ? 

 

 ──ぼく? ぼくはアキだよ。

 

 ──ちがうよ。わたしはアマリリスよ。

 

 ──キミがアマリリスなら、アキはだれになるの? 

 

 ──アマリリスは僕で私はアキだよ。おかしなこといわないでよ。

 

 ──あはは、そうだった、なら、僕はアマリリスだね

 

 ──うん、だってわたしはアマリリスだもの。

 

 あるときを境に、僕はアマリリスだった。

 

 

 その日の"夜"。

 やはり"わたし"に睡魔が襲ってくることはなかった。

 気づけば檻のそとにいて、ひとりぼっちで立っていた。

 

 ───ひた。 ひた。 ひた。

 

 ブキミな足音。いつものように"神様"はわたしのもとへ近づいてきた(そんなの知らない)

 

 

 

 ───ひた。

 

 

 

 

 ───ひた。

 

 

 

 

 来る(逃げろ)

 

 

 

 ───ひた。       

 

 

 

 

 神様が(バケモノだ!)

 

 

 ───ひた。

 

 

でもわたしは慣れたもので恐怖なんてかけらもなく、それを受けいれていた(なにを言ってるんだだれか助けて!)

 

 

 

 

 

 ───给我吗。

 

 

 もどってきた僕に、右腕はなかった(もどってきた僕のこころは壊れた)

 

 

 

 

 ぼくはそのときはじめてこころのそこからわらえて。

 

 

 アマリリスはむきしつなえがおをうかべて、わらった。

 

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