アマリリスは
「わたしは大丈夫。だから泣かないで」
失明したはずの彼女は、謝りつづける僕にそんな言葉を掛けてくれた。
1番苦しんでいるのは彼女なのに、でもアマリリスは決して悲観していなかった。ともすれば喜んですらいて。
僕は気づいた。
きっと
疑問があれば、質問の答えを。
挫けそうならば、ほしい言葉を。
他人の願いを受けいれて、願いを叶えようとする人なのだ。
”だれがキミから
「
怒りも憎しみも恐もなく、ただ無機質に。
そうして身をささげてまで、彼女はだれかに与えようとする。
名も知らない誰へ尽くそうとする姿は、ぜんまい仕掛けの人形じみていた。
僕のこころがはなれていくのを、止められなかった。
でもみとめたくもなかった。だから僕は彼女をすくう方法をさがしはじめた。
彼女から彼女をうばうものは
なんだそれ? 僕の率直な感想だった。
けれどなぞだらけでも、手がかりにはかわりない。
牢のなかをぐるぐる回って、至る所をあさって思考をめぐらせた。創作物にあるような都合のいい抜け道も、便利な道具も見つからなくて、そもそも僕は凡庸なにんげんだった。
結局、答えも、手がかりも、見つかることはなかった。
”ここから出る方法ないの?”
困りはてた僕は、彼女にすがった。情けなくって仕方なかったけどもう手立てが思い浮かばなかった。
「"わからない。でも、ここから必ず出してくれるってスミスは言ってくれたよ」
スミス。しらないだれか。
聞きだそうとしたけれど、とっても強いヒーロー。それだけしか彼女はこたえなかったし、しらなかった。
からだをうごかせばお腹がすく。
でも檻のなかにたべものはなくて、石くれからにじむ水滴だけが飲み水だった。
アマリリスは食事をひつようとしない。食事もしなければ排泄もしなかった。
人間ではなかった。頭を振る。そんなわけがない。
でも僕は腹のむしが大いにないて、身からでる汚物をとめられなかった。
時間とともに檻のなかは劣悪なものへと変わっていく。
そして状況も変わりはしなかった。
帰ってきた彼女は左指がなかった。
帰ってきた彼女は右足の骨がなかった。
帰ってきた彼女は左の乳房がなかった。
帰ってきた彼女は耳がなかった。
夜がおとずれるごとに達磨へちかづいていく彼女。僕のこころはむしばまれていた。
無力をなげくばかりでなにもできない僕は、坂をころげおちるように歪んでいった。
帰ってきた彼女は頬がなかった。──彼女と代わりたい。
帰ってきた彼女は爪がなかった。──彼女へ変わりたい。
帰ってきた彼女は左の肺がなかった。──彼女になりたい。
いつしか願いは変質していった。
──また"夜"がくる。
アマリリスはもう歩けなかった。ひとつになった肺であらい息をくりかえし、ひとつだけあった毛布は包帯になっていた。
僕は彼女を、みることも、はなしかけるのも、やめていた。
水滴をかきあつめて水鏡をつくり、そこからのぞく僕に淡々とかたりかけていた。
──キミはだれ?
──ぼく? ぼくはアキだよ。
──ちがうよ。わたしはアマリリスよ。
──キミがアマリリスなら、アキはだれになるの?
──アマリリスは僕で私はアキだよ。おかしなこといわないでよ。
──あはは、そうだった、なら、僕はアマリリスだね
──うん、だってわたしはアマリリスだもの。
あるときを境に、僕はアマリリスだった。
その日の"夜"。
やはり"わたし"に睡魔が襲ってくることはなかった。
気づけば檻のそとにいて、ひとりぼっちで立っていた。
───ひた。 ひた。 ひた。
ブキミな足音。いつものように"神様"は
───ひた。
───ひた。
───ひた。
───ひた。
でもわたしは慣れたもので恐怖なんてかけらもなく、
───给我吗。
ぼくはそのときはじめてこころのそこからわらえて。
アマリリスはむきしつなえがおをうかべて、わらった。