緋色の王 太極の乙女【完結】   作:につけ丸

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21.世界

 

 ”これからどうしよっか。自由になれたけれど目的もなにもないよ” 

 

 パンドラが去ったあと、アマリリスが困ったように嬉しそうに笑った。影が差した雰囲気もなく血の通った表情で、僕にほのかに微笑んでいた。

 

 「目的なら、あるよ」

 

 僕は言い切った。

 

 「ちょっと時間はかかりそうだけど、生き残れたんだしやってみようと思う。……いままでてんやわんやだったから、これからはきっと平穏に決まってるだろうしね」

 

 ”あはは、なにいってるの。あたしたちは神様を弑逆して晴れてカンピオーネになっちゃったんだよ? これから神様と戦わなくちゃいけないのは確定だよ?”

 

 「えっ」

 

 僕の淡い期待は全否定されてしまった。

 

 「なにそれ初耳なんだけど……パンドラって神様、ご褒美っていったよね……?」

 

 ”ほ、ほら……神様って独善的なところがあるから……。アマリリスはスッと目を逸らした”

 

 パンドラという神様に本当に感謝していいのか分からなくなりそうだった僕らは話題を変えることにした。晴天のひろがる景色は綺麗だったけど、殺風景でもあった。

 

 「ここどこだろう? 人って近くにいるのかなぁ」

 

 ”数億年先の、それも並行世界だもんね……神様だっていないかも……。あ、でも見て”

 

 アマリリスが唐突に声をあげた。

 空の一点を指さして、にっこり笑っていた。その先には青空があってひとつの星が瞬いていた。

 僕らの目は空が青くたって、空に昇る星を見ることができた。

 

 ”秋、あの星が牢のなかで見た北極星だよ”

 

 幾星霜という長い時間のなかで定められた位置に張りつけられていた星は、その磔から解放されて自由な空へ瞬いていた。僕たちにはそれだけでもこの弥終の地に訪れた価値を見出せた。

 

 よかった探しじゃないか、と笑いそうになったけどやめておいた。僕らは星を見つめ続けた。

 

 「……ねぇ、アマリリス。僕は彼に……スミスに会いに行こうとおもう。それが僕の目的」

 

 「スミスはきっとどこかで生きてる」

 

 「女媧をたおす瞬間にあの人を感じとれた、パンドラさんだって言っていたんだ。それに冥府の王がエンマ大王の言うことを素直に従うとはおもえないしね」

 

 

 ”でも、それは茨の道だよ”

 

 ”わたしたちはここがどこなのかも、スミスの居場所だってわかってない”

 

 ”それだけじゃないよ、わたしたちは時間すら飛び越えて時間軸だってわからない並行世界にいる。もとの世界だって絶ッ対たどり着けないくらい遠い場所……それでも行くの?”

 

 「うん」

 

 「僕は0.0001%を100%にする全能者(神の子)ではなくなったけど、でも0%を覆せる可能性の獣(カンピオーネ)になれたんだ。だから……」

 

 ”そっか”

 

 もうアマリリスはなにも言わなかった。

 

 

 ……ふと、眠気を感じた。

 

 

 「ちょっとだけねむくなって来ちゃった。このまま寝てもいいかな……」

 

 

 ”大丈夫。わたしは未来永劫、あなたのそばにいるから……”

 

 ”だから今は眠って……”

 

 

 「うん……おやすみアマリリス…………」

 

 

 

 

 ────────

 

 ──────

 

 ────

 

 ──

 

 

 

 

 

 やがて、姿を晦ましていたロスの守護者は帰還する。

 

 それが彼なのか彼女なのか、知るものは少ない。

 

 仮面の王は何者で、仮面の下にどんな顔があるのか?

 かの王の帰還とともに過去何度も議論された疑問にふたたび火が付き、その疑問に様々な憶測が飛び交った。

 

 やはり精悍な美丈夫であるとか、いいや可憐な少女であるとか、美を尽くした天使だとか、武骨な益荒男であるとか……答えのでない推論はとどまるところを知らない。

 

 

 けれど、ひとつだけ分かる事がある。

 

 冥王さながらの力で神々と戦い、誰でもない誰か(ジョン・ドゥ)であり誰かである誰か(ジョン・スミス)であるかの魔王を、やはり人々は──"ジョン・プルート・スミス"と、そう呼ぶのだろう──。

 

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