その日の"夜"はいつもと毛色が違った。
なにせ僕は神様のすがたをわずかばかり見通すことができた。
もやがかった影のなかに、どこか
神様に性別があるのなら、きっと
ふしぎな確信にはあった。
神様はのそりと大蛇じみたうごきで僕を、
射すくめられた蛙と化した僕に、神様は黒いかいなをのばし、するりと
僕のこころは、文字どおり心のそこから凍りついた。
神様の手から、思念じみたものが、溢れた。
お前の願いは叶えた。
後はお前が私の願いを叶える番だ、と。
黒いカゲそのものが僕をからめとった。
──ホウギ。ホウギ。ホウギ。
はじめて神様はじゃべった。
……でも意味なんてわからず、かみ合わない歯をならすだけ。
神様がなにをしようとしているのかはわかった。
神様は"僕"を求めていた。"僕"とひとつになろうとしていた。
そのときの僕は、神様が僕をもとめた理由をしらなかったし、しりたくもなかった。
でも。
──モトメラレテイル。
澄み切った思いが、細胞からにじみでた。
僕のこころからではなく、彼女のカラダから生まれたこえ。
さしだそう。ささげよう。ささえよう。あたえよう。
僕のなかの彼女がいう。
こころは懸命に拒絶をさけび、カラダは高らかに奉仕をさけんだ。
こころとカラダが乖離していた。
けれど離れることはない。なぜなら僕らは一心同体だった。
ゆっくりと、そして確実に、こころはカラダに引っ張られていた。
──ホウギ。ホウギ。ホウギ。
神様はむしり取る、ささげモノを。
奪ってなかった。
いま、アマリリスと同化して、やっと理解した。
彼女はすべてを与える存在だった。
彼女の代わりになりたくて僕は僕をささげた。
僕たちは、すすんで神様に、ささげていた。
神様は欲するだけで、ただあるのみだった。
ああ、おかしいのは神様じゃない。僕らだったんだ。
そのことに気づいたとき、僕から気力が抜けおち、うなだれて──
──そして私が現れた。……どうやら事態は、私を求めるほどとなったらしい
ひとつの。
足音が。
かつん。
───かつん。
彼は前触れもなくあらわれた。
次いで、あまりに奇怪な出で立ちに、意識は釘付けになった。
素肌をのぞき見ることを一切許さない貴公子じみた装い。
肩からケープを翻し、手にはいかめしいリボルバー式の銃をもって。
極めつけに昆虫を思わせる黒い仮面で素顔を覆っていた。
気取った言葉遣いも相まって、どうみても奇人。
けれど。
──私はジョン・プルート・スミス。
──まつろわぬ神よ。冥王たる私の参戦が、さらなる混沌をもたらすと知るだろう。
彼は悲劇に満ちた箱庭へ散歩をするように、訪ねてきて。
そしてそれを許される強大な力をもった、地獄を突き破る冥府の王で。
……ヒーローは、遅れてやってきた。