緋色の王 太極の乙女【完結】   作:につけ丸

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4.皇帝

 その日の"夜"はいつもと毛色が違った。

 

 なにせ僕は神様のすがたをわずかばかり見通すことができた。

 

 もやがかった影のなかに、どこか()()を思わせる人影がにじんでいた。異形のすがたをしていた。

 

 神様に性別があるのなら、きっと()だ。

 

 ふしぎな確信にはあった。

 

 神様はのそりと大蛇じみたうごきで僕を、()()

 

 射すくめられた蛙と化した僕に、神様は黒いかいなをのばし、するりと()()に手を突きこむと心臓を鷲掴みにした。

 

 僕のこころは、文字どおり心のそこから凍りついた。

 

 神様の手から、思念じみたものが、溢れた。

 

 お前の願いは叶えた。

 後はお前が私の願いを叶える番だ、と。

 

 

 黒いカゲそのものが僕をからめとった。

 

 ──ホウギホウギホウギ

 

 

 はじめて神様はじゃべった。

 ……でも意味なんてわからず、かみ合わない歯をならすだけ。

 

 神様がなにをしようとしているのかはわかった。

 

 神様は"僕"を求めていた。"僕"とひとつになろうとしていた。

 

 そのときの僕は、神様が僕をもとめた理由をしらなかったし、しりたくもなかった。

 

 でも。

 

 

 ──モトメラレテイル。

 

 

 澄み切った思いが、細胞からにじみでた。

 僕のこころからではなく、彼女のカラダから生まれたこえ。

 

 

 さしだそう。ささげよう。ささえよう。あたえよう。

 

 僕のなかの彼女がいう。

 

 

 こころは懸命に拒絶をさけび、カラダは高らかに奉仕をさけんだ。

 

 こころとカラダが乖離していた。

 

 けれど離れることはない。なぜなら僕らは一心同体だった。

 

 ゆっくりと、そして確実に、こころはカラダに引っ張られていた。

 

 

 ──ホウギホウギホウギ

 

 

 神様はむしり取る、ささげモノを。

 

 奪ってなかった。

 

 

 いま、アマリリスと同化して、やっと理解した。

 

 

 彼女はすべてを与える存在だった。

 

 彼女の代わりになりたくて僕は僕をささげた。

 

 

 僕たちは、すすんで神様に、ささげていた。

 

 神様は欲するだけで、ただあるのみだった。

 

 

 ああ、おかしいのは神様じゃない。僕らだったんだ。

 

 

 そのことに気づいたとき、僕から気力が抜けおち、うなだれて──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──そして私が現れた。……どうやら事態は、私を求めるほどとなったらしい

 

 

 

 

 

 ひとつの。

 

かつん。

 

かつん。

 

 

かつん。

 

 

 

かつん。

 

 

 

 

 足音が。

 

 

かつん。

     

    かつん。

 

かつん。

 

 

 ───かつん。

 

 

 彼は前触れもなくあらわれた。

 

 次いで、あまりに奇怪な出で立ちに、意識は釘付けになった。

 

 

 素肌をのぞき見ることを一切許さない貴公子じみた装い。

 

 肩からケープを翻し、手にはいかめしいリボルバー式の銃をもって。

 

 極めつけに昆虫を思わせる黒い仮面で素顔を覆っていた。

 

 

 気取った言葉遣いも相まって、どうみても奇人。

 

 けれど。

 

 

 ──私はジョン・プルート・スミス。

 

 ──まつろわぬ神よ。冥王たる私の参戦が、さらなる混沌をもたらすと知るだろう。

 

 

 彼は悲劇に満ちた箱庭へ散歩をするように、訪ねてきて。

 

 そしてそれを許される強大な力をもった、地獄を突き破る冥府の王で。

 

 

 ……ヒーローは、遅れてやってきた。

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