僕たちはあっけなくカミサマに襲われた。
ここはまつろわぬ女媧の庭。逃げだした僕らをさがしだすことなんて、女禍にとっては赤子の手をひねるようなものだった。
十分な睡眠をとる間もなく、戦闘を強いられた。
おどろおどろしい気配に呑まれ、へたり込むしかなかった僕。けれど彼は違った。スミスは前に出て、漆黒の【魔鳥】へと変化し、雄々しく舞いあがった。
夜闇を舞台にした戦場で、濃淡の分かれた黒と黒の潰し合いがはじまった。
女媧は影となって踊り狂う。スミスはさまざまに姿をかえて夜を舞う。
彼らの戦い方は捉えどころがないという点においては似通っていた。
僕には陰翳を題材にしたひとつの演目じみて、あれが命の奪い合いなのだと気付くのに時間がかかった。
怪鳥の姿を解いた彼が月光をおもわせる銀の弾丸を放つと、一条の光弾は世界を照らし出して、女媧の姿を白日のもとにさらけ出した。女媧の全容が明らかになる。
ひっ。
僕は喉奥から引っ掻いた嗚咽をもらした。
半人半蛇の女妖。一言にすればそんな姿で、その面貌は荒れ果てた蓬髪の黒髪によって見通せなかった。
ただただ長い髪の隙間からのぞく眼光が、恐ろしかった。
ギチギチと昆虫じみた声を鳴らし、女媧が躍動した。
それは攻守が入れ替わる合図。女媧はスミスの喉元へながい腕を伸ばし、女媧に追われた彼が世界から姿を消す。
虚と実が移り変わる戦いのなかで、僕のなにかが弾け続けた。
スミスが銀の銃弾を放つ。──アルテミス。
毒手を漆黒の魔鳥となっていなす。──テスカトリポカ。
魔鳥が岩を、木々を、すり抜けて陰翳が揺らめく。──ビフロンス。
スミスが力を振るう度に、霊視が降りているのだ。同時に霊視が囁く。さっきの見知らぬ単語群が、神にすら抗じる力の源なのだと。
超越者同士の戦いを、薄ぼんやりと理解できていた。常人には到底不可能な事。
彼女の瞳が、彼女の耳が、彼女の五感が、僕だからできることだった。
これはアマリリスが見ていた世界なのだ。
寂寥感が胸を打った。だってすべてアマリリスの世界だ。
僕という残り香は消えてしまっていた。
人間の動体視力と空間把握力では到底追えない戦いのなかで、スミスがアクションを起こした。それは女媧へのものでは無かった。
ほんの刹那、指をふるだけのサイン。……でも僕に向けられたものだった。
以心伝心には程遠い僕らだったけど、彼の意を察して走りだした。
なんのことはない。
──逃げろ。
きっとそう言っていた。