インフィニット・ストラトス 蒼炎の炎   作:クロスボーンズ

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第12話 動きだした闇

 

ラウラの様子の異常には、皆が気づいていた。彼女の周囲に電撃の様なものが走り、彼女のISが姿を変えていった。今はスライムの様に、不定形な形を形成していった。

 

「なっ、何なんだ。一体・・・」

 

一夏たちが数歩ほど後ずさる。どう見ても普通ではない。そんな中でユーゴは、右の頬を痛そうに抑えていた。

 

(この感じ!まさか、あれは!)

 

コントロールルームでも、山田先生は困惑していた。だが織斑先生だけは冷静であった。

 

「これは、一体・・・」

 

「レベルDの警戒態勢を発令」

 

「りっ、了解」

 

『非常事態発生!全試合は中止!状況をレベルDと認定。制圧の為、教師部隊を送り込む!来賓、生徒は直ちに避難せよ!』

 

そのアナウンスの元、観客席と来賓席を遮断シールドで閉鎖する。そしてラウラのISは、ラウラ自身を取り込むと、その姿を別のものへと変えていった。刀を持った女性の様に。

 

(おいおい!こいつまさか、あのシステムを・・・)

 

シャルルとユーゴが、特にユーゴのISが激しめの警戒体制を取る中で、一夏はその姿に唖然としていた。

 

「あれは・・・雪片。千冬姉と同じじゃないか!・・・二人とも、下がってくれ。俺がやる」

 

すると一夏が雪片弍型を構え、真正面に対峙した。すると次の瞬間、そのISは物凄い速度で白式目掛けて斬りかかって来た。

 

「一夏!!」

 

ユーゴが弓矢で矢を射るも、その特殊なボディの前ではエネルギーの矢としての貫通力は薄い。

 

謎のISは意に会する事なく、再び一夏へと斬りかかった。これまでの戦闘の消費も重なり、遂に白式がエネルギー切れにより強制解除された。

 

片腕からは血が流れ出ており、彼自身も負傷している。だが、一夏はその眼に怒りを宿し、目の前のISを睨みつけていた。

 

(あの剣技!間違いない!俺が、最初に千冬姉に習った真剣の技だ・・・こいつ!千冬姉の、真似しやがって!!)

 

一夏の眼に映り込むIS。一夏はそれに怒り以外の何も感じていなかった。

 

「こっ・・・このやろおっ!!!」

 

「おい一夏!?お前なに考えてんだ!!」

 

一夏は無謀にも、生身の状態でそのISへと向かっていった。言わずもがなだが、生身の人間が丸腰でISに勝てる訳がない。勝てるとしたらそれは、完璧超人くらいである。

 

今の一夏は完全に頭に血が昇っている状態だ。冷静な判断は出来ない。

 

「馬鹿者!何をしている!死ぬ気か!?」

 

ふと、意外な声が聞こえその方を見る。いつの間にか箒がやって来ており、一夏を抑え込んでいた。どうやら鎮圧部隊の職員が使う緊急通路から来たらしい。

 

「離せ箒!あいつふざけやがって!!ぶっ飛ばしてやる!!!邪魔するなら、例えお前であろうと・・・」

 

「いい加減にしないか!!」

 

【パチン!!】

 

箒が一夏目を覚まさせるべく、頬にビンタした。それによって、一夏も冷静さを取り戻した。

 

「今のお前に何が出来る!?白式のエネルギーも残っていない状況で、あいつとどう戦う!?」

 

するとそこに教師部隊がやってきた。数は4人。全員がリヴァイヴに搭乗している。アナウンスで言っていた鎮圧部隊の様だ。

 

「見ろ。別にお前がやらなくても、直ぐに状況は収束される」

 

しかし一夏はこれに納得していない。

 

「・・・違うぜ箒。全然違う。俺がやらなきゃいけないんじゃない。これは、俺がやりたいからやるんだ!」

 

「まだそんな事を!ではどうすると言うのだ!?お前と違って、一夏は白式のエネルギーがないこの状況で!」

 

「エネルギーが無いならさ、持ってくればいいんだよ」

 

その提案をしたのはシャルルであった。ユーゴは威嚇として弓矢を構え、いつでも放てる様に待機している。

 

「持ってくる?何処からだ?」

 

「ここだよ。リヴァイヴのエネルギーバイパスを解放。エネルギーの流出を許可」

 

そう言うと彼女はISからプラグコードを取り出し、一夏のブレスレットと接続した。すると何かが流れ込んでいる感じが、一夏には伝わってきた。

 

「成る程。リヴァイヴの持つISのエネルギーを、白式に分け与えるのか」

 

やがてエネルギーの移動が完了する。シャルルのISの残りのエネルギーを全て使った為、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡが自動解除された。

 

「ねぇ一夏。約束して。絶対に勝つって!」

 

「あぁ勿論だ。負けたら男じゃねぇよ」

 

「ふふっ。言ったね。じゃあさ、負けたら明日から女子の制服で通ってね?」

 

「おいおい」

 

箒が驚いた顔を向けている。笑顔でこの人はえげつない事を言うなぁ。一方の一夏は、迷いの無い目をしていた。すると弓矢の構えを解除したユーゴが合流してきた。

 

「待て一夏。お前とあいつの相性は悪い。今の状態だと、明日から女子制服確定だぞ?」

 

「やってみたくちゃわからないだろ」

 

「話を最後まで聞け。とにかくお前とあいつの相性は悪い。だから俺も手を貸す。あのISは現在VTシステムが起動している状態だ」

 

「VTシステム?何だよそれ」

 

「ヴァルキュリー・トレース・システム。本来ならISへの搭載は愚か、開発そのものが禁止されている危険なシステムだ。今、あのISを包んでいるのは、無数の特殊なナノマシンだ。機体への僅かな損傷などでは、直ぐに復元してしまう」

 

「それと俺と、どう相性が悪いんだよ」

 

「正確に言うなら俺にも相性が悪いだ。だが、俺達二人になら突破出来る筈だ。とにかく今は俺を信じてくれないか?」

 

「・・・あぁ。いいぜ」

 

「随分とあっさりと信じるんだな。何も聞いてこないのか?」

 

「必要ねぇよ。それに忘れたのか?先月のクラス対抗戦。お前は、初対面の俺の提案を信じて、作戦に乗ってくれた。なら今度は、こっちが信じる番だ。その代わり、失敗するんじゃないぞ」

 

「あぁ。必ず成功させてみせよう」

 

「じゃあユーゴも、失敗した時には同じ罰を受けるんだね」

 

シャルルの鬼の提案に露骨に嫌な顔をするも、ここで断る訳にも行かなかった。二人とも覚悟を決め、一歩前へと足を進める。

 

それはコントロールルームからも確認出来ていた。

 

「あの子達、何を・・・」

 

「教師部隊を下がらせろ。彼等に任せよう」

 

織斑先生の指示を受け、教師部隊は数歩下がり、静観となった。

 

「白式を一極限定モードで再起動させる!」

 

残されたエネルギーの内、白式の右腕と雪片弍型を召喚する。

 

「やっぱエネルギー残量的に、右腕と武器で限界だね」

 

「それで十分だ。零落白夜も一度だけだが使える!」

 

「その一撃が決まれば、その後は俺がやるべき仕事だ」

 

まず一夏が目の前の敵に向かって対峙しようとする。すると後ろから箒が呼び止めてきた。

 

「一夏・・・死ぬな!絶対に死ぬな!」

 

「信じろ」

 

一夏が箒に言葉を返す。

 

「俺を信じろよ箒。必ずあいつに一太刀入れて勝ってみせる。ユーゴにバトンを繋げるためにも・・・行くぞ!零落白夜、起動!覚悟しろよ!偽物やろう!」

 

箒達や織斑先生達が見守る中で、右腕と武器だかの白式と、敵のISとで対峙する。

 

「この勝負、一瞬で決まる」

 

敵のISの太刀を零落白夜で受け流すと、一気に腹部への斬り込みを入れた。すると腹部に空洞の様な穴が広がった。

 

零落白夜がナノマシンの塊を掻き切ったのだ。だが、それらは周囲にある無数のナノマシンにより、直ぐに修復される。

 

はずだった。ユーゴがある隠し球を使った。

 

「・・・いくぞ。システム起動。ナノマシン結合」

 

すると右頬のマーカーの色から黄色から赤色へと変色した。いや、赤色だと思われたのは血であった。その部分から血がドバドバと頬を伝って垂れ流れてゆく。

 

次の瞬間、その穴の空いた箇所に、一瞬の修復する間も与えず、ナイフで次々と切り刻み、刺し込んでいった。あまりの速さに一夏たちの目が追いついていない。傷口は明らかに広がってゆく。

 

「そうか!まず一夏の零落白夜で、大きな切り傷を作る。その後、ユーゴのファストナイフでその傷口を修復よりも速く壊す。これなら、エネルギーが切れる前に何とかなるかも!」

 

シャルルが丁寧に解説する。

 

ファストナイフだけだと、削り切るのに時間がかかる。ISのエネルギーがなくなるならまだしも、最悪の場合、敵からの反撃が来る危険もある。

 

一方、零落白夜だけでも奴を倒すには及ばない。重い一撃を与える為に、エネルギー消費など、その反動は大きい。その後、仮に二度目があってもその時には傷口はほぼ修復。ファストナイフ以上に、エネルギー切れを起こすのだ。

 

だからこそ、零落白夜の様に、一度で敵に深く突き刺す強力な一打と、その後処理を行う為のナイフの連撃が渾然一体とする必要であった。

 

敵のISは完全に困惑しており、ショートでもしたのか何の反応も示さなくなっていた。ユーゴ自身、一切動きを止める事なくナイフでその穴を広げていった。

 

やがてその穴の中から、金色の光が見えて来た。眼帯が取れたラウラの左側の瞳であった。

 

すると左側の瞳とユーゴの右頬の跡が共鳴するかの様に、一瞬だけ光った。彼に目眩が襲いかかる。一瞬だけ目を閉じ、次に開けてみると、そこは一つの部屋であった。装着していたISなども解除されている。

 

 

 

「ナノマシンが共鳴し合い、形成された空間が」

 

たった一枚の壁を隔てたその部屋。この向こう側にはラウラがいる事が、直感的に理解できた。そしてラウラとこの壁一枚を挟む形で背中合わせでの話し合いが始まった。

 

(・・・私はお前が憎かった。戦う為に生み出された私。そんな私が手術すら受ける事が許されなかったAA。それを持つお前が)

 

アステカの祭壇(Aztec Altar)の事か」

 

(そうだ。どうしてお前がその力を手にしたのか。何故、私はその力を手にする事が出来なかったのか。お前が強いからなのか?私が弱いからなのか?)

 

「・・・俺は強くない。お前より弱い存在だ。7年前、俺はこいつを望んでないのに得た。俺はその時のトラウマを未だに引きずってすらいる」

 

「もし、それでも俺が強いと言うのならそれは、俺には譲れない事があるからだ。俺と違い、アステカの移植後の症状に今も苦しんでいる人がいる。そいつは今も意識が戻ってこない」

 

「俺は以前、あいつに助けられた。あいつがあの時いなかったら、俺は腐ったまま死んでた。あいつがいたから、今の俺がいる。だからあいつを、今度は俺が助かる番だ」

 

(お前の言うあいつ。まるで私で言うところの教官だ・・・では何故、お前は私を助けようとする。先程まであれ程、毛嫌っていた私を)

 

「俺としては理由が二つある。一つ目はこいつだ」

 

ユーゴが自分の頬にあるマーカーを指さす。ラウラからは見えてないが、きっとラウラも、頬のマーカーの事を指しているのだと理解しているのだろう。

 

「俺には一つだけ、決して譲れない事がある。自分の様な、研究などに使われる犠牲者だ。あのままいけば、お前はVTシステムに、ナノマシンに完全に取り込まれていた」

 

「俺はそんな犠牲はもう見たくない。下らない研究の犠牲者は、俺とあいつだけで十分だ。もうこれ以上、増えて欲しくない。もう一つは簡単だ」

 

「俺は女子の制服なんざ着たくない。それだけだ」

 

 

 

再び意識が現実世界へと戻ってくる。時間にして意識を失ってから0.1秒も経っていないだろう。それでいて、先程の問答の記憶ははっきりと残っている。

 

【maximum!】

 

ファストナイフに蒼炎を纏わせると、トドメの一撃としてそのISを真一文字に斬り裂いた。少しの沈黙の後、そのISを覆っていたナノマシンは崩壊していった。

 

そして崩れてゆくナノマシンの塊の中から、一人の少女が倒れこんで来た。慌ててそれを受け止める。

 

ただ意識を失っているだけのラウラ。無事なその姿に皆が安堵の息を漏らした。あのユーゴも例外ではない。

 

(これで、作戦成功だな・・・今回はお前のおかげでもある。感謝するぜ)

 

ユーゴは自身の頬にある禁断のナノマシン。アステカの祭壇をなぞった。そこには先程流れ出た生暖かい血が、まだ付着していた。

 

「やったな、ユーゴ」

 

「・・・あぁ」

 

一夏と手を交わしあう。コントロール室からは、織斑先生の怒声の指示がとんでいる。

 

「急げ!直ぐに救護班を!!」

 

【パチ、パチ、パチ、パチ、パチ】

 

突然、その場に似合わない渇いた音の拍手が聞こえてきた。するとアリーナの遮断シールドが破壊され、何かがユーゴ達の目の前に現れた。

 

「ブラボーブラボー。お二人共、とても素晴らしいコンビネーションでしたよ」

 

ISを装着した一人の女性。教師の一人か医療班の方だと、皆が最初は思った。だがそれは直ぐに否定される。

 

他の教師達と違い、リヴァイヴでは無く、これまで見た事のないISに登場している事だ。

 

「二人の勝利の祝福に、乾杯を」

 

するとユーゴの表情が、これまでに無い程に険しいものへと変化した。

 

「お前は、クイーン!!」

 

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