「結局トーナメントは中止だって。でも生徒の現在の腕前を把握する為に、一回戦だけは全部やるんだって」
「ふーん」
「まぁ、あんな出来事があったんじゃ、仕方ないな」
あの後一夏達は、織斑先生から今日の戦いでの事を生徒達に口外する事を禁じられた。生徒達や来賓の方達にも、上手く理由をつけて今回の一件を丸く収めたらしい。
今は食堂でラーメンなり定食なりて、空腹を満たしていた。
「優勝のチャンスが消えた・・・」
「交際の夢が・・・」
「・・・うわぁぁん!!」
すると離れた所にいた三人の女子が何故か床に崩れ落ちた。立ち上がったかと思うと、嘆きながら食堂を後にして行った。
「あいつら、何を嘆いてるんだ?」
すると一夏は少し離れた場所にいる箒に気づいた。すると箒の元へと歩みよる。
「そういや箒。例の件だけどさ。別に付き合ってもいいぞ」
その言葉の驚きのあまり、箒が固まる。ユーゴとシャルルも表情にこそ表さなかったが、箸を取り落とす程に固まって驚いている。
「・・・今、何と言った?」
「だから、付き合っても良いって」
「本当か!?本当の本当に本当なのだな!?」
喜んでいる箒に胸ぐらを掴まれ揺さぶられている一夏。結構苦しそうである。
「お、おう」
ぐんぐんと顔を近づけてくる箒に、一夏は多少だが引いている。やがて近すぎる事に気付いたのか、箒が慌てて離れた。
「ちっ、因みに何故だ?一応理由を聞こうではないか」
「そりゃお前。他ならぬ幼なじみの頼みだからな。付き合うさ」
「そうかそうか!」
「あぁ!
買い物くらい、付き合うさ」
【ドスッ!】
「グハァッ!?」
箒の全身全霊の怒りを込めたであろうパンチが、一夏の頬に直撃した。ものの見事に吹き飛ぶが、それだけでは終わらない。
「どうせ!そんな事だろうと思ったわっ!!」
そのまま一夏の腹をサッカーボールの如く蹴り上げた。すげぇ。身体少し浮いたぞ。箒はカンカンに怒りながら食堂をそそくさと出て行った。
「ほ、箒のやつ、何であんなに怒ってるんだ?」
「思うんだけど、一夏ってさ。ワザとそうやってるんじゃないかって思う時があるんだよね」
「それについては同感だ」
これに関しては完全に一夏が悪い。寧ろ付き合ってもらう!と聞いて何故、買い物に付き合うが真っ先に思い浮かんだのだろうか。純粋か?純粋だからか?それともただの唐変木なのか?
せめてあの時、屋上で昼を食べた時に買い物だろ?って言っていれば、まだ手加減程度はして貰えただろうに。哀れ、南無三。
すると三人のテーブルに、山田先生がやって来た。
「織斑君にデュノア君。それに白銀君。今日は大変でしたね。でも、そんな三人の労を労う素晴らしい場所が、今日から解禁になったんです!」
「解禁?」
「何と男子の・・・大浴場なんです!!」
男子の大浴場。今の使用者は一夏一人だけだが、確かに三人で使う分には、それは大きすぎる浴場であった。
「ふー。生き返るな。これは」
【ガラガラ】
「おっ。ユーゴか。アドバイザーへの連絡は終わったのか?・・・ユーゴ?どうし・・・!?」
「・・・いっ、一夏ぁ」
振り返った一夏の顔が赤く染る。何とユーゴではなくシャルルが、大浴場に入って来たのだ。
「おいシャルル!何やってんだ!!」
「そのっ・・・あんまり見ないで。一夏のエッチ」
「すっ、すまん!直ぐに上がるから!」
「待って!話したいことがあるんだ。大事な事だから、一夏にも聞いて欲しい」
上がろうとする一夏をシャルルが呼び止めた。そして現在、一夏とシャルルが背中合わせで話し合っている。
「一夏。聞いて。僕ね、ここに居ようと思うの。一夏がいるから、ここにいようと思うんだよ?」
静か浴槽の中で、シャルルが静かに一夏の手を握る。
「そっ!そうか」
「それにもう一つ。僕の在り方について決めたんだ」
「!!?」
一夏の背中に、柔らかい感触が二つ感じ取れる。それもその筈、シャルルが一夏に抱きついている。タオル?湯船にタオルを入れるか?つまり、そう言う事だ。
「僕の事はこれから、シャルロットって呼んで欲しいな。二人きりの時だけでもいいから」
「・・・それが、本当の名前なのか」
「うん。お母さんがくれた、本当の名前」
「・・・分かったよ。シャルロット・・・」
「ありがとう。一夏・・・あのね一夏。僕、一夏の事が」
【ガラガラ】
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
いい雰囲気をぶち壊すかの如く、ユーゴが大浴場へと入ってきた。入ってくるなら一夏とシャルルを凝視した。
二人の顔が最高潮に紅潮する。慌てて二人が離れて、浴槽から出ようとするが、それをユーゴが制した。
「待ってくれ一夏。それにシャルル。聞いてくれないか?せめて二人にだけは、本当の事を言っておきたいと思う。この頬にあるマーカーについてだ」
それは意外な言葉であった。これまで幾度となく気になって聞こうにも、ユーゴが言う気配も無かった為に、突然のその言葉に二人は驚いている。
ユーゴが簡単に身体を洗い、浴槽内に入ってくる。すると濡れた手で頬にある黄色のマーカーをなぞった。
「この頬にあるマーカー。これはアステカの祭壇っていう特殊なナノマシンを埋め込んだ人間に現れる、記号の様なものだ」
「アステカの祭壇?それってあの心霊系の奴に出てくる、検索してはいけないワードのやつか?」
詳しいことは言えないので、気になった方は調べてみよう(但し、どの様な事態になっても、作者は一切の責任は取りません)
「違う。それじゃない。で、これは体内に多量のナノマシンを埋め込む事で、人間の持つ肉体の機能を飛躍的に上昇させる事が出来る、特殊なシステムだ」
「そんな凄いシステムが。でも、僕は聞いた事ないよ?」
「元々がかなり危険な強化法だからな。失敗した時のリスクだって高い。8年前には新たにこれを肉体に埋め込む事そのものが禁止された程だ」
「その時、これに関わるすべての関係資料がこの世から抹消され、今となっては、その名を知るものは身体に埋め込んだ者か、関係者くらいだ」
「詳しい事は言えないが、俺は今から7年前、ネクロノミコンによってこれを埋め込まれた。だから俺は奴等を追っている。奴等が埋め込んだ張本人達だ。なら必ず、除去する為のプログラムだって持っているはず。それを手に入れる為に」
「でも、それでも進展はなかなか見られなかった。だから俺は、この学園を利用しようとした。その為にこの学園に通う事にした。表向きに居場所を明かして、連中を呼び寄せようとな」
その結果が、クイーンの登場である。つまりのユーゴの狙いは確かに成功したのだ。しかしユーゴの顔持ちは重いままである。
「・・・だが。関係ない奴が巻き込まれる事は良しと思ってはいない。だからこそ、今回の一件。ネクロノミコンがラウラを使ったのが、俺がいる学園の生徒だから。そういう理由だけかもしれない」
「もしそうなら、俺は・・・」
そこから先の言葉は言えなかった。いや、言いたくなかった。
彼自身、立場上の建前だけでなく、今のこの学園生活を楽しんでいる自分がいる事に気づいている。それは復讐の為に、如月さんと情報を集めながら旅をしていた時間とは、全く違った時間であったからだ。
「だからせめて二人にだけは、一応本当のことを伝えておこうと思ってな」
「そうか・・・ありがとうな、ユーゴ」
「なっ!?いきなり礼を言って、何だ?」
突然一夏が礼を言い出した。その突然の事にユーゴが困惑する。
「俺達に秘密を打ち明けてくれた事だよ。それって、お前が俺達の事を信用してくれたからじゃないのか?そうだとしたら、嬉しくてよ。他人に頼られる事が」
「僕もだよ。僕もさっき、一夏に僕の秘密を打ち明けた。だから分かるんだ。秘密を打ち明けた今のユーゴの気持ちが」
「それとユーゴ。一つだけ言っておくぜ。俺はお前もシャルロットも友達だと思ってる。秘密を打ち明けてくれたんだからさ。もし、お前の言う事態になったとしても、俺の中のそれは変わらねぇよ」
ユーゴは顔をキョトンとさせていたが、やがて笑い始めた。
「・・・ふっ。ふふふっはっはっはっ!ラウラ・ボーデヴィッヒが言っていた様に、本当に可笑しな奴だな。お前って」
その言葉は随分と砕けたものへと変化していた。復讐者としての、そして自分を偽る為の仮面は今は要らない。ユーゴの持つ素が表れていた。
「一夏。こんな事言うのは悪いが」
「分かってる。この話を無闇に広げる事はしない。今は俺とシャルルだけの秘密な。そしてシャルルが女って秘密も、俺とユーゴだけの秘密だ」
「あっ、一夏。その事なんだけど・・・まぁいいか」
シャルルが何か言いかけたが、気付いてなかった為に話すのをやめた。その後三人は風呂を長く堪能した後、自分達の部屋に戻っていった。
次の日。ユーゴが朝起きてみると、シャルルが部屋にいない事に気がついた。そのまま朝食を摂る際にもシャルルの姿はなかった。
何処に行ったのかと疑問に思っていたユーゴと一夏だったが、二人の目の前に、シャルルは突然現れた。
「えー・・・今日は皆さんに、転校生を、お知らせします」
明らかに山田先生が上の空状態である。一夏に至っては、かなりの冷や汗を流している。まぁユーゴ自身も、結構焦っているのだが。
「シャルロット・デュノアです。皆さん。改めて、よろしくお願いします」
「えーと・・・実はデュノア君は、デュノアさんと言う訳でした。と」
「・・・・・・は?」
箒のその一言で、教室内がとてつもなく騒ついた。
「「「えええっ!?」」」
「デュノア君って女だったの!?」
「どうりでなんかおかしいと思った!実は美少年じゃなくて、美少女って訳だったのね!」
ここで終わればよかった。それならまだ「何だそうか。騙されたな。ははは」で済ませられた。問題はこの後の発言だ。
「って織斑君!それに白銀君!二人とも、確か一緒の部屋だったのに、この事に気がつかなかったの!?」
おや、ボヤ程度の騒ぎなのにどんどん火が大きくなってるぞ?意識したとはいえ、これ以上火種が大きくならない事を祈ろう。
「待って!そう言えば昨日って確か、男子が大浴場使ったわよね?まさか二人とも!そこで・・・」
「いや!俺はなにもしてないぞ!!そりゃ一夏とシャルルが抱き合ってたけど、俺は何も・・・ヤベッ」
「ばっ!馬鹿!!」
祈りは通じなかった。言った後に後悔するが、最早手遅れだ。ユーゴの失言により、炎上している火種にガソリン。いやニトロ缶が丸ごと放り込まれた。
クラス中に歓喜の悲鳴か聞こえてきた。その発言には山田先生すらも、顔を赤らめている。あーあ。大爆発だなこりゃ。ナレーターの俺、もう知ーらね。
【ドッスーン!!】
一組の教室の壁が崩壊する。なんと2組から鈴が甲龍にのってやってきたのだ。それも額にはっきりと、青筋を立てながら。
「一夏ぁ!!!!!」
龍咆のチャージは全開状態だ。
「ちょっと待て鈴!!落ち着け落ち着け!俺死ぬって!!」
「丁度いいわ!いっぺん死んで来なさい!!」
龍咆が放たれ、教室の窓側の壁を破壊した。一夏は何とか直撃を避ける事に成功するも、余波で思い切り吹き飛ばされた。
「痛ててて。直撃したらやばかった」
「痛いって事は、まだ神経が繋がってる。つまり問題ないって事だ。よかったな一夏。俺、腹痛くなっちまった。早退します!」
この場からとにかく逃げようとするユーゴ。しかし、そうは鈴と問屋が下さない。
「ユーゴ!!あんたもあんたで同罪よ!!」
うん、知ってた。再び龍咆がチャージされる。
「待て待て待て!!!何故だ!?」
「女として、許せないからよ!!」
無茶苦茶だ。咄嗟にユーゴがジョーカーを展開、マントとビームシールドで龍咆を受け止めようとした。
しかし、再び放たれた龍咆の攻撃に割って入るものがいた。シュヴァルツェア・レーゲン。ラウラのISだ。AICを使って受け止めている。
「ラウラか。悪いな、助かっ・・・んんっ!?」
「「「!!!??」」」
その瞬間、ユーゴの世界は固まった。ユーゴだけではない。クラスメイト達も、山田先生も鈴も、ラウラ以外の全ての時が止まっていたと言っても過言ではない。
何と、ラウラがユーゴにキスをした。しかもディープなのを。数秒の時間が経過した後、キスは終了する。
ユーゴは唖然としていた。震える手で、自分の指を自分の唇に当てる。
「・・・・・・エ?ナニコレ?」
「お、お前は私の嫁にする!決定事項だ。異論は認めん!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
第一声がこの気の抜けた返事である。
「何だその反応は!?嬉しくないのか!?お前を嫁として、私が貰ってやるのだぞ!!」
「え・・・ええっ!?ちょちょちょ!ごめん。え、何で!?何でそうなった!?ちょっと何言ってるかマジで分からない!!えっ?えっ?えっ?」
放心と動揺が交互に襲ってくるあまり、ユーゴが取り乱していたその時であった。
【バキッ!!ドスッ!!】
何かプラスチックが折れる音がした。その直後に壁に全力拳をぶつけた様な鈍い音もする。先程までのクラス中の歓喜の声が、恐怖の喘ぎに変わる。
「あっ・・・あっ・・・」
とても嫌な予感がする。一組のメンバーが恐る恐るその音のした方角へと視線を向けた。
「・・・・・・おい貴様ら。この惨状は一体どういう事だ?」
織斑先生がそこにはいた。とても穏やかな笑顔を浮かべながらも、それでは隠しきれない程の怒りが溢れている。
それは手にしている出席簿が真ん中から真っ二つにへし折られている事からも想像がついている。眼など完全に殺気付いており、その眼はISに乗ったユーゴ達を睨んでいた。死んだなこいつら。
「あ・・・アタシ!早く教室に戻らなきゃ!じゃ!そう言う事で!」
鈴もISを解除して、壊した箇所から出ようとするもそこにいた織斑先生が道を塞いでいる。
「そんな逃げる事はないじゃないか。是非、ゆっくりと話し合おうじゃないか(ポキポキ)」
「あ、あっ、アハハハハハ!!ポキポキ指を鳴らすのは、話し合う人のする事じゃないですよ?織斑先生」
「この、大馬鹿者共がぁ!!!!!」
織斑先生の怒鳴り声が、学園中に響き渡った。もしかしたら窓ガラスを割れるかもしれない程に。その後、一組の今日の授業は全部中止となり、2組との合同で1組のメンバーは全員、教室の修復作業に1日取られたのであった。
なお、この後に破壊の主犯たる鈴と、ISを教室内で展開したユーゴとラウラ。そしてクラス代表でありながらこの事態を防げなかった一夏。そしてとばっちりの如く、副担任の山田先生の計5人は、織斑先生直々にこっ酷くお説教されたとか・・・
今年も残すところ数時間ですね。
皆さん。良いお年を!