さて、ユーゴと分かれたラウラはどうだったろうか?時間を少し遡らせよう。丁度、山田先生達と遭遇したあたりの時間だ。
「水着とは、こんなにも種類があるのか・・・」
ラウラは現在、水着の総量に圧倒されていた。胸を乗せるタイプや定番のビキニなど、水着の種類は豊富である。この中から一つ選ぶのだ。そんな中、ある人達の会話を聞いてしまった。
「しっかり気合い入れて選ばなくっちゃね~」
「似合わない水着着てったら、一発で彼氏に嫌われちゃうもの」
「他の事が全部100点の加点方でも、水着がだめじゃ結局×0になっちゃうもんねぇ」
その言葉が、彼女の中で電流を走らせた。いや、電流なんて生易しいものではない。リボルバー拳銃で撃ち抜かれた衝撃である。水着など、たかが特殊な布程度の感覚。それが崩壊した瞬間である。
(私は先程、ユーゴの目の前で、水着如きと言ってしまった・・・)
いけない。このままではいけない。ラウラは専用の通信機を取り出すと、ある人物へと電話した。自分に日本の知識を教えた、最も信頼できる人物に。
「クラリッサ、私だ。緊急事態発生」
「ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長。何か問題が発生したのですか?」
ドイツ軍。シュヴァルツェ・ハーゼ、通称黒うさぎ隊。ドイツ軍が保有する10機のISのうち3機が配属されるといった特殊部隊である。そして通信相手はここの副隊長。クラリッサ・ハルフォーフだ。
「うむ。白銀ユーゴの事についてだな」
「あぁ。織斑一夏に次ぐ、男でありながらISを運用する人物でアステカの祭壇を持つ、隊長が好意を寄せている彼の事ですね」
「そうだ。お前が教えてくれた所謂、私の嫁だ」
お前が教えたのか。文法的に間違ってるため、お前の婿が正しいなどと言ってはいけない。
「実は今度、臨海学校というものに行く事になったのだが、どの様な水着を選べば良いのか、選択基準が分からない。そちらの指示を仰ぎたいのだが」
「了解しました。この黒うさぎ隊は、常に隊長と共にあります。因みに、現在隊長が所持している装備は?」
「学校指定の水着が一着。だが装備には多少の難ありだ。これの多少サイズの大きい版が良いのだろうか?」
「なっ!何を馬鹿な事を!」
通信相手のクラリッサが激昂した。
「確か、IS学園は旧型スクール水着でしたね!?それはそれで一部のマニアからの受けは悪く無いでしょう。だが!しかしそれでは・・・!」
「それでは?」
「色物の域を出ない!!」
「おおーっ!」
はっきりと断言したその言葉に、部下達が顔を合わせ、喜びを語り合っている。部下たちには現在クラリッサが、覇者のオーラを纏っている様に見える。
「流石は黒うさぎ隊の副隊長!」
「伊達に日本の漫画やアニメを愛好しておられない!」
・・・誤解の内容に言っておくが、彼女の得た知識の大半は漫画やアニメなどのサブカルチャーである。漫画やアニメ、これら全てが正しい日本知識ではない点を、留意しておこう。
まぁ本人がその気になっているのなら、それで良いのかもしれないが。
こうきてラウラは、クラリッサに言われた通り、ある水着を購入したのだった。
さて、一方のこちらはようやく山田先生のお説教から解放された一夏とシャルロットである。
「ごめんね一夏。僕のせいで一夏まで怒られて」
「気にすんなよ。それより、そろそろ昼飯の時間だな。何か食事でも食べるか?」
「え!?食事!!それも、僕と一夏!?」
シャルルの顔が赤くなる。だが先程試着室での赤さとは違う、赤さである。
「まぁそうなるな。もしかして、誰かと一緒に食べる約束とかあるのか?」
「無い!無いよ!だっ、だったら・・・」
「あらぁ!一夏さん。偶然ですわねぇ」
「一夏ァ!それにシャルロット。なーにしてるの?」
一夏達の元に、いいとこブレイカー2号機3号機がやってきた。尚、1号機は無論ユーゴだ。
「げっ!セシリア。それに鈴」
「あらぁシャルロットさん。何が「げっ?」なのですか?」
「なっ!何でもないよ!」
「セシリア。それに鈴も。二人も買い物か?」
「えぇ。私達、偶然ここに来ておりまして、買い物を終えたところですの。それで今から偶然昼食を摂ろうとしておりましたの」
「よかったら一夏達も一緒に食べない?この店付近にいるユーゴとラウラも誘うわよ?」
「あぁ。そうだな。食事は大勢で食べた方が美味しいしな。シャルルもそれでいいよな?」
「うっ、うん。勿論。大歓迎だよ。アハハハハハ」
(ううっ。やっぱり、邪魔されたぁ・・・)
(本当は私と二人きりが良いのですが、背に腹はかえられませんわ!とにかく今は、お二人を二人っきりさせてはいけません!)
(あんたと一緒がいいとかはともかく、その点は認めるわ。絶対に二人っきりにさせるもんですか!)
女性の思惑は実に恐ろしい。こうして買い物を終えたユーゴとラウラと合流し、近くにあったファミリーレストランへと足を進めていた。すると入り口の看板メニューを見ている知った人物がいた。
「箒?箒もこの店で食べるのか?」
「お、一夏よ。奇遇だな、こんな所にいるとは」
店の前に何と箒がいた。看板メニューで何を頼むのか、考えているらしい。彼女は本当に偶然であったのだが、今後の行動の予想は出来た。
案の定、一夏のパーティーを見た箒がこのメンバーに加わった。こうして7人がイタリア料理店での食事が始まった。
「このピザ結構美味いぞ!みんなも食べてみろよ!」
「おい!その一切れは私が目をつけていた一切れだぞ!」
「何言ってんのよ!アタシの方が先に目をつけたわよ!」
「これからドリンクバーに行きますが、何方か、リクエストはございますか?」
「あっ。じゃあ僕、緑茶を頼みたいな」
一夏達のテーブルはとても賑やかな様子であった。まぁ少なくても彼女達が静かに食事をする風景は、あまり予想できないのだが。
「全く。静かに食事をする事も出来んのか」
「賑やかな方が楽しいって言うし、仕方ないだろうな」
テーブル席の都合上、ユーゴとラウラは隣のテーブル席であった。互いに頼むのがコーヒーにスパゲッティと、向こうとは違いこじんまりとしている
コーヒーを飲みながらラックに置かれた新聞をユーゴが読んでいる。するとある記事で露骨に嫌な顔をしたかと思うと、そのページを直ぐにめくり、見なかった事にした。
そのページにに書かれた記事。
「現総理大臣、山鳩秀吉。疑惑について」
(国家権力が・・・)
そして皆が食事を終わり、モノレールに乗りIS学園に戻る事になった。ホームで待っていたさなか、突然ユーゴが走り出した。
「みんなは先に戻ってくれ。俺は少し寄りたい場所がある」
「寄りたい場所?何処だ?」
「まぁ、個人的な用事だ。先に戻っててくれ」
そう言うとユーゴはそそくさとモノレールの駅からユーゴは去っていった。彼がホームを去るとの同時に、モノレールは駅へとやって来た。一夏達が乗り込むが、ラウラの足はホームで止まっていた。
「あの様子、少し気になるな。私も後を付けてみよう」
ラウラも、ユーゴの後に続く形でホームを後にした。
「どなたか、ユーゴさんやラウラさんと一緒に行かれるのもよろしいのですよ!?」
((((念の為、不確定要素は減らしておかないと))))
彼女達の駆け引きはこんな所でも行われていた。心休まる時はないのだろうか?まもなく扉が閉まると言うアナウンスが聞こえてきたその時だった。
「やべっ!買い忘れがあった。待ってくれラウラ!俺も一緒に行くよ」
「「「「ええっ!!?」」」」
突然一夏が立ち上がり、モノレールから降りた。そしてあっさり言われたその言葉に四人の顔が青ざめる。
「待て!一夏が行くなら、私も行くぞ!!」
「私も!買い忘れがありましたわ!」
「アタシだって!その・・・ペン買い忘れちゃった!」
「僕も、その・・・忘れ物しちゃった!」
これが一夏大好き病か。四人がモノレールから閉まる扉から慌てて駆け降りてきた。皆さんは駆け降りはやめてくださいね。
こうして一夏を半ば強引に連れ彼女達が本日二度目の尾行を始めた。対象のユーゴは気づいてないらしい。
彼はその足をショッピングモール街から、中央の大通りへと進めた。やがてユーゴは一つの大きな病院の中へと入っていった。一夏達もそれに続く。
「病院?もしかしてユーゴ、何処か体調が悪いのか?」
彼は1階の花屋で花束を購入すると、エレベーターに乗り込んだ。エレベーターは5階に止まる。その直後に下へ降りてきた事を考えるに、ユーゴは5階で降りたらしい。
ラウラは隣のエレベーターで、残りのメンバーは階段で5階を目指した。受付にユーゴについて聞くと、503号室の部屋を案内された。
だが、辿り着いた先の扉には面会謝絶という立札がかけられいた。
「ここにユーゴがいるのか?」
「でも、面会謝絶だよな?」
もう一度受け付けに聞きに行こうとしたその時だ。
「こんな時間に面会の方ですか?」
不意にかけられた声で一夏達が驚き振り返る。そこには1人の看護師がおり、一夏達を怪訝そうに見ていた。
「あっ!いえ、友達を待ってるんです」
「あっ!すいません!白銀君のお友達ですか!?私、503号室の患者さんの担当看護師の、宮野京子といいます」
するとその言葉に反応したのか、入り口の扉が開かれた。そこにはユーゴがいる。見るからに不機嫌そうに一夏達を見た。
「お前達、ここで何をしてるんだ?」
「その、悪かった。ついでに覗いてやろうとか思って・・・」
「まぁいい。騒がないなら入れよ」
503号室に招かれた6人。そこで見たのは、生命維持装置などの機械囲まれた、1人の少女であった。点滴やペースメーカーなどの医療器具に繋がれている。
何より、頬にはユーゴと同じ様にマーカーが、アステカの祭壇が刻印されている。
「俺の知り合いの方の友人だ。ある事故に巻き込まれて、未だに意識が戻らないんだ。俺がIS学園に通うまでは、ただ一人の友達だった」
「そうか。安直な言葉しか言えないけど、早く目覚めるといいな」
暫くの間、皆は黙っていた。するとユーゴが何かのカードを取り出した。しわくちゃになっている一枚のジョーカー。彼がお守り代わりにずっと閉まっている切り札。それは直ぐに終われた。
やがてユーゴがこちらを振り返り、歩き出した。
「じゃあ、とっととIS学園に戻るか。見舞いも終わったし。ほら出てった出てった!」
普段通りの口調でユーゴが一夏達を外へと急かす。振り返り、最後にユーゴが部屋を出る前に、寝ている少女に一言。
「また来るからな、奏・・・」
その後、皆が病院を後にしてモノレールに乗り、IS学園に戻っていった。
「・・・今日は、楽しかったぜ」
「ユーゴ?今なんて?」
「何でもない。気にするな」
その言葉を最後に、ユーゴは何も言わなくなった。モノレールを降り、IS学園に向かって歩いていると、駅の入り口に織斑先生と出会った。その隣には山田先生もいる。
しかし午前中に出会った時と雰囲気が違い、その表情は真剣なものであった。
「おいユーゴ。お前に客が来ている」
「客?如月さんですか?」
「・・・山鳩秀吉だ総理大臣。しかも、警官まで連れてきている。お前を名指しでな」
次の瞬間、ユーゴの表情が怒りで支配されたのは、言うまでもない。黙ってそのまま、客の待ち受ける談話室へと足を進めた。