インフィニット・ストラトス 蒼炎の炎   作:クロスボーンズ

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第18話 ポーカー勝負

 

 

「奏さん。入りますよ」

 

とある病院の一室。503号室。決して応える事のない返事を、彼女は少し期待した。

 

「奏さん。今日も点滴の交換に来ましたよ」

 

そこの病人の担当看護師である宮野京子はいつもと同じ様に病人の点滴交換に来ていた。ビニール状の点滴袋を慣れた手つきで取り替える。

 

(・・・あれ?お花が添えられてる)

 

ふと隣の台を見る。置かれた花瓶の中に白いエーデルワイスが一輪だけ備えられていた。そして花瓶の下には添えるやつに、三つ葉のクローバーが置かれていた。

 

どちらも昨日見た限りでは、病室に無かった花である。

 

(どなたかお見舞いにこれたのでしょうか?あら?これは)

 

よく見ると花瓶はもう一つ置かれていた。そこには白い菊が飾られていた。

 

(病院で菊の花だなんて、縁起が悪いですね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わってアイスクリーム移動販売の車。その車内には2人の男がいる。片方は水着に着替えているが、まだ海などには入っていない。もう片方はエプロンをしており、販売員という風格を醸し出していた。

 

「例の一件はこちらでも情報は集まっている。VTシステムの発動にクイーンの登場。そして非公式にして非公開な山鳩のIS学園の視察。いよいよ連中もこっちに何かしら仕掛けてきたな」

 

如月さんがPCを見ながら話している。しかし話し相手のユーゴは何処か上の空であった。

 

「・・・・・・」

 

「・・・ユーゴ?」

 

彼は販売する場所から海を眺めていた。その目は遠くにいるIS学園のクラスメイト達を見ていた。

 

「なーに見てんだ。このムッツリすけべ野郎」

 

右耳をぐいぐいと引っ張る。慌てて如月さんの方を振り返った。

 

「いや、なんて言うかさ。あの光景が凄い平穏に見えてさ・・・」

 

「ユーゴ?お前いきなり何言って」

 

「すいませーん」

 

突然の来客。これまでの軽口から一転、如月さんは慌てて営業スマイルを作り、受け答えをする

 

「いらっしゃいませ。ご注文をお伺いします。って君達か」

 

ガラスケースから顔を上げたその面は、一夏達の物であった。ユーゴも肩越しにそちらを向いた。

 

「あれ、一夏。それに山田先生達。一体どうしたんだ?」

 

「何って、そろそろ昼時で小腹が空いてさ。海の家に来てみたら、お前がアイス屋さんに居たから声かけたんだよ。ところで、この人って確か」

 

「如月慎吾。俺の所属する会社の社長さんだよ」

 

「如月慎吾だ。うちのユーゴがお世話になって。今は資金集めの為に副業のアイス売りさ。どうだい?今なら少し安くしとくよ。それにしけも本当に皆さん、別嬪さんですねぇ。別嬪さんが一人、二人、三・・・ミイラが一人」

 

当たり前の様に並んでいる為気づかなったが、一夏たちの隣にはバスタオルお化けが当たり前の様に並んでいた。

 

「なんだこのミイラは?」

 

「ほら、ユーゴに見せる為に着替えたんでしょ」

 

シャルルが耳打つ。その言葉にバスタオルお化けは動揺している。

 

「待て!私にも、心の準備というものがあって・・・」

 

「え?その声、ラウラか!?」

 

普段ある威圧的な雰囲気が、その言葉にはなかった。だが今の声は間違いなくラウラの声であった。少しした後、覚悟を決めたのかバスタオルを一気に剥ぎ取った。

 

「・・・・・・」

 

「おいユーゴ。その・・・どうだ?」

 

「あ、いや、その・・・」

 

そこにいたラウラは、スクール水着ではなく黒ビキニを着ていた。あの後クラリッサ達にアドバイスされ、最終的にこれを選んだらしい。

 

「・・・可愛いんじゃないか?」

 

「!!?」

 

単純な褒め言葉である。だからこそ真っ直ぐな貫きがある。ラウラは赤面した後、砂浜へと倒れ伏した。

 

すると慌てて如月さんがユーゴの首根っこを掴んだ。

 

「おいユーゴ!ひょっとして、こっ、これか!?」

 

カウンター下にユーゴをしゃがませると、如月さんがこっそりと小指を立てた。

 

「・・・何それ小指?爪?」

 

「その、あれだ。異性交遊の関係なのか?それとも、何か弱みを握ってこき使っているのか?」

 

「・・・お前は何を言っている」

 

流石にその単語にはユーゴも軽く引いている。

 

「俺はお前を昔から見てきた。だからこそ言える!お前が女友達を作るなんて月が落ちる以上にありえない事なんだ!どんな催眠術を使って彼女を堕とした?」

 

「・・・・・・・・むかつく」

 

とりあえず自分が侮辱されている事は何となく理解ができる。すると近くの棚に置かれたメガホンを手に取り、大きく息を吸い込む。

 

「おーいみんなー!!!このアイスクリーム屋さん、今なら、レギュラーダブルが半額の値段だって!!」

 

「なっ!ばっ!馬鹿!何を言っているんだ!材料費を知らんのか!」

 

しかし時すでに遅し。デザート用に別腹を持っている女子達が、この話を逃すわけがなかった。長蛇の列が既に出来ている。そこにはセシリアや鈴もいた。

 

「・・・あーっ!しょうがねぇ!こうなったら出血大サービスだ!!今から数時間限定の割引セールだよ!!ユーゴ!!お前も手伝え!!」

 

その後も、一夏達を強引に協力させ、客の対応に当てていた。丁度昼時という事もあり皆デザートとしてアイスを買いにきてきた。客がくる度に如月さんの顔が泣いてるように見えたが気のせいだろう。

 

「ふうっ。客波は一旦落ち着いたらしいな。この出費は痛いなぁ」

 

一通り客並みが落ち着き、軽口を言いながら勘定を計算していた最中、客が1人やってきた。黒いサングラスに麦わら帽子と、これでもかと言わんばかりに夏を堪能している様に見える。

 

「レギュラーダブルを一つ」

 

「レギュラーダブルですね。今なら割り引き時間であり、定価の半額の350円になります。種類は何にしますか?」

 

「待て。ただ買うというのは面白みに欠ける。ここは一つ、コレで勝負して決めよう」

 

そう言うと男は懐から何かを取り出した。それはトランプの束であった。百均などで売ってる様なケースに入っている。

 

(トランプ?)

 

「おいおいあんた。一体何をするつもりだい?」

 

訝しげにそのトランプを見ながら如月さんが言う。

 

「簡単なギャンブルだ。これでポーカー勝負を行う。私が買ったら無料でレギュラーダブルを頂く。もし私が負けたらレギュラーダブル本来の値段を支払おう」

 

「ちょ!ちょっとお客さん!そんな急で勝手な」

 

「分かった。その勝負受けるよ」

 

「おいユーゴ!なんで勝負なんか受けるんだ!?」

 

「わからない。でも、何故か戦ってみたいって思う」

 

そう言い両者ともに近くの椅子へと腰掛ける。周りにはIS学園の生徒達も集まっている。

 

「本来不正が懸念される為に望ましくないが、この状況で行おう。周囲の人達はギャラリーであり、この勝負の証人だ。手札の不正操作が行われてない事を証明する」

 

「勝負内容は簡単だ。強い役を作る一本勝負。交換は2回だ」

 

「分かった。早く始めようか。誰かカードをカットしてくれ」

 

「じゃあ、私が行いますね」

 

山田先生がディーラーとして、それぞれに5枚の手札が配られた。素早く手元に寄せ、一気に確認する。

 

(弱いな。4のスリーカードはまだしも、残りは5と9のブタ)

 

ユーゴが相手に気づかれない様に視線を一瞬上げる。サングラスをかけており表情は読み取れないが、その眼をユーゴは予想した。

 

(この男・・・やり手だ。カードを見る目になんの変化もない)

 

男は手札を全て同じ様に見ている。ほんの僅かな変化も見せない。ただ手札から導かれる結論だけを見ていた。すると男は札を全て板状へと置いた。

 

「私は5枚全てを戻す。お前はどうする」

 

「おおーっ!!」

 

その行動にギャラリーがざわめく。その意図は判らない。良い札なのに戻すとか、そういうのが分かっては興醒めだ。

 

(5枚。普通に考えればノーハンド。だが問題はそこじゃない。この男がそこから引く札だ。その役次第で・・・)

 

「・・・5枚!俺の持つ全部の札を戻す!」

 

コレに周囲は再び騒めく。男の方は僅かに頬が緩み、笑みを浮かべている。

 

「戦いにきたな。今ある札をすべて戻すとは」

 

「お前から勝ちに行く強さを感じた。ならこっちはその上を行くしかない。危険な橋の一つくらい渡ろうとしなくてどうする」

 

「・・・面白い。その理想が実現できるか、だだの無謀な蛮勇か。それは引き札が応える」

 

互いに山札から5枚全てを引きなおす。慣れた手つきで互いに手繰り寄せ、その札の見たユーゴの表情が一気に強張った。

 

(10と8のツーペアだと!先程の役より悪化している)

 

「一瞬だけ見せたその表情。どうやら蛮勇だったようだな。交換可能なのはあと一回。私は再び5枚、全ての札を戻す」

 

相手は先程と同じ手つきで札を棄て、山札から補充する。そしては5枚見定める。当たり前のように行われた動作が、今のユーゴに焦りを生ませた。

 

(どうする。ここは戻すべきか・・・)

 

(だが、そもそも5枚交換で役を作る事自体、かなり難易度の高い所業・・・)

 

「・・・一枚だ。コレを交換する」

 

「チキンだな」

 

「・・・」

 

何も言い返せない。煽りを受けながらも捨て札置き場に捨て、山札から一枚引く。この一枚で実質的に、勝てるかどうかが決まる。引こうとする手が僅かながらに震える。

 

(・・・いや、祈ったところで一番上の札は変わらない)

 

勢いよく引いた札、それを持つ手は未だに震えている。薄目を開き、その札を見た。

 

「・・・ふっ」

 

その手札を見ていた背後の人達と同じく、ユーゴの顔に笑みが浮かんだ。手の震えも収まる程に。

 

「どうやら切り札は、最後に俺の元にやって来るみたいだな」

 

相手に見せたその一枚は、切り札であった。

 

「引いた札はジョーカー!よってフルハウスが成立!!」

 

ジョーカーが混ざった事により、フルハウスは成立した。相手は5枚戻している。フルハウス以上が作れる可能性はそうそうない。

 

(ふうっ。とりあえず勝ったか)

 

「・・・勝ったと思っているその顔。本当の戦いでは死に直結する」

 

次の瞬間、喜びは絶望へと変わった。相手の手札にある4枚の王によって。

 

「キングの4カード。私の勝ちだな」

 

「ばっ!バカな!!」

 

あの時、5枚全てを捨てそこから引いた札で、キングを4枚揃えた。現実味があまりにもない。だが不正はなかった。それはギャラリー達が物語っている。

 

「抹茶とチョコミントのレギュラーダブルを頂こう」

 

唖然としていた如月さんだが、注文を受けて直ぐに用意に取り掛かった。アイスとコーンを受け取ると、踵を返し戻ろうとした。しかし数歩程歩いたところで、男はこちらを振り返った。

 

「・・・私ならあの場で、再び5枚全ての札を交換していた」

 

「何?」

 

「先程の戦い。あの土壇場でジョーカーを引き当てた事は、称賛に値する。だがお前は一枚戻した際、フルハウスの役で勝てると踏んだ。その瞬間にお前の敗北は決定した」

 

「お前は危険な橋を渡ったつもりでいるだろうが!私から言わせれば、危険な橋を渡ったのではなく、ただ入り口手前で足踏みしたに過ぎん!!」

 

その言葉に、ユーゴの中の何かにヒビが入った。

 

「人を待たせているのでな、これで失礼する。そのトランプは貴様に譲ろう」

 

言いたいことだけ言うと男は黙って砂浜の奥へと消えていった。なんとも言えない空気の中で、静かにユーゴが札を片そうとした時、ある山に目が止まった。それは捨て札置き場だ。

 

山札とは別のそれを何気なく数枚ほどめくってみる。めくっていくたびにユーゴの表情が険しいものに変化する。

 

(まさか!嘘だ!嘘だ!!)

 

捨て札置き場に置かれた16枚の札。自分の捨てた札は覚えている。1回目2回目のとちらも5枚ずつ相手は捨てた為、その捨てた時の手札も、容易に作る事が出来た。

 

そして、ある事実が判明した。

 

(あの男が2回捨てたこの札!それぞれ1回目にフルハウス、2回目にフォーカードが出来てる!)

 

「俺は、負けていたのか・・・初めから・・・」

 

ユーゴが力無く、ただその場に崩れ落ちた。気がつくと無意識のうちに手札に勝負した時の札を持っていた。どうやらあの後ずっと茫然自失になっていたらしい。

 

「よぉ。やっとこっちに戻ってきたか」

 

隣では如月さんがPCをいじっていた。既に当たりは夕焼け色が滲み出ていた。如月さんがユーゴの握っていた手札以外は片付けたらしい。

 

「みんなはビーチバレーに行ったよ。あの時のお前には、なんて声かけてやればいいか、分からなかったんだろうな」

 

すると彼はPCである画像を出した。それは有名なTCGのカードイラストであった。

 

「そういえばお前は昔から、トランプやUNOとかのカードゲームが好きだったな。特にTCGなんねカッコいいイラストのカードを集めて、自分のデッキを組んで」

 

「ねぇ如月さん・・・父さんに母さんの2人だけど、どうしてる?」

 

その言葉に如月さんの動作が硬直する。手にしたマウスは手の痙攣に合わせる様に震え、カチャカチャと台と擦れ合っている。その手を強引に抑えつけた。

 

「・・・2人は今、どうしてる?」

 

先程と同じ無気力な言葉。それで繰り返された。

 

「・・・・・・2人とも、元気だぜ」

 

「そう・・・如月さん。全部終わったら、また元に戻れるよね。俺も奏も、如月さんも。あの頃みたいに、戻れるよね?」

 

その言葉は普段の彼からは想像もできない程、弱い口調であった。

 

「・・・きっと戻れるさ・・・みんなのとこに行ってこいよ。今ならまだ一試合くらいは参戦できると思うからさ。鞄は中身を抜いたら旅館に届けとく」

 

「・・・そうだな。じゃあ如月さん。こっちもこっちでやる事をやるので、如月さんの方もお願いします」

 

無理矢理だが元のテンション状態に戻す。そして車から飛び出すなり、一夏たちのいる場所へと駆け出して行った。

 

「おーい一みんな!俺も混ぜてくれー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

【・・・ガッシャーン!!】

 

ユーゴの姿が見えなくなった頃、如月さんは車を閉ざした。そして近くにある機材を出鱈目に放り投げた。PCは壊さずに一人、やり場のない怒りを辺りの物にぶつけて。

 

(元に戻る?まだそんな事を考えてんのかよ・・・戻れるわけねぇだろ!それは他の誰でもない、お前自身が知ってるだろ!!だからお前は、蒼炎の狩人になったんじゃないのか!!?)

 

(・・・何を怒ってんだ。半分は俺の責任じゃないか。あいつを人から遠ざけさせてきた俺の・・・)

 

【コンコン】

 

「すいません。レギュラーのバニラを一つください」

 

「はーい、ただいま!」

 

不用意だった。閉ざしたシャッターを開け、車窓を開く。そこには1人の女性がいた。砂浜に似合わない、黒スーツ姿で。開けた瞬間に如月さんの顔つきが強張った。

 

「如月慎吾ですね。貴方と少し話したい事があるのですが、お時間はよろしいでしょうか?」

 

「嘘。なんでお前が、クイーン!!!」

 

「私がここにいる理由。それも含めてご説明いたします。とりあえず1人のお客として、バニラアイスを下さい」

 

 

 

 

 

 

その頃、とある岩場にて。ここでは箒と織斑先生が話をしていた。箒は今日の臨海学校において、何故か皆の前に現れなかった。

 

「気もそぞろという様子だな。何か心配事でもあるのか?」

 

「それは・・・」

 

「・・・束の事か・・・以前、束が私の前に現れたよ。白銀がIS学園に乱入して来た際だ。その時あいつは言っていた。お前にプレゼントがあるとな・・・明日は7月7日だ。もしかしたら、現れるかもな・・・戻るぞ」

 

「・・・はい」

 

2人が旅館へと戻ろうとした、その時であった。

 

(ん?あれは確か、白銀とポーカーをしていた奴だな。誰かと話しているのか?)

 

多少気になったが、2人とも深くは考えずにその足を旅館へと進めた。

 

 

 

そして箒達のいる岩場から少し離れた岩場。そこには一人の男がいた。すると男の背後から一人が歩いてきた。その手には齧りかけのコーンを持っている。

 

「待たせたな。ジャック」

 

「お気になさらず。対象との接触は如何でしたか?キング」

 

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