夕焼けに染まるビーチ。そこに2人が対峙していた。平気で済ました様な顔をする女性と、その女性に研ぎ澄ました殺意を向ける男性。
その名をクイーンと如月慎吾。この2人だ。
「・・・・・・」
「そんなに睨まないで下さい。私は殴り合いの喧嘩をしに来たのではないのですよ」
「・・・・・・」
「初めに言っておきましょう。7年前の事件。あれは確かに我々ネクロノミコンのが起こしました。ですが私達が起こしたのではないのですよ?」
「・・・だから?俺からすればネクロノミコン全てが敵だ」
「貴方は黒人を差別する白人を見たら、全ての白人が黒人を差別すると考えるのですか?実態は違うでしょう?」
「そんな短絡的な理由で納得しろと?それにユーゴから聞いてる。あの事件から一年間、お前達がユーゴや奏に何をしたのか」
「それについては何も言いません。貴方の怒りに無駄に油を注ぐだけなので」
「・・・・・・」
クイーンは手にしたアイスを満足げに食し、最後のコーンを紙ごと飲み込んだ。
「さて、そろそろ本題に移りましょう。どうです?白銀ユーゴと共に我々の元に来ませんか?言わばスカウトです」
「随分と笑えない、ふざけた冗談が好きなんだな」
「我々は常に、一流の人材を求めています。たとえ敵対する者であれど、優秀ならば自軍に加えたいものです・・・あの男、如月一馬の様に」
「!!?」
「貴方のお父さんは、それはそれは偉大な研究者でした。だからこそ周囲は、長男である貴方に父の面影を追う。そして貴方はそれに応えようとした」
「お前、一体どこまで・・・」
「さぁ?どうでしょうね。それで答えは?」
「誘いに乗ると思う?」
「・・・何故拒むのですか?復讐の道を選んだ白銀はまだしも、妹さんの身体を考えれば、貴方にとって悪い条件ではないと思うのですが」
「奏の事まで・・・」
「見つけたのはつい最近ですがね。ああ、ご安心下さい。何もこの件を断れば殺すなど、その様な無作法な真似は致しません。コレは上司から口酸っぱく言われているので。貴方達が此方とぶつかる時が来るまで、こちらからの直接的な手出しは控える様にと」
「・・・・・・その言い方。まるで俺たちを今まで見逃していて、命令一つで直ぐにでもこちらを潰せるみたいな言い方をするじゃねぇか」
「まぁ貴方達を見つけたのもつい最近ですがね。ですが我々がその気にさえなれば、たった2人の人間を消す事など造作もありません。実際の赤子の手を捻る方がまだ手間がかかります」
「・・・・・・・」
「私はそろそろ帰りましょう。ご安心ください。夜襲などの無作法な真似はしませんよ。その証拠にここに来る前、私は彼女の病室を訪れ、お見舞いの花を添えました・・・コレから先は独り言として聞き流してください」
「私個人の考えとして、貴方達と衝突するのは望んでいません。普通ならこちらの圧勝ですが、仮にアステカの祭壇を使われればこちらの被害も大きくなりますし」
「ですが警告だけはさせて貰います。我々に楯突いたその時には、それなりの代償を支払って貰います。ではコレにて失礼」
一陣の風が吹きすさんだ。宙に舞う砂埃により、目を反射的に閉じる。次に目を開けると、そこに彼女の姿は何処にもなかった。まるで蜃気楼の様に消えてしまった。
「親父、やはり貴方は・・・」
何かを考えた後、如月さんは車を宿へと向けて走らせた。そして受け付けに荷物を渡した後、宿を後にして行った。
夜の旅館。今この旅館はIS学園の貸切状態となっている。通された広間は、座敷とテーブル席に分かれており、それぞれ生徒達が夕食を採っていた。
「この刺身、見た目以上に美味いぞ!」
刺身や小さな鍋など、出される料理はそれなりの豪華さと美味しさを両立していた。恐らく名旅館なのだろう。
「コレ、美味しそうだね」
「ちょ!シャル!それ・・・」
「んんっ!?」
時すでに遅し。シャルルが涙目になりながら鼻を押さえている。彼女が食べた緑色の固形物の塊。分かりやすく言えばワサビだ。小山程盛られたそれを彼女は一気に食べてしまった。
「おいシャル!?大丈夫か!?」
「風味があって・・・美味しいよ・・・」
「どこまで優等生だよ。ほらお茶」
一夏から渡された湯呑みの中身を飲み干す。それによって辛さは中和された様だ。
「ん?」
ふと隣を見る。隣ではセシリアが足をモジモジさせていた。正座は日本の伝統文化だ。イギリス人の彼女が慣れてないのも無理はない。
「大丈夫かセシリア?正座が辛いならテーブル席に移動したらどうだ?」
「いえ!大丈夫ですわ、
(この席を獲得するのに費やした労力に比べれば、コレくらい!)
セシリアがそんな事を考えているその頃のテーブル席。こちらではユーゴとラウラが食事をしていた。すると周囲の人達が何かを閃いた様な顔をした。
「所でボーデヴィッヒさん。白銀君とは何処まで進んだの?」
「!!?」
突然の発言にラウラは咳き込む。
「ゴホッ!ゴホッ!いきなり何を言っているんだ!?
「いやだって、白昼堂々教室の真ん中でキスしてたし、続きが気になるじゃん」
「別に大した事などしていない。一緒のベットで一度寝ただけだ」
十分大した事である。ラウラのこの発言を周囲は聞き逃さなかった。
「ええっ!!?寝たの!?一緒に!?」
「ねぇ白銀君!その時どうだったの!?どうだったの!?」
「どうって。あの時は大変だったな。あの後取っ組み合いになって」
何故こうも事実を述べてるのに誤解される様に湾曲して物事を語るのだろう。わざとか?わざとなのか?
「じゃ!じゃぁ。まさか・・・した」
「「「きゃー!!!」」」
小声をかき消す様な黄色い悲鳴が聞こえてきた。大きい音に反応し、皆が反射的にその方角を向く。
そこでは一夏がセシリアにいつぞやの様にあーんをしていた。どうやら正座が辛いセシリアを見かねて、食べさせ様と考えた、一夏なりの気遣いなのだろう。
「セシリアずるい!」
「織斑君に食べさせて貰うだなんて!」
「抜け駆けなんて、卑怯者!」
まぁ目の前のこの光景に、思春期の健全な人達は騒がずにはいられないのだが。ふと、座敷の奥を見ると、箒が恨めしそうに一夏を見ていた。やがて見飽きたのか、ユーゴは食事を再開した。
「なぁユーゴ。お前は、ああいうのに興味はあるか?」
ふとラウラが話しかけてきた。
「別に。ラウラは興味あるのか?」
「・・・まぁ、少しばかりあるな」
「ふーん・・・じゃあやる?」
「!!?い、いいのか!?」
彼女は動揺している。その証拠に橋を床に落とした。
「まぁ別にやったって減るもんじゃねぇし」
「いや、料理は減るぞ」
「あ・・・はっはっは!」
「はっはっは!白銀君は馬鹿だなぁ」
笑い声の響くのテーブル席と、歓声に包まれた座敷席。どちらも今をエンジョイしている。だがこの二つを崩壊する者が現れた。
「お前たち!!静かに食事をする事も出来んのか!?」
襖が勢いよく開かれた。そこにはこの現状に不機嫌そうな織斑先生がいた。一気に大広間が沈黙に包まれる。流石に度を外しすぎた様だ。
「織斑、あと白銀。あまり騒ぎを起こすな。静めるのが面倒だ」
「すいません」
「分かりましたよ」
それだが言うと織斑先生は部屋へと戻っていった。鬼が去ったとは言え先程の様になってはまた来てしまう。皆、その後は黙々とした食事を終え、それぞれ自分の部屋に戻って行った。
因みに風紀上一夏は織斑先生と、そしてユーゴは山田先生と同室となっている。まぁ女子生徒と同室にはならない点に関しては、簡単に予想がついていただろう。
「なぁユーゴ。よかったら今から俺の部屋に来ないか?」
「悪いが俺はもう一風呂浴びてくる。でも風呂から上がったら部屋に寄るよ」
ホテルではなく旅館である為、オートロックの扉ではなく襖である。
ユーゴが部屋に戻ると、山田先生が誰かと電話をしていた。彼が部屋に入ると、ちょうど終わったらしく彼女は電話を切った。
「はい。では後日、よろしくお願いします。ではコレで、失礼します」
「すいません。電話の邪魔でしたか?」
「いえ、それ程重要な電話ではありません。ISパーツの業者への電話ですよ。さっきISのメンテナンスをしたら、打鉄の予備パーツが無くなってしまって。それで発注を頼んだんです」
内容を特に気にもせずに、先程の風呂の時に使った道具を一式手に取り、部屋を後にしようとした。
「白銀君。ちょっと座ってください。真面目な話があります」
すると山田先生がそれを呼び止めた。その顔は、普段ほんわかした表情ではなく、以前模擬戦を行った際の真面目な顔であった。
「・・・何です?」
「あっ、そう固くならないで。お説教とかではないですから。とりあえず座ってください」
促されるまま、椅子に腰掛ける。すると山田先生は淹れたての緑茶を出してきた。これを飲んで一息つこうと言っているらしい。
湯呑みを手に取り、口の中に流し込む。温かい飲み物を飲むと自然とリラックスができ、一息ついた。
「今日の臨海学校の初日。つまりは自由時間と食事の時間ですが、楽しかったですか?」
「へ?まぁ、楽しかったですね。自由時間の時、トランプで負けたのは悔しかったですが」
その意外な質問に、当初変な声を出したが、直ぐに質問の回答に移る。
「それはよかったです。・・・最近の白銀君は何処か変でした。授業中でもフードを被り、目を合わせようとせず、心ここに在らずといった感じでした」
「あのVT事件以降、ボーデヴィッヒさんがクラスに馴染めた事で纏まったかと思ったら、今度は白銀君が学園に来たばかりの頃に戻ってしまって、正直不安を感じていました」
「・・・・・・」
「そうなったのはあの日、山鳩総理がIS学園を訪れてからですね・・・貴方と山鳩総理の間に、どの様な確執があるのかは知りません。ですがこれだけはいっておきます。私はIS学年1年1組の副担任で、貴方は生徒です。悩みがあるなら、ちゃんと相談して下さい」
「・・・それだけ、ですか?」
「いいえもう一つ。コレを渡しておきますね」
すると彼女は鞄の中から何かを取り出した。それはA4サイズの封筒であり、中にはいろいろな書類が入っていた。
「白銀君のIS学園への入学は織斑君の時とは違って、結構ゴタゴタしてしまいました。ですのでこの機に、ちゃんとした書類を書き上げて欲しいんです」
封を切り、中身を取り出す。そこには色々な書類が封入されていた。
「今日中に提出しなくてもいいです。ですがこの臨海学校が終わるまでには、書き上げて提出して下さい」
「・・・分かりました」
「話は以上です。私は暫くの間部屋を開けますから、その間に私の持ち物を物色してはいけませんよ」
それだけ言うと山田先生は部屋を後にした。残されたユーゴは一通りの書類に目を通す。さっき言ってたので当たり前だが、中身は入学関係の書類で殆どである。
金銭面は如月さんが色々と根回しした為、ここにあるのはユーゴ個人に対する書類ばかりであった。アレルギー調査票。健康観察票。個人調査票。家庭調査票。緊急連絡網。
一通り目を通し、それらを手に持ち窓側に寄りかかると、窓を半開きにした。蒸し暑いはずの夜なのに、吹いてくる夜風はひんやりしており、肌に触れると心地よい。
ふと手に持つ書類に目を下ろす。それを持つ手を窓の外へと置いた。このまま指を離せば、書類は風に飛ばされて海の方へと消えて行くだろう。
(悩み事があるなら、相談してください)
「・・・・・・」
少し考えた後、彼は窓を閉める。無駄な事はやめよう。ユーゴは備え付けのボールペンを手に取り、書ける範囲で一通り書き終えた後、風呂道具を手に取ると部屋を後にした。