インフィニット・ストラトス 蒼炎の炎   作:クロスボーンズ

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第20話 ひとときの談笑 後編

 

 

「ん?あれは?」

 

廊下を歩いていた足を止める。見るととある一室の前で、いつもの箒達が固まっている。しゃがむ者と立つ物で分かれているが、全員襖に耳をくっつけている。

 

「お前ら、何してんだ?」

 

何気なく聞いてみると皆、人差し指を口の前に立てている。静かにしろという事らしい。そして耳をつけるジェスチャー。どうやら室内の様子を盗み聞きしているらしい。

 

促されるままユーゴも襖に耳を当てて聞いてみる。中からは一夏と織斑先生の話し声が聞こえてきた。

 

(そうか。この部屋が一夏達の部屋か。ん?何か話しているのか?)

 

「千冬姉、久しぶりで緊張してる?」

 

「そんな訳あるか馬鹿」

 

「じゃあ、ここは?」

 

「なっ!?そこは・・・あんっ!待て!」

 

珍しく、千冬さんが慌てている様な声が聞こえて来た。

 

「直ぐに良くなるよ。だいぶ溜まってたみたいだし」

 

ムーディな感じの音が聞こえる。きっと幻聴だ。だが箒達の顔は何処か赤らんでいる。

 

「なっなっ、一体コレはなんなのですの?」

 

「どう聞いても、アレしかないじゃない?」

 

「教官、まさか自分の弟と・・・」

 

みんな小声で楽しそうに話している。女子と言うのはこう言う話が好きなのだろうか?少なくとも、男の俺には理解が出来ない。

 

「悪い。俺は興味ない」

 

そう言い足音を立てずに立ち去った。一方の彼女達は、興奮のボルテージがかなり上がっていた。

 

「ちょっと!これってこのまま行ったら・・・」

 

【ガタ】

 

「へ?」

 

【バッターン!】

 

寄り掛かりすぎたのか、襖が倒れた。襖が倒れた事で、それに寄りかかっていた彼女達も倒れる様になだれ込む。そんな5人の目の前に、一人の女性がいた。

 

顔は彼女なりに笑顔を作っているが、ヒクヒクと眉を動かしている辺り、怒っている事が予想できる。

 

その奥では、一夏が何事かと覗き込んでいた。

 

「・・・・・・」

 

こうして5人は正座をさせられ、織斑千冬の前に並べられた。

 

「まったく何をしているか、馬鹿者どもが!」

 

「まっ、マッサージをしていらしたのですね」

 

先程のやりとり、室内ではマッサージが行われていたのだ。妙に色っぽい声もした様な気がするが気にしてはいけたい。

 

「あぁ。こいつはこう見てえ、マッサージがかなり上手い。お前達も順番に受けてみろ」

 

「え?いいんですか?」

 

「あぁ。順番はお前達が決めろ」

 

こうして5人が一夏のマッサージを受ける事となった。じゃんけんで決めた結果、最初はセシリアからになった。

 

「じゃあセシリア。横になってくれ」

 

セシリアを布団に寝かせ、リラックスできる体勢にする。今日のオイルを塗った時と同じ様に、セシリアの背中に指を押し当てた。

 

「セシリア、気分はどうだ?」

 

「ちょっと痛いですね。揉む様な感じでお願いしますわ」

 

背中を一本指で押すのではなく、5本指で揉む様な形となった。

 

「いい気分で、眠くなって来ましたわ・・・ヒャン!」

 

急に織斑先生が立ち上がり、セシリアの浴衣の一部を剥いだ。

 

「ほうっ、ませ餓鬼め!黒下着か」

 

「先生!離してください!」

 

「教師の前で淫交を期待するなよ?15歳」

 

「いっ!」

 

「・・・冗談だ。おい一夏。自販機で人数分の飲み物を買ってこい」

 

財布を投げ渡し、一夏が部屋の外に追い出した。ユーゴも風呂へと行っている為、この場には女子だけが集まっている訳だ。

 

「さて、そろそろ肝心な話をしよう。ラウラはともかくとしてお前達、あいつの何処がいいんだ?確かにあいつは役に立つ。家事も料理もなかなか上手い。付き合える女は得だな」

 

あまりの突拍子な発言に四人があたふたしている。

 

「べ、別にアタシは、一夏と付き合える事を得だなんて思って・・・」

 

そんな中で鈴が赤面しながら言う。すると織斑先生は待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべた。

 

「おいおい。私はあいつと言っただけで一夏だなんて一言も言ってないぞ」

 

嵌められた。そう気づいた時にはもう遅い。

 

「え!いや!話の流れ的に一夏の事だと思って」

 

「じゃあアイツって、一体誰の事なんですか!?」

 

「さぁ、誰だろうな・・・じゃあ聞く。お前達!一夏の奴が欲しいか!?」

 

「「「「くれるんですか!?」」」」

 

「やるかバーカ」

 

上げて落とすとは正にこの事だ。えーっと言う様な顔で四人の顔が同じになる。その表情が見られた事に、何処か満足気な織斑先生である。

 

「さて、ラウラ。次はお前の番だ。あいつのどこがいい?あいつは一見刺々しい印象だが、何も人嫌いな訳ではない。生身やISでの戦闘力もかなりある。男に守って貰いたい系の女なら、一度は夢見るタイプだな」

 

「だからこそ、あいつと似ているお前が、あいつに惚れた気持ちが少し分からなくてな。ペアを組んだ時も睨み合ってたのにな」

 

「・・・私はあの事件の時、あいつの記憶に触れ、あいつもまた私の記憶に触れました。きっとそれが原因でしょう」

 

「あの事件が境目か。噂程度だと思ってたが、吊り橋効果とは本当にあるんだな」

 

そんな事を話している内に、倒れた襖から一夏が顔をのぞかせた。

 

「戻ったか一夏。おっと、白銀も一緒か」

 

風呂上がりのユーゴとたまたま合流し、一夏が部屋に戻った事を確認した織斑先生は女子達の方を向いた。

 

「小娘ども。男が欲しければ奪い取る位の覚悟を見せてみろ。では廊下に一夏といろ。あぁ白銀は残れ。少し、一対一で話をしようじゃないか」

 

何時ぞやの話の時の様に、一夏達は残された襖の裏に行き、話を伺う事にした。織斑先生はさっき受け取ったビール缶の中身を一気に飲み干し、ユーゴと向かい合う形で座った。

 

「さて、白銀。今お前はナイフを持ってるか?」

 

黙ってユーゴは自身の腰部分を指さす。常にナイフを装備している事を表していた。

 

「なら単刀直入に聞こう。その頬にあるマーカーはなんだ?」

 

場の空気が一瞬にして凍りついた。以前ラウラとの初対面の時の様な事になる事を周囲は警戒していた。現にユーゴはその手を腰部分へと伸ばしている。

 

襖の奥にいる一夏達も、ナイフが跳ぶ事を覚悟し、取り押さえようと身構えた。しかし彼は少し考えた後、その手にナイフを取らず、自身の頬に当てた。

 

「アステカの祭壇。ラウラの眼と同じ、人体強化タイプのナノマシン」

 

「その頬のマーカーについて、お前の前で触れているのに、ナイフを投げつけないんだな」

 

「あの時はまだ、俺自身がIS学園に対して警戒心を剥き出しにしていた、デリケートな時期だったからな」

 

何処か昔を懐かしむ眼をしながら、ユーゴは宙を眺めた。そして彼は、アステカの祭壇について話し始めた。

 

「このアステカの祭壇の効果は一言で言えば、人体強化だ。例えば・・・これだ」

 

するとユーゴは千冬さんの飲み干したビール缶を手にした。そしてそれと織斑先生を交互に見比べる。そして次の瞬間、ビール缶を千冬さん目掛けて投げつけた。それを彼女は悠々と右手で受け止めた。

 

「ほう。いきなり何をするかと思えば」

 

「今、ビール缶を投げてキャッチするまでの間で、人間の脳内では色々な反応が起きた。感覚神経や脊髄、筋肉など、色々な事がね」

 

「だがそれを行動に移す際には、1秒にも満たないタイムラグがある。これは無理もない。命令を出す脳や脊髄と、命令を受け、行動にうつす為の筋肉との間には距離がある」

 

「このアステカの祭壇は、その僅かなラグをナノマシンで専用の道を作る事で極限にまで減らせる。つまり、脳で感じた瞬間に筋肉が行動に移しているんだ」

 

「成る程。その黄色いマーカーは」

 

「脳と脊髄と筋肉を繋ぐルート。その一部だよ」

 

「・・・参考として聞くが、VT事件の時のあの動きは」

 

「あれは反射の強化だ。ナイフを喰い込ませた瞬間には、脳が次の動きから位置決め、何処にナイフを喰いこませるかを決めといて行動に移しただけ」

 

「・・・・・・」

 

「まぁこの説明は全部如月さんが言ってた事だし。詳しい事は彼に聞いてよ。俺みたいに答えるかどうかは分からないけど」

 

するとユーゴは周囲を窺う様な動作をした後、声を潜めていった。

 

「今度は、こちらの質問に答えてください。断っておきますが、そっちがデリケートな質問した以上、こちらもそれなりの内容を聞きます」

 

その声は本当に小さく、襖の奥にいる一夏達では聞き取れないほどであった。何より先程までの話以上に、真面目な口調であった。

 

それに合わせる様に千冬さんの声も小さくなる。

 

「何だ?私のスリーサイズか?いい気分だからなんでも答えてやるぞ」

 

最初、彼女は揶揄うつもりでいた。だが次のユーゴの言葉で、からかいではなく真面目な答えをする気になる。

 

「両親に捨てられた時、どんな気分でした?」

 

千冬さんの眉が僅かに釣り上がった。声を忍ばせて言う。

 

「お前、どこでその事を」

 

「以前一度、一夏から聞いた。小学生の頃に捨てられたって。その事を理解した時、貴女はどんな気分でした?」

 

「ったくあの馬鹿め・・・本当なら答える気などないが、お前は私がしたデリケートな質問に答えたからな。こちらも答えよう」

 

一つ咳払いをした後、彼女は答えた。

 

「別に何とも思ってなどいない。何せ思い出は愚か、名前や顔すら忘れてしまったからな・・・その時にはもう」

 

「・・・強いんですね。俺なんかとは大違いだ」

 

「ん?なんだって?」

 

「何でもない・・・織斑先生、この世界は好きですか?」

 

「日本の事か?まあな。自己中な無能政治家が国の舵を切っている事以外では、紛争は無くテロも少ない。住みやすい世界だよ」

 

「・・・俺もう寝ます。これで失礼しますね」

 

その会話中、彼は一才表情を変える事なく部屋を後にした。

 

(そういえば、あいつの両親についてを聞いてなかったな。もしかして山鳩と知り合いなのか?今度、如月慎吾と出会う時があれば、聞いてみるか。もしかしたら、ネクロノミコンというテロ組織についても、聞けるかもしれないな・・・)

 

その様な事を頭の片隅に留め、織斑先生も明日の用意などを開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて朝となった。新しい希望の朝だ。一夏が散歩がてら、縁側の様な場所を歩いていると、ある場所で箒がしゃがみ込んでいた。

 

「箒?何見てんだ?」

 

それに箒は答えず、じっと一点だけを見つめていた。同じ様に一夏もそれを見つめた。

 

【ひっぱってください】

 

そう書かれ、地面に突き刺さるプラカードの前に、二つの突起物が埋まっていた。にんじんの様に引っこ抜く事を所望しているらしい。

 

この時、一夏と箒は何かを察していた。

 

「なぁ箒。これってもしかして・・・」

 

「知らん。私に聞くな」

 

バツの悪そうに箒がその場を後にした。出来るだけ遠くに行きたいのか、多少速足となっている。残された一夏の前にある突起物は、引っこ抜けと相変わらずの自己主張を続けている。

 

「・・・やるしかないよな」

 

やがて意を決したらしく、一夏がそれを力一杯引き抜いた。意外な事にその突起物は直ぐに引き抜く事が出来、反動で尻餅をつく。空を見上げた一夏の目に、空で何かが光った。

 

やがて空から巨大にんじんが降って来た。砂埃が宙を舞う。そしてその中から無邪気な笑い声が聞こえてきた。

 

「あはははは!引っかかったねいっくん!ブイブイ!!」

 

にんじんが真っ二つに割れた。そこからにんじん太郎・・・ではなく、うさ耳をつけた一人の女性が現れた。穏やかな笑みでダブルピースを一夏に向けている。

 

「おっ、お久しぶりです、束さん」

 

「久しぶりだねいっくん!ところでいっくん。箒ちゃんは何処かな?」

 

「えっと、箒は・・・」

 

「まぁ、私の開発したこの箒ちゃん探知機で直ぐに見つかるんだけどね。じゃあねいっくん。またあとでねー!」

 

そう言い彼女は、ダウジングマシンの様な何かを持ってとぶらぶら走って行った。

 

この時一夏は何となく予想していた。嵐の様なあの人の登場によって起きる、嵐の様な出来事を・・・

 

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