インフィニット・ストラトス 蒼炎の炎   作:クロスボーンズ

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第22話 福音事件

 

 

宿部屋の一角。そこに設けられた対策本部には、現在専用機持ちが集結していた。そして織斑先生による状況説明が開始された。

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカとイスラエル共同開発の第三世代のIS、シルバリオ・ゴスペル。通称【福音】が制御下を離れて暴走、監視空域より離脱したとの連絡があった。情報によれば、無人のISらしい」

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2Km先の空域を通過することが分かった。時間にして50分後だ」

 

電子地図に詳しい情報が追加されてゆく。

 

「学園上層部からの通達により、我々がこの事態を対処する事になった。教員は学園の訓練機を使用して、空域及び海域の封鎖を行う。よって本作戦の要は、専用機持ちに担当してもらう」

 

「は、はいっ!?」

 

余りの情報の多さに、一夏はついていけてなかった。

 

「つまり暴走したISを、我々が止めると言う事だ」

 

「マジ!?」

 

「一々驚かないの!」

 

「一夏。今はとにかくこの空気に慣れろ。こういう事が起きた時、それを対処するのも専用機持ちには必要な事だ」

 

「その通りだ。では作戦会議を始める。意見が有る者は挙手するように」

 

まずセシリアが挙手をした。

 

「はい。目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

「うむ。だが決して口外にはするな。この情報が漏洩した場合、諸君等には査問委員会による裁判と、最低でも二年の監視が付けられる」

 

「了解しました」

 

(いや!マジかよ。裁判って・・)

 

あまり穏やかじゃない単語に困惑する一夏を横に、各メンバーに福音の詳細なスペックデータが渡された。それに一通り目を通す。

 

「なんだよこのスペック。無人を想定してるからとはいえ、普通じゃあり得ない性能だぞ」

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型。私のISと同じ、オールレンジ攻撃を行える様ですわね」

 

「攻撃と機動の両方に特化した機体、かなり厄介ね」

 

「この特殊武装が曲者って感じがするね・・・連続しての防御は難しい気がするよ」

 

「このデータでは格闘性能が未知数・・・偵察は行えないのですか?」

 

「それは無理だ。この機体は、現在も超音速飛行を続けている。アプローチは一回が限界だ」

 

「一回切りのチャンス・・・と言うことはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

 

「って事は・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

全員の視線がある人物に集まる。その人物がその意味に気づくのに、数秒程かかった。一夏である。

 

「え?俺!?」

 

「そうよ一夏。アンタの零落白夜で落とすのよ」

 

「零落白夜なら、ジョーカーとは違って一撃が重い。一撃必殺の点ではこれ以上ないだろう」

 

「それしかありませんわね。ただ問題が・・・」

 

「どうやって一夏をそこまで運ぶか。白式のエネルギーは全部攻撃に使わないと難しい。だとすると、それまでの移動をどうするか」

 

「目標に追い付ける速度が出せるISでなければいけないな。それに、超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

 

「ちょ!ちょっと待ってくれ。俺が行くのか!?」

 

「「「当然!!!」」」

 

「他に誰がいる?」

 

「おい!簡単に言うな!」

 

「織斑、これは訓練ではなく実戦だ。もし覚悟が無いなら、無理強いはしない」

 

訓練ではない。相手は無人機であり、こちらの都合など考慮しない。それこそ、最悪・・・死ぬかもしれない。

 

その言葉に一度は顔を下げるも、やがて一夏は顔を上げた。

 

「・・・やります。俺がやってみせます!」

 

「よし。白銀。VT事件の際の高速移動、あれで・・・」

 

【ガタッ!】

 

「ちょっと待ってよちーちゃん!!もっといい作戦が、私の中にナウプリンティング〜」

 

突然天井の板が外され、そこから何かが飛び出してきた。口調からわかる通り、篠ノ之束だ。

 

「また出た!!」

 

「出ていけ。今はお前に付き合ってる余裕がない」

 

「そんな事言わないでよちーちゃん!ここは断然、赤椿の出番なんだから!」

 

「何?どういう事だ?」

 

その発言に束は、待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべていた。そして、束に促され箒達は外へと出ていた。ある場所で箒の持つIS、赤椿が展開される。

 

「赤椿はちゃんと起動してるね。それじゃあ箒ちゃん。展開装甲をオープンさせるね」

 

その言葉に反応する様に、赤椿の至る所から展開装甲が開かれた。

 

「展開装甲は、第四世代型ISの装備でね。一言で言っちゃうと、紅椿は白式の持つ、雪片弐型が進化したものなんだよね~!」

 

「進化・・・」

 

展開装甲。それは攻撃、防御。スラスターとして使える雪片弐型の専用装備の事だ。それが全身にあると言うわけだ。

 

「なんと、全身のアーマーを展開装甲にしちゃいました!ブイブイ!」

 

「・・・要は凄いんだな」

 

とりあえず今の皆の思考で納得出来る答えがこれであった。

 

「それにしてもあれだね。海でのISの暴走。10年前の白騎士事件を思い出すねぇ!」

 

その言葉にユーゴが反応した。

 

「白騎士事件って、俺知ってます!何度もネットとかで事件について見ましたから」

 

それは今から10年前。篠ノ乃束がISを発表してから一ヶ月後に起きた、世界を揺るがす大事件であった。

 

何者かの仕業により、日本を含めた各国のミサイル2341発。これらがハッキングを受け、制御不能に陥った。攻撃目標は無論、日本である。

 

世界中が混乱する中で、白銀のISを纏った、一人の女性が現れた。後に白騎士と呼ばれるそのISは、2341発のミサイルを全て撃墜し、日没と共に姿を消した。

 

「これが、白騎士事件の一連の流れですよね」

 

「へぇ。君よく知ってるねぇ」

 

「あの事件が世界に与えた影響はかなり大きい。何せ、たった一人で、今ある兵器がISに対し無力である事を証明した。言い方を変えれば、一人で世界と戦って、そして勝ったんですから」

 

「うんうん。本当に白騎士は凄いねぇ!その白騎士って一体誰なんだろうねぇ。ね?ね?ちーちゃん?」

 

「知らん」

 

「因みに私の予想だとバストは88センチで・・・」

 

【ゴンッ!】

 

織斑先生のゲンコツが束さんの脳天に直撃した。

 

「うわーん。ちーちゃんがぶったぁー!脳味噌二つにわれたぁ!」

 

「それはよかったな。これからは左右で物事を考えて行動が出来るぞ」

 

「あっ!それもそうか!さっすがちーちゃん!!」

 

束さんがスキンシップとして織斑先生に抱きつく。どうやら彼女達は白騎士について何か知っているらしいが、今はそれどころではない。

 

「話を戻すぞ。赤椿の調整にはどれほどかかる?」

 

「7分あれば余裕だね!」

 

「・・・よし。本作戦は織斑、篠ノ之の両名による目標の追跡、及び撃墜を目的とする!作戦開始は30分後。各員は直ちに準備にかかれ!」

 

各員はそれぞれ散っていった。今、自分に出来る事をする為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ハワイ島にて。シルバリオ・ゴスペル、福音を開発した研究チームは大慌てであった。突然の福音の暴走。外部からの操作を受け付けないこの環境で、突然起きたハッキング。

 

誰が、何の目的でハッキングしたのか。その理由も分からず、研究チームはただオロオロしているだけであった。

 

「何故だ!?何故こうなったのだ!?

 

「外部からのハッキングなど、想定されてないぞ!」

 

「不味いぞ!このままでは!!」

 

「失礼します」

 

その言葉と共に、一人の女性が降りてきた。慌ただしくあたふたしていた周囲の研究者達の動きと言葉が硬直する。

 

「こっ、こっ、これはネクロノミコンのクイーン様。遠い日本から態々お越しいただき、誠にありがとうございます」

 

「建前は結構です。それより何やら大騒ぎしているみたいですね。何かあったのですか?」

 

「そっ!それはですね!詳しい話は詳細なデータと共にします。とりあえず是非、あちらの部屋でご寛ぎください」

 

「いいえ結構です。詳細なデータに関しては目安がついておます。【今日、我々に受領される筈であったシルバリオ・ゴスペルを、外部からのハッキングで奪われた】といった感じでしょうか?」

 

研究者達の顔がみるみる青ざめてゆく。一方のクイーンの顔は、興醒めの様な白けた顔をしていた。

 

「仕事はISの受領だけだと思っていましたが、昨日の出来事のせいで、少し不機嫌なんです。仕事が増えてしまいましたが、手早く終わらせましょう」

 

錯乱したのか、研究員の一人が慌てて近くの内線に手をかけ、警備の詰所へと電を入れる。

 

「警備兵!!こいつを!この女を始末しに来い!速く!!」

 

しかし、誰一人としてその内線に出る者はいなかった。

 

「無駄です。既に警備兵共はキングが始末している筈です。後は貴方達を始末するだけ」

 

彼女のIS、ソード・ヴォルフが展開される。その剣の様な尾は不機嫌さを表す様に波打っていた。研ぎ澄まされた尾が、研究者達の目前へと向けられる。

 

「まっ!待ってくれ!命だけは!!」

 

「ネクロノミコンに二流は不要です。死になさい、ゴミが」

 

【バキッ!ボキッ!ベギッ!】

 

階下から聞こえてくる悲鳴。それも一人、また一人と消えてゆく。この警備兵の詰所は、それより前から静かであったが。唯一、他の詰所と違う点と言えば、血の匂いで充満している事くらいである。

 

男の手にする剣の持ち手には、ある紋章が刻まれていた。髑髏の架けられた十字架の紋章が。

 

「キング。研究者と研究データは全て消去致しました。もうこの様な場所に御用はありません」

 

下での処理を終わらせたクイーンが戻ってきた。

 

「そうか。後の処理はアメリカの連中にでも任せておけ」

 

「・・・何やらご不満の様ですね」

 

「弱い。どいつもこいつも弱すぎる。この場に私の求める誰一人としていない。この戦闘行為自体が、ただの尻拭いでしかない」

 

「それについては同意しますが、我慢してください。これも組織に属する者としてのマナーという物です」

 

それだけ言うと彼女は飛行機のチケットをキングに手渡した。

 

「さて、暴走IS。通称【福音】の後始末はジャック一人で十分でしょう。私達はこのままイスラエル側の始末に向かいます。よろしいですね?キング」

 

「・・・好きにしろ」

 

それだけ言うと二人は、島の港に止められていたボートから、その場を後にする。

 

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