あれから30分が経過した。一夏と箒が砂浜で合流する。互いに視線を合わせた後、無言で頷いた。
「来い!白式!」
「行くぞ!赤椿!!」
二人のISが展開される。白きISの白式。そしてそれに並び立つ赤椿。
「じゃあ箒。よろしく頼む」
「本来なら女の上に男が乗るなど、私のプライドが許さないが、今回だけだ」
「なあ箒。分かってると思うけど、これは訓練じゃ無い。十分に注意して取り組まないと・・・」
「無論分かったからさ。心配せずともお前はちゃんと私が運んでやる。大船に乗ったつもりでいろ」
「・・・なんか楽しそうだな。やっと専用機が持てたからか?」
「え?・・・私はいつも通りだ。一夏こそ、作戦には冷静にあたる事だ」
「あぁ。分かってる」
すると二人の元に織斑先生から通信が届いた。
「織斑、篠ノ之。聞こえるか?」
「はい」
「よく聞こえます」
「今回の作戦の要は一撃必殺。短時間での決着を心がけろ。討つべき敵はシルバリオ・ゴスペル。以降、福音と呼称する」
「・・・織斑先生。私は状況に応じて、一夏のサポートをすればよろしいですか?」
「そうだな。だが無理はするな。お前は赤椿での実戦経験は皆無だ。突然何かしらの問題が出るとも限らない」
「分かりました。ですが、出来る範囲で支援をします」
「・・・あの子、ちょっと声が弾んでない?」
「ええ。私もそう思いましたわ」
「気持ちは分からなくもないけど・・・」
「まぁ、緊張で身体がガチガチになってるのに比べれば、マシだとは思うが・・・なんとも言えねぇな」
司令室で言葉に出来ない不安を抱いているユーゴ達。そんな中で織斑先生が一夏にプライベートチャンネルを開いた。
「一夏」
「はい!?」
「これはプライベートチャンネルだ。篠ノ乃には聞かれない。どうも篠ノ之は浮かれてるな。これでは何かを仕損じるかもしれない。いざという時には、サポートを頼むぞ」
「分かりました。意識します」
「頼むぞ」
山田先生が合図を出す。
「オープンチャンネルに切り替えます。スタンバイどうぞ」
「・・・では、初め!!!」
作戦開始。その言葉と共に、モニター越しに見守る中で二機のISは空高く飛び立った。
目指すは戦場。そこ目掛けて一直線に。
「はっ!速い!!」
戦場に向かう二機のISの動きは、モニターを通して司令部でも確認している。皆が今注目しているのは地図の方。二人の居場所を示す二つの点が高速で移動している事について、釘付けとなっていた。
「すごい。あれが赤椿の加速性・・・」
「イグニッションブーストの比じゃない」
「驚異的な速さだ」
しかし、これでもまだ赤椿の全力は出されていない。赤椿にとっては軽い準備運動程度の感覚だ。
「暫時衛生リンク確立。情報照合完了。目標の現在位置を確認。一夏、一気に行くぞ」
「おう!」
赤椿のボディが紅く輝いた。先程までの加速など甘かった様に、一気に加速時のGが二人に襲いかかった。だが一夏は、苦悶の表情を浮かべながらもしっかりと赤椿を離さずに掴んでいた。
そして遂に二人は、目標との会敵を果たした。
「あれがシルバリオ・ゴスペルか」
望遠モニターに映し出されたそれは、データで見た通りのISであった。無人機だから人もいない。
「加速する。目標との接敵は10秒後だ!」
遂に福音との戦闘フェイズに移行した。まだ福音はこちらに気づいていない。仕掛けるなら今が絶好のチャンスというわけだ。
「一夏!零落白夜を!!」
「うおぉぉぉぉぉっ!!!」
「!!」
一夏の渾身の零落白夜、だがその一撃はあたる寸前で避けられた。福音のセンサーに引っかかり、緊急回避行動をとられた。
「回避した!?」
福音がビームを弾幕の様に一夏達目掛けて降り注がせる。咄嗟に二機とも回避行動をとる。だが今の一件で福音からは完全に敵対されている。
不意打ちは使えない。もう真っ正面からぶつかるしかない。福音は再び特殊装備による弾幕を展開させ、一夏達に襲いかかる。
今度は追尾性があるビームらしく、避けながらも数発程被弾した。この相手との長期戦は本当に不味い。
「箒!左右から同時に攻める!左は頼んだ!」
「了解した!」
降り注ぐレーザーの弾幕を掻い潜りながら、二機は確実に福音との距離を詰めて行った。
「一夏!私が動きを止める!!その間に!」
「分かった!」
箒が一気に福音の背後に回り込み、羽交い締めにする。展開装甲も使用した攻撃に、福音は激しく抵抗するも、あと数秒程度ならこのロックが続けられる。
「一夏!今だ!!」
「おう!!」
白式が再び零落白夜を起動し、一気に距離を詰める。この一振りで勝負が決まる。
「!!?箒!避けろ!!」
そう思われた時突然、一夏達目掛けて赤い粒子ビームが飛んできた。あまりに突然の事で、反射的に避ける。その隙に福音は箒のロックを振り解き、距離をとった。
「なんだ!今のビームは!?」
そのビームは司令部の皆も見ていた。皆が動揺を隠せない。
「今のビームはなんですの!?」
「明らかに福音からじゃない。別の所から放たれてた!」
「織斑!篠ノ之!何が起きた!?説明できるか!?」
「分かりません!!突然、横からビームが!!」
しかし、次のビーム砲と共にその存在は姿を表した。それは改造された戦闘機であった。機銃の代わりに、先端にビーム砲を備えている。
「戦闘機だと!?この非常事態に!」
「何処の戦闘機だ!?・・・国籍不明!?」
国籍が不明。普通に考えればあり得ない。密漁船などならまだしも、戦闘機で国籍不明など、どう考えても異常である。
「そこの戦闘機!?この状況が見えないのか!?撃ち落とされたいのか!?」
「そこの戦闘機!直ぐにこの場から離れろ!」
織斑先生や箒の呼びかけに対しても、戦闘機は相変わらずの無反応。その行動の一つ一つが、まるで福音を援護する様に飛んでは、一夏達にビーム砲を向けてくる。
「くっ!シールドエネルギーが」
一夏が白式のエネルギー数値を見て焦る。このままではISのエネルギー切れにより、作戦が失敗となってしまう。
相変わらず戦闘機はビーム砲しか使ってこないものの、その破壊力はかなりのものである。更に福音のビームの弾幕も重なり、このままでは自分達はやられてしまう。
「くっ!なら!!」
箒が戦闘機目掛けて一気に加速する。空裂を戦闘機目掛けて振り下ろそうとした。その刀が触れる目前で、一夏が叫んだ。
「落とせる敵から、堕として・・・」
「やめろ箒!それが戦闘機なら!!」
その言葉に箒がハッとする。刀は戦闘機に触れる寸前で止まっていた。
何をしている私は。目の前の機体は無人機の福音とは違う。戦闘機だ。つまり中に人が乗っている可能性が高い。
人殺し。その考えが脳裏をよぎり、判断を鈍らせた。
「私は、もう少しで・・・」
しかし福音は違う。感情など持たない機械にとって、箒の見せた動揺など、攻撃の絶好のチャンスでしかなかった。福音の放つビームの弾幕が、箒めがけて真っしぐらに突き進んだ。
「箒!!」
咄嗟に一夏が攻撃に割り込む。即ち直撃を受けた。この一撃により、遂に白式のエネルギー残量がゼロになる。
「一夏!?一夏!!」
白式は真っ逆さまに、海面へと落下していった。暫くして水柱が立った所を見るに、海面に着水したのだろう。
「おい篠ノ之!聞こえるか篠ノ之!!」
「お、織斑先生!一夏が!一夏が!」
「馬鹿者!!今は他人の心配をしている場合か!?」
その通りだ。戦闘はまだ終わっていない。福音と戦闘機は箒だけにターゲットを絞ったかと思うと、次の瞬間にはビーム砲を発射していた。
「!!」
ビーム砲が来る。頭で理解していても、恐怖で身体が動けなかった。
(やられる!)
そんな考えが脳裏をよぎった。反射的に目を瞑る。
だがその時突然、そのビームを掻き消すように、何処からかビームが放たれた。それは箒の真後ろであった。
「なんだ。一体今度は何だ!?」
振り返るとそこには、一つのISが飛行してきた。普通のISより一回り大きく、全身がガンメタルのボディをしており、搭乗者の姿は見かけない。
機械ボディ故の無機質さが、何処か不気味である。そのISは再び、右腕のビーム砲からビームを放射。それは福音に直撃した。
見ると福音の右側は半壊しており、所々から火花が散っている。流石に福音のAIが不利を悟ったのか、福音は全速力でその場から離脱した。それを追従するかの様に、戦闘機も戦闘空域から離脱する。
それを見届けたかと思うと、そのISも来た道を戻っていった。
「私は・・・私は・・・」
空域に残された箒にはその場で、ただ項垂れる事しか出来なかった。
その頃の司令部では、一夏救助の為にボートを出す用意が急ピッチで進められていた。
「何なんだよあれ。あの戦闘機は!?そしてあのISは!?一体何なんだよ!?」
「アタシが知るわけないでしょ!」
皆が言い様の無い不安と苛立ちを覚えていた頃、突然通信機が鳴り響いた。慌てて山田先生がそれに出る。
「はい!・・・織斑先生!学園上層部からの伝達です!」
「内容は?」
「専用機持ちを連れて、指摘されたポイントへ迎えだと。指定された座標は・・・先程の福音との戦闘宙域の直ぐそばです!」
「・・・山田先生。念の為、直ぐに医療班を集めてください。お前達!今すぐ私と一緒に来てもらう」
数分後、医療班を連れて皆が乗り込んだボートは、指定されたポイント目掛けて海上を走り出していた。