インフィニット・ストラトス 蒼炎の炎   作:クロスボーンズ

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第29話 別れの日

 

 

とある病院。いい加減名前をつけよう。白羽病院。

 

503号室の患者の看護師担当看護師。宮野京子。彼女は夜勤明けであり、最後の夜勤の仕事として見回りをした後、503号室に出向いた。

 

「待ってたぜ、京子」

 

すると室内にはいるはずのない先客がいた。如月慎吾である。

 

「慎吾さん!どうしたんですか、こんな時間に」

 

「旅館ジャックの一件は知っているな?」

 

「ええ。その・・・白銀君の事は、本当に残念でしたね。ただ騒ぎたいだけの薄汚い人間のせいで本当に・・・」

 

話題のあまりの気まずさから、つい目を逸らす。しかし如月さんは平然としていた。

 

「おいおい。俺達だってその薄汚い人間と同じだぜ。復讐も私刑も大差無いからな・・・それでもまだ、法律を守るのが人間の正しい姿だと言う輩がいるなら、ユーゴみたいに人間なんかやめてやる」

 

「如月さん!」

 

「・・・言葉が悪すぎたな。奏も同じなのに、非人だなんて・・・本題に移る。俺はお前に預けていた物を回収に来た。あの指輪をな」

 

すると彼女は黙って部屋に置かれていた一つの箱を手渡した。中には模様の違う二つの指輪と、一つのチョーカーが収められていた。

 

彼はその内の一つの指輪を受け取ると、静かに指に装着した。

 

「慎吾さんも戦うんですね」

 

「・・・今回の一件はこれまでとは明らかにレベルが違う。遂にネクロノミコンに近づいたのかもしれない」

 

「ユーゴの奴にも話は付けてある。決行は今日。俺も全面的に援護する・・・お前達の力を借りるつもりはないが、もしもの時には・・・奏の事を頼む」

 

そう言い慎吾は深々と頭を下げる。そんな彼に京子は言った。

 

「やめて下さい。そんな事を言うくらいなら、生きて戻ってきて下さいよ。この子の為にも」

 

ペットの傍に座り、頬に刻まれたマーカーを優しくなぞる。

 

「・・・お母さんを早くに失って、お父さんも事故で死んで。それなのに目が覚めた時に、貴方や白銀君までいなくなったら、この子は本当に一人ぼっちになってしまいます」

 

「・・・・・・京子。これを」

 

如月さんが鞄から取り出した物体、それはペンライトの様な形状であった。

 

「これは?懐中電灯?」

 

「化合物分解分析チェッカー。俺の開発した最新の試作品だ。特殊な光を放射し、浴びた人間の体内を細かく分析する。これを使えば、奏の症状も、解決の糸口が見つかるかもしれない」

 

それだけ言うと如月さんは部屋を出て行った。部屋を出る際、彼は自分の指に嵌められた指輪を握っていた。心なしかその手は何処か震えていた。

 

京子さんは一人、複雑な気分のまま食堂へと赴いた。朝食を受け取り席を探していると、一人の後輩の前でその足を止めた。

 

「ねぇ後輩さん。相席、いいかしら?」

 

「あっ、京子さん。どうぞ」

 

後輩と向かい合う形で座り、食堂の朝食の定食を食す。すると後輩が聞いてきた。

 

「・・・ねぇ京子さん。如月さんとの話、聞いてましたよ。私達、本当にこのままでいいんですかね?このまま副業の医者や看護師として、怪我人や病人を治療してるだけで」

 

「・・・・・・」

 

「たった二人で抗っているのに、協力すべき立場の私達が不干渉を決め込む事態で、本当にいいんですか?」

 

「・・・後輩君は若いから仕方ないわね。私達は所詮汚れ役。正義の味方なんかじゃ無いわ。それに、私達は負けたのよ。ネクロノミコンに」

 

「先輩・・・」

 

(慎吾さんは心配いらない。彼は明確に復讐の為に戦っている。問題は白銀君の方。数ヶ月とはいえ、彼は表の世界を体験してしまった。それにより7年前の面影を追ってしまう)

 

(・・・それに、昔から私には彼が死に急いでいる様に見える。まるで、自分が生きてる事そのものが罪のように、自分で決めつけて)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わりIS学園。例の旅館ジャック時間から数日が経った。IS学園では普段通りの生活が行われている。

 

今日もいつもの様にSHRが開かれていた。その間も、生徒達は期末テストの為、勉強に勤しんでいる。あんな事件があったが、クラスの雰囲気は何一つ変わっていない。

 

たった一つの空席がある事以外は。

 

「今日も白銀君は・・・」

 

「ユーゴは、体調不良で自室にいます」

 

「そうですか」

 

出席確認の際に呼ばれる、この場にいない生徒の名前。このクラスが唯一沈む雰囲気になる瞬間であった。

 

あの事件の後、ユーゴは現行犯という事もあり即座に警察に拘束された。とはいえ状況的に考えれば、彼の行いは不慮の事故と捉える事もできる。それによりその日の内に釈放された。

 

だが、釈放され彼がIS学園に戻った際、学園の誰も何も声をかける事ができなかった。

 

その理由は、今も聞こえてくる、ある人達の影響である。

 

「殺人犯を引き渡せぇ!」

 

「何がIS学園だ!権利を盾にした犯罪の隠れ蓑じゃないか!」

 

「無能な警察に代わり、我々は断固抗議するぞ!!!」

 

IS学園の周辺にはデモの参加者が集結していた。あれから毎日の様に拡声器を使い、嫌がらせの様に抗議している。

 

教室内にはこれにうんざりして、耳を塞いでいる者もいる始末。

 

そのあまりの規模に警官達も出動し、直接的な暴動にこそなっていないが、それでも破裂寸前の風船状態である。

 

世論は完全に、ユーゴの敵にまわっているのだ。

 

するとスピーカーから全校舎に校内放送が鳴り響いた。

 

「全校生徒に連絡します。本日の授業は全て中止とします。各生徒は寮に戻り、自習をしてください。午後には、全生徒は体育館に集まってください。それとこの後、臨時の職員会議を開くので、全教師は速やかに職員室に集まってください」

 

「・・・ほっ」

 

皆、何処か安堵した顔で寮へと歩いて行く。外のデモも、寮までには届いてこない。ここだけは、これまで通りに生徒達が普段通りの生活が送れる環境であるのだ。

 

昼の時間、一夏達はいつもの様に食事を摂っている。皆、考えている事は同じである。

 

「ユーゴの奴は、これからどうなるんだ・・・」

 

「状況だけを見るなら、ユーゴの行動は警官が銃を発砲して犯人を射殺したのと同じだ。多少冷たい目で見られる事こそあれど、ここまで酷いケースにはならない筈だ」

 

「それなのに、世論はユーゴさんを悪いと決めつけています」

 

「一体、なんでこんな事になっちゃったのかしら」

 

「・・・兎に角、今一番辛いのはユーゴだ。今の私達に出来るのは、あいつが戻ってきた時、これまで通りに接する事だ」

 

「ラウラ・・・」

 

だが、果たしてそんな日は訪れるのだろうか。

 

こうして暫くして、体育館に集合した。ここにはユーゴと織斑先生を除いたIS学園の関係者が集合している。

 

壇上では山田先生が真剣な面持ちで立っていた。そしてある程度時間を置いた頃、話しを始めた。

 

「皆さん。例の事件は既に皆さんも知っていますね。あの一件がどの様な形であれ、現状では、皆さん等の安全が脅かされかねない事態となっています」

 

「これに対し上層部は決定を出し、明日からIS学園を一時休校とする事にしました」

 

「き、休校だって!?」

 

その言葉は一夏だけでなく、全生徒が驚きつつも、何処かで考えていた答えであった。

 

「不幸中の幸いか、もう時期夏休みですし現状の再開予定は二学期開始日の9月1日です。詳しい事は、各クラスに戻った際に担任から伝達されます。以上です」

 

つまり、学校を一時的に閉めるという訳だ。この言葉に山田先生は一人、重い顔をしていた。

 

(・・・この決定はまだ判ります。ですが、もう一つの決定は流石に・・・)

 

ここで時間を少し戻そう。

 

昼頃、職員室では教員会議が開かれていた。そこでは二つの決定事項があった。一つは上記にある、一時的な閉校。

 

そしてもう一つ、ある重大な事が決められていた。

 

「・・・理事会により決定した内容を伝える。公共の電波で、とんでもない事をしてくれたな。この現状を放置しておくのは、他の生徒達にも被害が出かねない。よって上層部は、白銀ユーゴの処理を命じた。よろしいね、織斑先生」

 

周囲の責める様な視線を受ける。

 

「・・・分かりました。それでは白銀ユーゴの身柄を至急引き渡しを」

 

「違う。上層部は白銀ユーゴの処理を要求している・・・この意味、分かるね?」

 

校長のその発言に山田先生がハッとした様な表情をした。織斑先生も、似た様な表情を浮かべていた。

 

「なっ!?まさか殺せと!?」

 

すると校長は織斑先生に耳打ちする。

 

「・・・上層部はそう言ってきた。本来なら専門機関の更識家に委任したいが、当主が現在ロシアにいる為、組織として自由に動けないらしい。よって始末については山鳩総理が一任していると。既に暗殺部隊が寮の一室に待機している」

 

「待ってください!幾ら何でも話が突拍子過ぎます!これでは、余りに彼が不憫過ぎます!」

 

「以前警官が来た時みたいに、容疑だけなら知らぬ存ぜぬを押し倒せた!だがメディアの前、それも生放送という無数の市民の前での、決定的な証拠の前では如何なる誤魔化しも通じない!」

 

山田先生の抗議も、上層部の決定の一言の前には、虚しい遠吠えにしかならなかった。

 

こうして職員会議は終了となった。織斑先生はユーゴを部屋から呼び出す役割を命じられ、残りの先生が体育館に行き、全生徒が居る事を確認する役割である。

 

そして体育館に皆が集まった事を確認すると、暗殺部隊はユーゴの部屋を完全に包囲した。

 

扉以外の唯一の逃げ道のベランダから逃げようものなら、ラファール・リヴァイヴと打鉄を展開した自衛隊部隊が待ち構えている。

 

明らかに旅館ジャックの際より、対象の殲滅に力を注いでいる事が窺える。

 

(この展開・・・余りに不自然だ。事がスムーズに進みすぎている。まるで予め、シナリオが決められていた様に・・・)

 

そんな考えを浮かべている織斑先生。事態の異常性に気付いたらしい。すると部隊の1人が、顎で指示を出す。その指示を受け、織斑先生が扉をノックする。

 

「白銀。私だ・・・お前の今後について話がしたい。出て来い」

 

しかし室内は静まりかえっている。今度は強めにノックした。

 

「白銀!起きているか!?」

 

しかし室内は無音である。試しにドアノブを捻ってみる。するとすんなりとドアノブが回る。部屋の鍵が開いているのだ。

 

この事実に織斑先生の動きが硬直する。

 

(このままもし、扉が全部開いたら・・・)

 

それを感じ取った織斑先生は叫んだ。

 

「白銀!直ぐにISを展開して部屋から・・・」

 

【ドスッ!】

 

背後にいた部隊の一人に、織斑先生は殴り飛ばされる。そして暗殺部隊は扉に銃弾の雨を浴びせ、扉を簡単に破壊した。

 

「対象を探せ!」

 

一気に暗い室内に部隊が雪崩れ込み、電気を付けて室内を散策する。それ程広くない室内に明かりが灯るなり、直ぐに異常に気がついた。

 

「対象がどこにもいません!」

 

「なんだと!どういう事だ・・・これは!?」

 

すると隊員の一人が、ベットの下に開かれた、大穴に気がついた。灯りが着く前は気づかなかったが、穴の辺りは若干焦げており、異臭もそれなりに漂っていた。

 

「まさか床に穴を開け、そこから逃げ出したというのか!?」

 

【シュン!】

 

次の瞬間、突然室内の電気が消えて暗闇が周囲を覆った。電球の寿命などではない。IS学園全体が停電に見舞われたのだ。直ぐに非常用電源に切り替わる。

 

すると織斑先生の元に警告画面が表示された。

 

「地下区画に侵入者あり!?こいつは!!」

 

部隊の面子が食い入る様にその画面を見た。そこには一人の人物が立っていた。顔はゴーグルとマスク。そしてフードに覆われて判断出来ない。

 

だがそんな中でも、右頬にある黄色いマーカーはよく目立つ。その格好はこの場の皆が知っていた。

 

「蒼炎の狩人!?」

 

暗殺部隊は直様、地下区画を目指して駆け出していた。部屋に残された織斑先生だが、煙が引いてきた頃に机の上には置かれた二つの書類に気がついた。

 

「これは・・・」

 

どちらの書類も、ユーゴの直筆であった。

 

一つはIS学園への退学届。もう一つは、ここに入学する際に独自IS研究開発社からIS学園に貸与された、ゴーレムコアの権利放棄書であった。

 

「あいつ・・・・・・」

 

彼女はそれを静かに懐にしまうと、その部屋に佇み続けた。

 

(それにしてもあの部隊。殴られた際の感触。まさか・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間を遡る。地下入り口にて。

 

「停電の発生を確認」

 

この停電は如月さんの作ったプログラムのおかげである。それによりIS学園のネットワークに侵入し、電気系統に特殊なコンピューターウイルスを注入した訳だ。

 

(もう、ここには居られない。なら・・・)

 

如月さんが開発した特殊コードを扉に打ち込み、地下区画のロックを強制解除する。マップは先程、如月さんが転送してくれた。目指すべき目標も、マップ上で赤く点滅している。

 

(・・・何を悲しむ事がある。いつか来るだろうと覚悟していた時が来ただけの事)

 

改めて送られてきたマップを確認する。目指すべきゴールはこの地下区画の奥にある、地上に繋がるシャフトのどれか一本。

 

そこに辿り着ければ、現在包囲されているIS学園の外から、地上出られる。暗示ゴーグルを一度取り外すと、腕で目を拭った。

 

(ラウラ・・・みんな。お別れだ)

 

再びゴーグルを掛け直し、ワイルド・ジョーカーを展開したユーゴは一気に機体を加速させ、IS学園の地下区画に侵入していった。

 

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