インフィニット・ストラトス 蒼炎の炎   作:クロスボーンズ

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第30話 IS学園脱出

 

 

白銀ユーゴの逃亡。外に待機していた部隊にもこの情報は届いていた。

 

「おい!対象が逃亡しららしい!我々も直ちに指定されたポイントで合流し追撃を・・・え?」

 

ふと見ると部隊のメンバーの一人の身体が宙に浮いていた。そして浮いたかと思うと、勢いよく塀目掛けて弾き飛ばされた。

 

「な!?なんだ!?今の!?」

 

困惑するメンバーを他所に一人、また一人と部隊の連中は宙に浮かび、そして遠くに目掛けて放り投げ出される。

 

「ち、超常現象だ!!!」

 

姿の見えない存在に皆オロオロしているだけであった。こうしている間にも一人、また一人と身体が宙に浮いては、放り出された。

 

「くそっ!こうなったらC班を向かわせろ!」

 

「そ!それが、C班の方には無人の装甲車が襲撃をかけ、甚大な被害を受けている模様!」

 

「無人装甲車だと!?へぶっ!」

 

目に見えない、レーダーにも映らない敵。戦いにおける圧倒的なアドバンテージの前に、包囲部隊は余りに無力であった。デモ隊の皆もすっかり怯え、雲の子を散らす様にその場から逃げ出して行った。

 

やがて辺りの人間がいなくなると、カメレオンの様に一人の人間が姿を表した。その身にワインレッドの様な色をしたISを纏って。

 

(数頼みの案山子どもめ・・・あらかた部隊は片付けた。援軍が送られる気配もない。とっとと車にも撤退させるか)

 

【ビーッ!ビーッ!】

 

その警告音は、その人物のISから出されていた。

 

(ん?裏情報の垂れ込みか?・・・!?これは!?)

 

そこには適当な英数字が羅列されていた。それこそ、ネットのアドレスの様に凡人には理解が出来ないような文字列で羅列されている。

 

やがてその人物は再び周囲の景色に同化するように、その姿を消していった。その人物の指示で、無人の装甲車もIS学園から引き上げた。

 

 

 

 

 

その頃のユーゴ、いや蒼炎の狩人。

 

IS学園の地下区画には様々な自動防衛兵器が備えられている。だがその照準がユーゴに向けられる事はなかった。

 

(如月さんが作ったジャミングプログラム。今の俺は幽霊と同類か・・・)

 

あの時。一度、IS学園の電気を落とした隙に如月さんの作ったウイルスが、学園の防御プログラムを書き換えたのだ。これにより、彼は侵入者と認識されずに、地下区画を縦横無尽に移動できる。

 

心置きなく地下区画の鉄パイプなどを潜り抜けて、一番近い目的地にたどり着いた。その真下に立つと、パイプの中を勢いよく垂直に上昇する。途中であった鉄製の金網も、体当たりでぶち抜いてゆく。

 

【ピカッ!】

 

薄暗い場所から、突然の眩しい太陽の光に一瞬目が眩むも、直ぐに元に戻った。彼が出た場所。そこはIS学園のある敷地から離れた、森の中であった。

 

だがそのシャフト付近には既に、数機の自衛隊ISが展開されていた。

 

「まさか警戒されてたのか!?だがリヴァイヴと打鉄の計4機なら!」

 

ビームシールドを使い、ラファールのライフル弾を防いで行く。すると打鉄の持つ刀が、ジョーカー目掛けて振り下ろされる。

 

シールドをしまうとファストナイフを取り出し、その一撃を受け流す。そのままカウンターとして、ファストナイフで切りかかったが、その攻撃は表面のボディに傷をつけただけであった。

 

「打鉄の長所である装甲の厚い箇所か。なら!」

 

ナイフを腰に仕舞うとユーゴは距離を取りながら弓矢を取り出した。そして限界まで引き絞る。散弾ではなく一点突破を狙う方に変更した。

 

【バリン!】

 

勢いよく放たれた矢の貫通力は高く、打鉄の右肩部分を容易く貫通し、破損させた。

 

「まず1機!」

 

次に狙いを定めたのは同じ打鉄である。このISのボディは硬く、そう簡単には打ち砕けない。2機のリヴァイヴのタンク役として目の前に壁として立ち塞がった。

 

打鉄の刀が、ジョーカー目掛けて振り下ろされた。ファストナイフを取り出し、その一撃を防ぐ。その返しと言わんばかりに、装甲の薄い箇所に勢いよくナイフを突き刺した。

 

打鉄の一部から火花が飛び散り、やがて動かなくなった。

 

「2機!」

 

これで残るはリヴァイヴ2機だけだ。こいつらにはこのままファストナイフで立ち回る方が有効である。

 

2機のリヴァイヴはアサルトライフルを乱射して来た。銃弾を今度はマントで防ぎ、一気に加速して距離を詰める。

 

【maximum!】

 

エネルギーを纏わせたファストナイフが、一気にリヴァイヴのシールドエネルギーを削ってゆく。

 

「3機目!」

 

トドメとして、最後のリヴァイヴを掴むと空中に蹴り上げ、それを勢いよくナイフで貫いた。

 

「最後!!」

 

蹴り上げた際と同じ様に、リヴァイヴは思いっきり地面に叩きつけられ、シールドエネルギーが空になる。これにより自衛隊の持つIS全て、強制解除された。

 

周囲にいた自衛隊のISはあらかた片付いた訳だ。

 

丁度その頃、地下区画から追いついてきた連中も辿り着いたが、その時既に、蒼炎の狩人は遥か上空に辿り着いていた。そのまま加速を利用し、一気に海側目指して飛んで行く。

 

これでもう、彼は糸の切れた凧である。その行方は誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけるな!逃げられただと!!」

 

とある執務室。暗殺部隊から取り逃したと報告を受け、山鳩が苛立ちを覚えた。

 

「それとIS学園にあった白銀ユーゴと、ワイルド・ジョーカーに関するデータが全て削除されていました。学園側がUSBに保存されていたバックアップデータを復元しようとした直後、今度はUSB内のデータごと完全に抹消されました」

 

「恐らく、IS学園が停電した隙に、特定の単語に反応する電子ウイルスを混入したものかと」

 

「・・・もう良い!臨海旅館ジャック事件に関する全ての報道を規制しろ!デモの連中にも、この一件に関する抗議は中止だ!」

 

勢い良く叩かれた机。机の上の花瓶が勢いよく砕け散った。拳に破片の飛び散り、血が滲む。

 

「圧力をかけ過ぎたか。これで6年前と同じになった・・・おのれ白銀ユーゴ!それに如月慎吾め!必ず潰してやるぞ!!」

 

すると部下の一人が定時報告に現れた。

 

「おお、部下Aか。それでどうだ、彼の方は?」

 

「以前、脳波にはなんの変化も変調も見受けられません。かれこれ6年間は同じ状態を変化してますよ・・・念の為に聞きます。あれ、人間なんですか?」

 

「あぁ。人間だよ。組織に楯突いた、愚かな人間だ。とにかく部署の方には、引き続き監視を怠るな。僅かな変化も見逃すなと連絡を入れておけど」

 

「了解しました」

 

そしてその頃のIS学園。あの後体育館で解散した内、一夏達は一箇所に集められそこで事の一件を織斑先生から伝えられていた。

 

「ユーゴが逃げ出した!?」

 

「ああ。正確に言うなら自主退学だがな」

 

「ユーゴのやつ、やっぱり・・・」

 

ユーゴ選択は皆予想が出来ていた。すると織斑先生が懐から何かを取り出した。それは茶封筒であり、袋が多少膨らんでいた。

 

「あいつのベットの中に隠させる様に置かれていたボイスレコーダー。宛先はお前達だ」

 

こざっぱりした茶封筒から中身を抜き取る。一夏がスイッチを押すとテープが巻かれ、雑音と木の板を切るような音まじりに、ユーゴの話声が流れ始めた。

 

「前略。皆様、突然この様な別れとなる事をお赦し下さい。時間が無いため、要件を簡潔に述べます。私の事は全て忘れてください。私も皆さんの全てを忘れます。それが皆さんが幸せに生きて行く道でしょう」

 

「そして最後に、皆さんと過ごせた数ヶ月は私の中で忘れていた何かを思い出させてくれました。本当にありがとう。そして、さようなら」

 

直後、ボイスレコーダーと録音テープに仕掛けられた小さい爆弾で、粉々に砕け散った。

 

「ユーゴ。お前は一体・・・」

 

困惑する一夏達を他所に一人、ラウラは静かに目を閉じていた。

 

(私があの記憶を垣間見た時、いつかこんな日が来る事は覚悟していた・・・ユーゴ。夫として私から言える事はただ一つ。死ぬなよ)

 

すると織斑先生は懐から何かを取り出した。それは学園の防犯カメラが撮影した一枚の写真であった。そこには複数の人物が映し出されていた。

 

「今回、白銀の出撃に現れた連中の顔写真だ。こいつらには気をつけろ。もし出会う事になっても関わらずに、無視を決め込め」

 

その写真を手渡した後、この集まりは解散となった。

 

 

 

 

 

夜も更けてきた頃、夜空を高速で飛ぶジョーカーはやがて森の奥地付近に着地した。

 

「戻ったぞ。如月さん」

 

懐かしい。確か数学程前の極東赤軍のテロを潰した際も、この場所で合流した事を思い出していると、車内から如月さんが顔を覗かせた。

 

正確に言うなら、何も無い空間から突然姿を現したと言うべきか。

 

「うぉ!・・・そのIS。まだ残っていたのか」

 

「あぁ忘れもしない。俺がお前達を助けた時、お前が所持してたもう一つのIS。それを俺が改修して補助兵装、ミラージュ・ディメンションを付けた俺のIS、ウィザード」

 

それだけ言うと如月さんのISは解除され、指輪の待機形態に戻った。それを見た後、ユーゴは黙って空を見上げた。そこから見える夜空は、学園で見える空と何一つ変わっていない。

 

「・・・後悔してるのか?」

 

「・・・いざ、こうなると名残惜しいものだな・・・でも、コインと同じ。表と裏はとてつもなく近い距離にあるが、決して重なる事も、交わる事もない。ただ裏の顔。蒼炎に狩人に戻る時が来ただけ」

 

「悪かったな。お前が学園に通いたいって言ったあの時、強引にお前を止めていれば」

 

「如月さんが謝ることじゃない。これは自分のせい。人並みの生活を送ろうとした自分や他者への甘えが、この結果を招いた」

 

やがて如月さんの方を向くと、彼の顔は真剣そのものへと変化しており、そして語り出した。

 

「・・・実は今日、ある情報を入手した。7年前の事件についての情報があるとされる場所が裏ネット上に公開された。情報は一分も経たずに削除されたが、俺のPCには保存されていた」

 

その言葉にユーゴの表情が一変した。遂に自分達の追ってきた7年前の事件。その手がかりに近づけたのだ。

 

「それで!その場所は!?何処だ!教えてくれ!!」

 

「日本政府のメインコンピューターだ。だからお前にはISを使って、電脳ダイブをしてもらう」

 

「電脳ダイブって、ISに搭載されてるナノマシンを使う事で電脳世界へと仮想可視化して侵入させるあの・・・うぉっ」

 

駆け寄りながら車内に入ろうとした際、足元がふらつき、ユーゴが段を踏み外す。ISを解除したと同時に、強烈な疲労感に襲われる。

 

「・・・とりあえず今日はゆっくり休め。疲れは自覚してなくても溜まっている。こっちも情報の精査。真実時の電脳ダイブ装置の製作、新武装の開発とか、経路の選定とかで色々と忙しい。決行日が決まったら知らせる。とにかく今は休むんだ」

 

「あぁ。そうさせてもらうよ。それじゃあ、お休み・・・」

 

それだけ言うと二人は、それぞれソファーと助手席に足を進め、やがて二人が乗った車の扉は静かに閉められた。

 


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