神様でなくなった日/神様になった日(完結) 作:ファルメール
『どうしてですか? なんでたったあれっぽっちの罰金で何もかも無かった事になるんですか?』
『俺たちの家族を奪っておいて、なんであいつは許されるんですか?』
『ああ……そうですよね。それがこの国の法律で決まっている事なんですよね。じゃあ、仕方無い……仕方無い、ですよね……法律以外で、人を裁く事は出来ないのだから』
『それなら、俺は……この国の中にもう一つ、俺の法、俺の価値観が支配する、俺の国を創ってやる!!』
「カット!!」
始まりは、空のその声と、打ち合わせたカチンコの音だった。
夏休みの課題として作成していた自主製作映画。
ロケットパート、ボクシングパート、人造人間パート……撮影自体は順調で、空は「賞が取れるかも知れないし」とご機嫌だったものの、やはりパクリなのでそんなのを課題として提出する訳にも行かず……ついでにそれにかこつけて陽太が伊座並さんに告白する計画も次々に失敗してしまった。
「やれやれ、もう一本書くか……まるで売れっ子シナリオライターじゃな」
と、ひなが書いた4本目のシナリオだったが……この撮影中に初めて、空のリテイクが入った。
「どうしたの空」
「迫力が無いし。台詞は棒読み、リアリティに欠けるし」
「いやそりゃ仕方無いよね!! 僕たちシロウトなんだから!!」
「もっとキャストから凝りたいし……」
「そうは言っても、僕と阿修羅と父さん、それに伊座並さんぐらいしか、当ては……」
「いや、もう一人居るだろう。陽太。うってつけの奴が」
大地はそう言って、懐からスマホを取り出した。
「で、俺を呼んだって訳か、兄貴?」
呼ばれてやってきたのは、大地と同じぐらいの年格好で、このクソ暑いのに仕立ての良いスーツに良く分からないが高級そうな靴に高そうな時計、それにネクタイを締めて正装した精悍な男だった。
「すまないな。急な話で」
「まぁ、盆にはこっちへ来るつもりだったから、それがちょっとそれが早まっただけだがよ」
「おじさん、久し振りだし」
「空ちゃん、しばらく合わない内にまた大きくなったか?」
「お、おじさん元気……?」
「陽太、お前今年受験生だろ? こんな事してるヒマあるのか?」
彼は順番に挨拶を交わしていって……その視線が、ひなで止まった。
ひなの方も、どこか警戒するようにじーっと彼に視線を注いでいる。
「この子は?」
「我は全知の神、オーディンである!!」
「へえ、オーディン様か」
「本名は佐藤ひなだよ、おじさん」
「そうか、つまり佐藤=オーディン=ひなって訳だな」
「ワシはどこかのハーフか!! で、質問。貴様の名前を教えるがよい」
「え? 正義(まさよし)だけど。成神正義」
「うぎゃー!! 太陽に天空に大地に時間と来て、遂に正義の神まで身内に居るのかーっ!! ワシの立場はどこへ行くんじゃよーっ!!」
「……それで、このエキセントリックな子は何なんだ、陽太? 俺知らないんだが……」
「遠い親戚の子らしいんだけど……」
「ふーん……? まぁ良いか。それじゃあ取り敢えず、早速撮影に入るか」
「それじゃあ行くし。3・2・1・アクション!!」
「ヤクザに借りて借りっぱなしってのは通らねぇんだよボケがア!!」
机を挟んで対面したスーツ姿の陽太の胸ぐらを、正義が掴み上げてぐいっと迫ってくる。
「借金の返済期限はとっくに過ぎてんだ!! 無い袖は振れねぇってのは俺には通用しねぇぞ? 選択肢は二つ!!」
ここで、正義が脇に立っていた伊座並を睨む。
「妹を俺の女に差し出すか!! さもなきゃあ……」
彼が懐を探ると、抜き身のドスが出てきた。
そのドスを、思い切り机に突き立てる正義。
「腕一本、置いていきな」
ここで、カチンコの音が鳴った。
「カットー!! おじさん、最高だったし!!」
上機嫌の空が、メガホンを振り回して駆け寄ってくる。
「僕も驚いたよ、まるで本物みたいでした」
陽太にそう言われて、正義は呵々大笑する。
「そりゃあそうだろ。いつもやってる事だしな」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「何じゃ知らなかったのか? こやつは関東蒼天会の若頭補佐で、二次団体『隆骨会』の組長じゃぞ?」
結局、このパートも反社の人間が出演しているのを発表するのは拙いのでボツになった。
これは一夏のお話。
世界が終わり、神様が神様で無くなるまでの、30日間の物語。