神様でなくなった日/神様になった日(完結)   作:ファルメール

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第02話 フィジカルヤクザ/インテリヤクザ

 

「あら、正義さん、お久し振りね」

 

「ご無沙汰してます、時子さん。しばらくお世話になりますぜ」

 

 映画撮影の為に大地に呼ばれてやって来た正義は、そのまましばらく陽太の家に滞在する事になった。

 

「兄貴、俺の部屋はそのままにしてくれてるだろうな?」

 

「ああ、お前がいつ帰ってきても良いようにな」

 

「僕も使わせてもらってるよ」

 

「おう、陽太。お前もバスケやってたんだったな。やはり体は鍛えとかねぇとな」

 

 びしっとしたスーツ姿から、タンクトップにジャージのズボンへと着替えた正義は、陽太とひなを伴って慣れた様子で彼の部屋へと入った。

 

「おおぅ、これは……」

 

 思わず、ひなが感嘆の息を漏らした。

 

 陽太の部屋よりもずっと広いそのスペースには、所狭しとトレーニング器具が並んでいた。ルームランナーにエアロバイク。各種重さのダンベルにバーベルセット、トレーニングベンチ、ペックフライマシンまである。

 

 ぽいと首に掛けていたタオルを放ると、正義はペックフライマシンに腰掛ける。

 

 重りをたっぷりと付けて負荷を最大にすると、開いた腕を閉じて、また開く。その運動を繰り返す。高負荷の運動なので、まだ開始してそう時間が経っていないにも関わらず、額に汗が浮かび始める。

 

 そうして運動しつつ、すぐ傍らのひなへ正義が視線を送った。

 

「どうだ、ひなちゃん。君もやるか?」

 

「いや、遠慮しておく」

 

「あら、そうかい」

 

「ワシは全知の神じゃからな。ムダな筋肉を付ける必要は無いのじゃ」

 

「はっはっは。まぁ、そういう考えもあるよな」

 

 ともすれば失礼な発言だったが、正義は気にした風も無く大笑いした。

 

「それに、今更鍛えて健康に気を遣ったって意味無いぞ。後30日もせぬ内に、この世界は終わるのじゃからな」

 

「……?」

 

 この発言の意味は図りかねたようで、正義は陽太を見た。

 

「ははは……おじさん。ひなはそういうキャラ付けしてるんだよ」

 

「……ふーん」

 

 正義はもう一度、ひなへと視線を送る。

 

 年齢は小学校高学年から中学生ぐらい。それに修道女のような格好……これは、コスプレだろうか? それに芝居が掛かった口調や態度……

 

「まぁ、麻疹みたいなもんだな」

 

 収集出来た情報を総合的に判断して、これはいわゆる中二病とかそういうアレであろうと、正義は判断する。

 

 誰でも人生に一度くらい、それもこれぐらいの年頃には自分には特別な力がある、自分は他の奴らとは違う存在だと、そういう風に思う時期が一度はあるものだ。

 

 そう判断しての、153キロのバーベルを上げながらの大人の対応だったが……ひなには気に障ったらしい。

 

「お主、ワシの力を信じておらぬな?」

 

 見るからに不機嫌そうになった。

 

「ふーむ……」

 

 先程と同じく、陽太に説明を求めて視線を向ける正義。これには陽太の方が困った顔になった。

 

 確かに、後30日で世界が終わるなんて話は彼も信じていないが……

 

 さりとて、ひなが全知の力を持っているという話を、全くの中二病、ハッタリ、キャラ付けと切って捨てる事も出来ない。出会ってからこれまでの短い期間で、競馬の着順を一位から順番に最下位まで全て当てたり、天気や渋滞の様子を当てたりしているのは本当だからだ。

 

 だからどう応答したものか……言葉に詰まる。

 

「ぬ、お、お!!」

 

 バーベルをもう一度持ち上げた後、正義は傍らに置いてあったボトルを手に取った。中身は牛乳に混ぜたチョコ味のプロテインだ。

 

「じゃあ、一つテストしてみるか」

 

 

 

 

 

 

 

 トレーニングの後、着替えた正義は持っていた荷物からノートパソコンを取り出すと、起動させた。

 

 画面には幾色もの折れ線や棒グラフが表示される。株取引の画面だ。

 

「これは?」

 

「俺の組のシノギの一つでな。本家に毎月100億を納めるのがノルマになってるんだ。さて」

 

 前置きすると、正義はひなへと向き直った。

 

「ひなちゃん、君が本当に全知の神だと言うなら、これからどの株が上がるか分かる筈だ。それを見事、言い当ててみせてくれ」

 

「ふむ」

 

 ひなはしばしの間、じっとパソコンの画面を睨んでいたが……それもそう長い事ではなかった。

 

 ほっそりした指が赤と、緑の折れ線グラフを差した。

 

「ここと、ここの株が上がるぞ。一時間と経たぬ内にな。買うなら今じゃぞ」

 

 言われた正義は画面を睨むが……数秒としない内にしかめっ面になった。

 

「こんなボロ株がか? しかもこの銀行はどっちも不良債権を抱えて経営破綻に陥り青色吐息なんだが……」

 

「ワシは全知の神じゃぞ? ワシの言う事に、間違いは無い!!」

 

「……」

 

 じろりと、ひなを睨んでいた正義であったが……ひなの表情には少しの不安さも感じ取れない。自分の予言が外れる事など、頭の片隅にも思い浮かべてはいないようだ。

 

 やがて、根負けしたのは正義の方だった。

 

「良いだろう。テストすると言ったのはこっちだ。なら、最初の一度はそれに乗らなけりゃ、フェアじゃないよな」

 

 スマホを取り出すと、登録してある番号に電話を掛ける。

 

「俺だ。コスモ銀行と帝日銀行の株を、買えるだけ買い漁れ」

 

<会長、それは危険では……ご存じの通り、両銀行はどちらとも不良債権を抱えて経営に窮しており……>

 

「構わねぇ。買えるだけ買いまくるんだ。責任は全て俺が取る」

 

<はい、承知致しました>

 

 こうして、ひなの言う通りの株を買い占める勢いで買った正義。

 

 この一時間後、この二銀行は大銀行に吸収合併される形で救済され、経営が持ち直した。そして経営に窮していた事もあって買った時点が底値であり、正義の組は大儲けする事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 

 正義は部屋を真っ暗にして、パソコンモニターと睨めっこしていた。

 

 昼間、ひなが言い当ててみせた株価の変動。

 

 どちらか一銀行だけならば、偶然だと思う事も出来たかも知れない。

 

 だがひなは二銀行とも株価が上がる事を予言してみせた。それも当てすっぽうではない。その証拠に、他の銀行の株価には殆ど変動が見られなかった。更には、株価が大きく変動する時間帯まで、彼女は言い当てた。

 

 もうこれは絶対に偶然ではない。

 

 ひなには、超能力なのか魔法なのか分からないが、とにかく常人には無い能力がある。それは、間違いない。

 

 彼は頭から超能力の存在を信じていない訳ではない。仮にテレキネシスだのテレパシーだのは無くても、およそ常人の測りを超えた所のカンの鋭さや頭脳明晰さがあれば、それは超能力・特殊能力と言って差し支えないだろう。

 

 数年前、裏の世界で名を馳せた「隻眼の死神」だって、あまりにも世界各地に神出鬼没であった事や、驚くべき暴れっぷりから未だその名は語り草になっていて、彼が超能力者であった説などはまことしやかに囁かれている。

 

 正義は、スマートフォンの電話帳アプリを立ち上げた。

 

 表示される連絡先には「J&M興信所」と出ている。

 

「あぁ、所長か。俺だ。ちょっと依頼したい事があるんだが……あぁ。勿論、報酬は弾むぜ」

 

 パソコンの画面を切り替え、電子メールを起動する。登録されている宛先へと送るメールに添付するのは、ひなの写真画像だった。

 

「これから送る写真の女の子について、調べてくれ。名前は、佐藤ひな」

 

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