―チリリン···チリリン···―
何処からか響く、澄んだ鈴の音。それと共に、真っ白な靄が訓練場を包み込んだ。
すると、周囲の風景がグニャリと歪み、各々の戦場へと変化した。
一誠と梟は、葦名城天守閣。黒歌とお蝶は、平田屋敷地下の隠し仏殿。弦一郎と刑部は、葦名城大手門。そして、志狼と一心は、あの決戦の芒の原。
志狼の持つ竜胤の力。その中の1つである、《主観認識と世界のリンク》。それを日本独特の変態技術で疑似再現した、蜃気楼シミュレーション結界である。
そして、各々の戦いが始まった。
「ムゥんッ!」
―ギャインッ―
「ッぎィ···何の!」
【SHURI‐KEN!】
開幕早々、一誠から見て逆くの字型に駆け出して距離を詰め、横一文字に大太刀を振り抜く梟。一誠はそれをスウェーバックしながらパイルハンマーの刃で弾き、赤龍帝の鱗手裏剣を発現。後ろに倒れる重心に任せてバックステップしながら、鱗手裏剣を3枚飛ばす。
「甘ァいッ!」
しかし、流石は大忍び。左前ステップで難無く回避し、更に右腕の捲き込みで大太刀を左下に振るった。それにより重心を引っ張り、独楽のように回転。それと同時に、何時の間にか左手に握っていた赤いアイテムをばら蒔く。
―バラララララララッ!―
「どわっ!?」
けたたましい爆音と、僅かな閃光。そして巻き起こる、刺激臭を伴った紫煙。
忍具の1つ、紫煙火花である。
【Boost!】
「ゲッホゲホッ···クッセェ!」
『気を付けろ!来るぞ相棒!』
「ぬェいッ!」
―ギャギィンッ!!―
「ッくゥ···!」
鋭い踏み込みからの、横凪一閃。咄嗟に倍化した膂力とパイルハンマーの外装で受け止めたものの、紫煙火花の煙に噎せていた一誠は大きく体幹を削られ、後ろに押し飛ばされてしまう。
「ぬェりゃあッ!」
此処ぞとばかりに、梟は大振りな唐竹割りを狙い大太刀を上段に構えた。
常人離れした体躯から繰り出されるその一太刀には、言うまでも無く化物めいた重さが伴う。対して一誠は体勢を崩され、右膝をついている状態であり、回避は絶望的。しかし、切れ目の入った狩り帽子の鍔から覗く一誠の瞳は逸らされる事は無く、逆に大きく見開かれていた。
(此処だッ!)
―ボンッ!―
突如。梟の腹に炸裂する、紅いエネルギー弾。一誠が赤龍帝の籠手から放ったそれはしかし、細かい軽合金の板を編み込んだ忍装束を傷付けられなかった。だが、問題は微塵も無い。何故ならそれは、貫通力では無く
「ぬおっ!?」
爆ぜたエネルギー弾は衝撃を生み、大太刀を振りかぶっていた梟の重心を後ろに弾く。
回避が出来ないならば、
「ぜェりゃッ!」
―ギャギンッ―
先程とは一転、体勢を崩した梟に、一誠はパイルハンマーの横振りを見舞った。
素早く反応し何とか脚甲で防ぐ梟だったが、更に体勢を崩されて後退りする。当の一誠はと言えば、振り抜いた腕を肩甲骨でロックする事で急停止させ、慣性を利用して極太の杭をコッキングしていた。パイルハンマーの変形攻撃である。
【Boost!】
「やるぜドライグ!」
『応ッ!』
【Explosion!】
2回の倍化で4倍になった身体能力。そして地獄の武器工房が造り上げた究極の浪漫武器、パイルハンマー。その2つが一体となった真価が今、発揮される。
「ハァァァ!」
大きく引いた拳に力を籠め、グリップ側面のボタンを親指で押す。それを合図に内部のコンプレッサー機構が作動し、周囲の空気を取り込んで装甲内のボンベに圧縮注入。
「でェやッ!」
そのまま鏃を突き出すと同時に、人差し指でトリガーを引いた。
―バッギャァァァンッ!!―
「ぬおぉぉぉぉッ!?」
圧縮空気とバネ圧の解放により、凄まじい衝撃を伴って打ち出される杭。梟は咄嗟に身を捻り、真正面からの直撃は避けたものの、忍装束は抉られるように大破。本人も大きく吹き飛ばされる。
「惜っしい!でも、良いの入ったんじゃないですか?梟のおやっさん!」
「ククク、確かにな。今の一撃は、中々に堪えたぞ···
倅の盟友!いや、一誠よ!この時代において、よくぞ此処まで練り上げた!褒美を取らす!」
梟が叫ぶと、何処からとも無く蒼白く霞掛かった1羽のフクロウが現れた。
「我がフクロウ、見せてやろう!」
蒼い鬼火のような朧の光を纏い、フクロウが旋回する。全盛の力の総てを揃え、此処からが本番だとばかりに梟は叫んだ。
「第2ラウンドってか!うっし、まだまだ行けるよなァ、ドライグ!」
『あぁ!当然だとも!』
【Boost!】
翠の宝玉を輝かせ、一誠は臆さず駆け出した。
「さぁ、参ろうか」
揺ったりとしたお蝶の口調と裏腹に、鋭く投擲されるクナイ。黒歌はそれを、猫科動物の動体視力と瞬発力を活かしたステップで躱す。
そのまま距離を詰め、両手に握った双刀···
―カインッ キィンッ―
「ほほ、危ない危ない」
迫り来る刃はしかし、脚甲仕込みの華麗な足技で難無く弾かれる。老齢に達する事で獲た、徹底的に無駄を削いだ効率的な身体操作と、若い活力が合わさり、黒歌の体幹を大きく削った。
普通ならば、このままバックステップで距離を取るだろう。しかし黒歌は下がった右足の踵を地面に打ち付け、逆に左前へと落ちるように踏み込んだ。
―ギャリリンッ―
「ほう?」
追撃を防ぐ為に右肩に担がれた赤葉の長刃を、涼しい顔をしながらまぼろしクナイで受け止め滑らせるお蝶。その口角は僅かに上がっており、面白いものを見たと言いたげである。
「てっきり、後ろに跳び退くと思ったのだがな」
「いや、バクステしたらまぼろし飛ばして来るでしょ」
「フフ、流石は猫魈。勘が良いの」
お蝶は指の間にクナイを挟んだ手を口元に添え、妖しい笑みを浮かべる。その姿はまるで、「そうでなければ詰まらない」と言外に示しているようだ。
「さぁ、て···楽しませて貰うよ、花嫁殿」
「だからまだそんな関係じゃ――――うわっ!?」
頭上の鋼線に飛び乗りながら、お蝶は動揺した黒歌にクナイを投擲。黒歌は何とか避け、頭上を取ったお蝶を恨めしげに見遣る。
「あの距離じゃ、
―キンッ―
小気味良い音を発てて、赤葉を双刃刀に連結。そして空いた左手に、腰に付けていたカービンモデル並みに銃身長の長いフリントロック銃···
そして再度投げ付けられるクナイを跳んで躱し、柱を蹴って再びジャンプする事で高度を稼ぐ。所謂、三角跳びだ。
其処から手足と尻尾をバランサーとして体軸を定め、更に仙術で強化した動体視力も駆使して、お蝶にヴァルキューレの銃口を振り抜いた。
―BANG!―
「ぬぅ!?」
滞り無く滑るように動く銃口から射ち出されるのは、形代を核に黒歌の気を内部機構で練り上げて創られた水銀弾。お蝶は予想外なタイミング、姿勢からの銃撃に驚きはしたものの、銃口の向きから何とか反射的に身を反らし、忍装束の装甲で斜めに受け流す。
されど、気の扱いに長けた黒歌が放った強烈な水銀弾の衝撃によって、お蝶は足場としていた鋼線から叩き落とされた。
一方黒歌は強靭な脚力で既に別の柱へと着地しており、落下するお蝶に向けて赤葉の切っ先を向ける。その落下地点へと狙いを定め、黒歌は全骨格のバネを使って三度跳躍。今度は斜め下に、鋭利な刃を突き出して。
―ザクッ―
「がっ!?」
その切っ先は、過たずお蝶の心臓を貫いた。お蝶は短く呻き崩れ落ちる···と思われた瞬間、何と霞のように掻き消えてしまった。
「やっぱり、幻術···」
そう。これは音の嘘を霧に投影し、受肉させて出来たまぼろし。気配に違和感のあった黒歌は、納得して呟く。すると、頭上から声が響いた。
「フフフ、怖いねぇ。何の躊躇いも無く、心臓を貫くなんて···やるじゃあないか、黒歌殿?」
「まぁね。伊達に逃亡生活してた訳じゃないにゃ」
黒歌が巨大な十一面観音菩薩像の方を振り返ると、傷1つ無いお蝶が何事も無かったかのように佇んでいる。
「さぁ、惑え。我がまぼろしに」
―パキッ―
お蝶のフィンガースナップと共に、足元の霧から刀や鍬、鎌で武装した半透明の人影の群れが現れる。更にお蝶はクナイを握った手を振るい、黄金色の蚕に良く似た蝶の群れを創り出した。
「じゃ、此方も出し惜しまず行くにゃ」
そう言って、黒歌は腰のポーチから小振りなヤツデの葉団扇を取り出す。そしてそれを、露を払うような動作で振り抜いた。
すると、黒歌を中心に小さな旋風が発生する。その風は黒歌の動きを支え、また背中を押す追い風となるだろう。
「さぁ有象無象共、掛かってらっしゃい!こういうのも悪くないにゃ!」
―バキィィンッ!―
黒歌は好戦的に笑みながら追い風を背に受け、加速しながら赤葉を分断した。
「行くぞッ!鬼鹿毛ッ!」
「ヒャルルルルルッ!!」
鬼刑部の呼び掛けに答え、体躯に恵まれた彼の愛馬、鬼鹿毛が嘶く。するとその身体は逆巻く炎に包まれ、瞬く間に肉は蒸発。黒い骨に紅い炎を纏う、地獄の妖馬となった。
数百年に渡り、等活地獄で獄卒として亡者を踏み砕き引き回した鬼鹿毛。結果、その魂魄は地獄に染まったのだ。
「な、何と!?」
思いも寄らぬ鬼鹿毛の変異に、たじろぐ弦一郎。しかし気を取り直し、左手に変形させた専用武器たる弓刀···葦名の弓刀を構え、神器である雷鞭の夕顔を出現させる。
「はァァァァッ!!」
鬼鹿毛を駆り、突撃する鬼刑部。突き出される槍を、弦一郎は防刃仕様の靴で踏み付けて後ろに跳んだ。
同時に矢筒から矢を3本抜き取り、空中で連射する。放った矢は全て甲冑に命中し、鬼刑部の表情を歪めた。
その隙を好機と見た弦一郎は、膝を曲げて着地すると同時に脚のバネを解放。下向きの加速を全て踵から地面に叩き込み、弓刀を刀に変形させながら逆袈裟斬りを放った。
流石にそれにまで当たってやる程、鬼刑部は甘く無い。槍を振るい、迫り来る斬撃を弾き上げる。だがしかし、それすらも弦一郎の想定内であった。
「フッハッ!でぇやッ!」
弾き上げを読んでタイミングを合わせ跳び、其処から身体を捻る。そしてその回転のまま、鋭い2回転斬りを繰り出した。
多少変則的ではあるが、夢の再戦から習得した志狼より逆輸入された巴流奥義、桜舞いである。
「ほう。その歳で、此処まで磨くとは···」
「おぉ、驚いたか?さっきは鬼鹿毛に驚かされたが、どうやら仕返しは上手く行ったようだ。
「···」
「···」
「ボルルルルッ」
2秒程の、気まずい沈黙。それを破ったのは、薄ら寒いとでも言いたげな鬼鹿毛の身震いだった。
「···行くぞ弦一郎!」
「来い!雅孝!(有り難う雅孝)」
盛大に滑った駄洒落を流してくれた刑部に胸の奥で感謝しつつ、迎撃の構えを取る弦一郎。対する刑部は鎌槍の穂先を鬼鹿毛の尻尾に撫で付け、燃え盛る地獄の炎をその刃に移す。その炎を纏った槍で、弦一郎に突きを放った。
―ガキンッ―
「うおっアッツ!?」
「デヤァァァッ!!」
―ガギャンッ!―
「ぅごぁッ!?」
突きを受けつつバックステップし、引き射ちに転じようとする弦一郎。しかしその思惑を、竿の尻に紐を括り付け間合いを延ばした鎌槍での薙ぎ払いが刈り取った。
「どうした弦一郎!我が技、忘れたとは言うまいな!」
「ッ、当たり前だ···少しばかり、ヒヤリとしたがな」
半分嘘である。実は若干記憶が朧気で、今のもかなり危なかったのだ。
「今度は此方から行くぞッ!」
雷鞭の夕顔を延ばし、地面に撃ち込んで巻き取って間合いを詰める。そしてその勢いのまま、弓刀を大きく斬り上げた。
当然のように鎌槍でガードされるが、それを気にせず鋭く切り返す。すると、刃の軌跡を囲うように無数の斬撃が発生。更なる追い撃ちを掛け、継ぎ太刀の一瞬の隙を塗り潰し殺す。
巴流秘伝・渦雲渡り。
「ぬおぉっ!?」
「まだまだッ!」
ラッシュの最後、逆袈裟の斬り上げ。其処から更に弓へと変形し、大きく後ろに跳びながらその滞空時間で3発の矢を放つ。その矢は胸当てと兜に当たるが、1本は切り落とされてしまった。
「それで良い!喰らえッ!」
―ヴォウンッ ガギャンッ!―
「な、何とォ!?」
矢を切り払った隙を突き、弦一郎は鞭の先端を弓の持ち手に括り付け、三日月状の刃として大きく振り抜いた。この一撃で鬼刑部の鎧は大破し、更に雷鞭の夕顔の発電能力により感電させられる。
「ぬぅ、今のはまさか···」
「あぁ。お前の技、少々真似てみた。何せ、弓は斬撃武器だからな!」
「···何を言っているのだ?」
特撮世界でのみ罷り通る常識を語り、鬼刑部を困惑させる弦一郎。しかし悲しいかな。この葦名の弓刀を設計した際、蕪も同じような事を考えていたのだ。故にこの葦名の弓刀は中反りと先反りのミックスのような形であり、かなり反りが深いのが特徴である。
「しかし、1本取られた事は確か。此度は我の敗けだ」
「立ち会い感謝する」
お互いに武器を納め、固く握手する2人。その顔には、満足げな笑みが湛えられていた。
「幾百年振りよな、隻狼」
肩にダマスカス柄の入った大太刀を担ぎ、懐かしげに笑う一心。それに対して、志狼は言葉では答えぬものの、脚を揃えて静かに一礼した。
「カカカッ···言葉は不要、と言う事か···参れ、隻狼」
「···参る」
柔らかな空気が一変。眼を鋭く細め、口をキリリと結ぶ一心。志狼は形代流しで形代を補給し、更に夜叉戮の飴を噛み締める。かなり打たれ弱くはなるものの、その分火力が出るのだ。
―BABABABABABANG!!―
「ぐぉあッ!?」
それが、悪手だった。
一心は懐から取り出した拳銃を6連射し、脆弱になった志狼の体幹と体力を一気に削り取った。
何とかギリギリ落とされはしなかったものの、大きく後ろに押し飛ばされる志狼。その隙、この歴戦の猛者が見逃す筈も無く。
「チィアッ!」
―ザシュッ―
「ごハァッ···!」
一心は一時の納刀から独特の溜めを取り、居合いを一閃。するとその刃は空気を斬り割き、其処から発生した第二の刃、不可視の刃が垂直なギロチンのように志狼を斬り付けた。
葦名無心流秘伝・竜閃。
強烈な初見殺しに見舞われ、志狼は死ぬ。
「おい、隻狼···それは無いじゃろう?」
「···抜かりました」
薬水瓢箪を呷りながら、苦い顔をする志狼。銃の威力も然る事ながら、技のキレが段違いである。
「と言うか、M500など何処で手に入れたのですか。しかも6連射仕様」
「おぉ、これか?カカカッ、良い銃じゃろう。10年程前に、工房の技師が拵えてくれてな。儂の自慢の1丁よ」
そう言って、胸元のホルスターから大口径のリボルバーを取り出す一心。
S&WM500。454カスール弾よりも強力な弾丸を撃てるよう設計された、所謂ロマン砲、ハンドキャノンの類いである。
艶消しの渋い燻銀色のそれには、良く見れば側面に龍が掘り込まれている。枯れ掛けの渋さの中に少し茶目っ気のある、一心に良く似合う銃だった。
しかも本来の装弾数は5発だが、一心のモデルは6連装仕様に改造してあるのだ。
「···気を取り直して···」
志狼は心を落ち着け、楔丸を納刀。息を吐き出し、全身の力を抜く。
「ほう···面白い」
その構えを取る志狼に、一心もニヤリと笑い同じ構えを取った。
「「·····」」
お互いに脱力し、雑念を全て削ぎ落として相手を視る。瞬の探り合いは、唐突に終わりを告げた。
「シッ―――」
―ドゾルルルルッ―
「なっ!?ぐおっ!?」
動いたのは、同時。しかし志狼は楔丸の柄から手をスルリと外し、代わりに手の中に召喚したものを握り潰した。
その手を起点に、真っ黒な虚無が開かれる。そしてその中から飛び出した無数の触手が、抜刀に刹那間に合わなかった一心に襲い掛かった。
秘技・エーブリエタースの先触れ。
完全なる予想外の一撃に、一心は押し飛ばされ跪く。志狼は大忍び刺しの踏み込みを応用して距離を詰め、胸に楔丸を突き刺した。致命の一撃、忍殺である。
「ぐ、ぬぅゥ···クッハハハハハ!!血が、滾って来たわァ!!」
一瞬よろめくものの、確りと地面を踏み締めて持ち直す一心。そして地面に腕を突き立て、鬼刑部と同じ十文字の鎌槍を引きずり出した。
―ビッシャァァァンッ―
「とァッ!」
一心の槍が雷光を纏い、恐ろしい早さで振り抜かれる。その雷は真っ直ぐ志狼に向かうが、それに対する対処法ならば、慣れたものである。
「ハッ!」
大きく跳躍し、楔丸で雷を受ける。其処から体軸を捻り、桜舞いへと派生。放たれた雷を捲き込み打ち返した。
「ぬおッ!?」
打雷の感電で動きを停める一心。好機と見たその隙に、志狼は掌に軟体生物を召喚。ミブ風船を割るように合掌して拝み、右手を空に掲げた。
其処に拡がる、暗黒の宇宙。その中で瞬く綺羅星が、一心に向かって殺到する。
「ぐぬぅ!?ッチェアッ!!」
小爆発を伴う脅威の流れ星を、一心はその爆煙ごと斬り附せる。先程は不発に終わった、世界すらも置き去りにする斬撃の嵐によって。
葦名流秘伝・一心。
(···やはり、増えているか)
それを見た志狼は、一粒の冷や汗を垂らした。前世では精々、納刀後1秒半程だった斬撃の嵐。しかし今し方目の当たりにしたそれは、目算で約3秒。更に斬撃の密度も段違いであり、少なくとも以前の5倍は濃い。
「カッカッカッ!これまた面妖なモノを使うようになったのう隻狼!地獄で延ばしたこの秘伝一心ですら、全ては捌き切れなんだわ!」
「···衝撃波さえ幾つか切り払える方が、可笑しいのです」
「今更何を!儂が人の身で刃を飛ばしてから、もう四、五百年は経っておるじゃろう?少なくとも、4世紀は言うのが遅いわッ!」
―ギャリンッ!―
台詞ごと切り捨てるように放たれる、上段からの強烈な振り下ろし···葦名一文字。志狼はそれを左手に出現させた暗い紫の鉄扇···鳳凰の紫紺傘を開いて受ける。
同時に傘をガリガリと回転し、軸をブレさせて一心の体幹を削った。
「ハッ!」
其処から勢いを殺さず、鉄扇を畳んで楔丸と共に✕の字に斬り付ける。
仕込み傘・放ち斬り。
「ぐぬっ···クカカカカカッ!やはりその鉄扇は厄介じゃのぉ!」
獰猛な笑みを浮かべ、崩れた体勢を建て直す一心。志狼も3歩引いて、崩れ掛けた体幹を整えた。
「お前の本領···見せてみよッ!」
鎌槍と大太刀を携え、何度目かの突撃を掛ける一心。志狼もまた、それに真正面から受けて立つのだった。
―――
――
―
(志狼サイド)
「うンめェ~!」
山盛りご飯の上に乗せた肉を頬張り、正に至福と言った顔で唸るイッセー。
此処は葦名のとある山中。川の畔にある開けた砂利場。其処で1m四方の大きな木炭コンロを囲み、俺達はBBQパーティーをしていた。
「いやーそれにしても、やっぱ梟のおやっさんつえェや!後半なんか何も出来なかったし」
「否!坊主も中々どうして、良い勘をしておるわ。ドライグとの連携も見事であった。あの右腕の武器も良く馴染んで···あぁっ!お蝶!それ儂が育てておった肉じゃぞ!」
「ほほ、何の事やら···うむ、美味美味」
イッセーの事を自慢気に語る義父上の肉を、お蝶殿が幻術でシレッと掠め取る。それを見て、一心様は「あの日の宴会を思い出すのォ」と笑った。恐らく、お蝶殿が極上の地酒、竜泉を掠め取ろうとしたと言う時の事だろう。
「弦一郎、この赤身良い具合に育ったぞ」
「おぉ、忝ない」
弦ちゃんは刑部と仲良く談笑しながら、焼けた肉を少しずつ食べていた。どうやら脂っこいものは余り得意で無いらしく、3対2ぐらいの割合で野菜を多めに食べているようだ。
「ほれ花嫁殿。たんと食って、精を付けられよ。肝も心臓も腸も、新鮮な今、味わわねば損と言うものよ」
「ちょ、もうお皿に山盛りだから!食べるからちょっと待って!」
黒歌はお蝶殿に次々と肉を追加されている。ああ見えて、お蝶殿は割と世話焼き好きなタイプだ。俺も子供の頃、良く飯を作って貰った。
あと、黒歌をからかっているのもお蝶殿なりの愛情表現だったりする。さながら目の前でヒラヒラと舞い、人を惑わして遊ぶ蝶のようだ。
「久々だねぇ、こんなに良い肉は」
そう言って肉をパクパクと食う、灰と黒の斑髪の美女。彼女は義父上のフクロウで、名は
「···こう言った事は、良くするのですか?」
「ん?あぁ。非番を取って、集まり騒ぐ。儂らにとっては、良くある事じゃな。まぁ、月に2、3回と言う所か···ッくぁ~!旨いッ!」
そう言って、ホルモン串を齧りながら缶ビールを呷る一心様。何と言うか、凄く似合っている。
因みにだが、この肉は全て此処にいる人員で調達した猪や鹿の肉だ。ご飯は言わずもがな、変若の御子のお米である。
「おーぅい、シロのボ~ン!」
と、離れた所から声が。見ると、天猫殿がレジ袋片手に、此方に手を振っていた。
「ミコ様から、何やおもろそうな事しとるって聞いてな!飛び入り参加や!沢の海老やらツマミやら、他にも色々買うてきたで~!」
「おっ、でかしたぞ天猫よ!」
ツマミと言う単語に、いの一番に反応する一心様。天猫殿は手に持っていた袋を渡し、此方に駆け寄ってくる。
「ボン、例の神さんの居所やけど···だーいたい絞れたで」
「!」
その報告は、俺が長年求めていたもの。遂に目星が付いたか。
「場所は、太平洋側の孤島。可笑しな土着信仰に、結滞な神さんが面白半分で介入した···ってな具合やろな。神さん居らんでも、何や関連あるもんぐらい見付かるやろ」
成る程。奴の好きそうな事だな。
「ま、捜索については後日って事で。今日は楽しもうや!ジュースも買うてきたで!」
そう言って、天猫殿はコップを渡して来る。
まぁ、この面子での貴重な宴会だ。楽しんでも、罸は当たるまい。そう思いながら、俺は喉を潤すべく、天猫殿にコップを差し出した。
「うぅ~ん···ひゅっく···」
「うわっ、こんなデカいのに焼酎一杯でベロベロ!?だ、大丈夫かよおやっさん!?」
「おやおや全く、みっともないね酔っ払いが。子供に心配されてどうするのやら」
「カハハハハハ!相も変わらずすーぐ真っ赤になりよる癖に、毎度辛い酒を飲みおるわ!」
「じゃ、ウチは帰るから。じゃあね」
「お、おぉいうろはぁ~、待ってくれ~ぇい···」
···潰れて介抱されてる情けない義父上は、見なかった事にしよう···
to be continued・・・
~キャラクター紹介~
葦原志狼
えげつない初見殺しに逢った戦国忍者。
義手忍具は紫紺傘。しかし結局負けた。流石に進化したラスボスを初見クリアとは行かなかったらしい。
今回、エーブリエタースの先触れと彼方への呼び掛けを使用した。モーションはBloodborneよりも隙が無く、また仏教的なアレンジも加えられている。
天猫からの報告で、今後の予定が確定した模様。
葦名一心
戦国最強お爺ちゃん。人類に生まれ落ちたバグ。
文字通り地獄の鍛練によって、剣のキレは数倍にまで高まっている。
国盗りを成し、猩々の修羅化を一時的にとは言え防いだ事から減刑され、現在は地獄の警察機関の特別講師として指導を行っている。
葦名の酒をこよなく愛するが、同じぐらい現代の安酒も好き。ビールとか。
因みに、最近は漫画本集めにも嵌まっている模様。ヤバい予感しかしない。
葦斑弦一郎
成長性Aな弦ちゃん。
志狼から逆輸入された桜舞いをマスターし、多少変則的な所からでも繋げられるようになった。
雷鞭の夕顔と葦名の弓刀を組み合わせた薙ぎ払いは、下段攻撃扱いである。
駄洒落が少し好きなようだが、ウケは良くない。
肉ばかりは食べず、野菜とバランス良く食べるタイプ。焼き肉の食べ放題には向かない。
鬼庭刑部雅孝
マ゛ァイネ゛ェェムイズ!ギョウブゥマ゛サタッカァオ゛ニワ゛ァ!!
元弦ちゃんの教育係。
本人は其処まで強化されていないが、愛馬鬼鹿毛がヤバい事になってる。イメージはゴーストライダーのヘルホース。
鬼鹿毛の火を武器に纏わせ、ブラボの発火ヤスリのような炎エンチャが出来る。
元山賊の親分且つ弦一郎の教育係だった為、面倒見が良い。肉奉行、鍋奉行に向いている。
兵藤一誠
全盛期の梟相手に良いとこまで行った原作主人公。
ドライグが死角をカバーしサポートしてくれたお陰で、何とか善戦出来た。
戦法はヤーナム狩人+見切り等の忍の体術。原作で言うドラゴンショットをガンパリィに使う。
梟
全盛期以上の動きが出来る大忍び。大体心中梟と同スペックの戦力。
今回の1件で、かなりイッセーを気に入った。孫みたいな存在になる事だろう。
酒が弱く、直ぐ真っ赤になる。そして酔うと途端に情けない姿を晒す。
虚羽には、原作の天守閣戦時点で愛想を尽かされている。
虚羽
梟の元ペット。現在は地獄の警察機関の特殊部隊で働いている。
梟に対しては愛想を尽かしており、今回は肉に釣られて渋々従ってただけ。
フクロウなだけあってかなりのモデル体形であり、また原種が大型であった為、身長も180cm以上とかなり大柄。
その無駄無く引き締まった筋肉と、割と大きめな胸や尻、そしてキリッとした顔立ちから男女共に凄くモテる。仕事服にしているボディラインの出る忍者装束もその一因なのだろう。翼を出す為に背中が大きく空いたデザインである。
イメージは、けものフレンズのコノハ博士を色っぽく成長させ、眼を少し鋭い吊り眼にした感じ。
黒歌
マリア様スタイルな猫魈お姉ちゃん。
専用武器である赤葉は、マリア様と同じ音が鳴る素敵仕様である。
実は赤葉の分離音、お蝶のまぼろしを消すに足る音量がある為、後半戦は割と簡単だった。最終的に決着は着かなかったが、体術や搦め手も中々のモノとお蝶に褒められ終了。
以降お蝶殿に気に入られ、可愛がられている。
お蝶
志狼の体術の師匠。まぼろしの使い手。
黒歌の事が気に入ったので、ちょいちょい世話を焼く事になる。因みにこの世話焼き好きはオリジナル要素。狼を育てたなら、少なからず母性的な側面もあったんじゃないかな~···と言う妄想が溢れた結果がコレ。
若返った姿をしているのは、その方が色々とお得だからである。この辺の根性は蝶と言うより寧ろ女狐···おっと誰か来たようだ。
黒沢天猫
日本神話お抱えの現代陰陽師。オーパーツやアーティファクトの出所の調査をしている。
今回彼女がもたらした情報は、志狼達に新たなる神秘との邂逅を与えるだろう。
~武器・アイテム紹介~
・エーブリエタースの先触れ(形代消費1)
上位者先触れである、軟体動物の一種。
志狼が手にした、異形の神秘。形代を消費し、暗黒空間から棄てられた上位者の一部を召喚する。
これを使うと、志狼の耳には何処からか、啜り泣くような声が聞こえると言う。哀れな娘の、助けを呼ぶ泣き声が。
それに耳を傾け、また胸を痛めるからこそ、この秘技は志狼の意思に応えるのだろうか。
・彼方への呼び掛け(形代消費7(志狼は信心スキルによって5に軽減))
上位者先触れである、軟体動物の一種。
志狼が手にした、異形の神秘。形代を消費し、暗黒の宇宙から小爆発を起こす星の群れを召喚する。
これを持って合掌し、天に掲げて呼び掛ければ、虚空から神秘は降って来る。或いはそれは、哀れな美しき娘が望み、そして得られなかったモノの名残であろうか。
・パイルハンマー(イッセー仕様)
筋力補正S
技術補正B
神秘補正C
地獄の工房の変態技師、蕪の手になる仕掛け武器。
圧倒的な一撃と、使い手に要求する技量の高さ、つまりは浪漫に武器の魅力を見出だした彼が手掛けた、第一号の武器である。
隙が大きく、扱いが難しい。しかしそれこそが、彼の求めた物である。
彼は何時も呟く。「詰まらない武器が、優れた武器になる訳が無いんだ」と。
材料に老朽化した地獄の釜や人斬り包丁、金棒を鋳溶かし合わせた地獄の鋼が使われており、他に類を見ない頑強さを持つ。
また亡者を蒸かし、沸かし。切り裂き、潰し殺して来たその素材には、ある種の神秘、地獄の怨念が宿る。
鏃に刻まれた特殊な呪紋は、その力を引き出す回路であり、肉体を持たぬ魂のみの存在にも有効打を与え得るだろう。
・赤葉
技術補正S
神秘補正B
地獄の工房が、黒歌の為に造った双刃刀。その刀剣は仕掛けにより2つに別れ、素早い連撃を繰り出す。
地獄の鋼を焦熱の獄炎で鍛えたその刃は、霊的な力を良く通す。故に仙術使いの黒歌には、この上無い武器だろう。
工房の変態が介入した事で、分断する際に大きな音が鳴る。それは図らずとも、幻術への見事な対抗手段となった。
・ヴァルキューレ
神秘補正S
血質補正A
地獄の工房が手掛けた銃。形代を触媒に持ち主の性質に合わせた銃弾を創り出す優れもの。なので、弾込めの必要が無い。
黒歌が握れば、金気を練り上げ水銀弾を生成する。奇しくもその様は、嘗てとある地で獣を狩った、月の上位者の戦士達のようである。
・小さな羽団扇(形代消費5)
天狗の持つ、様々の神通力を宿した団扇。それを限定的に再現し、扱いやすく縮小化したもの。
振るう事で追い風を起こし、ステップやジャンプ、ローリングを加速する。
本来、天狗はこの葉に己の羽を編み付ける事で神通力の幅を広げる。だが地獄の鬼の変人は、直接の攻撃力よりも副次的な補助としての使い方を見出だした。則ち木行の疾風を纏い、己の脚の出を速めるのだ。文字通り、神風の如く。
・葦名の弓刀
筋力補正C
技術補正S
神秘補正B
弓の名手たる弦一郎の為に、工房が造った専用の仕掛け武器。
地獄鋼と地上の軽合金を鋳溶かし混ぜ合わせたその刃は、仕掛けにより大弓に転じる。
中反りと先反りを合わせた、かなり反りが深い刀身は、回転を多用する巴流と相性が良く、また変形後も鋭い双刃刀として振るう事が出来る。
彼の変態は言った。「斬撃と射撃。それを両立して初めて、本物の弓と言えるのだ」と。
基本的に、地獄で造られた武器は神秘補正が馬鹿高いです。