ハイスクールSEKIRO   作:エターナルドーパント

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↑参考資料、シード兄貴のサイト


第10話 扁桃の監視者、星の娘

(志狼サイド)

 

「・・・着いたか」

船に揺られて数時間。前に進む縦揺れから、停泊中の横揺れに変わった。仮眠から目を醒まし、他の仲間の身体を揺する。

「ん・・・シロー、もう着いたのか?」

「うにゃぁん・・・」

「うぅん・・・ウゥッ・・・」

イッセーと黒歌は、伸びをしながら身体を起こした。しかし、弦ちゃんは未だに寝床に寝そべり、頭に手を当てて唸っている。

「・・・大丈夫か、弦ちゃん」

「これが・・・・大丈夫に・・・見え、る・・・うぅっ・・・」

青い顔をして、中々起きられない様子の弦ちゃん。どうやら船に酔いやすいタイプだったらしく、行きしなに胃の中のものは全て吐いてしまっていた。

故に船長から渡された酔い止めを飲み、さっさと寝てしまったのだ。

「おぉ、君らも起きたか。大丈夫かね、弦一郎君?」

「相変わらず、酷い・・・」

「あー、何べんか乗ったら慣れるさかい、それまで我慢するしかあらへんなぁ」

仮眠室の扉を開け、翼を隠したバラキエル殿と天猫殿が入って来る。初任務となる今回、流石に中学2年生の俺達や1つ上の黒歌だけでは不味いだろうと、日本神話が護衛に付けてくれたのだ。

曰く、神は人の世に余り干渉出来ないが、人と子を成したバラキエル殿ならば、子供との関係上、ある程度の人間界への干渉も出来るらしい。

また、この島は空間に異常があり上手く接続出来ないと沙羅殿、更紗殿は言っていた。故に、俺達は船で海を渡ると言う方法で現場に向かっているのだ。

「しかし、何ともまぁ不気味な所だ」

船・・・小型漁船の甲板に上がり、バラキエル殿が呟く。

前方にあるのは、霧に覆われ水に半ば浸かった、舟屋のような構造の家々・・・の、()()。柱は折れ曲がり、天井は崩れ掛け、あちこちに不規則なフジツボの群れが張り付いていた。

船を降り、張り出した堤防のような所に降りると、何とも言い難い、生臭い腐臭のような異臭が漂って来る。

「・・・()()、か」

鼻を覆いつつ口から溢れる、小さな独り言。

漁村・・・この場合のそれが指すのは一般の漁村では無く、BloodborneのDLC(ダウンロードコンテンツ)古き狩人達(The old Hunters)の最終エリアの事である。

元ネタはクトゥルフ神話のインスマスであり、半魚人の魚要素を抜いて代わりにシュールストレミングで補ったような敵、ディープワンズが登場するのだ。

「うげぇ、まるでインスマスだ···」

「いん···?何だそれは」

イッセーはクトゥルフ神話を知っているので、真っ先に連想したようだ。逆に、他はそれ程クトゥルフ神話に詳しくは無いらしい。

「総員、武器は振るえるようにしておけ。何が来るか分からん」

バラキエル殿の指示に従い、俺は楔丸を抜刀。他もそれに習い、各々の武器を握った。

 

「よっと」

―ガキンッ!―

【BOOSTED·GEAR!】

 

イッセーの方から、赤龍帝の籠手の声と大きな変形音が響く。それを発したのは、手に握られた2つ目の専用武器。

反った長柄の先端に、陽炎を纏って真っ赤に燃える炉と撃鉄を備えた巨大な鉄鎚が付いた大型のバトルハンマー···地獄工房の最初の仕掛け武器、爆発金槌である。

やはりイッセーは火薬庫の武器と相性が良いようだ。

 

―カチャッパキィンッ―

「よくそんな重たいもの持てるわね···流石の私もそれはちょっとしんどいにゃ」

 

そう言って黒歌は、大振りなダガーを2枚の歪んだナイフに分断する。

赤葉にも似たギミックと変形音のこの仕掛け武器は、《影の刃》と名付けられたものだ。

副武装として新しい武器を使い始めた2人は、今回戦闘になればこれを使う積もりである。

因みに、天猫殿は船で留守番だ。直接的な戦闘力に乏しい故に、帰還手段の防衛に専念して貰う。

『気を付けろ相棒。可笑しな気配がする。黒歌も気付いているだろう?』

「うん。何かジメジメした、イヤ~な気配だにゃ···」

顔をしかめつつ、払うように影の刃を振るう黒歌。良く見れば、尻尾の毛がブワリと膨らんでいる。余程不快なのだろう。

「よし、行くとしよう」

バラキエル殿と俺が先導し、黒歌が中央で警戒。後方は弓刀を構えた弦ちゃんが気を配ると言う陣形で、少しずつ前進する。

(・・・そうだ)

進むに連れて、明らかに濃くなっていく異様な気配。そして、ねっとりと身体に絡み付くような、視線のような意識を向けられている感覚···

ふと、周囲を五行界眼で視てみる。

「ぬぅっ!?」

俺が視たのは、原型がかなり残っている2階建ての家。その屋根の上に、()()は佇んでいた。

 

身体を覆う、青黒くも灰色にも見える肌。

背骨と肋骨だけのような、有り得ない程に細い胴体。

同じく筋肉と呼べるものがまるで付いていないように見える、不気味なまでにガリガリな脚。

右に4本、左に3本。合計7本ある、肘に当たる関節を2つも備えた6本指の長い腕。

そして、アーモンドの上からアミガサタケの網を被せて硬い毛を生やしたような、奇怪な頭部。

それらを持つ、異常な風貌の巨人のような何か。

俺は、それを、知っている。

 

「アメン、ドーズ···!」

アメンドーズ···Bloodborneに登場する、上位者の一種。名の意味は、アーモンドの日本語方言、あめんどうの複数形である。英名には、脳の中に存在するアーモンド型の神経の塊、扁桃体の意味を持つアメンダーラが当てられている。

『···!』

俺が名を呟いた瞬間、アメンドーズはグルリと此方に顔を向けた。そしてそのまま、じっと見つめるようにフリーズする。

「ん?志狼君、どうかしたか?」

ポンと肩を叩いてくるバラキエル殿。振り返れば、他の仲間達も心配そうな顔をしている。恐らく、俺が急に脚を止めて声を上げたからだろう。

そして、分かった事もある。イッセーや弦ちゃんは兎も角、人外側の存在であるバラキエル殿、特に気配等に敏感である筈の黒歌にさえ、アメンドーズの姿は見えていないと言う事だ。

「総員、此処を動くな。暫し、考える時間をくれ」

「え?」

「志狼、何か視えたの?」

「あぁ」

黒歌の問いに短く答えつつ、俺は頭を回す。

このアメンドーズは、どうやら俺達を攻撃するつもりは無いらしい。じっと見詰めてくるだけで、大して危害を加えてくるような素振りも無いからだ。敵意の類いは無いのだろう。少なくとも、今の所は···

次に、名前に反応した点。それは即ち、その名前で呼ばれた事があると言う証明に他ならない。上位種族に呼ばれたか、それとも下級種族からそう呼ばれ奉仕されたかは定かでは無いが。

後は···

「此処にいる意味、か」

アメンドーズの名前の元ネタ、アーモンドを意味するヘブライ語のシェイケディームは、《監視》や《目覚め》を意味する《シャカッ》や《サクダ》と語源を同じとする。つまり、単純に考えるならば何かを監視している、もしくは目覚めを待っている、と言った所か。そして、Bloodborneでは、隠し街ヤハグルにて、メンシス学派の儀式に呼び寄せられた多数のアメンドーズが見られた。ならば、やはり此処でも何らかの儀式を行っていると言う事か?

「···嫌な予感がする」

うむ。非常に良くない予感がする。先を急いだ方が良いか。しかし、行くとしても何処へ···?

「···む?ぬおっ!?」

俯いていた顔を再び上げると、何時の間にかアメンドーズが顔をズイッと此方に寄せて来ていた。些か心臓に悪い···ん?

「彼方へ、行けと?」

アメンドーズは、7本ある長い腕の内の1本をまっすぐ伸ばし、一方向を指差していた。そして驚くべき事に、呟くような俺の問いに、ゆっくりと頷くような動作さえして見せる。

其処に、少なくとも俺達を陥れようとするような悪意は感じなかった。

「···分かった。よし、此方に進もう」

「散々1人で考え込んで、急にどうした?」

「何かいんのかよ、シロー?」

「···言った所で、理解し難いだろうが···不可視の上位者···神のような存在が、その民家の屋根に居る」

「「「はぁ!?」」」「ウソでしょ!?」

皆はアメンドーズのいる方を見るが、やはり眼には映らないらしい。

「名はアメンドーズ。悪意は無さそうだ。

そして、此方に行けと指差した。他に手掛かりも無い」

皆は怪訝そうな顔をするが、まぁ仕方無いだろう。寧ろ、直ぐに正気の心配をされないだけ大分マシか。

「···まぁ、シローが言うなら従うぜ」

「イッセー···」

と、真っ先に脚を進め始めたのはイッセーだ。

『相棒、俺は正直疑わしいと思うぞ?確かにここは可笑しな気配に包まれてこそいるが、そんなものがいれば確実に俺が気付く』

「つってもなぁ。確かシローの神器って、()()()()()()()()()()()()()()()()を見抜けるんだろ?そんな特別な神器持ってりゃ、俺らに全く判らねぇ何かが見えてもおかしくねぇ。

それに、そもそもドライグ。お前みたいなのが、実際に居るんだぜ?だったらそんな奴がいねぇって言い切るなんて、ほぼ無理だろ。見えないからって、いないってのとは結び付かねぇよ。えーっと、何だっけ?あれだ。あのー、しゅー、しゅー···シュレッダーの猫?」

「シュレディンガーだ」

「そーそ!それそれ!」

やはりイッセーは発想が柔軟だな。しかし、シュレディンガーの猫か。中々に良い例えだ。

見えていない場所の可能性は、実際に見るまで証明のしようが無い。実際、心霊は普通の人間には見えない。上位者だって、普通の人間からは認識の位相がズレて···ん?そう言えば、何故悪夢の中に生きるアメンドーズがこの次元に···次元?

「···!この霧、空間を滲ませる結界の類いか!」

そうか、そう言う事か。繋がったかも知れない。

もしそれならば、何とか説明は付く。悪夢と言う無意識の次元に潜む上位者たるアメンドーズが、今此処にいる事も。フロムの世界を知る俺が、それを次元越しに認識出来る事も。

実際、ダークソウルでは始まりの火、太陽の光が消えてしまったにも関わらず、確か100年以上も世界が明るいままだったと言う描写があった。そしてそれが何故かと言えば、始まりの火から派生した並行世界の太陽の光が、次元の壁を超越して世界に降り注いでいたから、だったらしい。他にも、Bloodborneでは音が次元を越えると明言されていたりもする。

要するに、ソウルボーンシリーズでは、光や音等の感覚に情報を伝える要素が時空を越える事が、往々にしてあるのだ。SEKIROでは逆に、鈴の音を使って未確定の過去を選択したりしていたが。

また、アメンドーズが此方を認識出来ている事からも、アメンドーズのいる次元と俺達のいる次元の境界が曖昧になっていると言う事は明らかだ。そして、ダークソウルやSEKIROに於いては、次元や空間がずれている所には霧が掛かる。場所によって方位が歪む仙峯寺でも、その歪む場所から出入りすると外の景色に急に霧が掛かったりしたものだ。

結論として、この霧は時空に作用する何らかの結界の類いである。故に沙羅殿、更紗殿が干渉出来なかったのだ。

 

「グォオォォォォォ!!」「死ネェェェェェッ!!」

 

「ッ!」

「何かが戦っているな、注意しろよ」

荒々しい叫び声と、木や鉄がぶつかり合う音。それも1対1でなく、不特定多数同士だ。

「物陰で待っていろ。バラキエル殿はこれを噛み締めて、同行してくれ」

「分かった!」

俺が渡した月隠(がちいん)の飴を口に放り込み、存在を稀薄にして飛び立つバラキエル殿。俺も同じく月隠の飴を噛み、屋根に鍵縄を放つ。

その民家を越えた向かいの、広場のような所で、その戦いは起こっていた。

「なっ、何だアイツらは!?」

その光景に、バラキエル殿は息を呑んだ。しかし、それも仕方無いだろう。何せ、下で殺し合っている連中の容貌が、明らかに異常で、余りにも冒涜的だったからだ。

其処では、2種類の異形が殺し合っていた。一方は、居るだろうと半ば思っていたディープワンズ。それらは銛や鉈で武装している。しかし、それと殺し合っているもう一方が問題だった。

 

「言ノ葉モ忘レシ、エ損ナィガァァァ!」

「此処既ニ、我ラノモノナリ!足踏ミナ入レソ!」

ぬめった皮膚に、骨が無いようなグネグネした2対4本の腕。

股はあるものの、太くぶよぶよと膨れて蛞蝓の腹のようになった下半身。

ディープワンズに比べて妙に人の特徴を残した顔の付いたその頭には、髪が変質したであろう触手が生えている。

何処か宮の貴族共にも似たソイツらは、言うなれば蛞蝓人間、と言った所か。

奴らはやたら古い言い回しの言葉で叫びながら、奥の崖に在る洞窟から次々と出てくる。どうやら此処は蛞蝓人間の拠点であり、ディープワンズが襲撃者のようだ。

「志狼君ッ!コイツらは一体···少なくとも、俺は見た事が無いぞ!?」

「少し、時間を···」

再びフロム脳を回転させ、考察に入る。

まず、ディープワンズ。あれはBloodborneにも出てきたので、まだ判りやすい。だが、あの蛞蝓人間共は見当も付かない。

まず蛞蝓と人間と言えば、漁村にいた養殖人貝(ようしょくじんばい)が殻を脱ぎ捨てた姿、蛞蝓女(スネイルウーマン)を思い出すが、コイツらは全く違う。

まず、コイツらは蛞蝓女と違い、人間的な要素と軟体生物の要素が共存していない。蛞蝓女は全身の表面が等しく真っ白で粘膜質、尚且つシルエットや顔の形も整っていたのに対し、此方の蛞蝓人間共は中途半端に二足歩行の名残が在りつつ、皮膚は表皮質と粘膜質が斑に入り乱れている。

一方、漁村の蛞蝓にゴースの寄生虫を宿した養殖人貝は、そもそもが宿主同士で似通った生き物であった故に上手く苗床と化し、元となった蛞蝓要素と上位者ゴースの《ヒト型の腕・胴体・頭》と言う形質が共存したのだ。

詰り、あの蛞蝓人間は元は人で、寄生虫によって変異しかけている種族と言う事だ。

そして、その形質が見えている以上、五行界眼が通りやすい。無理矢理こじつける必要が無い訳だ。

パッと視ただけで、ディープワンズは木行、蛞蝓人間は水行と分かる。

「バラキエル殿。魚には光が、蛞蝓には雷が有効だ。襲われた時の参考に」

「うむ、分かった」

「そして、奴らは確実に何らかの上位者の肉体の欠片等を使い、実験をしている。恐らく、あの洞窟の中だ」

「そんな事まで分かるのか?一体、どれだけの知識を持っているんだ?」

「···すみませぬが、明かせませぬ」

軽く詫びながら屋根から飛び降り、イッセー達と合流する。

「シロー、どうだった?」

「腐った半魚人と蛞蝓人間の抗争だ。イッセー、副武装に雷光槍を出しておけ。弦ちゃんも同じく。半魚人は木行、蛞蝓人間は水行だ。

黒歌は、水銀弾を撃つならなるべく半魚人を狙え。

目標は、奥にある崖の洞窟。奥まで駆け抜けるぞ」

「あいよ!」「分かったにゃ」「承知した」

襲われなければ放置で良いが、恐らくそう上手くは行くまい。此処は隔絶された孤島と言う閉鎖空間。こう言った環境では、自然と集落は排他的になるものだ。故に、此方は完全武装で行く。

「よし···行くぞ!」

俺の合図と共に、それぞれが一斉に駆け出した。

 

(NOサイド)

 

「ル゛ワ゛ァァァァッ!!」「ォアァァアアアアアアッ!!」

物陰から飛び出した志狼達を見るなり、一斉に襲い掛かるディープワンやスネイルマン。志狼の読み通り、彼らはかなり排他的な性格のようだ。

「フッ」

 

―カンッ ジャクッ―

 

志狼は喉奥が泡立っているような叫びと共に突き出された銛を見切り踏みつけ、カウンターで心臓を貫きディープワンの1体を倒す。そしてそのまま形代を7つ消費し、死んだ敵の血を楔丸に纏わせた。

忍殺忍術・血刀の術。

其処から更に渦雲渡りを繰り出し、周囲の敵を圧倒的なリーチでもって蹂躙する。

 

「フンッ!」

―BANG! ゴジュボッ―

 

銛で突いてくるディープワンに対し、ヴァルキューレの水銀弾でガンパリィを取る黒歌。そして影の刃を腰のホルスターに仕舞い、体勢を崩したその脇腹に、指先が鋭い鉤爪になった籠手を嵌めた右手を突き入れる。それと同時に、籠手に刻まれた呪紋が発動。肉食動物が縄張りのマーキングに付ける引っ掻き跡のような呪紋···《爪痕》のカレルが効果を発揮し、更に敵の内臓を引っ掻き回す。

「でやッ!」

 

―ブチブチッブシャァァァッ!―

 

更に、腕を振り抜くように引き抜き、内臓を引き摺り出した。

狩人の(くら)い一面、内臓攻撃。これを喰らって、まともに生きていられるモノはそう居ない。

 

―カチャッパキィンッ―

 

「そんなもっさりした動きじゃ、私は狩れないにゃ!」

其処から素早くヴァルキューレを仕舞い、影の刃を分断。隙ありと近付いて来たスネイルマンの攻撃をステップで躱し、左右から刃で挟み込むようなステップ攻撃を繰り出す。

そして、周囲に群がる敵に対し、無差別に素早い連撃を叩き込んだ。

「猫の素早さ、嘗めんじゃないわよ」

 

「ウッリャアッ!!」

―ボガァァンッ!バキンッ―

 

前方の敵に、火の灯った爆発金槌を振り下ろすイッセー。その重打は炎を迸らせる爆発を伴って敵を叩き潰し、更に其処から金槌を突き出して変形攻撃に派生。再び小炉に火を灯した。

「オォらよッ!」

 

―ヴォアォォォウッ!―

 

直後に四方から襲い掛かる敵。イッセーは落ち着いて利き足を踏ん張り、爆発金槌を思いっ切り振り回す。

炎の軌跡は円を描き、周囲の敵を叩き飛ばした。

「へっへーん、どんなもんよ!」

『流石は相棒だ』

地獄仕込みで鍛えた故に、グロテスクは見馴れたもの。故に、イッセーの動きには淀みが無い。

 

「フッ、ハッ!」「ぜぇいッ!」

弓兵の弦一郎が敵を射貫き、近付くモノはバラキエルが潰す。雷を使う者同士、気配を感じ合っての連携だ。

「狼ッ!行くぞッ!」

「承知」

「デェヤァァァッ!」

 

―ビッシャァァンッ!!ビッシャァァンッ!!―

 

弦一郎が放った雷を、志狼が返す。その二重攻撃は、広範囲の敵を瞬時に丸焦げにした。

「雷が、通るか···」

スネイルマンにも雷が効いた事を確認し、志狼は戦いながら頭を回す。

(ゴースの寄生虫を宿す蛞蝓女は、雷光への絶対耐性があった。ゴースの固有能力が、雷を操るモノだったからだろう。しかし、この蛞蝓人間共には雷が効いた。詰りコイツらに宿っているのは、ゴース由来の力ではない。

ならば、力の源であろう上位者も、自ずと絞れる。最も、それがBloodborneの作中に登場した上位者ならば、だが···)

「···大方、片付いたな。よし、前進する」

この件に関わる上位者を推理しつつ、志狼達は地上の敵を殲滅。洞窟の中へと、脚を進めた。

 

(志狼サイド)

 

漁村の薄暗い洞窟の中を、俺達は進む。所々にある蒼白い明かりは、どうやら奇妙な軟体生物が発している光らしい。

「うわ、気持ち悪いにゃぁ···」

不快そうな表情を隠そうともしない黒歌。耳は真後ろに伏せられており、尻尾は大きく左右に揺れている。確か、どちらもイライラしたりしている時の反応だった筈だ。

前方から湧き出してきたり、天井で待ち伏せしている蛞蝓人間共を相手しながら進めば、まぁ苛立ちもするだろう。

それはさておき···壁の軟体生物が放つ、()()()()。これもまた、相手の系譜を知る重要な手掛かりである。

蒼白い光は神秘の月光。そしてBloodborneに於いては、月光を司る上位者は《姿なきオドン》である。であるならば、この軟体生物はオドン、もしくはそれに連なる上位者の影響を受けていると言う事になるだろう。

此処まで来れば、最早ほぼ決まったも同然だ。

その確信を更に確固たるモノにする為、俺は竜胤の業からソレを取り出す。

薄井の森で、悪魔達から没収した軟体生物の片割れである、大きなエメラルドグリーンの蛞蝓···エーブリエタースの先触れ。

普段からボンヤリとした光を放っているこいつだが、此処ではハッキリと強く光り、脈動している。

「間違い無い、か」

であれば、俺達のすべき事は決まっている。この最奥に居るであろう、哀れな娘を保護する事だ。

「にしてもここ、意外とシンプルな造りだな。殆ど一本道と階段だけだし、偶にある分かれ道っぽいのも全部部屋ばっかりだ」

「そうだな」

イッセーの言う通り、この洞窟はかなり単純な構造だ。何度か階段こそあったものの、迷うような要素はほぼほぼ無いと言って良い。大抵のフロムゲーは、ノーマップで迷いながら道を覚えるモノだと言うのに···まぁ、何事も無いに超した事は···

 

―カチッ―

 

「···カチ?」

「あれ、俺?」

足元から聞こえた、僅かなスイッチ音。自覚があったのか、イッセーが頬をひきつらせる。

フロム、洞窟、一本道。何も起こらぬ筈が無い。そしてこう言う真っ直ぐな道のお決まりと言えば···

 

―ドゴンッ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ―

 

「「大岩トラップゥゥゥ!!!?」」

 

そう、これだ。前方から巨大な丸い岩が転がって来る。こう言うダンジョン系ステージの定番である。

「飛び込めェェェェェ!!」

後ろにあった部屋の入り口まで全力疾走し、何とか飛び込み遣り過ごす。大岩の向かった先から何かが潰れる音と断末魔のようなものが響いた気がしたが、気にしないようにしよう。

「あーこっわ!何であんなトラップがあるんだよ···」

「心臓が口から飛び出すかと思ったわ···」

「同感だにゃ···」

息を切らしながら悪態を吐く仲間達。俺もまさか現実で大岩転がしを見る事になるとは思わなんだ。

「っと、そう言やぁ···何だこの部屋?」

イッセーの呟きに釣られて、俺は部屋の中を見渡す。

部屋の奥に、風呂のような大きさの岩石をくり貫いた生け簀のようなもの。綺麗に削っていたであろう表面には、かすかに鍾乳石が固着しており、少し凸凹している。

所々剥がれているが、其処を見る限り···厚みは、5ミリ強、と言った所か。

鍾乳石は、大体1ミリ10年と言われている。ならば、此処は少なくとも50年前にはこの形で、何らかの実験が行われていたと言う事だろう。だが、このプールは空っぽ。しかも内側は苔生(こけむ)しており、相当な時間放置されていたであろう事は想像に難くない。

「この形···明らかに、水を貯める用だよな。風呂みたいな水抜き穴もあるし」

「壁に軟体生物が張り付いていた事から、軟体生物の養殖槽では無いだろう。ならば···先程のディープワンを見るならば、魚、か?」

「うーん···分かんね。シロー、頼む」

「言われずとも、考えている」

仮に、此処を魚の養殖場としよう。ならば、何故こんな所で養殖していたのか。

普通の食養魚ならば、海に木枠と網の生け簀を作った方が簡単だ。食用では無い。そしてこの場所である事から考えて、何らかの実験動物を養殖していたと考えるのが自然。

そして、其処で一定の成果を得た結果、あのディープワン達は生まれたのではないか?

生け簀···育てる···此処は上位者、見棄てられた娘の影響の強い場所だ。軟体生物は影響を受け輝いた。ならば、魚も変異したのか。

何によって?···上位者の、寄生虫によってだろう···繋がった!

「精霊の、中間宿主の養殖場!」

「おっ、何か分かったっぽいな!」

「あぁ、恐らくな。

此処では、魚を生け簀で養殖していた。餌に使ったのは、恐らく壁に付いていた光る軟体生物だろう。それによって、魚の体内に精霊···神秘の寄生虫を宿し、それを村の民が喰う。この中間宿主の養殖の為に、此処は作られたんじゃないか?」

「またぶっ飛んでんなぁ···」

「それならば、この島の民に軟体動物型と魚型が居る理由も説明が付く。

恐らくこの島の民は、自分達で上位者、神になろうとして実験をしていた。その中で、2つの派閥に分裂したのだろう。

1つは、上位者の影響で光を宿した軟体生物を、直接喰う事で取り込む派閥。仮に直接派としよう」

「えっ、あの蛞蝓みたいなの食べてたって事···?」

鳥肌を立てる黒歌を余所に、考察を続ける。

「もう一方は、軟体生物を一度魚に喰わせ、その魚を喰う事で自身を変化させようとした派閥。言うなれば間接派だ」

実際、軟体生物は水行。木行の魚の餌になる。そして、神秘の寄生虫、葦名で言う所の名も無き小さな神々は、こう言った五行の輪廻に乗りやすい性質がある。

「恐らく、先に変異を果たしたのは間接派だっただろう。軟体生物を直接喰うよりも、それを餌にしたものを喰う方が、大量の精霊を取り込めるからだ。知ってか知らずかは定かでないが、生物濃縮によってな」

実際、この理論には前例がある。葦名の白蛇やヌシ鯉、焔鴉達だ。あの生き物らもそう言った生物濃縮の果てに、小さな神々、またはそれが生む成分を大量に取り込み続けた結果、あのような超常に至ったのだ。

「そしてそれ故に、間接派は直接派を下級種族として扱ったのだろう。人とはそう言うものだからな。

だが、時間が経つに連れ、直接派も変異を成し遂げたのだ。代替わりによる、進化の定着化によって」

まこと小さな変異であれど、変異した内容が近ければ、子にも受け継がれやすい。そして、此処では既に最低50年以上、多く見積もれば70年は経っている。子の代、孫の代、曾孫の代となって、種としての確立が進んだのだろう。突然変異の形質は、孫の代以降に現れる。これが、かの有名なメンデルの遺伝の法則。異常形質の遺伝子は、孫の代に2割5分で発現する。

そして、神に近付く進化を貴ぶ島民にとっては、人の姿であるままの方が忌み子に当たるのだろう。人間らしい形を残した個体がほぼ居なかったのは、そう言う事。恐らく間引かれたのであろう。

「これは推測だが、間接派は種としての完成した後、知能が下がっていったのだろう。さっき蛞蝓人間が、言葉を忘れた、と罵倒していた。実際、ディープワンズからは唸り声や叫び声しか聞こえなかったからな。人から外れて進化した結果、知性を司る脳も変質したのだろう

それ故に、支配権を直接派に奪われ、追放されたと言う訳だ」

いやはや、何と言うか、何処まで行ってもフロム世界だ。悍ましく、闇深く、救いが無い。

それにしても、深きものどもが軟体動物に追いやられるか。クトゥルフ神話のクトゥルフ陣営と古のもの陣営の戦いとは、丸っきり逆の結果だな。

「···よし、大体纏まった。行こう」

「うむ。全く分からなかったがな!」

「右に同じ」

「以下同文にゃ」

「しゃあねぇよ。だってシローだもん」

「···泣きそう」

まぁ、啓蒙高過ぎる考察を垂れ流した俺も悪いが···

「ぬおっ!?」

部屋を出ると其処には先程のアメンドーズがしゃがみこんでいた。どうやって入って来たんだ?

「おいおい、今度はどうしたシロー」

「···何でも無い。急ごう」

まぁ、よく見ればまだ少し透けている。位相は此方に無いのだろう。相変わらず悪意も感じないし、混乱を招くくらいなら黙っておくが吉か。

 

―ズシンッ ズシンッ ズシンッ ズシンッ―

 

「···(喧しいな!)」

振り返らずとも分かる。最後尾をアメンドーズが着いて来ているのが。恐らく腕で身体を支えて歩いているんだろう。シュールが過ぎるぞ上位者···

「と、此処か」

そんな事を考えていると、遂に最奥へと到着した。其処にある大きな扉は、大きな鍵で厳重に封鎖されている。

「イッセー、()れ」

「りょーかい!やるぜドライグ!」

『任せろ!5回分のパワーだ!』

【Explosion!】

「ゥオッリャァッ!!」

 

―バガァァァァンッ!!!―

 

渾身の力を込め、爆発金槌を振り下ろすイッセー。2の5乗、つまり普段の32倍の力で叩き付けられた爆発金槌は、轟音と共に扉を粉々に打ち砕いた。

「よし、開いたな!」

『万能マスターキーとはよく言ったものだ』

満足げなイッセーを尻目に、俺は躊躇無く扉の中に飛び込んだ。

「あ、ちょっとし、ろ···!?」

「どうした黒歌ね、ぇ···!?」

「な、何だあれは!?」

仲間達は、部屋の奥を見て絶句した。あぁ、俺も驚いている。まさか、本当に想像通りのモノが居たとは。

 

枝分かれした触手で形作られた、未発達な背中の翼。

管状の黄色い触手が生えた、丸っこい頭部。

肩の部分や手首から、触手が分化した両腕。

蛞蝓人間のそれにも似て、しかし不思議と何倍も神秘的で美しい下半身。

俺の知る姿よりもかなり小さく、あって3m弱が精々であろう背丈。

《星の娘、エーブリエタース》

 

前々世では、Bloodborneで1、2を争う程に好きだったボス。しかし、彼女の今の姿を見て、真っ先に心に浮かんだ感情は···()()だった。

 

両腕には楔が打ち込まれ、鎖が壁に伸び繋がっている。

翼や身体は鎖で雁字搦めに縛られ、開く処か、動かす事すらまともに出来はしまい。

胴体や足には、無数の傷痕が生々しく残っていた。

 

そんな彼女は顔を伏せ、小さく、小さく啜り泣いていた。まるで、諦めども諦めきれない願い、救いを望み、待ち続けているように。

「ひ、酷い···!」

「な、何だよ、これ···これが、神様なのか···?そうだとしたら、何で···ありがたい筈の神様に、何でこんなひでぇ事してるんだよ!?」

「何と···惨い···」

黒歌は口許を押さえ、イッセーは怒りに叫び、弦ちゃんは凄惨な光景に思わず顔を背け掛ける。

かく言う俺も、同じような心境だ。そして、理解出来た。理解出来てしまった。この島の民が、エーブリエタースをどう認識していたかを。

「奴らにとって、この娘は神では無かった···神へと転じる為の、唯の()()()()···生きた、素材の源だったのだッ···!」

 

―ガンッ―

 

思わず、壁を楔丸の柄頭で殴り付ける。

そう、島民はエーブリエタースを、神と見ては居なかったのだ。

「聖体拝領···その、素材だッ···!」

「聖体拝領、だと!?」

聖体拝領···バラキエル殿が反応した通り、大元はキリスト教の概念。

神に至った者の肉体をその身に取り込み、己を神に近い使徒へと転じる儀式である。

『グオォォォォォ···』

跪き、手で顔を覆うアメンドーズ。それは紛れも無い、深い悲しみと己への不甲斐なさから来る懺悔であった。

「お前の、妹か」

『グゥゥゥ···』

何度も、何度も頷くアメンドーズ。その様は何とも苦し気で、人のそれと何の違いもありはしなかった。

今分かった。アメンドーズは、己の妹を救ってくれる者を待っていたのだ。位相がズレて、この次元に干渉出来ない自分の代わりに。

如何程の無念であったか、如何程の苦痛であったか。察するに、剰りが有り過ぎる。

「···イッセー、黒歌、弦ちゃん···この娘は、泣いている」

「「「···」」」

「果てしない苦痛と、果てしない孤独と、果てしない絶望の奥底で···救いを求め、自由を夢見て、泣いている」

「「「ッ···!」」」

「救うぞ、この娘を!拭うぞ!あの涙をッ!!」

「「「おうッ!」」」

腹の底から響く、覇気のある声。そして、各々がすべき事を瞬時に実行した。

まずは、全員でエーブリエタースに駆け寄る。すると、彼女は僅かに顔を上げた。

「もう少し、待っていてくれ。必ず、お前を助ける」

「あとホンのちょっとの辛抱にゃ!」

「絶対助けるからなーッ!」

「泣く子が居れば、手を差し出すが強者の勤めだ!」

俺達の声掛けに、ほんの僅かにだが、エーブリエタースのエメラルド色の眼に光が灯った。

「じゃ、まずは痛み止めにゃ!」

黒歌はエーブリエタースに駆け寄り、掌を押し付け眼を閉じる。体内の気を読み、操作しようとしているのだろう。

「どうだ黒歌!」

「うーん···よし、大丈夫!質が違うだけで、気の流れ自体は人間に似てるにゃ!」

「ならば痛みを!」

「今やってる!」

胸の気脈越しに全身の気を掴み、感覚を操作し痛覚を麻痺させる。応用として、触媒があれば幻覚を見せられるらしい。今回は何も触媒が無いので、手を直接触れて集中する必要があるようだ。

「よし!これで痛くない筈にゃ!」

「よっしゃ!次は俺だ!ちょっとごめんよ!

ドライグ!8回分だ!」

『よし来た!』

【Explosion!】

イッセーはエーブリエタースの膝に足を掛け、腕に突き刺さった杭に左手を掛ける。そして、8回分の倍化、256倍の握力で、杭を握り潰した。直ぐ様逆の杭も、同じように手早く破壊する。

「バラキエル殿は、腕と翼で受け止めていただきたい!俺と弦ちゃんで、鎖を断つ!」

「よし!望む所!」

「わ、分かった!」

最後に、俺と弦ちゃんが彼女の両脇に回る。お互いに息を合わせて刀を上段に構え、地面を踏み砕かんばかりの重い踏み込みと共に一気に振り下ろした。

 

―バギャンッ!―

 

葦名流・一文字。

 

左右それぞれから叩き込まれた渾身の一太刀は、見事に鎖を断ち斬った。

「おぉっと」

そして、倒れ込む身体をバラキエル殿が受け止める。流石は筋肉質な堕天使、彼女程度の体重なら余裕なのだろう。

「一応、応急処置として血は傷を避けるように巡らせとくにゃ」

黒歌の仙術のお陰で、腕から溢れていた白い血は勢いを失い、ほぼほぼ止血が完了する。取り敢えず、俺のマフラーを真ん中から割いて、それを巻いて傷口を保護しておこう。

『ゴォオゥ···』

「···あぁ。どういたしまして」

これでもかと姿勢を下げ、土下座のようなポーズを取るアメンドーズ。感謝の気持ちを受け取りつつ、俺は入り口を見遣る。

 

「返セ、ソハ我々ノモノナリ!」

「貴キ肉ナリ!」

 

蛞蝓人間共が、通路の奥からやって来る。どうやら、そう簡単には返してくれぬようだ。しかし···

「我々の、()()、だと?」

「···反吐が出るにゃ···」

「この鬼畜共めが!」

「ムカつくなぁ、一々一々よォ!!」

奴らの一言が、俺達の逆鱗を擦り上げた。奴らを生かしては置けぬ。

『···グォオオオッ!!』

「ど、どうしたアメンドーズ!?」

突如叫んだアメンドーズは、俺に頭を押し付けるように寄せる。すると、何とその頭はスルリと俺の中に入って来た。

 

―――――阿瞑棠頭(あめんどうず)―――――

 

俺の中に、魂が入って来る感覚。これは···御霊降ろし、か?

あぁ、身体に何かが溢れ出す。これは何だ?雨のような、嵐のような、何か···何かが底から、滴るように···

「死ネェェェェェ!!」

振り下ろされる石の棍棒。楔丸で容易く弾くと、自然と大きく踏み込みが出た。

 

―ゴゥンッ ヴァオウッ ドゴッ―

 

繰り出したのは、拝み連拳。しかしその拳は、暗黒の宇宙、或いは神秘の輝きを纏っていた。

打ち飛ばされた敵は、岩壁に激突し息絶える。それ程の力が、拳に宿っていた。

「う、ウソ···志狼、何なのよその気!?」

「···アメンドーズ」

黒歌が問い掛けてくるが、ボソリと呟くのみ。敵の縦列を見据え、楔丸を上段に構える。

 

葦名流・一文字。

 

構えの全てを注ぎ、真っ直ぐと前に振り下ろす。すると剣撃から白い光が飛び、地面を爆ぜさせた。

其処に、追い打ちでもう一太刀振り下ろす。

 

一文字二連。

 

またもや同じく爆発を伴い、白い光線が飛んだ。

「か、刀からレーザー···」

「何なのよそれ···」

この二撃にて前方の敵は全滅した。後は、来た道を駆け登るだけ―――――

 

―がくんっ―

 

力が抜け、視界が闇に染まる。大きな手で掴まれるような感覚と、黒歌の悲鳴だけを感じながら、俺の意識は落ちた。

 

(???サイド)

 

「ヘェ?まさかこんな結果になるなんてねぇ···」

「満足か?()()

「あぁ、面白かったよ、()()

志狼達の居る島の上空にて、2人の人間らしきモノが話し合っていた。

片方は、黒いスーツを着た、お洒落なサラリーマン風の男。

もう片方は、真っ黒に紅い縁取りのローブを纏った男。

双方曰く、サラリーマンは偽善、ローブは破滅と呼ばれているらしい。

「それにしても、よくもまぁお前がこんな手間のかかる空間(もの)を創ったな?」

「まぁな。アイツの記憶にあるゲームの()を、ちょっとばかし参考にしただけさ」

感心か呆れか、はたまた両方かを含めた偽善の問いに、破滅はカラカラと笑いながら答える。しかし、フードの下にある筈の肌色も、それどころか口の中の粘膜の赤も、歯や眼球の白さえ見えない。唯々、宇宙ようなの暗黒の無貌が、其処にあるのみである。

「と言うか、あの娘を作る為だけにまた派生存在の化身を創ったんだろ?しかも、()()()()()()()()()()()()()()を」

「あぁ、あれ?あれはほぼ偶々さ。偶然面白そうな素材がお忍びで人間界でお楽しみしようとしてて、偶然この世界に面白そうな玩具があった。だから、その素材を使って面白そうなモノを創って、面白半分に人間に与えてみただけさ。まさか、あのカス共が独学で彼処まで変態するとは思わなかったけどね?でも、その偶然が愉快な必然を呼んだ。

どうだい?何ともボク達らしいだろう?」

「まぁ、確かにな。お前は意外と、そう言う所は年単位で凝るタイプだ。60年ぐらい前の、()()()()()の時もそうだったしな」

「あーあれ!懐かしいねぇ♪ま、結局あれは下らない事を決めた蛆虫共のせいでお蔵入りになったけどねぇ···つまんね~の」

「ったく、よくもまぁあんな忌々しいアイツを思い起こさせるような物を造らせたもんだ。あぁムカつく」

「もう良いじゃん。オレはそんな事より、アイツらがどんな結末を迎えるか楽しみだよ。ま、()()()()()()()の話だけど」

「少なくとも、俺はお前を全力で邪魔する事にするぜ。予定通りに、な」

「エクセレーント!そうでなきゃ面白くないもんね!

でも、お前はアイツらと組めるかな?だって、()()()()()なんだぜ」

「お前が俺だからこそ、止めさせて見せるさ。お前と同時にこの世界に送り込まれた、偽善のヌラルリァットホティプの端末として」

「ならば、当然ワタシも全力で破壊しよう。破滅のヌラルリァットホティプの端末としてな」

ニタリと笑ったような雰囲気を出す破滅。対照的に、偽善は無表情のまま、背後に開いた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の中に消えた。

 

 

「さぁて、これからどうなるのかな?乞うご期待だね。ねぇ、そう思うでしょ···

 

 

 

 

 

 

 

 

どくしゃのみなさん?」

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

葦原志狼
(フロム)脳細胞がフルスロットルな戦国忍者。
実は神器の性質のお陰で理解力が上がってるんだとか何とか。
某種兄貴の考察サイトの記憶も保存されているので、半ばカンニング考察してる。
因みにエーブリエタースは素で美少女と認識してる。故に美少女をこんな目に遭わせた奴ら赦すまじ。
上位者の精神で御霊降ろしをすると言うとんでもない体験をする。因みにこれが原因で更にヤバい事になるのだが、まぁ今は良いだろう。

葦斑弦一郎
船に弱い弦ちゃん。
弓のセンスの応用か、雷を狙った場所に飛ばすのが上手い。志狼と即興で二重打雷を難なく成功させる程。
葦名流は苦手ではあるものの、一文字ぐらいなら1人前に放てる。

兵藤一誠
武器を持ち替えた原作主人公。火力は何時だって正義だ。
直情型ではあるが決して馬鹿では無く、柔軟な発想力と許容力を持つ。
地味に8回分のブースト、256倍のパワーを扱えるレベルに達している。この時点で原作開始時より数倍強い。しかもまだ人間である。

黒歌
イッセーと同じく、武器を持ち替えた猫魈お姉ちゃん。
右手の手甲の仕様は、実は最初から。
近接戦、中距離戦、応急処置までこなせる割と万能型な性能になった。

バラキエル
終始志狼の考察に驚かされっぱなしな雷光の堕天使。
「この子達、度胸と行動力ありすぎないか?」
一応、敵の撃破数はトップである。まぁ当然っちゃ当然だが。

黒沢天猫
お久し振りの現代陰陽師。今回は船の防衛の為にお留守番。因みにディープワンズに襲撃されて1人で何とか防いでたりする。縁の下の力持ちである。
アメンドーズには度肝を抜かれた。

アメンドーズ
精神生命体状態の上位者。
心の構造がほぼほぼ人間のそれ。妹であるエーブリエタースを助けられない事に耐え、志狼達のような存在を待っていた。サイズはかなり小さめで、ヒゲのような触手も無い。かなり若く、比較的こちらの次元に近い、異次元の浅瀬に存在する個体である。
志狼に対しては恩義を感じ、助力を惜しまなくなるだろう。
因みに最後、それまでの描写からは有り得ない事が起こっている。感の良い読者ニキなら、何がおかしいか、何が原因か分かる筈。

エーブリエタース
Bloodborneユーザーを魅了する絶世の美少女。
この子が酷い目に遭ってる様は書いてる方も辛かった。
苦痛に堪えかねて脳の瞳を自分から閉じ掛けており、アメンドーズを認識出来ていない。


偽善
真っ黒なスーツを着こなす、謎の男。かなりイケメン。
もう片方の黒い男、破滅とは対立関係にあるようだが、険悪な雰囲気は無い。
最後に彼が消えたゲートは、実は特撮要素である。

破滅
真っ黒なローブを纏った、謎の男。容姿不明。
一人称が安定せず、言動は快楽主義者のそれに近い。
過去に人間が産み出した()()()()()に関わっていたようだが···?

~武器・アイテム紹介~

・爆発金槌
筋力補正A
神秘補正B
志狼によって地獄工房にもたらされた、最初の仕掛け武器。地獄の拷問道具を鋳融かし、仕上げたもの。
空気に触れれば瞬時に数千度以上の熱をもって自然発火する、煉獄の岩石を詰めて造られた小炉付きの大振りなハンマーは、撃鉄を叩き起こす事で炎を纏い、次の一撃に爆炎を撒く。
亡者を焼き尽くし、叩き潰す。その端的な威力は、地獄の鬼にも痛く好評である。
「正義は勝つ。そして火力は何時だって正義だ。あんたもそう思うだろう?」

・影の刃
技術補正A
神秘補正C
地獄工房の手になる、特注の仕掛け武器。
大振りのダガーは仕掛けによって2枚に別れ、二振りの薄い歪んだ刃となる。
似通った形の刃が重なっている事から、影の名が付けられた。
刃には希少な隕鉄と地獄鋼の合金が用いられ、ステップ、ダッシュ、ローリング等、速度の乗った攻撃で真価を発揮する。
モデルは慈悲の刃であり、造型やギミックも同様。但し地獄鋼の影響により、暗く蒼い刀身には、紅い炎の波紋が浮かぶ。

・爪痕の籠手
内臓攻撃の威力を高める(+30%)
黒歌の為に拵えられた、右手用の特殊防具。指の先端は鋭く尖り、手の甲には爪痕のカレルを模した呪紋が刻まれている。
突き立て、まさぐり、抉り出す。狩人の昏い一面、内臓攻撃の威力を、格段に引き上げる。その性質上、どちらかと言えば武器に近い。
蒼く焼き入れられた地獄鋼は、血糊を弾き雫と流す。相手の悪意に、それを乗せた血に、主の手を浸さぬように。

・阿瞑棠頭の御霊降ろし
形代消費10(信心により8に軽減)
悪夢に潜む上位者を降ろす、異色の御霊降ろし。
悪夢の浅瀬に棲む上位者、アメンドーズの力を、ごく一時的に借りるもの。
掌に暗黒の綺羅星を宿し、刃や忍具は神秘を纏う。鋭く振るえば、そのまま敵を穿つだろう。
しかし、悪夢は重く絡み付くもの。動きが鈍り、ステップ不可となる。

阿瞑棠は当て字です。実際にはこの字は使われません。しかし、それぞれ全てにしっくり来る意味を与えてあります。
さぁ、フロム脳ニキ諸君。考察要素を与えよう。脳の瞳を総動員し、考察に励みたまえ。

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