ハイスクールSEKIRO   作:エターナルドーパント

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今回の台詞内の《》は英会話です


第16話 異邦の聖女

(弦一郎サイド)

 

「さて、と。行って来ます」

自作の弁当を詰め終え、バッグを背負って家を出る。日本神話勢力から宛がわれた、好条件のアパートだ。

今日のおかずは、味の濃いてっちゃん焼き。自分の胃の調子を考えて、味噌の配合から拘った自信作だ。楽しみで仕方が無い。

「はぅ!?」

「ん?」

曲がり角から聞こえて来た、可愛らしい悲鳴。見てみると、キャリーバッグを引いていたであろう金髪の少女が、ものの見事にスッ転んでいた。その顔を覆っていたベールが、フワリと風に攫われる。

「あっ!」

「ほっ」

鍛え上げた脚力で塀を蹴り、巴流の旋回の応用で腕を振り抜いた。指先でベールを捕らえ、確りと掴んで舞い降りる。

「《す、すごい・・・!》」

「っと、英語か・・・ン゛ッン、《おい、大丈夫か?》」

聞こえて来たのは英語。ならば、問題無く話せる。伊達に英国留学は経験していない。

「《ありがとうございます!初めて英語を話せる人に会えました。この出会い、主に感謝を》」

少女は胸の前で手を組み、短く祷る。やはりキリシタンか。

変若の御子の元で見た狂信者のせいで印象が悪いが、どうもこの娘は放っておけぬな。

「《俺は葦斑弦一郎と言う。其方は?》」

「《あ、申し遅れました!私はアーシア・アルジェント、この街の教会に配属される事となった者です!》」

この娘、アルジェントは元気良くペコリとお辞儀をする。何だろうな、この加護欲を掻き立てられるような気分は。

「《そうか。縁があれば、また会えるだろう。気を付けるんだぞ》」

「《はい!ありがとうございました!》」

またペコリとお辞儀し、軽い足取りで駆けて行くアルジェント。それを見送って、俺は学校に─────

「はぅ!?」

─────・・・いや、行けぬ。何も無い所でこう何度もスッ転ばれては、もはや捨て置けぬ。

「《おい、ちょっと待て》」

 

───

──

 

「《あ、此所です!ありがとうございました!》」

「《気にするな。為すべき事を、為したまで》・・・にしても・・・」

街を歩く事、1時間半。朝食が少なかったのか腹を鳴らしたアルジェントにコンビニでチョコバーを買い与えつつ、遂にコイツの配属先に着いた。

(随分と草臥れた教会だな・・・)

しかし、其処はかなりボロボロな教会だった。壁の漆喰は剥げ、前庭は草だらけ。どう見ても人の手の入っていない、棄てられた廃教会である。

「《此所で間違い無いのか?本当に?》」

「《はい!》」

ううむ、どうもキナ臭い。つい最近、不埒な堕天使に遭遇したばかりだ。

御祖父様曰く、争いの場では、関わる者の欲や企てが渦を巻くと言う。もしや、俺達は既にその渦中にいるのでは・・・?

「取り敢えず、狼達には伝えるか・・・フ、もはやアイツが頭領と言うのも、慣れたものだ」

「《どうか、されましたか?》」

「《いや、何でも無い。縁があれば、また合う事もあるだろう。さらばだ》」

「《あの、良ければお礼に、中でお茶でも・・・》」

「《いや、ご好意有り難いが、まだ学生の身分でな。学校に行って来る》」

「《そ、そうだったのですか!?そう言えば学校の制服に鞄・・・そうとは知らず、こんなにお時間を・・・》」

あわあわと申し訳なさげに慌て始めるアルジェント。うむ、やはり放ってはおけぬ。何度か見に来た方が良さそうか。

「《おい、謝るなよ?俺が好きでやった事だ。善意に謝罪で返すのは無礼に当たる事もある。子供の内は、素直に受け取っておけ》」

「《は、はい・・・って、子供!?ゲンイチローさんも同い年ですよね!?》」

「《生憎と、此方は色々あってな・・・さらばだ》」

踵を返し、廃教会を後にする。チラリと肩越しに見れば、アルジェントは再三お辞儀をして教会の中に消えて行った。

「・・・」

それを見送り、俺はスマホを取り出しコールする。相手は直ぐに応答してくれた。

「済まない黒歌殿、折り入って頼みがある」

 


(NOサイド)

 

「な、何でアイツが・・・」

アーシアと共に廃教会前まで来た男、葦斑弦一郎。彼を見た瞬間、廃教会に創られたインナースペースに隠れていた天野夕麻、もとい堕天使レイナーレは、脳から血が抜けるのを感じた。

寄りにも寄って、アーシアを連れて来たのは最上位堕天使とコネクションがあるあの男。確実に碌な事にならない。

何より、破滅の化身(ヴァルツァー)が嗾けた怪獣擬きさえ、犠牲1つ出さずに倒された。あれは少なくとも、自分とその部下であるドーナシーク、カラワーナ、ミッテルトが協力すれば何とか苦戦はしないレベル。それを2体同時に相手取り、更に後から来た落とし子とやら共々撃破されているらしい。

「神器の抜き取り・・・リスクが多大き過ぎるわね・・・」

(ドーナシーク達は、昔から私に付き従ってくれている可愛い部下。勝算の薄い戦いに、放り込むのは惜しいわ・・・)

人間を見下す気質はありこそすれ、レイナーレは部下想いだった。

そも、このような危険な橋を渡ろうと決意したのも、組織内での冷遇に甘んじる自分や彼等の立場を少しでも引き上げ、あわよくば総督たるアザゼルから直々の寵愛を受ける為である。故に、彼等はレイナーレに取って、使い捨ての駒等では無く、護るべきモノだった。

『えぇ~?此所まで来て妥協~?』

「ッ!」

背後からの声。振り向けば、其処には何時になっても見慣れない、紅衣を纏った黒が居た。

「し、仕方無いじゃない!相手は最上位堕天使にパイプがあるのよ!そんなヤツが気に掛けた相手を殺せば、どうなるか分からないわ!

部下達には、そんなリスクは冒させられない!リーダーは私なんだから、従って貰うわよ!」

『ったぁく、面倒臭ぇなぁ・・・ま、良いや。あの子は回収して来るよ』

ヤレヤレと言った様子で左手に持ったデバイスを操作して長方形型の門(ヴィランズゲート)を開き、ヴァルツァーはインナースペースを後にする。

「くっ・・・まさか、こんな事になるなんて・・・この街を選んだのは、失敗だったかしら?」

爪を噛み、顔を顰めるレイナーレの脳裏にはしかし、状況とは裏腹に、《撤退》の選択肢は浮かんでいなかった。

 


 

「と、言う事があった訳だ」

「確実にまた厄介事だな」

昼休み。弁当をつつきながら報告する弦一郎に対し、初手の切り返しは一誠の一言だった。

「そうですね、十中八九は・・・」

「この前の堕天使絡みだろう」

低く呟くようなエマの言葉を、志狼が引き継ぐ。

「監視を頼んだ黒歌殿曰く、教会の中には動く物は無いとの事だ」

「・・・待て、それはおかしいぞ」

「あぁ、おかしい。どうやらアルジェントの気配すら無いようなのだ。黒歌殿も訝しんでいた」

最初に違和感に気付いたのは、監視員の黒歌。仙術で気配を探ろうとも、生き物の気配が殆ど無い。あってネズミや虫ケラの類いまでである。報告の際に、場所を間違えていないかと本気で確認した程だ。

「ふむ・・・皆さんは、何かあった際に直ぐに動けるようご準備を。私は、部長、生徒会長、そして日本神話への報告をしておきます」

「忝い」

「助かる、エマ」

「何時も悪いな、エマさん。俺もそう言う作業とか手伝えれば良いんだけど・・・」

「いいえ。貴方達は戦いが本業。此方は慣れていますので、お構い無く。気持ちだけ、受け取っておきますね。

では、これで」

空になった弁当箱を包み直し、席を立つエマ。一誠は腰掛けていた机から降り、エマが座っていた自分の椅子を片付ける。

尚、当然の如く変態2人組には睨まれていた。

 


 

「うぎゃぁぁぁぁぁ!?」

グリーンランドのとある田舎町。その外れにある森の宵闇に、悲痛な絶叫が木霊する。

悲鳴の主は、異形と化したはぐれ悪魔。

引き締まった筋肉質な肉体を黒い毛皮で包み、頭部には尖った三角耳。下半身は完全に大きな狼のそれであり、ケンタウロスの狼版と言えば分かり易いだろう。

尤も、美しい漆黒の毛並みは今や自らの血に塗れ、自慢の爪を備えていた腕は今し方片割れを切り飛ばされて地面に転がっていた。

対峙するは、長い銀色の直剣と大きな金色の散弾銃を携えた男。その男は聖職者の正装に身を包んでおり、背中には分厚いマントが重く垂らされている。長い茶髪を束ねたホーステールが風に揺れ、眼帯に覆われた左目で獲物を見据えた。

「く、クソが!何なんだよお前ェ!人間のエクソシスト風情が、この俺に楯突きやがって!今までのカス共みてぇに、俺に大人しく喰われやがれェ!」

腕を落とされて尚、はぐれ悪魔は飛び掛かる。無論恐怖はあれども、狼と悪魔、それぞれ特有のプライドによって、怒りが恐怖を凌駕したのだ。

 

─ガンッ ザグッ─

 

「うがっ!?」

しかし、ことこの男の前に於いては、それは悪手だった。

連射性能を斬り捨て、射程と1発の集弾性に特化した散弾銃・・・《愚者の弔銃》の、ロングバレルを瞬時に折り畳んだ至近距離射撃によって迎撃(パリィ)され、悪魔は出鼻を挫かれて体勢を崩す。そうして隙を曝した獲物の脇腹に、男は直剣を納刀して開けた右手を鋭く突き入れた。

「や、やめっ」

 

─ブチブチッ ブシャァッ!─

 

「ガバッ!?」

腹の中をまさぐり、中身を掴んで抉り抜く。血と臓物が搔き出され、周囲の血の海は瞬く間に満ち潮となった。

「ぢ、ぢぐじょう・・・な゛んで、おれ゛が・・・こんな゛・・・」

しかし、不幸な事にはぐれ悪魔は死にきれなかった。悪魔の生命力は、人間とは比べ物にならない程に高いのだ。

故に、地獄のような苦痛の中で尚、この世に縛られているのだ。

「1つ、訂正しておこう。私は、悪魔払い(エクソシスト)では無い」

静かに語り掛けつつ、男はバレルを畳んだままの弔銃を腰のコネクタに付け、納刀した直剣を()()()()()肩に担ぐ。

細身の直剣は一変、巨大な刃を持つ両刃の大剣となったそれ・・・《愚者の弔剣》を、男は構えた。

「只の────狩人さ」

 

─ゴシャッ!─

 

振り下ろされた鋼の大刃は、はぐれ悪魔の肉体を左右に切り離す。一瞬の残心の後に、彼は再び愚者の弔剣を背負い直した。

「お疲れ様です、剣聖様」

それを見計らい、背後から数名の男達が現れる。

彼等は皆、黒い法衣装束を纏い、ガスマスクを着けている。その内の幾人かは、背中に除草剤散布に使うようなポンプタンクを背負っていた。

「止め給え。私はそんな大層な者じゃ無い。只の・・・愚か者さ」

そう言って哀しげに顔を顰める狩人の血塗れた装束に、黒装束の1人がポンプで液体を吹き掛ける。すると、焼けた石に水を落としたような音と共に、狩人に付着していた血や肉片が溶け、消滅し始める。

タンクの中身は、法儀礼済みの聖水。悪魔の血肉に取れば、最悪の劇物なのだ。

「・・・何時も、済まないな」

「いえ、これが我々の仕事ですので」

無感情に投げ渡された返答に狩人は黙り込み、狩り手袋を嵌めた右手を握り締めた。

彼は恐れる。はぐれ悪魔の死体を蹴り転がし、聖水で()()する事を何とも思わぬ彼等を。何より、其処に重なる、()()()()()()()()を。

「では、我々はこれで」

浅く一礼し、黒装束の掃除夫達は去って行く。その後には、さっきまであったはずのはぐれ悪魔の死体は、舎利の欠け程も残っていなかった。

「・・・きっと・・・きっと誰も、君を嘆く者はないのだろう。

その死に骨も、灰も無く、もしや魂すらも、この世から忘れ去られるのか」

悲痛な面持ちと共に、死体のあった場所に片膝を突く。そして両手を組み、目を瞑って黙祷するのだった。神では無く、死んだ悪魔の魂を思って。

それは正しく、弔いであった。

 


 

「あぁ、ゴース。或いは、ゴスム・・・我らの祈りが聞こえぬか・・・」

ヴァチカン市国、カトリック教会の秘密研究施設。そこで、1人の男が祷っていた。

頭には檻のような物を被り、焦げ茶色のローブを纏ったその男は、手に持ったリモコンを操作する。すると、周囲を覆うディスプレイに、様々な映像が表示された。

「青ざめた次元の窓よ」

真っ青に染まった、巨大な月。

「蔭りを知らぬ極焔よ」

惑星を悉く照らす、紅蓮の太陽。

「深みに瞬く星々よ」

青昏い夜空に浮かぶ、天の河。

「大地を満たす混沌よ」

山を流れ落ち、海を沸かす溶岩。

「未知と神秘の深海よ」

この世の物とは思えぬ、深海生物の数々。

「あぁ、数多の神よ!未だ見えぬ上位者よ!やがてこそ舌を噛み、語り明かそう!

アッハハハハハハ♪」

楽しげに、愉しげに、男は笑う。その眼には、確かに光が見えていた。

その姿は、紛う事無き変態である。

「相変わらず、熱心な祷りですね。結構な事です」

「おや?」

何時の間にか現れた、色黒の男。その身には司教の地位を示す帯を携えており、そこそこの権限を持つ聖職者である事が見て取れる。

「これはこれは()()()()様。祷りに夢中で気付きませんでしたよ」

胡散臭くニヤニヤと笑いながら、変態は一礼してみせる。貧相に見える外見に見合わず、体幹には一切のブレは見られない。

「どうですか、ここでの暮らしは」

「窮屈です」

ニヤニヤ笑いは変えぬまま、されど即答した。

「貴方の持って来てくれる日本の娯楽物のお陰で、新たな思索に至れはしましたが・・・やる事と言えば、聖符の印刷や(まじな)いの刺繍程度。我ら()()()にとっては、造作も無い事ばかりです」

「それはそれは・・・所で、それ程までに気に入って頂けましたか?ジャパニーズMANGAは」

「勿論ですともッ!」

話題が変わった瞬間、変態の顔からニヤニヤ笑いが消し飛び、眼がギラリと鋭く輝く。

「空想の彼方だけで無く、自分を取り巻く森羅万象総てに上位者を見出す信仰体系!有害なモノさえ悪と断ずる事無く、それすらも神へと昇華し取り込む柔軟性!何よりも、眼に付くモノを悉く擬人化し尽くすあの発想能力!

あぁ、あれも立派な、1つの瞳の在り方だ!オゥ!MAJESTIC!」

「お、おう・・・」

身振り手振りと言うに余る程に全身を振り回し、興奮を熱弁する変態。さしものナイ司教もコレには若干引いている。

「・・・ん゛っん。では貴公。遠くない内に、とある案件で日本に人員を派遣せねばならないのだが・・・司教として、貴公を推薦しておくとするよ」

「何と!あぁ、何と素晴らしい!ホーッホッホーゥ♪」

ナイ司教からの好意に、脳内のお祭りが止まらない変態。もはやブレーキがぶっ壊れて興奮しっぱなしである。

 

「では、期待しているよ──────ミコラーシュ君」

「アッハハハハハハ♪オゥMAJESTIC!」

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

葦斑弦一郎
今回のメインキャラ。ロン毛イケメン紳士。あと何気に自炊が上手。
原作イッセーの代わりに、アーシアと遭遇。英語は英国留学のお陰で何の問題も無く会話が出来た。
レイナーレには滅茶苦茶脅威認定されている。レイナーレに対する勝利の鍵。

アーシア・アルジェント
原作ヒロイン。
健気で天然でドジなシスター。チョコバーを始めて食べてめっちゃ喜んだ。

葦原志狼
影が薄い戦国忍者。コイツ主人公です。
何も今回書く事が無い。

猩葦エマ
主に後方支援をしている薬師女子。
報告書など、頭を使う仕事を主に請け負っている。まぁやろうと思えば前線でも戦えるが。

レイナーレ
弦ちゃんにめっちゃビビってる原作の元凶。かなり部下想い。
ビビってるからこそ冷静であり、リスクマネジメント方面では原作とは比べ物にならない程に正気。着々と生存フラグを立ててこそいるものの、直ぐ側に特大の死亡フラグがいる。

ヴァルツァー
最近レイナーレが保守的思考に走り始めたのでちょっと不満。
レイナーレ達が控えているインナースペースを作ったのがコイツ。もう隠すつもりは無いですよ。あの作品の()()です。

剣の狩人
とある教会に仕える、狩人の青年。
その装備は、嘗てのヤーナムを駆けた英雄に酷似し、しかし思想は真逆である。
敵であれ、獣であれ、心があるならば、弔う事を忘れてはならぬ。

教会の変人、ミコラーシュ
名前を隠しきれなかった変態。
皆大好きマジェスティックおじさん。今作では日本のヲタク文化及び信仰体系にド嵌まりしている。
近々来日予定。
_且ノ

ナイ司教
あーもう何でこんなに沢山出て来ちゃうかなぁ此奴ら。

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