ハイスクールSEKIRO   作:エターナルドーパント

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第1話 苦行と友

(狼サイド)

 

「はぁ・・・」

この世に3度目の生を受け、早7年。俺は小学1年生となっていた。

喧しいクラスメイト達の声を何とか聞き流しながら、左胸に着けた名札を指で弄る。

《あしわら しろう》・・・葦原(あしわら)志狼(しろう)。今生における、俺の名だ。名付けた父曰く、志を持ち、狼の如く気高くあれ、との事。

何だかんだで、この名前も気に入っている。前世と同じく、狼の字があるからかも知れぬ。そして葦名の葦の字も。

しかしながら、今は兎も角、昔は本当に地獄だった。

見知りもせぬ女に糞尿の世話を焼かれねばならぬ事の、何と心を磨り減らした事か。不幸中の幸いと言うべきか、母は乳の出が悪い体質だったようで、母乳ではなく粉ミルクを使ってくれた事だけは心が休まったものだが。

しかしこの精神故に、幼稚園児の頃も当然馴染めはしなかった。乱暴者が癇癪を起こし、飛び込んで来たのを躱したら、柱に鎖骨を打ち付けて骨折し泣き喚いたのはもう忘れられはしないだろう。挙げ句の果てに一時的とは言え俺が疑われた。流石に勘弁してくれと泣きたくなったモノだ。

とまぁ、過去の振り返りと言う体の現実逃避をしていたら、漸く朝の会、所謂ショートホームルームが始まる。この精神を持っていると、改めて学校の教師がどれだけ大変な仕事か身に染みて分かるものだ。

 

―――

――

 

「フッ・・・フッ・・・」

昼休み。俺は校庭の鉄棒を小指と薬指で絞め、懸垂をしていた。

今は20回までしか出来ぬが、それでも刀技に必要な腕力と小指、薬指の絞め力は鍛えられる。

「なぁ、おまえもこっちであそぼーぜ!」

と、後ろから声を掛けてくる児童が1人。誰かと思い振り向けば、ツンツンと尖った茶髪の活発そうな男子だ。

「・・・誰だ」

「おれ?おれはひょーどーいっせー!イッセーって呼んでくれよな!」

「・・・フッ・・・フッ・・・」

かなりハイテンションな奴だ。人として、少し苦手な部類だな。

「・・・なぁ、さっきからなにやってんだ?」

「・・・懸垂、だ」

「けんすい?それってたのしいか?」

「俺は、周りと、馴染めない、からな・・・フゥ」

15回こなし、鉄棒を離す。手首をグリグリと解して、イッセーと向き直った。

「こうやって、自分を鍛えるのは好きだ」

「へぇ~・・・」

「・・・葦原志狼」

「え?」

「名乗っていなかった。葦原、志狼だ」

「おう!じゃあよろしくな、シロー!」

気さくに握手を求めてくるイッセー。悪い気はしないので、差し出された手を握る。

「いって!?」

「あ、すまん」

と、握力の調整を間違えてしまった。いかんな、今し方散々握っていたせいか。

「つ、つえぇなーシロー。けんすいしてるからか?」

「ああ。握り力、脇の締め、体幹を鍛えられる」

「おもしれー!おれもやってみる!」

そう言って、俺が使っていた鉄棒に飛び付くイッセー。だが、筋肉量は勿論力の入れ方もなっていない。当然、身体が上がる筈も無く。

「んギギギギぃ・・・」

「・・・こうだ」

「おっ?」

バタバタしていた脚を掴み、左右均等に上下させてやる。イッセーもそれに合わせて、バランスの取れた懸垂を始めた。

「悪く無い。腹、脇の背中側を意識しろ。さ、離すぞ」

「えちょっ、んぎぃっ・・・」

手を離してやると、イッセーは真っ赤になりながら必死に鉄棒を握り締める。筋は良いようだ。

「背中に肘を引き寄せるように、息を思い切り吐きながら身体を持ち上げろ」

「んっくふォォ・・・ウリャッ!」

俺のアドバイスを素直に聞き入れ、イッセーは補助無しで1回、懸垂をこなした。

「ハーッ、ハーッ、フゥー・・・き、キツい・・・」

「毎日やれば、こなせる数も増えてくる。焦らず身の程をわきまえ、忍びて耐えれば、必ず果を成せるのが肉体だ。

明日も、やるか?」

「お、おう!まけてられねぇぜ!」

・・・イッセーは、武士に向いた性格なのやも知れぬな。

 

―――――

――――

―――

――

 

「フッ、ハッ!タッ!」

「・・・」

イッセーと出会い、早3年。俺とイッセーは、公園にて組手をしていた。

「フッ」

「どぇあ!?」

手技で上半身に集中していたイッセーの意識を逆利用し、足元に潜り込んでスッ転ばせる。何とか受け身をとったイッセーだったが、俺はその両肩を掴んで反転。そこから素手でエア忍殺を決めた。

「あっ、しまった!」

「今日は、此処までだ」

「くっそー、やっぱつえぇなーシローは」

俺が差し出した手を取り、イッセー立ち上がる。

「でもやっぱ面白いな、修行ごっこ」

「そうだな」

修行ごっことは、この組手の名目だ。寸止め同士ではあるが、やっている事は俺が養父上こと大忍び梟、及び師匠たるまぼろしお蝶殿に叩き込まれた訓練そのもの。攻撃や弾きのタイミング、反射神経の鍛練、先の先の取り方、敵の攻撃意識の読み方等の戦闘訓練もすれば、受け身の取り方、身を痛めぬ着地法、パルクールやバク転等の体捌きまで。もはやごっことは言えない、マジ修行のレベルだ。

このハードな訓練であるが、イッセーは割りと着いて来ている。元々才能はあったのだろう。

だが、戦闘では搦め手がかなり苦手。しかし同時に、思い切りの良さと度胸や胆力は眼を見張るモノがある。踏み込みも躊躇が無い。やはり、忍と言うより武士に向いた気質なのだろう。肉を切らせて骨を断つタイプだ。

「生まれる時代が違えば、或いは侍になれたやも知れぬ」

「侍?俺が?」

「あぁ。弱者を護り、己を鼓舞して刀を振るうお前の姿が、眼に浮かぶようだ」

「そ、そぉかな~?」

照れ臭そうに眼を逸らすイッセー。満更でもなさそうだ。

「守る、かぁ。俺も誰かを、守れるようになりたいなぁ」

「ならば、強くなれ。弱ければ、護りたいと想う事すら許されぬ。しかし、力のみを貪ってもならぬ。

真の強者とは、ブレぬ心を頑強な身体で包み、鋭い技を修めた者の事だ。今は護るモノ無くとも良いが、努々力に溺れるでないぞ」

「お、おう・・・えっと、要するに調子に乗るなよって事だよな?」

「そうだ」

これも良い。物分かりの良さ。他者の助言を自分なりに噛み砕く力に長けている。

「さて、これにて解散だ」

「おう!また明日なー!」

手をブンブンと振りながら、イッセーは公園を駆け抜けて行った。

しかし・・・

()()()・・・来なかった、な」

普段から一緒に遊んでいる友達を気にしながら、俺は帰路に着くのだった。

 

―――――

――――

―――

――

 

「御馳走様」

「はい、お粗末様」

夜。夕飯を食い終えた俺は食器を片付け、親父の部屋に向かう。

「親父」

「お?どうした志狼」

「パソコンを、使わせて欲しい。最近、学校でパソコンの授業が始まった。調べものがしたい」

「ほぉ・・・よし、良いぞ」

親父はアッサリと承諾してくれた。俺は親父の部屋のパソコン机に着いた。

「どこまで出来るようになった?」

「ローマ字打ちは、もうほぼ出来る」

「やっぱり覚えが早いな志狼は」

カハハと笑いながら、親父がパソコンを起動してくれる。椅子の高さを調節し、俺は検索エンジンを開いた。

「じゃあ、分からない事があったら呼びな」

「分かった」

そう答えつつ、俺はキーワードを打ち込む。

 

【葦名】

 

あの邪神の言う通りなら、この世界にも葦名、またはその跡地がある筈だ。ならば、もしかすれば・・・九朗様の墓なども、あるやも知れぬ。

淡い期待を込めつつ、俺はエンターキーを押した。

「・・・ほう」

俺は表示された情報に僅かに目を見開く。

 

《お土産にオススメ 葦名の地酒(葦名河、どぶろく、猿酒、竜泉)》

《忍者稽古体験》

《葦名城戦国博物館》

 

どうやら観光業を開き、強かに商売を続けているらしい。発足人は恐らく、あの物売りの穴山の一族だろう。あの時、死にかけの穴山を無理矢理にでも薬水で生かしたからか。

葦名河と言う酒は・・・恐らく、当時無名だった、葦名の酒か?

「・・・ん゙っ!?」

ホームページをスクロールしていると、少し信じられないモノが映った気がした。しっかり見てみれば・・・どうやら、見間違いではなかったらしい。

「く、()()()()()()・・・」

かつて怖気に弱い俺が散々苦戦させられた、5体の亡霊《首無し》。それが何と、ホームページのマスコットキャラクターとなっていたのだ。

「・・・ぷっ、くくくくっ・・・」

丸っこくデフォルメされ、身振り手振りやプラカード等で葦名を宣伝しているそれは、現物を知っている俺からすれば酷く、物凄くシュールで・・・いかん、笑いが止まらん。

「クククククッ・・・ふぅ・・・」

漸く慣れたか。

いやはや、インパクトと言う点では100点満点だな、くびなしくん。

「・・・フム。それなりに、繁盛しているようだな・・・む」

ふとホームページの目次を見てみると、眼が吸い寄せられる所があった。

「未だ健在か・・・仙峯寺(せんぽうじ)

金剛山の仙峯寺。そのページを開いてみると、曰く、葦名城博物館に物品を寄付しつつ現在も仏法を説いているとの事。しかも仏だけでなく、葦名の古い土着神への信仰も復活させて共生していると言う、かなり珍しい完全神仏習合タイプの寺らしい。

因みにお土産として木彫りの鬼仏が買えるそうだ。

「・・・行ってみるか」

あの邪神は、俺の戦いを観て楽しむと言っていた。ならば、確実に敵もいるだろう。今の内に、戦力を取り戻さねばなるまい。

今の俺は流派技の指南書や技術書、飴や瓢箪類などは、己の中に持ち物をしまい込む竜胤の業によって使える。しかし、楔丸や義手忍具が無ければ戦えぬに等しい。

それらがある可能性がある場所は、現在この仙峯寺しか無い。

「・・・一応、鍵縄は持っていくか。有り合わせだが、作っておいて良かった」

目下の目標が定まり、俺はパソコンの電源を切る。

為すべき事は分からぬが、その手掛かりは見つかった。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

葦原志狼
忍の道に復帰する気満々な主人公。
現在も欠かさずトレーニングを続けており、人付き合いが悪いせいで友達は2人しかいない。
毎週公園で組手稽古か体捌き稽古をしており、周囲では達人少年と噂になっている。
観光地と化した葦名を見付け、赴く事に決めた。念の為、自作の鍵縄は持って行く。

兵藤一誠
原作主人公。
志狼に会った事で、おっぱいスピリットではなく侍スピリットに目覚めた。
志狼とのトレーニングのお陰で、運動会では例年2位。1位は無論志狼。
吸収の良いこの時期に志狼から鍛えられている為、原作よりもかなり強化される予定。

~用語紹介~

竜胤の業
ダークソウルから持って来たソウル技能。物質を体内に格納する。
そうでもしなきゃあの大荷物持って飛び回れないよね、という事で。

現代の猿酒
本来猿酒は、猿が木の虚に備蓄していた果物が、自然発酵し酒になったもの。
現代のそれは木樽を使い、同様の発酵を行って作る。
猿酒含む酒系は外国人観光客に大人気のお土産品。そのなかでも猿酒、モンキーリキュールは、その火を吹くような強烈なアルコール度数も相まって特に好まれている。

くびなしくん
怨霊首無しをデフォルメしたマスコットキャラクター。
阿攻、吽護、剛幹、月隠、夜叉戮の5体がおり、それぞれフンドシの色が違う。
因みにこのキャラクターも、《妖怪だろうが悪霊だろうが等しく神として奉る》と言う日本の独特の信仰体型が良く現れていてユニークだとこれまた外国人観光客に人気。
キーホルダーにもなっており、それぞれ御霊卸しのポーズをとっている。
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