(志狼サイド)
ガタトン、ガタトンと電車に揺られ、俺は窓の外の山を眺める。
葦名の情報を掴んでから、丸一年。俺は葦名に1人で行きたいと、両親に頼み込んだ。
少し心配性な母は危険だと渋ったが、父が出した『4年生のテストでクラス一番を取る』という条件を死に物狂いで達成し、葦名行きの権利と5000円の小遣いを貰う事が出来た。小遣いは、父さんが持って行けと言って渡してくれたものだ。
『ススキ橋~、ススキ橋~。お出口は~右側~』
「着いたか・・・」
電車を乗り継ぎ、目的の駅に着いた。駅に降りると、森や川の香る風が頬を撫でる。
「風の匂いは、変わらぬな・・・」
フッと思わず笑みを浮かべ、改札を通って駅を出る。山道以外、殆ど何も無い所だ。
しかしその中に、1枚の看板が立ててある。
【←葦名、この先】
あんなに派手でインパクトの強いホームページを作っている癖に、看板の方は地味と言うか無愛想と言うか・・・いや、俺が言えた話じゃないかも知れんが。
まぁそれも葦名だろう。
「・・・此処か」
看板に従い道なりに歩いて行くと、九朗様との最後の思い出であるススキ原に続く大きな橋があった。
人通りもそこそこ多いその橋を渡りながら、ふと考える。
(そう言えば・・・あの時チラリと見えたが、確かこの橋は壊れていた。あれは、プレイヤーが葦名の外を認識出来ぬ桜竜の心を通して観ていたからと言われていたが・・・あの時の俺の視界にも、桜竜のフィルターが掛かっていた、と言う事か?)
まぁ、今となっては至極どうでも良い話だ。
前を見てみると、当時とは違い、整備された一本道がまっすぐ通っていた。柵もしっかり立てられている。
「む・・・やはり、封鎖されている、か・・・」
その先には、嘗て九朗様を連れ出した抜け穴があった。しかし今は厳重に鉄柵が設けられ、進入禁止の看板が立っている。
「・・・仕方無い。城下で、道を聞くか」
恐らく、捨て牢の道も封鎖されているだろう。あんな非人道的な実験を繰り返していた所を、一般人に公開出来る訳が無い。因みに彼処の実験の内容を2周目で知った後、一切協力しなかった。
―――
――
―
「・・・ん?」
城下町に入ると、ある看板が眼に留まった。
「甘味処・・・あしな・・・」
かなり古い、昔ながらの造りをした甘味処。そう言えば丁度小腹が減った。小遣いもある事だし、入ってみるか。
「いらっしゃいませ~・・・あら、坊や1人?親御さんは?」
暖簾を潜ると、店の奥から店員のおばさんが出て来た。
「いない。独り旅だ・・・です。小腹が空いて、丁度看板が見えたもので」
いかん。危うく癖でタメ口を利く所だった。
「あら、そうなのね。2人目か・・・」
「・・・?」
「あぁ何でもないのよ、此方の話。
で、今は生憎と満席でねぇ・・・君と同い年ぐらいの子が1人で座ってる席があるんだけど、相席で良いかしら?」
「・・・構いません」
「ごめんなさいねぇ」
眼を薄めて謝罪しながら、おばさんは俺を席に案内してくれた。
そこにいたのは、長めの黒髪を後ろで結び、お団子を食べる少年。
「ごめんなさいね、ちょっと相席してもらって宜しいかしら?」
「ん、あぁ・・・モグモグ・・・構いませんよ。此処は繁盛しているし、この
「ありがとうねぇ。それにしても、随分と古い言葉を知ってるのね?」
「えぇまぁ、本を読むのが、好きなものでして」
おばさんと向かいの少年が話している間に、俺は席に着いた。
「あ、追加でオハギを一皿」
「俺も、オハギを」
「ハイハイまいど。でも、お団子2皿食べた後でしょ?お財布は大丈夫?」
「えぇ、何ら支障ありませんよ―――――
―――――
「ッ!?」
「あら、随分と葦名を好いてくれてるみたいね」
「あ、あぁハイ・・・アハハ」
今の、今の
「・・・どうかしたか?」
と、思わず凝視してしまったのが気になったのか、向かいの少年は湯呑みの茶を飲みながら聞いて来た。
・・・確かめるか。しかしどの単語で確かめれば・・・あ。
「
「ぶぐッ!?」
俺がボソリと吐いた呟きに、少年は茶を吹き出しかける。
「やはり、か・・・」
「ゲッホゲホッ・・・お前、何処でそれを・・・」
「だ、大丈夫ですか?」
と、派手に噎せている少年を見て、心配した店員が近付いて来た。
「ん、あぁ大事ありません。ちょっぴり、噎せただけですから。御絞りもありますし」
「そうですか。失礼しました」
店員が去ると、向こうは机越しにジリッと顔を寄せて来た。
「ま、まさかお前・・・」
「あぁ。俺は―――」
「寄鷹衆の者かッ!?」
「・・・は?」
「え?」
・・・いやまぁ、奴らも同じく忍ではあったが・・・
「ハァ・・・九朗様の忍、狼だ」
「ッ!き、貴様ッ!」
「待て。俺は少し・・・そう、調べものをしに来ただけだ。荒事を起こすのは、望む所では無い。
お主も、そうではないか?」
「ぬぅ・・・確かに、貴様とは確執はあれど、此処で事を荒立てるのは違うな」
そう言って少年・・・弦一郎は、再び腰を椅子に落ち着ける。
「そう言えば、今生の名は?俺は、葦原志狼だ」
「・・・
「名は変わらぬか、良かったな弦ちゃん」
「貴様にちゃん付けされる筋合いなど無いわ!」
・・・何故だろう。こいつといるととても愉快だ。面白い。
いじり甲斐がある、と言うのか?
「はいお待ち遠様、オハギね~」
「「あ、どうも」」
そうこうしてる間に、さっきのおばさんがオハギを持って来てくれた。
「おぉ、これは・・・いただきます」
両手を合わせ、改めて皿に乗ったオハギを見てみる。
贅沢にたっぷりと餡こを纏ったそれは、摘まんでみるとずっしり重い。堪らず口を開け、豪快にかぶり付いた。
「ッ!う、美味い・・・!」
甘さが控え目で上品な味の、しっかりと豆が残った粒餡。中の餅は、半ば米粒が残った半殺し。米粒そのものも大きめで、歯応えも抜群だ。
そして、ほんの少し効かされた塩味・・・これが甘味を引き立て、全体を整えている。
「・・・美味いな、御子の忍よ」
「あぁ・・・少し香ばしい風味もするが、これは・・・」
「フム・・・きな粉じゃないか?豆同士だから相性も良い」
「それだ」
成る程、塩きな粉か。砂糖も足せば、正月の餅にも良く合うからな。オハギに合わぬ筈も無し。
「・・・しかし、俺は今や九朗様の忍では無い。志狼か、狼か・・・一心様と同じく、隻狼か。このどれかで呼んで欲しい」
「・・・ならば、狼と呼ぼう」
「宜しくな、弦ちゃん」
「弦ちゃん言うな!」
「フフッ」
思わず笑みが溢れる。オハギをもう一口頬張れば、正に至福だった。
「・・・狼、何故泣いている?」
「何?」
弦ちゃんに言われ、目元を指で拭う。その指を見れば、僅かばかりだが濡れていた。
「・・・そうだ。塩きな粉こそ加わっているが、これは・・・九朗様が、俺に作って下さった物と、そっくりな味だ」
「・・・そうか。そう言えば、エマも馳走になったと言っていたな」
「エマ殿か・・・もしや、エマ殿もこの時代に生まれ変わっているのでは?」
「恐ろしい事を言うな狼」
―――
――
―
「いやはや、美味かったな」
「あのオハギは、一皿2つで350円。安いものだ」
小腹を満たし、会計。いやはや、実に美味かった。
「まぁ、戦国時代から変わらない味だからね!」
「・・・もしや、九朗様・・・」
「おや?うちの開業者、知ってんのかい?」
「やはりか・・・いえ、こちらの話」
会計序でに、おばさんが話してくれた。やはり此処は、九朗様が開いた茶屋らしい。
「子宝には恵まれなかったらしいけど、いろんな所で弟子を取って回ったらしいさね。最後は故郷の此処に、腰を落ち着けたらしいけど」
どうやら、九朗様は人として生きられたらしい。
「「御馳走様でした」」
会計を済ませ、店を出る。
他にも同じような店があると言っていたな。今度探してみるか・・・あ。
「しまった」
「どうした狼」
「仙峯寺への道を、聞き忘れてしまった」
「いや、地図看板にリーフレットがあったろ。ご自由にお持ちくださいと」
「え?」
・・・見落としていたか。しまったな。
「ハァ・・・まぁ良い。一応俺も、仙峯寺に用あったのだ。案内ぐらいしてやる」
「かたじけないな、弦ちゃん」
「・・・もう突っ込む気すら起きんわ」
溜め息を吐きつつ、弦ちゃんは俺の前を先導してくれる。葦名を救う為に人外となった所もあるし、根はかなり優しいのだろう。
―――
――
―
「此処だな」
「あぁ。だが・・・」
30分程で、仙峯寺本堂前に着いた。だが、何故か封鎖されている。
「むぅ・・・何処かが壊れでもしたか?」
「いや、それなら明確に何処が壊れたか、この山道の入り口で書く筈。それに、観光客慣れしている甘味処のおばさんが何も言わない訳が無いだろう?観光業は、地域全体で情報網を張るものだ。1ヶ所の不具合を、迅速に他で補えるようにな」
「いやに詳しいな」
「忍の術は、
「成る程・・・しかし、確かにそうだな。それに、この仙峯寺も博物館と化した葦名城に負けず劣らずの人気スポットだ。この
そう。この本堂前の階段に、俺達以外誰もいないのだ。
普通観光客は、中に入れずとも観光スポットの外観だけでもと写真を撮るもの。しかし、それすらいない。
「どうも、キナ臭いな」
「不死斬りがあるとすれば、此処だからな」
「全く。何時の時代も、葦名は狙われるモノなのか」
「その心づもりの方が、良いだろう」
それに何より、妙な気配と言うか、おかしなモノがいる気がするのだ。蟲憑きとは違う、何かが。
「ッ!誰か来たぞ!」
「隠れよう」
慌てて近くの背の高い草むらに入り込む。すると、本堂の中から2人の男が出て来た。
銀のロザリオを掛けているのを見るに、どうやらキリシタンらしい。
「(ん?今、何か音が聞こえたような)···」
「(どうせ野生の獣だろ。ほっとけ)」
「(それもそうか)···」
2人は英語で何かを話しながら、煙草を吹かし始めた。
「ぬぅ、何か喋っているな」
「
「解るのか?」
「簡単な英単語なら、多少は」
しかし、寺にキリスト教徒か。面倒な事になっていそうだな。
「弦ちゃん。何か使えそうな物が無いか、探してくれ」
「意地でもそう呼ぶつもりか···あー、木刀代わりになりそうな木の棒はあったぞ」
「でかした」
弦ちゃんから棒を受け取り、策を練る。
堂の入り口左上にある屋根裏へ通じる穴は、まだそのままあるのが見えた。俺の鍵縄なら、容易く届くだろう。そして、右前方に大きな岩。子供2人なら、容易く隠れられる。
「···作戦は、決まった」
「本当か?」
「あぁ。取り敢えず、岩の後ろに移動しよう。
まず俺が指笛で、見張りを遠方へ引き付ける。その隙に、此処から本堂入り口まで一気に駆け抜け、俺の鍵縄で屋根裏に登る。そして縄で弦ちゃんを引っ張りあげ、その後は屋根伝いに、奥の院を目指す」
「指笛?見付かるぞ?」
「策はある。信用しろ」
「···良いだろう。任せる」
俺は竜胤の業から形代流しを取り出し、己の首筋を浅く切る。すると飛んだ血は全て
「お、おい、今何を···」
「シッ」
薬水瓢箪を呷り、左手で形代を3枚握る。そしてその人差し指と親指を口に含み、思い切り吹いた。
「···鳴っておらんぞ?」
「良いから、見ていろ」
手を開くと、形代が崩れて半透明の球体のようなものが出来ていた。それを切り落とすように、棒切れを振るう。
―ピゥーゥイッ―
「(ん?何だ?)」
「(笛?)」
すると音が飛んで木に当たり、其処から指笛が響いた。
「今だ、行くぞ」
「何だ今のは!?」
「形代忍法だ。習いたければ、今度教えてやる」
そう言いつつ、俺と弦ちゃんは入り口まで突っ切る。
しかし、コイツらを連れて来た奴はどんな教育をしているんだ?2人とも見に行ったぞ。何の為の2人1組見張り番だ。
「ほっ」
「上手いものだな」
鍵縄を引っ掛け、屋根裏へと登る。そして弦ちゃんが縄を掴んだのを確認し、思い切り引き上げた。
「っと、凄まじい力だな」
「コツがあるのだ」
などと言い合いながら、俺達は窓から屋根に出る。
流石に、巡回はしていないようだ。これなら、昔よりも楽に行けるだろう。
「弦ちゃん、彼処の橋の向かいの崖、横穴あるだろう。彼処から奥の院に行ける」
「また鍵縄か」
「無論」
音を立てぬよう屋根から飛び降り、橋の上へ。そして手摺を乗り越え、横穴の下に突き出た木の根に鍵縄を飛ばす。
「で、どうするのだ?」
「ターザンは知ってるか?」
「正気かッ!?」
「無論。口を押さえておけ」
「おいっ!」
弦ちゃんを抱え、跳んだ。俺達は振り子となり、崖が迫る。
「えぇい無茶をするっ!」
―ドドッ―
俺達は両足で壁に着地。衝撃を逃がし、縄を登った。
「上手く行ったな」
「一瞬、黄泉が見えたがな。おい、俺は死んでないか?」
「生きている」
軽口を叩き合い、横穴を抜ける。その先には、目指していた奥の院があった。
「···彼処から、屋根裏に上がれるな」
「引き上げは任せるぞ」
「任された」
天井に設けられた梯子を掛けるであろう穴に再び鍵縄を掛け、屋根裏に上がる。弦ちゃんも引っ張り上げ、屋根裏の柱を伝って奥の一室を目指す。
「全く、今生でも此処まで出来るか。忍の技が、魂魄に染み着いておるな」
「いや、今生でも鍛え直したからだ。それと、あまり喋るな。そろそろだ」
とは言ったが、何せ屋根裏から行った事など無いからな。殆んど当てずっぽうだが···方向は分かる。
「良いですか?これが最後ですよ」
「「っ!」」
男の声。後付けの天井の隙間から覗けば、やはりキリシタンの男。服は装飾が多く、地位が高いのだろうと分かる。神父だろうか。
そして向かいには···見紛う訳が無い。あの時と変わらぬ容貌の、変若の御子が座っていた。膝の上で丸くなっている黒猫を撫でながら、キッと睨むように神父と向き合っている。
「貴女が保管している、不死斬りと言う神器。この世を生み出した創造主の使者たる、我々にお渡し願いたい」
「何度も申しております。それは出来ません」
「「ッ!?」」
不死斬り。その単語に、俺達の顔は揃って強張る。
「そもそも、この寺で保管している不死斬りを、何故、貴殿方に渡さねばならぬのですか」
「無論、この世界の総てを、我らが主たる神が生み出したからです。我らが主の造物は、その信徒たる我らが保管する。それが当然の摂理にして、我らが主の思し召しなのです」
呆れた物言いだ。これだから唯一神教の狂信者は質が悪い。
「それは其方の理屈です。我々の信じる神道と仏教には、関係ありません!貴殿方の世界を否定はしませんが、不死斬りを渡す筋合いはありませんッ!」
「···逞しく、なったな···変若の、御子よ···」
御子の、決意の籠った強い言葉。自己主張が薄かった昔と違い、強くなったと目頭が熱くなる。娘の成長を見る父親も、こんな心境なのだろう。
「···そうですか。悲しいですね。貴女とは、良い関係でいたかったのですが···」
「言いたい事はそれだけですか?」
「全く、愛想の無い人だ」
そう言って、神父は出て行った。
「はぁ···其処の方々、出て来なさい。屋根裏に、いるのでしょう?」
「「ッ!?」」
バレている···
「おい、どうするのだ狼!?」
「下りる」
「はっ!?」
天井板を持ち上げて外し、御子の前に飛び降りる。舌打ちをしながら、弦ちゃんも続いた。
「子供?」
「気を付けてお米ちゃん、コイツ、とんでもない神器を持ってるっぽいにゃ」
すると、膝の上にいた黒猫が身を翻し、俺とさほど変わらぬ程度の外見年齢の美少女に変身した。着崩し気味の着物を揺らし、猫と同じ耳を動かして警戒しながら、鋭い爪を此方に向ける。
「
「手は出すな弦ちゃん。尻尾が三股···
「へぇ、よく知ってるわね坊や」
「オカルトの類いは好きなのでな。
それと、安心してくれ。変若の御子に、危害を加えはしない」
「信用出来ると思う?」
「···」
確かに、彼女の言う通りだ。今の今まで、宗教敵と思わしき奴がいた。それに、子供が屋根裏から出てくれば怪しむものだろう。
取り敢えず俺は胡座をかき、膝の上に手を置いた。
「俺は、なるべくこの姿勢を崩さん。怪しいと思えば、好きなように拘束してくれて構わん。
話させて貰っても、良いか?」
「···嘘は無さそうだし、取り敢えずは···聞くだけ聞いてあげる?」
「そうですね。気になりますし」
良かった。問答無用で放り出されはしないらしい。
「···久しいな、変若の御子よ」
「へ···?何処かで、会いましたか?」
···まぁ、分かる訳も無い。
「···俺だ。九朗様の、忍だ」
「ッ!!み、御子の、忍!?」
「は?あんた何言って···」
顔をしかめる猫魈だったが、御子が手で制してくれた。
「九朗様に、宿った力は?」
「竜胤の力。因果の中心点たる、神なる竜の、瞳」
「お授けした不死斬りの、色と、銘は?」
「赤の不死斬り。銘は、拝涙」
「···私の、好物は?」
「柿だ。良く熟れた、真っ赤な柿。これ程、美味い物は無いと、喜んで食べてくれたな」
「···あぁ、やはり、貴方なのですね···!」
そう言って、御子は口許を押さえる。どうやら分かってくれたようだ。
「え、お米ちゃん?その忍って、いっつも聞かせてくれてた奴?戦国時代の?」
「えぇ、間違いありません!輪廻に乗り、再び人の生を得たのですね···」
「あぁ」
「そうですか···」
御子の顔が、喜びと哀しみ、憐れみが入り雑じった複雑な笑顔に変わる。
仏教思想は、輪廻からの解脱を目的とする。苦の多いこの世に再び生まれてしまった俺に対する憐れみと、それでも本当の自分を知っている人間が再び現れた事への喜び···そんな所か。
「所で、其方のお方は?」
「···葦名弦一郎。国盗り一心の孫にして、当時葦名の次期当主···だった者だ。其処の狼と衝突し、敗れたがな」
「御子の忍と対立···竜胤を、利用しようとしたのですね」
「あぁ。だが、今生ではもはやその必要も無い。俺の愛した葦名は、形は変われども生きているからな」
憑き物の落ちたような顔の弦ちゃん。護ろうとした葦名に、活気があるのが嬉しいのだろう。
「···して、御子の忍。今日は態々此処まで、何用で?」
「···我が
「分かりました。黒歌、少し繋ぎをお願いします」
「うーん···ま、お米ちゃんが言うならするにゃ」
「有り難う御座います」
そう言って、御子は部屋の奥に消えた。
「···おい」
「ハイハイ、何かしら?」
「俺は、葦原志狼だ···弦ちゃん」
「ん、あぁ。俺は葦斑弦一郎だ」
「此方は名乗った。お前の名を知りたい」
「礼儀正しいんだか、失礼なんだか···黒歌。黒い歌と書いて、黒歌よ」
「黒歌···他に染まらず、己の心を歌い続ける、か。強く、気高く、美しい名だ」
「···口説いてる?」
「心外だ。印象を、言っただけだが?」
おい、何だその『うわぁ何コイツ』みたいな顔は。
「お待たせしました、御子の忍よ」
と、御子が長い箱を持って戻って来た。不死斬りが納められていた箱だ。
「やはり、ここにあったか。かたじけない。それと、俺の事は狼と呼んでくれ」
「分かりました、狼」
目の前に置かれた箱を開けると···赤の不死斬りと共に、我が愛刀楔丸と、そして忍義手が入っていた。
「···久しいな、我が牙」
楔丸を取り出し抜いてみれば、結露に濡れたが如く薄く曇った刃と、鏡のような
そして忍義手に目を移せば、此方も何ら不具合は無さそうに見える。よくこんなオーパーツを造ったな道玄は。
「そして、不死斬り···」
「狼よ、お忘れでは、ありませんね?その不死斬りは···」
「抜けば、死ぬ。分かっている」
「···まさか、貴方は···」
御子と眼を合わせ、神器を発動する。左頬には、竜胤の呪いと同じ痣が出来ているだろう。そして、左目も。
「桜花弁の、瞳···そして、竜胤の痣···」
「弦ちゃん。俺の鞄を、持っていてくれ」
「あ、あぁ···」
弦ちゃんに財布ごと持ち物を預け、俺は不死斬りの鍔を押し上げる。
血色の妖気が漏れ出し、俺の手に纏わりついた。
―ドクンッ―
「ぐっ···」
「狼ッ!?」
膝を着き、崩れ落ちる。己の心臓は止まった。しかし···
―ドックンッ ドックンッ ドックン ドックンッ···―
心臓の音が、聞こえる···
桜花弁が舞い、俺は甦る。今生では、初めての回生だ。
「やはり、貴方に宿る神器は···」
「···神なる桜竜の、五行界眼」
「道理で、ここ10年、桜竜の気配が消えていた訳です」
「それは、大丈夫なのか?」
「あぁ、問題はありません。豊穣の加護も、竜の気を受け育った
そう言って、御子は掌から米を出してくれる。どうやら桜竜の力の後継者の証である米生みの神通力は、既に御子の魂魄そのものに宿っているらしい。
「楔丸と、忍義手。確かに貰い受けた」
俺は忍義手と楔丸を、竜胤の業で体内に仕舞う。
「にしても、神格クラスのドラゴンが宿ってたのね···えげつない気配がする訳だにゃ」
「そんなに、分かるものなのか?」
「その感じを見ると、人外の干渉は無かったぽいにゃぁ。もはや奇跡的な確率にゃ。
と言うか、そっちの弦ちゃんも持ってるにゃ」
「マジで分かるのか···」
「まぁ、そんな気はしてた」
いやはや、一心様では無いが、人の縁とはやはり面白いものだ。
これは、少し話が長くなるかもしれないな···
to be continued・・・
~キャラクター紹介~
葦原志狼
主人公の狼。割とノリが良いし、あだ名呼びとか普通にする。
今生にて、かつての牙たる忍義手と楔丸を回収した。
1年間努力して葦名に来たら、まさかの弦ちゃんと遭遇。狼自身は過去の事はもう気にしておらず、割と気さくに弦ちゃんと接している。
流派技や形代忍法は健在。
天然タラシの才があるかも···
葦斑弦一郎
弦ちゃん。九朗様が創設した甘味処で、偶然同じ日に来ていた狼とエンカウント。
狼に対して思う所はあるものの、当の狼は自分をちゃん付けしてくる始末なのでもう気にするのも馬鹿らしくなった。多分バディ兼苦労人的なポジ。
仙峯寺を訪れたのも、黒の不死斬り《開門》のその後を確かめる為。
ちなみに白色白蓮華が歪んで黒くなっていた黒蓮華の開門は、仏法と拳法が整えられたことによって、今は白蓮華になっている。
変若の御子
お米ちゃん。神仏集合寺としての仙峯寺開祖。
現在は不死斬りの管理をしつつ、仏教と神道の均衡を保っている。
そのスタイルは、現世にて徳を積めば天国に逝けると言う仏教思想に、なろうと努力を積んで死ねば土地神の一員となれると言う神道要素を組み合わせたもの。
何より画期的なのが、最初から別々の宗教世界観だとハッキリ明言している所。この2つの法則の矛盾を逆利用し、信徒にどちらが良いか選ばせ、強要させずゾーニングしている。
そして、神は実在するが、宗教はあくまでも今日や明日を生きる為に心を支えるものであると教え、宗教そのものへの依存が無いようにしている点も、宗教として珍しい点。
要は、『救いは複数あるから、1つの救われ方に拘って無理に我慢しなくて良いよ。この世界がしんどかったら向こうの世界に乗り換えて良いからね』と言う事。
因みにこの教えにより、葦名は人間から転生した無名の土地神がえげつない程多い。其処から高天ヶ原に人材ならぬ神材派遣もしている。なので天照様とかに直通の極太パイプがある。パイプと言うかもはやトンネル。
更に、この有り余った神様パワーを消費する為に御霊降ろしの飴やら御祓の紙吹雪やらを量産している。ので、葦名は数が減った現代陰陽師にとっても御用達の土地である。
また、これらの土地神は人間と同じくこの教えを信仰している。この信仰は総てお米ちゃんに収束しているので、ぶっちゃけお米ちゃんはかなり高位の現人神と化している。
最近聖書陣営から頻繁且つ高圧的な勧誘(半ば脅迫)を受けているが、もし戦えばどちらが泣きを見るかは明らかである。
黒歌
結構人気なお姉ちゃんキャラ。狼が感じた気配は黒歌のもの。
悪魔に追われて1ヶ月程前に葦名に逃げ込み、以来お米ちゃんに匿って貰っている。
今作では今12歳。志狼達より2つ上である。
えげつない程の信仰によって神の包容力を得たお米ちゃんのお陰で、精神的にはかなり回復している。
因みに原作通り家事は壊滅的であり、全てお米ちゃんに任せっきり。なので発言権が低いと言うか、お米ちゃんに口答え出来ない。
モブ神父
典型的なクソ狂信者。イメージはナチスのゲルマン民族至上思想。
因みに悪魔や堕天使もこの手の勧誘を行っている。
例によって、世界中に宗教侵略しまくって無理矢理知名度を上げた聖書陣営は、それをしておらず信徒が少ない(ように見えるが、実は日常生活に溶け込みすぎて態々意識しなくなっただけ)日本神話陣営を嘗め腐っている。