ハイスクールSEKIRO   作:エターナルドーパント

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第6話 薄井の守護狼

(志狼サイド)

 

「···ふむ。分かりました。蚕姫様に掛け合ってみましょう」

「忝ない」

「気にしないで下さい。我々の仲ではありませんか」

夜。仙峯寺奥の院。

イッセーについての説明と頼みに、御子は快く頷いてくれた。

「取り敢えず、来週末。イッセー共々、両親を連れて来る。共に、説明を頼みたい」

「えぇ、勿論。では、そうですね···この御守りをお持ち下さい」

そう言って、御子は御守り袋をくれた。受け取ってみると、中に粒のような感触。どうやら、米が入っているらしい。

「これは、退魔師や陰陽師の方にお渡ししている御守りです。それを見せれば、此処にするりと通して貰えるでしょう。それに、城下町の路地裏に隠されているまじない屋にも入れるようになります。

謂わば、葦名の裏側へのパスポートですね。御霊降ろしの飴や、神吹雪なんかがご入り用ならば、是非いらして下さい」

「ふむ···良いのか?忍だったとは言え、俺はまだ子供だぞ?」

「確かに、肉体はそうですね。でも、それに精神年齢が引っ張られている様子はあまり無かったので」

「いや、年相応な所はあるぞ。弦ちゃんにやったみたく、割とえげつない事もサラッとするし」

「自覚あったんですか···それでも、例えば悪戯なんかはしないでしょう?」

「当然だ」

他人に迷惑がかかるし、何より人間として恥ずかしい。

「そうやって即答出来る貴方を、私は信用します。貴方なら、己の為すべき事を為す、その為に使ってくれると」

「···では、貰おう」

信用されているな、俺は。裏切らぬよう、肝に銘ぜねば。

「お米ちゃん!大変にゃ!」

戸を慌ただしく開け、黒歌が飛び込んで来る。

「何事ですか?」

「葦名の北の方のあの森に、悪魔が侵入しやがったにゃ!」

「何だと?」

御子の反応より先に、俺の声が漏れた。

「葦名の北に離れた森、薄井の森か」

「そうそれ!あの霧が掛かりっぱなしの、あの森!」

俺の背中に、ゾワリと嫌なものが走った。

「···黒歌殿。もしや悪魔には、密猟を行う輩がいたりするか?」

「いる。って言うか、しょっちゅう其処らで幻獣なんかに手を出しまくってるにゃ。私だって、それと似たような口だし」

「となると、急がねば。奴らの目的は、恐らく薄井の猛禽だろう」

霧鴉達···薄井の猛禽の捕獲は、正攻法ではほぼ不可能に近い。何せ、忍具《霧がらす》と同じく、霞のようにかき消えてしまうからだ。

だが、超常を宿せども所詮は生物。何らかの方法で眠らせるなどしてしまえば、後は為すがまま。オマケに相手は悪魔だ。当然魔法を使うだろうから、常識は宛にならぬ。

もし、羽だけでも悪意ある悪魔に渡ろうものなら···そして万が一、薄井の猛禽そのものが捕まってしまったとしたら···

それをどう活用するかは、前世の義父、梟の戦いを振り返れば、火を見るより明らかである。

「くっ、神霊達の罠と抵抗は!?」

「え~っと···ダメ。蹴散らされてるっぽいにゃ」

「···薄井の森に、生前入った事のある者はいませんからね。土地を少しでも離れたせいで、力も薄れているのでしょうか···」

「何よりその者達は、恐らく平和の中で育った神なのだろう。野山で狩る獣相手なら兎も角、少なくともそれらとはかけ離れた姿であろう悪魔相手では、攻撃する対象と言う認識が追い付かぬのやも知れぬ」

「うぐぐ···妖怪とももっと積極的に交流していれば、こんな事には···最寄りの陰陽師も、最近は少し忙しいようですし···」

悔しがり奥歯を噛み締める御子。どうも、現状の葦名はかなりの戦力不足らしい。

「···俺が行こう」

「え?狼、今何と?」

スクリと立ち上がり、グリグリと身体を解す。そして、竜胤の業で鍵縄と手裏剣車を取り出した。

「し、しかし···貴方は、飽くまで客人です。客人を戦わせる訳には···」

「問題無い。葦名は、我が故郷も同じ。この地を護るに、それより理由は要らぬ。

そして、忍義手を取り戻してからは···1つだけなら、そのまま忍具を使えるようになったからな」

「···死なないで、下さいね」

「···努めよう」

半ば諦め混じりな苦笑いと共に、御子は折れてくれた。

「良いの?正直、アンタは強いとは思うけど···」

心配してくれたのか、声をかけてくる黒歌。対して俺は、黙って鬼仏と向き合った。

今の形代は、全盛期の半分である10。形代流しを一度使うとして、15。形代消費が1と、最も軽い手裏剣を使えば···充分だ。

「して、敵は斬るか?それとも、生け捕りか?」

「出来る事なら、生け捕りを。情報は引き出さねばなりません」

「御意」

手裏剣車を仕舞い、任務を請け負った。

とは言え、身体は未だ10歳の子供。油断や慢心は大敵である。オマケに数珠玉で伸ばした身体力も、どうやら還元されてしまっているらしい。数珠玉が40個、竜胤の業に入っていた。

···取り敢えず、20個分伸ばしておくか。

「···よし、行くか」

「···私も、行くにゃ」

準備を整え、窓際で鍵縄を構えた所で、黒歌が声をあげた。

「黒歌···危険、なのでは?悪魔に、追われているのでしょう?」

「確かに、そうだにゃ。でも···割と新参な志狼が頑張ってる手前、先輩がじっとしてちゃ、格好付かないでしょ?

それに···あの屑共を野放しにしてたら、腹の虫が収まらないし」

窓の縁に座り尻尾をくねらせ、月光を背に妖しく微笑む黒歌。12の子供とは思えぬ程の妖艶さと共に、悪魔の好きにさせてやるものかと言う敵意がひしひしと伝わって来た。

「···どうやって、戦える?」

「樹の上から奇襲。後は、仙術で気弾を放ったり出来るにゃ」

「···前衛は、任せろ。背中は、任せるやも知れぬ。念の為だ」

眼を真っ直ぐと見つめ合い、互いに頷く。

「···では、私は止めません。狼、黒歌をお願いします」

「御意」

「え、私が御守りされる側?」

「年期が違うのだ」

軽口を叩きながら、窓の外の木の根に狙いを定める。

「では、行ってくる」

「御武運を。私は、陰陽師の応援を呼びます」

両手を合わせる御子に見送られ、俺と黒歌は窓から飛び出した。

 

(NOサイド)

 

―カヒュンッ―

 

夜の谷に、乾いた音が響く。そして、月夜の空に2つの影が舞った。

木や岩、崖を足場にして、黒歌と志狼は薄井の森へ急ぐ。

「···ねぇ」

そんな中、曇った表情を浮かべていた黒歌が口を開いた。

 

―カヒュンッ―

 

「···どうした」

「その···聞かないの?」

「···何をだ」

 

―カヒュンッ―

 

一瞬樹の枝の上で足を止める志狼。しかし黒歌に短く問い返しつつ、再び跳躍する。

「何をって、その···私に、何があったか、とか」

「聞いて、欲しいのか?」

「いやっ、そう言うわけじゃ···ただ、こう···匂わせるワードが結構出てるのに、気にならないのかな、って···」

「···」

 

―カヒュンッ―

 

「あ、ちょっと!」

黙って前進する志狼に、慌てて追随する黒歌。何も言わない志狼に対して、黒歌は多少の不愉快を覚える。

「じきに、森だ。片付けてから、ゆるりと話そう」

「···分かったにゃ」

小さくボソリと承諾し、志狼に続く黒歌。

間も無く、霧が立ち込める森に入った。霧とまぼろし満ちる、薄井の森だ。

 

―ギャーッ ギャーッ―

 

「騒がしい···向こうか」

夜にしては、多過ぎる鳥の声。その中でも声の密度が高い方向を聞き分け、霧の中を志狼は進む。

そして数分と経たず、無数の鴉に襲われている怪しい4人組の男達を見付けた。

「クッソ、鬱陶しい鴉共がッ!」

「攻撃がッ、思うように当たらねぇ!」

男達はそれぞれ魔力弾等を放って攻撃するが、鴉の群れ···霧鴉達はその攻撃を悉くすり抜ける。

「間違いない。あれは悪魔だにゃ」

「そうらしいな···あの真ん中の男が持つ鳥籠···もしや、既に捕まったか」

志狼の言う通り、男達の陣形は、鳥籠を抱えた1人を他の3人が外向きに取り囲むと言うもの。必死に守っている所を見ると、どうやら捕まえる事に成功したらしい。

「ガァァァァーッ!!」

「ッ!あれは···!」

そこに、他の霧鴉よりも明らかに巨大な影が飛び込んだ。

赤茶けた羽を持つ、体長1m、翼長3mを優に越えるであろう、巨大な鴉である。

 

―ボボボボゥッ!―

 

「ぎゃっ!?」

「熱ッ!?」

それが他の霧鴉と同様に霞とかき消え攻撃を避けると、何とその回避の軌跡に紅蓮の炎が迸った。悪魔達は盛大に狼狽え、火傷を負った腕などを庇う。

「な、何あれ!妖怪!?」

「霧鴉の、ヌシ···焔鴉(ほむらがらす)。義手忍具として、世話になった」

志狼の言う通り、加勢にやって来たのは、長寿の霧鴉が五行の力を引き出す境地に至った個体。即ち、霧鴉のヌシである。

「チィ、使いたくなかったんだが···合わせろよッ!」

「分かった!」

悪魔達は何やら言葉を交わし、1人が両手を開くように構えた。その右手には、得体の知れない何かが握られている。

「うりゃッ!」

 

―バゴォォォンッ!!―

 

男が頭の上で両手を叩き合わせて、掌の中の物を握り潰した。すると、そこを中心に小規模の銀河系のようなエフェクトが発生し、中から無数の星が飛び出す。

(ッ!馬鹿な!?)

「な、何よあの魔法!?」

志狼が内心で驚く中、その星は霧鴉のヌシ、焔鴉に殺到。破壊力のある小爆発を伴って、焔鴉に衝突した。

しかし焔鴉も、伊達に永く生きてはいない。初弾の爆裂を回避し、それによって弾けた炎で他の星も誘爆させたのだ。

しかし、悪魔はそれも織り込み済みだった。

「今だ!」

「くたばれェェェェ!!」

星の爆発を発生させた悪魔の相方と思われる男が、焔鴉の回避した先に拳を向ける。その手には、掌に収まらない程巨大で、メロンのように筋張ったエメラルドグリーンの蛞蝓(ナメクジ)が握られていた。

「いかんッ!」

「ごへぁッ!?」

「ちょっ、志狼!?」

それを認識した瞬間、志狼は躊躇い無く飛び降りる。そして瞬時に取り出した楔丸の柄頭で、拳を構えていた男の脳天を打ち据えた。

「貴様ッグハァッ!?」

自分に気付き攻撃を仕掛けて来た敵に、志狼は右上への斬り上げを繰り出す。そして、その勢いのまま後方にロンダートして離脱した。

寄鷹斬り・逆さ回しである。

「な、何だ貴様ッ!」

「が、餓鬼がァ!」

「···試すか」

激昂する悪魔に対して、志狼は冷静に手裏剣車を取り出す。装填されているのは、まぼろしクナイ。

志狼は、それを持った左手を勢い良く振るった。

 

―シャリリッ シャララッ シャリリッ シャララッ―

 

「うがっ!?」

「な、何だこれはァ!?」

放たれた、4本のクナイ。鈴にも似た音を経て飛ぶその後を、黄金色に光るまぼろしの蝶々が追い掛ける。そしてクナイと共に、標的にぶつかった。

その痛みと衝撃で悪魔達は怯み、また守られていた男は鳥籠を落としてしまった。

「···やはり、な」

 

―カヒュンッ―

 

小さく呟きつつ、志狼は鍵縄で鳥籠を回収する。

(形代消費が、2つから1つに減っている···やはり、霧がある所ならば、まぼろしを作る分の形代が浮くらしいな)

本来、まぼろしクナイの形代消費は2。しかし、今回4本放ったが、消費した形代は1ずつ、合計4だ。

「この餓鬼ッ!返しやがれッ!」

「貴様のモノでは無い」

 

―ガィンッ―

 

敵の魔力弾を弾きながら、志狼は取り敢えず鳥籠を頭上にいる黒歌に向けて放り上げる。そして、空かさず籠を持っていた男に接近。有無を言わさず、脳天を思い切り蹴り落とした。霧鴉の捕獲に用いたであろう何らかの術を、自分に使われないようにする為だ。

仙峯寺拳法、菩薩脚が炸裂し、籠の男は瞬時に昏倒する。

「グワァァァァーッ!!」

更に、焔鴉も攻撃を再開。鋭い爪や嘴、そして羽から生じる爆炎で、次々と悪魔を薙ぎ倒す。

志狼もそれに加勢し、まぼろしクナイで蝶々を飛ばして悪魔達を翻弄した。

「ひぃッ!ば、化物ォ!」

「貴様らには、言われたく無い」

 

―ドガッ―

 

「ガフッ!?」

最後の1人の首を鞘に納めた楔丸で打ち据え、意識を刈り取る志狼。他の悪魔達が気絶しているのを確認し、樹上の黒歌に合図を送った。

「す、スッゴいにゃぁ志狼···」

「これでも、前世程は動けていない。それより、籠の鳥を放ってやれ」

「ん、分かったにゃ」

メキッと音をたてて、籠を裂くように壊す黒歌。華奢な身体からは想像出来ないが、それでも元妖怪。人間よりも剛力だ。

「ガァァー···」

「おーよしよし、怖かったにゃ」

「もう、大丈夫だ」

怯えているのか、羽毛を膨らませて震える霧鴉。よく見れば、嘴や羽の色艶から、若い個体である事が見て取れる。

「フム···焔鴉に差し出してみろ」

「あ、そっか。長老みたいなもんだもんね」

志狼の提案に乗り、籠を焔鴉に差し出す黒歌。すると焔鴉はその中を覗き込み、ククッ、ククッと呼び掛けるように鳴いた。

「クァッ!クァッ!」

それに答えるように、霧鴉は籠から飛び出した。

焔鴉の足元に寄り、擦り付く霧鴉。焔鴉は、やれやれと言った様子でそれを受け入れる。

「さて、後はこの悪魔共を縛り上げて、連行するだけにゃ」

「···その前に」

志狼は悪魔達の懐をまさぐり、気になっていた2つのモノを探す。そしてそれを見付けて、両手に掴んだ。

1つは、エメラルドグリーンの巨大な蛞蝓。そしてもう1つは、捕食器官(バッカルコーン)を目一杯伸ばしたクリオネのような軟体生物。

「上位者の、先触れとなる精霊···がッ!?」

 

――――――――――こわいよ···なんで、おともだちをころすの?なんでそれを、わたしにくっつけるの?こわい···さみしいよ···だれか···たすけて···

 

突如として、衝撃を受けたように踞る志狼。その脳内には、上位者の先触れに籠った強烈な残留思念が流れ込んでいた。

「ちょ、志狼!?大丈夫にゃ!?」

「···泣いて、いる」

「え?」

「淋しいと、怖いと、助けてくれと···何処かで、少女が、泣いている···」

「ちょ、ちょっと!」

譫言(うわごと)のように呟く志狼に、黒歌の眼が心配で染まる。

「憐れな、娘が···」

「しっかりして!」

 

―ゴンッ―

 

「うごっ!?」

正気とは思えない状態となった志狼の頭に、黒歌が鉄槌を振り下ろす。そこそこ鈍い音をたてた拳の打撃で、志狼の意識は現実世界に引き戻された。

「···済まぬ。兎を、追ってしまった」

「兎?」

「俺の神器は、手にしたものに宿った残留思念を読み取るのだ。その記憶が、兎だ」

一呼吸置き、志狼は立ち上がる。もう大丈夫そうだ。

「おやおや、片付いとるねぇ。ウチら要らんかったかな」

「「ッ!?」」

と、後ろからの声。慌てて振り向くと、黒いビジネススーツのような服を着た糸目の女と、少し若い青年が立っていた。

「って、陰陽師のお姉さん!脅かさないで欲しいにゃ!」

「ちゅーたかたてクロにゃん、どないなアプローチ掛けても、どーせビックリしとったと思うで?」

彼女と黒歌は面識があるようで、軽口を交わす。

「しっかしまぁ、コイツらをあんさんらだけで仕留めおったんかいな。いやーあっぱれあっぱれ」

「下っ端の悪魔でしょうが、それでもたった2人で···」

「あーいや、殆んどこっちの志狼と、あとカラスの親玉がやっつけてくれたにゃ···ってあのでっかいカラスいないにゃ!?」

黒歌が驚く通り、焔鴉は音も無くその場を去っていた。薄井の猛禽故の隠密能力である。

「ほー、ほなその少年(ボン)が、あの御子サマが言うとった子ぉかいな」

「···葦原、志狼です」

「おう!ウチは黒沢天猫(くろさわアマネ)。現代陰陽師やっとるもんや。天に猫って書いて、アマネな?」

「猫というよりは、イタチかカラスか、狐に似ている」

「カカカッ、確かに女狐とかよう言われるわ!で、コッチが弟子兼助手の証枝翔太(あかしえショウタ)。今年で18や」

「20台届いてなかったのか」

「いや、僕としては君のような子供が悪魔を下した事の方が驚きですよ」

「ほ~らショウ!とっとと縛り!」

驚く志狼に、呆れで返す証枝。その間に、黒沢は悪魔を縛り上げる。

「うっしゃ、これでヨシっと。さーて、シロのボン。このタワケ共はウチらが責任もって事後処理しとくわ。

っと···そう言や、何やそのヌメヌメ」

悪魔達を縛り終えた段階で、漸く志狼の持つ得体の知れない軟体生物の話題に触れる黒沢。

「···恐らく、何処かの上位者···神の、産物と言うか、先触れと言うか···」

「ん~···なーんや最近けったいなテロリスト共が使(つこ)うとるヤツに似とるなぁ···

でも、それには何か···何やろ。ボンの手に、()()()()()()()()()()()っちゅうか、そんな気配がするねんなぁ···うッ!?」

気味悪げに蛞蝓をつついた途端、黒沢は顔をしかめて小さく飛び退いた。

「ぼ、ボン!お前さん、これそんな触って何ともあらへんのか!?」

「···残留思念が流れ込んで来たが、一応正気のつもりだ」

「先生、どういう事ですか?」

「あーショウ、こらアカンわ。何や知らんけど、このヌメヌメにはどっかのものごっつエグい()()()の力と思念の欠片が乗っとる。

その思念は何故かボンに向いとるみたいやから、ボンは正当な持ち主、みたいな感じで平気なんやろかなぁ···さながら寄生虫の最終宿主やな。クワバラクワバラ」

青い顔をして、ペットボトルの水で手を洗う黒沢。証枝と黒歌が混乱する中、志狼は内心で頭を抱えていた。

(···あの黒い男(上位者)か···)

少なくとも、それ以外に心当たりが無い。

「あー、シロのボン。お前さんが何でその神さんに眼ぇ付けられたか知らんけど···取り敢えず、悪いけどそのヌメヌメ共はボンが持っといてや。ウチらが預かれたらベストなんやろけど、如何せんボンが持ってる方が安定するみたいやでな···はー情けな」

「···承知」

申し訳無さげな黒沢の指示に頷き、志狼は先触れ達を竜胤の業で収納する。同じ蛞蝓である貴き餌も仕舞えたように、何の抵抗も無く入って行った。

「ほー、それがボンの神器か。ま、取り敢えず御子サマん所帰ろか。

詳しゅう話しちゃるさかいな。あ、車持って来とるから、後ろん席乗ったらええわ」

「···少し、待っていて下され。黒歌と、話がある故」

「···へぇ~?」

志狼の頼みに、ニッチャリと意地悪げな笑みを浮かべる黒沢。

「そーかそーか。ほんなら、邪魔はしたらアカンな~。おーいショウ、さきソイツら、荷台に積んどこ」

「あ、はい。分かりました」

(···何か勘違いされた気がする)

変な気を利かせた黒沢によって、志狼と黒歌は2人きりになった。

 

「···何故、踏み込まないか···だったな」

「えっ?あ、あぁうん。そうだにゃ」

志狼が話し掛けると、黒歌は戦闘前の会話を思い出した。

「···前世で、13になった頃。義父上に連れられ、遊郭に行った事がある」

「へ?」

いきなりおかしな所から話が始まり、困惑する黒歌。

「色仕掛けに乗らぬように、耐性を付けておけとな。そして、通されたのだが···相手の遊女が、何故か素人でな」

「えーっと、うん···遊郭って言ったら、今で言う所の所謂風俗店ってヤツかにゃ···」

「あぁ···当時の俺は今と違い、あまり口数が多くなかった。気の効いた言葉も掛けてやれず、遊女も緊張で固まってしまい、どうにも空気が悪かったが···そんな時、遊女の飼い猫が寄って来たのだ」

「えっ、遊女って猫飼えるの?」

意外だったのか、聞き返す黒歌。あぁと頷き、志狼は視線を斜め上に上げながら続ける。

「その遊女から、聞いた話だが···遊女は、冬も素足が粋。故に、脚にすり寄ってくる猫は流行っていた、らしい。

その猫を撫でる内に、お互いに緊張が解れた···まぁ結局何も出来ず、義父上には呆れられたがな」

「···えっと、それで?」

「最初、猫に避けられてな。見かねた遊女が、教えてくれた。

『猫は、自分から歩み寄るのは好き。でも、近付かれるのは嫌い。だから、猫が近付いてくれるのを待つのですよ』、とな」

小さく2歩、黒歌から距離を取る志狼。そして目線を黒歌に合わせ、半ば伝わっているであろう意思を口に出す。

「俺は、敵は兎も角、人の機微に疎い。下手に踏み込んで傷付けるより、信用を得て自分から話して貰おうと思っていた。

何より、俺は猫が好きだ。猫としても人としても、美しいお前を傷付け、嫌われたくは無い」

「え···?へっ?ちょっ、はぁッ!?」

唐突な志狼の口説き文句に、一拍遅れて頬にカッと朱が差す黒歌。何でも無い事のように言われると、どうにも弱いようだ。

「故に、俺は詮索はしない。お前が俺を信用し、話してくれる時を待つ。

さぁ、行くぞ。黒沢殿達が待っている」

「···あっ、ちょっとぉ!」

割と終始振り回されっぱなしな黒歌。しかも志狼は全部本気で言っているのだから尚質が悪い。

「···あ~こわいにゃぁ~、この天然タラシ···」

朱い頬をカリカリと掻きながら、黒歌は志狼に着いて行くのだった。

 


 

「おー、あったあった」

四肢を拘束し口と眼を塞いで4人乗りオフロードトラックの荷台に積み込んだ悪魔達の懐をまさぐり、目的のものを見つけ出す黒沢。それは、志狼が手に入れたものと同じ、2匹の不気味な軟体生物である。

「先生。他の奴は持ってませんでした」

「成る程。っちゅー事は、この2匹1組を、4人の内2人が持っとって、その1組をシロのボンが手に入れた、と」

「···あの、先生。それは触って、大丈夫なんですか?何か、さっきは触れたらヤバいって···」

「ん?あぁ、これは平気っぽいわ」

軽く言いつつ、軟体生物を布袋に入れる黒沢。その手を念の為、酒で流して浄める。

「と言うより、どっちか1組がボンに渡れば、神さん的には満足やった、っちゅー感じかな~コレは。せやから多分、こっちにも思念自体は乗っとったんやろな。せやけど片方がボンの手に渡ったさかい、こっちの思念は解消された、ってな所やろ。

しかし、まさかこんな所でサンプルが手に入るとはなぁ···」

車のエンジン掛けながら、証枝に自分の推測を語る黒沢。怪異と向き合う職業故か、その声には若干好奇の色が滲んでいる。

「ま、人間が無闇矢鱈と神秘に深入りし過ぎたらアカンでな。

好奇心は猫をも殺すで。こう言うのは、人の身であれこれ()()()には荷が重いわ。日本の神さんらにも、掛け()うて貰お」

理性的な決断を下し、黒沢は車内に常備しているニコチンパイプを咥えるのだった。

 

to be continued···




~キャラクター紹介~

葦原志狼
天然タラシな戦国忍者。
遊郭のエピソードは完全に捏造だが、まぁ忍者としては有り得るんじゃね?って事で。
前世程は動けないが、それでも大人をノックアウトする程度は余裕。何故なら戦闘経験の密度が違うから。
仙峯寺拳法は優秀なので、お気に入りだったりする。
何やらけったいなモノを手に入れてしまったが、呆れはしつつも受け入れてしまっている。ヌルヌルは貴き餌(源の宮の蛞蝓)で慣れてるし。
残留思念を読み取る能力は、フレーバーテキストの正体の深読み、と言うか定説。

黒歌
志狼に割と振り回されっぱなしな猫魈お姉ちゃん。
シリアスシーンでは猫語尾が外れる。
志狼の天然タラシスキルにドギマギしちゃうお年頃。自覚があるので「私チョロくないかにゃ?」と思っているとかいないとか。
現代陰陽師の2人とは、お米ちゃん経由でそこそこ交流はある。

黒沢天猫
癖が強めな関西弁を話す、プロの現代陰陽師。キャラのモデルは、《ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか》のロキ(しかし胸は美乳程度にある)。
志狼はシロの少年(ボン)、黒歌はクロにゃん、お米ちゃんは御子サマ、弟子の証枝翔太はショウと呼ぶ。
フレンドリーで、割と他人と打ち解けやすいタイプ。糸目で細めな顔から、狐のようだと良く言われるらしい。
仕事中は必ず護符や呪符、神社の御手水(おちょうず)や清め酒を入れたペットボトルを持ち歩いており、得体の知れないモノに触れた後は必ず手を洗い流す事を習慣付けている。また、怪異の変化を破る際にのみ喫煙もする(獣系の妖怪は煙草の紫煙を嫌う)。因みにニコチンパイプは吸う訳では無く、単に口が寂しいだけ。
生まれつき霊感が強く、神や人外の類いの波長を感じ取りやすい体質なので、件の軟体動物に込められた上位者の残留思念を強く感じ取ってしまった。但し、職業柄精神力はかなり強いので、全身に悪寒が走るだけで済んだ。
また、プロの肩書きを持つだけあって、引き際も弁えている。神秘に対して、人間の心が如何に脆弱であるかを理解しているので、常に深入りし過ぎないよう気を引き締めている。

証枝翔太
黒沢の弟子兼助手の青年。
霊感が強く、とある出来事から黒沢に弟子入りしている。
あまり進んで前には立たず、勝手に動かない慎重なタイプ。その教えやすい性格故に、黒沢には割と可愛がられている。
基本誰に対しても敬語で話す。

焔鴉
義手忍具【ぬし羽の霧がらす】の羽の持ち主。生物濃縮によって、葦名の地の名も無き神を大量に取り込んだ長老鴉である。
翼を持ち、風に乗って飛ぶものは、五行においては火行に属する。故に、羽から炎が迸る。

~アイテム紹介~

エーブリエタースのサキブれ
とあるジャキョウにもたらされた、オゾマしきシンピ。これは、それをツカみウみダされたヒギ。
ジョウイシャのサキブれたるナンタイセイブツ、セイレイをショクバイに、ミスてられたジョウイシャ、エーブリエタースのイチブをショウカンするもの。
かのクロきジョウイシャはワラいながら、ムスメをニンゲンにナげてヨコした。スベては、オノレのエツラクのタメに。

カナタへのヨびカけ
オゾマしきシンコウがウみダした、
ジャキョウのヒギ。

コウジゲンアンコクにすがりツヅけたジャキョウトタチは、ツイにアンコクのジョウイシャとマミえた。トロウにオわっていたハズのイノりは、かのクロきジョウイシャのメにトまったのだ。ゼッコウのガングとして。サイコウのクグツとして。

リアス・グレモリーは、王蛇みたく常識人の方が良い?それとも、原作通り無能姫で痛い目見せる?

  • 無難な常識人
  • 無能姫の鼻をへし折れ
  • 救いようはあるけど結局甘ちゃん
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