咲き乱れの紫電、舞うが如く   作:まろ@ファース党

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いきなり番外編からかい!そうだよ!
お滝ちゃんの生みの親ちゃんの誕生日記念です。だからお滝本丸の話。無自覚ソハ→←さにです。


番外編 紫陽花と太陽

「んー」

 本丸の、刀剣部屋からやや離れた自室。風呂上がりで下ろした髪もまばらに、布団に寝そべりながら、存分に伸びをする。

「今日はおもろい日やったなぁ」

 誰もいない虚空に向かって呟く。普段なら独り言を言ったりなどしないのだが、今日は自然と口からこぼれた。

 

 

 六月の上旬の今日、お滝は十九歳を迎えた。審神者になって初めて迎える誕生日。

昨日喧嘩別れして、激おこだった初期刀が、神妙な面持ちをして、高級そうな茶器と歌をしたためた短冊を持って早朝から現れた姿には、思い出しただけで笑みがこぼれる。

 実際に笑ってしまったら一時間近く説教されてしまったが。

 その後庭で、緊張していたのかいつも以上にただならぬオーラをまとったお小夜が花をくれ、受け取ったあと、それが合図だったのかのように、短刀たちがわっと一斉にお滝のそばへ駆け寄って、キラキラした目をしながら「主『主君『あるじさん、お誕生日おめでとうございます!!』』」と言ってくれ、愛おしさのあまり全員抱きしめた。

 他にも廊下で会った刀剣男士が声をかけてくれたり、ちょっとした贈り物をくれる者もいた。

 一番驚いたのが、執務中に夕餉に来るように近侍のまんばちゃんに呼ばれて向かうと、お滝が主役の宴会が開かれていた。

 そこでは、またもや歌仙が荘厳な口調で祝いの挨拶を述べていて、慌ててこみ上げてくる笑いを引っ込めた。

本当に、3日前怒りで顔を真っ赤にしてたわしをこちらに向かって投げてこようとしたのと同一人物、いや刀物?とは思えない。

 

 1年前には、存在すら聞いたことのない刀剣男士たちが、自分の誕生日を祝ってくれる。それを認識するたびに、なんとなく、ふらふら、ふわふわとどこか地に足がついてないような気持ちを感じながら一日を過ごしたのだった。

 

 時計を見ると、日付が変わるまであと1時間を切っていた。普段なら普通にまだ少し起きてられる時間だと思って、ついつい本を読み出したりなんかして、真夜中の2時過ぎに時間に気づいて慌てて寝るのだが、今日は、とても満ち足りた気分で、少し早いけど眠りにつこうと思って目覚ましに手を伸ばした。

 

 しかしながら。ただ、一つだけ。今朝からお滝の心を悩ませるものがあった。

 お滝は目覚ましを置いてすくっと立ち上がると、襖の片方を開けた。すると、たちまちに、もわっとした蒸気が部屋に入り込み部屋中を巡った。

 空気の変化に顔をしかめたあと、外を眺めると、激しく勢いの雨の粒が大量にとめどなく降り続いているのが真っ暗闇でもよく見えた。

 お滝はそれを見て盛大に息を吐いた。

 

 

 お滝は、雨が嫌いだ。

 梅雨の季節に生まれ、紫陽花にちなんで名付けられたのに、雨が嫌いとはお滝自身も滑稽だとは思う。

 

 雨が嫌いになったのには、理由があった。審神者になる前の現世でのこと。母親から、強制的に厳しい稽古事や勉強をやらされる毎日だった。

 晴れの日だったら、行く振りをして上手く逃れることもできた。しかし、雨が降ると、車の迎えが来て稽古場に送るのものだから逃げようがない。毎日雨が続くと、窮屈すぎて息が詰まる思いがした。

 

 これは、トラウマでもなんでもなく、平凡な人間が経験したささいな出来事かもしれない。お滝が好んで読んだ伝記の偉人たちはもっと劇的な出来事を経験している。

 それでも、雨が降る度に、稽古が終わって帰ると、アレがいるあの家で、一人ぼっちで、雨空を見上げることしかできなかった時を思いだして、苛立ちを覚えると同時に胸が締め付けられるのだ。

 

 今日は本当に楽しかった。今までで迎えた誕生日の中で一番思い出になる誕生日を迎えられた。ただ、

「雨、朝からずっと降っとるなぁ……」

 そのせいで、ふとした瞬間に憂鬱な気持ちになってしまうのは祝ってくれた刀剣男士たちに失礼だろうか。

 

「俺の霊力でも、流石に雨は止められねぇなあ」

 突然、ここで聞こえるはずのない声が外から聞こえた。

「え!?」

 反射的に、後ずさる。すると、足下の近くにあった本棚を強く蹴っ飛ばしてしまった。

「痛ぁ!」

 激痛のあまり足下をさすっていると、声の主が襖から顔を覗かせた。

「おいおい、大丈夫かよ」

 

 やはり声の主はソハヤノツルキだった。思わずキッと睨み付けるように視線を向けた。

「ソハ! なんでそないな場所におるん? びっくりしたやないかっ」

「あー、悪かったな。まさかそんなに驚くとは思わなかったがなぁ」

「そらびっくりするやろ! 昼間ならまだしも、こんな雨降っとる夜に縁側に座っとるなんて。縁側でも多少は雨入って来よるし、廊下は油断しとっと滑るで」

 

 出身も育ちも大阪なだけあって、矢継ぎ早に繰り出されるお滝の言葉に、ソハヤはからからと笑った。

「言われればそうだな。俺の霊力があれば滑ることはないだろう」

「そんな霊力って万能なん?」

「おう、主が考えているより何倍も役に立つからな。覚えといて損はねえよ」

 誇らしそうに胸を張るソハヤを見て、自然とお滝の表情も緩んだ。

 

 

「俺がここに来たのは、あんたに贈り物があるからだ」

 急にソハヤの声色が低くなった。

「それはおおきに。でも、さっき皆で集まってた夕餉のときでもよかったんとちゃう……?」

 それに少し困惑しながら、恐る恐る尋ねた。

「ああ。それでももちろんよかったんだが……あんた、最近俺を避けてるだろ。だから、上手く逃げられると思ったんだ」

 予想外の返答に思わず目を丸くした。

「ほんまに? ウチがそんなんわけない、やろ……」

 返答しながら、思い当たる節が見つかった。

「あっ……」

 

 

 思い浮かんだのはあの夜のこと。

 あの夜は、新月でいつも以上に本丸は静謐な闇に包まれていた。

 ただでさえ、日本家屋である本丸は廊下に明かりがなく暗い。行灯を持って歩いても、あまり先は見渡すことは出来ない。

 そこで、ソハヤと渡り廊下ですれ違った、ただそれだけのこと。

 そう、たったそれだけのなのだが、お滝にとって、十分すぎる事態だった。

『ん、……も、もしかしてソハ?』

 黄金色の髪が目に止まり、顔を上げた。

『おう。主か』

 

 ソハヤとの距離が縮まって、自分の持つ行灯が彼を映したとき、あの瞬間だった。

 お滝の心臓は一瞬止まったのは。

 

 いつもは上がっている、濡れた光沢ある髪をタオルで無造作に拭いていて。

 さらに、視線がこちらに向いたときには、人外めいた紅色の双眸が光った。

 

 思い返すと、あれは、お滝の知らないソハヤの貌だった。

 いつも楽しそうに笑っていて、陽気な兄ちゃんだと思ってたソハヤがあの時いつもと違っていて、それに気づくや否や、恐怖のような感情がどっと押し寄せてきたのだ。

その場から、『ごめん!また!』と逃げてしまった。

 

 それからというもの、ソハヤを見かける度に心臓がバクバクいって止まらない。お滝と馬が合う刀剣男士ランキングがあれば上位だったはずのソハヤが、今では心臓にメッチャ悪い存在になってしまった。だから、不用意に遭遇しないようにと、ソハヤがいそうな所に行くのはやめたのだが、避けるつもりは全然無くて、そう、あれはソハヤに対する一種の防衛反応だった。

 

「……避けてるつもりは全く無かった……けど、その」

「まあ、そんな気にすんなって。俺はそんなに気にしてねえから」

 ソハヤはふっと笑うと後ろに手を伸ばした。

「お誕生日おめでとさん、主」

 白い歯が比喩じゃなくて本当に輝いてるように見えた。ソハヤの明るい笑みは、久しぶりに見たがほっと安心する。無意識とはいえ、避けてしまっていた自分の行動が馬鹿らしく感じられた。

「お、おおきにな。今開けてもええか?」

「おうよ」

 なんとなくぎこちないロボットみたいな動きが抜けないまま、白い包みをうけとる。

 深緑色のリボンをしゅるりと解くと、隙間から金色がキラリと光った。

「これは……」

 金色の煌びやかなかんざしだった。手にとってみると、少し重い。先端にはつまみ細工で作られた小ぶりの花がついており、素朴だけど華やかで、派手すぎず品のある印象だった。

「わあ、綺麗やなあ……」

 照明灯にかざして光るのを眺めていたが、ふと重大なことに気がついた。

 

「このかんざし、割と値打ちものやないかこれ! ウチ、かんざし何本か持ってたから知っとるで」

「んー、まあ妥当な値段だったが。主が気にすることじゃねえよ」

「いやいや気にするわ! ……ソハは、まだうち来て1ヶ月ほどしか経ってないのに……」

「だーかーら。あんま気にすんなって。おかげさまで着る服も食い物もあるから買うもんなんてねえしな。兄弟が来たらなにかしら買うかもしれんが。……それより」

 

「気に入ったか……? 贈り物することなんざ初めてだし、あんたの好みかわかんねえけど」

 珍しく歯切れの悪いソハヤを見て、お滝は目が点になる。

 いつも漂っている格好いい兄貴オーラはなく、初めて見たときに印象に残った、柴犬のようなマロ眉が少しだけ困ったように下がっている。

 

 ────不安やったんやな。こんな姿しとるしウチより沢山のこと知っとるけど、人間の姿になったのはまだ間もないもんなあ。

 それならば、なるべく明るい声を、と意識して気持ちを伝える。

「すごく気に入ったで! ソハ、ほんまにありがとうな」

 

 

 

 

 

「良かった」

 それは、唐突に起きた。というより、ソハヤが起こした。

 真剣な顔で、お滝が、かんざしを持っている方の手首を大きな手で掴みこむ。たちまちお滝の全身に熱が巡った。

「ソ、ソハヤ……何して」

 やっとのことで、声を発すると、ソハヤが顔を上げて視線をお滝の方へ寄越した。あの時に見た、お滝が怖れている貌で。

 

「一目見て、あんたに似合うと思ったんだ。……よかったら、俺にこれをつけさせてくれねえか」

 顔を覗き込まれ、もう逃げることは不可能かのように思われた。……が。

「む、無理や!!」

 

 ソハヤの手を勢いよく振りほどき、顔を真っ赤にしたまま立ち上がった。

 

「ソ、ソハがわざわざやらんくても自分でつけれるし! ほんまウチのことはかまへんでええから! つけたら厠で鏡見てくるからちょっと待っててや! ほなな!」

 そう言いながら、胸を押さえて自室から出て行った。

 

 

 お滝が出て行ったあと、ソハヤは大きく一回息を吐いた。

「はー」

 すると、やや遠くの物影がびくりと動く。それを見て、ソハヤは苦笑した。

「前田。そんな所にいたら風邪ひくぞ」

「ソハヤさん……」

 

 呼ばれた前田藤四郎は、少し慌てた様子でソハヤの前に現れた。

「隠れて見ていて申し訳ありません。最近、ソハヤさんと主君の関係がぎごちないようで、不思議に思っていたのです。そしたら主君の自室へ向かうソハヤさんをお見かけしたので……」

「いいってよ。前田は、心配してくれたんだよな。ありがとな」

 そう言うと、ソハヤは小さな頭に手を載せる。前田は、しばらくされるがままに撫でられていたが、やがて何か意を決したかのように上を向いた。

「あ、あのっ……。僕、男性が女性にかんざしを渡す意味を聞いたことがあります。そ、その、ソハヤさんは、主君に、そういった意味合いで送られたのでしょうか……?」

「さあ、どうだろうな」

 前田に向かってからりと笑った。

 その姿は、いつも通りのソハヤだったが、前田の瞳にはどこか寂しそうにも映った。

「……でも、そうだな。綺麗な髪には、綺麗なものが映えると思ったんだよ」

 

 

 

「……ずっと長い間、暗くてジメジメした蔵にいたから。綺麗なものをまだまだ見たりねえんだ」

 言い終えるとソハヤは後ろを振り向く。雨脚は弱まったようで、お滝と会話を始める前よりいくらか小降りになっていた。雲の端が少し切れて、隙間から月光が本丸を照らしていた。

 

 

 

「太陽が輝く、夏が待ち遠しいな」

 

 




わ!ひさしぶりの小説かきかきだったから不安だけどなんとか書きおえた!やったね自分!!

お滝ちゃん、かわいいね…素直で明るい子なんだけど、審神者になる前の母親との確執があって、人を簡単に信用できない。純粋な子なのに、でも闇やちょっとした傷を抱えている所が良き。ぜひ幸せになってほしいな…。

描写をもう少し上手に書けるようになりたい。今回、動作の説明ばかりだから心情も。

次は、海音本丸の話を書きたい。本編から行くか、短編になるかは分からないけど、ぼちぼち書いていこうと思うのでお付き合いくださいね~
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