コミュ障ロリ魔王様のVtuber生活 in地球   作:波土よるり

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36配信目 魔王様のペットになるボイス

「ふんふんふーん♪」

 

 鼻歌を歌いながらパソコンを操作する。

 

 今日は魔王ニーナ・ナナウルム様こと、まーちゃんのボイス発売日だ。

 

 そう、まーちゃんの初めてのボイス販売なのだ……!

 もちろん購入した。

 

 私は普段、Vtuberのボイスをあまり買わないが、今日は別だ。爆速で買った。光の速さで買った。何なら家にあるイヤホンが調子が悪かったので、事前に良いやつを買ってある。準備万端。

 

 今回のボイスはまーちゃんの登録者が15万人を突破したことを記念して収録されたものだ。

 

 つい先日、登録者10万人突破記念でオフコラボがあったが、そのオフコラボ開催直後に今回のボイス収録の話が持ち上がったらしい。初めてのボイス収録にまーちゃんはてんてこ舞いだった。まああのテンパりぶりもカワイイことこの上ないのだけれど。

 

 オフコラボのときはちょっと協力したけれど、今回は普通の“ニーナ様のファン”としてボイスを聞きたかったので、ネタバレ回避のため、収録会場に付いていくことはしなかった。

 まーちゃんは「えぇ?! 来てくれないのか?! キラキライブのし、知らない人とお、お仕事とか無理じゃ… 無理ゲーじゃ……」と嘆いていたが、オフコラボで仲良くなったレイさんとリリィさんも同日にボイス収録があるので、一緒に行ってくれることになって、なんとか納得してくれた。

 

 涙目になりながらも頑張って収録に行くまーちゃんとっても良かった。

 まーちゃんってどんなことしてもカワイイから凄い。はぁ…… あのときの表情、ムリ。尊い。。。

 

 ちなみに、レイさんとリリィさんも同じく登録者15万人突破記念のボイス収録だそうだ。

 魔王、勇者、天使の3人は登録者数が各々ほとんど一緒なので、○○記念、というのが結構時期がかぶったりする。

 

「やっと準備完了なのだわ」

 

 そんなふうに思いを馳せていると、ダウンロードが終わった。

 

 現在時刻、休日の13時過ぎ。

 

 ボイス販売開始時刻の13時ジャストにすぐさま購入して、パソコンにダウンロード。そして、それをスマホに移して、ベッドへGO。

 

 今日はこのビッグイベントのために他の予定を何も入れていない。

 存分に楽しむのだわ!

 

 先日買った、そこそこ良いお値段のするイヤホンをセットして、ベッドに仰向けになって目を閉じる。

 

 ボイスを聞くときは、なんていうか、自由で救われてなくちゃいけないのは常識だ。

 

「ペットになる準備は万端ね!」

 

 今回のボイスのタイトルはなんと『魔王様のペットになった件』。

 販売ページの説明文もそそる内容だ。

 

 日本ではない、遠い、遠い世界。

 ある日あなたは人類と敵対している魔王軍に捕まってしまいます。

 屈強な魔物に連れていかれた先には、小さな魔王様がいました。魔王様はその小さな唇で貴方に命令を下します。

 『人間よ。お主には、我の愛玩動物―― すなわちペットになってもらおう』

 妖艶に笑う魔王様は心底楽しそうです。

 

 一体どんなボイスなのか、ワクワクが止まらない。

 タイトル的になにかいかがわしいものを想像してしまいそうだ。まあ私はそれでも一向にかまわないけれど。というよりまーちゃんのペットになることを断る人は多分いないだろう。

 

 スマホの画面でミュージックアプリを起動して、パソコンから取り込んだボイスを選択。

 ボイス時間は40分。初回用と2回目以降視聴用の2つがある。結構力が入った作品だ。

 

「んし」

 

 精神統一して再生ボタンを押す。

 

 程なく、コツ…コツ…と冷たい石畳を歩く音が流れる。同時にジャラジャラと、金属と金属が当たる音がする。状況的には、手錠をかけられて、鎖で魔物たちに引っ張られて、暗い石畳を歩かされている感じ…かな?

 

 しばらく靴音だけが続き、ギィ…と重い扉が開く音がした。

 

 そしてまた歩かされ、ドサッという音がする。

 魔王様の前に突き出された感じだろう。

 

 

『くくく…… 呆けた顔をしおって。なんとも…いじり甲斐のありそうな人間じゃ』

 

 聞き慣れた、けれども雰囲気の違う、甘く可愛い声。

 今の私は、魔王軍に捕らえられ、魔王の前に突き出された哀れな人間。

 

 ――あぁ、やばい。ゾクゾクする… 今までこういうシチュエーションの買ったことないけど、存外いいかんじじゃん。

 

 魔王ニーナ・ナナウルムから見下されながら状況の説明が始まった。

 

 私が魔王軍につかまったこと。

 ここから逃げ出すことは出来ないこと。

 魔王様が新しいペットとして人間を飼いたいと思っていたこと。

 

『やはりトップたるもの、変わったペットを飼いたくなるものなのじゃ。ふふふ、安心して良いぞ? ちゃんと人間の飼い方は調べてあるからの!

 ……あぁ、そうじゃった。これをしないとセバスから怒られるからな。ククッ。ほれ、顔をこちらに向けよ』

 

 コツコツと靴音がこちらに近づいてきて、布のこすれる音が近づいてきて、いたずらっぽく魔王様が笑う。

 そして、『チュッ…』という口づけの音がした。

 

『今のはちょっとした隷従魔法じゃ。お主が我に謀反を起こさぬようにな。

 これをしないとセバスが煩いんじゃよねぇ。ニーナ様の身の安全が~、とか。こんな小童(こわっぱ)に我がやられるわけなかろうに。のう?

 ククク… そう怯えるな。お主にとっても悪い話ではないぞ? なんせ、この我から寵愛を受けられるんじゃからのう。それに…… お主、人間の世界では色々とストレスがたまる生活をしておったじゃろう? ククッ、我に隠し事は無駄じゃ。“視える”からの』

 

 魔王様は“さて…”と話を続ける。

 

『お主は愛玩動物じゃ。つまり、我から大切に可愛がられることが仕事なわけじゃが……

 もう夜も更けてきたのぅ。ほれ、我の寝室にいくぞ。……なんじゃ? 愛玩動物なのじゃから、我と一緒になるのは当然じゃろう?』

 

 べ、ベッド……!!

 

『ケルベロスがまだ小さいころは一緒のベッドで寝ておったのだがのぅ。体長が12メートル超えの今となっては流石に一緒のベッドで寝るのは厳しくてな…… 我は構わぬのじゃけど、セバスがダメっていうのじゃ。“そんな図体の大きな生き物を城内にうろつかせてはいけません”とな。ちーとばかし厳し過ぎと思わんか?

 ……うーむ、相づちはしてくれるが、お主、随分と無口なやつじゃのう。まあよい。最初は少しツンケンしてるくらいがちょうど良いのじゃ』

 

 そんなふうに魔王様から話しかけられつつ、コツコツと小気味よい靴音が響く。

 

『ここが寝室じゃ。なかなか良いベッドじゃろう?

 さて、ふぁ~あ…… じゃあ……寝るかの。……ほらどうした。お主、もっと(ちこ)う寄らんか』

 

 魔王様の着ている服の擦れる音か、はたまた掛け布団の音か。布が擦れる音が心地よい。

 そして魔王様の吐息が耳元で聞こえる。

 

『ふふっ…… そう照れるな。()いやつめ。

 お主が人間界でどういう扱いを受けていたのかはある程度知っておるぞぉ? 仕事か学業かは知らぬが、随分と疲れる生活をしておったじゃろう。今日も随分と疲れたんじゃないか?

 もう、そのような生活は綺麗サッパリ忘れろ。

 我はお主を愛でる。それすなわち、お主は我に甘えて良いということじゃ』

 

 魔王様の心地の良い囁き声が耳を撫でる。

 

 まるで本当に隣に魔王様がいるみたいだ。

 

『ケルベロスは顎の下を撫でるのが好きじゃったが、お主は人間じゃからな。頭をよしよしと撫でるのが良いじゃろう。飼い方を調べた本にもそう描いてあったしな。

 ほら、よしよ~し。いっぱい甘えろ~。我の愛情を拒否するなど愚行にも程があるからな』

 

 なんだろう。

 すごく気持ちよくて心地よくて、このまま眠りについてしまいそう。このボイスは安眠用のボイスだったのか…… 毎日聴こうかな……

 

『ふふっ。眠くなってきたか? うとうとしている姿もなかなか可愛いじゃないか。

 お主をペットにして正解じゃ。

 ……そうじゃ。子守唄でも唄ってやろうか? 我がよく母上に唄ってもらっていた唄じゃ。

 

 ~~♪ ~~~♪』

 

 どうやら日本語じゃないようだが、不思議と耳に馴染む、優しい音色。

 このボイスのために作ったのかな? 凄いいい曲ね。

 

 

*****

 

 

「良い……」

 

 ボイスが終わって、自然とその言葉が私の口から溢れた。

 

 あ~! やばい。

 まーちゃんのちょっぴり嗜虐的な声色も、耳元で囁かれるような声も、とっても良かった。

 

 人間の世界なんて未練ないから、魔王様の従順なしもべになるしかないわ!

 

 やっぱりまーちゃんは最高だ。

 いやぁ、本当に素晴らしいのだわ!

 

「ボイスだけでも素晴らしいのに、こうやって沢山のまーちゃんに囲まれながら聴くボイスはより一層最高だわ……!」

 

 そう言って、私は部屋を見渡す。

 天井や、四方の壁。至るところに“まーちゃん”と“ニーナ・ナナウルム”の写真が貼ってあり、どこに目を向けてもまーちゃん達と目を合わせることができる。

 

 部屋にはニーナ・ナナウルムのグッズももちろんすべて完備してある。

 

 私は壁にある一枚の写真を見る。

 オフコラボ前のまーちゃんとの特訓のときに撮った写真だ。 

 

 恍惚としながら、なんとはなしにその写真を右手で撫でる。

 

 

「あぁ…… まーちゃん。やっぱりまーちゃんは素晴らしいのだわ……」

 

 

 これからもずっと推して(・・・)いこう――。

 

 

 

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