少し悪いことをしたかな。
そんな気持ちがずっと私の中で渦巻いている。
折角セカイという場所でMEIKOとKAITOが頑張ってくれたのに、
あんなにあっけなく終わってしまうなんて。
でも実際2人がセカイに導いてくれなければ自分の心境を目で見ることは叶わなかった。
「(今度改めて謝りにいこう……あ、好きなものでも持っていこうかな)」
MEIKOとKAITOと言えばお酒とアイス。
ファンが勝手につけた認識の一つではあるけど、
ミクのネギに比べればそのまま食べ飲み出来る分まだ困ることはないだろう。
あんな雪の降るセカイでアイスを差し出す方もどうかと思うが。
「すみません」
「いらっしゃいませー。あ、いつもご利用ありがとうございます」
グレーのショートヘアーに黄緑色の瞳の少女。
ここのお店でもそこそこ噂になっている常連さん。
名前は知らないけど何度か対応したことがある。
見たところ私と同じくらいの年だけれど、制服からして宮益坂の人だと思う。
「袋はご入用になりますでしょうか?」
「はい、お願いします」
商品はベースの弦に楽譜。
少し話したいとは思うけれど待たせてしまっても悪い為手早く済ませる。
「お待たせ致しました。こちらおつりに、商品となります。ありがとうございました」
おつりを手渡して頭を下げる。
ちょうどそのタイミングでフロアの人と交代の時間になり、フロア巡回と清掃を行う。
やっぱりというか、ここ最近音楽関連に敏感になっていた。
特に同じくらいの年の子が相手であればなおさらで、
楽器やジャンルが違っても意識してしまう。
自分もあのまま続けていたらどうなっていたのか、というありもしない自分のことを。
そんな中で、先ほどの少女が入り口近くで友達と思わしき2人と会話しているのが目に入った。
会話の内容は聞き取れないが先ほど購入した楽譜を見せているあたりバンド仲間といった所か。
しばらくして会話は終わり、嬉しそうにしている二人を残して常連さんは行ってしまった。
青春っぽいなと思って遠目に見ていると、片方の黒髪の少女と目が合った。
「店員さん、すみません!」
「はい、いかがなさいましたか?」
「アタシにこのお店一番のシンセサイザーを下さい!」
そう言って隣の金髪の女の子がまるでお嫁を取りに来たかのように、
迫真の演技で頭を下げ財布を差し出した。
「咲希……その言い方はちょっと違うかな」
「ええー!? だって一生に一度かもしれない買い物だよ!? ここぞって時に使わなきゃ!」
「ふふっ。あっ、すみません。シンセですよね。ご案内します」
時が凍り付いたかと思えば、黒髪の子が苦笑いしながら優しくツッコミを入れた。
演じていた彼女は割と真剣だったからか冗談めいて反論する。
そんな光景が微笑ましくて、思わず笑みがこぼれてしまった。
店員である私が笑ってしまっては失礼になるから誤魔化し先導する。
「シンセといっても色々種類があるので、
弾きたい曲とか主に使うところなどを教えていたければご案内出来るかと」
「ええっと、弾きたい曲はいっぱいあるし、出来れば音数が多いので!」
「それに持ち運ぶから軽い方がいいよね」
「あ、そっか。あっちで弾くならそれも考えなきゃだね」
「音数が多くて女の子でも持ち運びしやすい……となるとこれかな」
いくつかあるおすすめのシンセを紹介し、実際に触ってもらって選んでもらう。
容姿こそ派手だけれど、弾く時の姿勢やタッチはとても繊細で。けれども見せる表情は明るい。
それをなだめながら出来る限り意思を尊重するもう一人の少女の姿も相まって、
まるで親子だった。
「因みにバンドか何かを始められる、とか?」
「そうなんです! 今はまだ2人だけど、頑張っていつかは皆でやれたらなって」
「あっ……すみません。余計なこと聞いてしまったみたいで」
これから同じくらいの年の人が音楽を始めるという動機が知りたい。少しの興味だった。
予想外の答えに何やら事情が込み合っているようで、これ以上は聞かない方がいいだろう。
「店員さんも何か楽器やってたんですか?」
「フルートや、笛関係を小学生の頃にやってましたね。中学でやめちゃいましたけど」
「あ、そうなんですか……」
黒髪の子が話題を変える為に話を振ってくれたのに、ばっさり切り捨ててしまった。
それからも様々なシンセに触れながら店内を回り質問に答える。
あれでもないこれでもないと悩んだ後、最初におすすめしたシンセに戻ってきた。
「なんだかんだで戻ってきちゃったね」
「最初に選んだのが結局一番いいって、あるあるだよね」
「そうだねー。店員さん、これでお願いしまーす!」
「はい。ではお手続きしますので少々お待ちください」
・
・
「「今日はありがとうございました(!)」」
「またのご来店をお待ちしております」
大きな箱を手から下げつつ二人は律儀に挨拶してくれて、それを笑顔で返し背中を見送る。
理由はどうあれこうやってまた一人音楽を始めていく。
出来れば私のようにならないでと、自己満足とエゴを想いながら人を送り出すも、
言葉では表しづらい感情が胸の中で渦巻いていた。