荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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ようこそ、新しいセカイへ 後編

突然の出会いに思わず目を何度も擦り、果てには頬まで引っ張り始める文。

 

「い、いひゃい……夢じゃない……?」

 

しかしそれは覚めることはなく、目の前にいる憧れの存在はその様子をまじまじと見つめていた。

 

「気は済んだ?」

「あ、うん。ごめんねミクちゃん。待たせちゃって」

「ううん。それより良かったら、乗っていかない?」

 

そういってミクは文に手を差し出す。

恐る恐る手を取れば、ぐいと引っ張られてミクの隣に座り込んだ。

 

「わ、わわ! ミクちゃんに触れる!?」

「ここはセカイだからね。さあ、いくよ」

 

もう片方の手で手綱を操り馬を進める彼女。

といっても急ぐわけでもなく、ゆっくりと景色を楽しむかのような速度であった。

 

「あ、あのあの、髪の毛触っていい?」

「邪魔しない程度ならね。好きなだけ……ってもう触ってる」

「ふわあああ、ツヤツヤだー!!」

 

実体を持っているとわかるや否や、その長い三つ編みに手を伸ばす。

最初は手櫛でほぐすようにしていたが、いつしか手のひらにのせたりと、やりたい放題だった。

 

「はう~……ありがとうミクちゃん、わたしいつでも死んでいいよ~」

「死んだらダメだよ。文ちゃんにはやってもらわなきゃいけないことがあるんだから」

 

一通り触った後にお礼をいい、感無量といった笑みを浮かべる文。

不謹慎な発言をするも、ミクに咎められる。

 

「やってもらわなきゃいけないことって?」

「文ちゃんは、このセカイで本当の想いを見つけなきゃいけないの」

「本当の……想い……」

 

その視線は道の先を見つめているが、声のトーンからして真剣であることがわかる。

それを無視できるほど文も能天気ではなかった。

 

「本当の想いを見つけると、どうなるの?」

「このセカイに来る前に、Untitledっていう曲を再生したでしょ?」

「あ、これだね」

 

懐にしまっていたスマホを取り出して画面を見つめる。

そこには今だ再生され続けているUntitledがあった。

 

「本当の想いを見つけられた時、それがウタになるの。

 それでぼく達はそのウタを歌うことができる」

「うーん、よくわかんないよー」

 

そこまで難しい話ではないのだが、文からすればこの現象そのものでいっぱいいっぱいである。

それに魔法もびっくりな摩訶不思議が詰め込まれれば、頭がパンクするのも時間の問題だった。

ミクは説明を諦め、重要なことだけを口にする。

 

「初めてでこんなにたくさん説明したら解らないよね。

 ちなみにUntitledを止めれば帰ることができるよ」

「……止めたら消えちゃったりしない?」

「消えることはないよ、文ちゃんなら。

 だから今日はおやすみして、また今度会おう?」

「……わかった。でも、約束して!」

 

いくら憧れの存在の言葉とはいえ、やはり奇跡とも言えるこの体験を無駄にしたくない。

文はその一心で小指を差し出した。

 

「……? それは?」

「あ、ミクちゃんは知らないよね。指切りっていって大切な約束をする時にするんだよ」

 

ミクの空いた手を取り、同じように構えさせ小指を絡める。

 

「指切りげんまん、嘘吐いたらネギ千本呑ーます! 指切った!」

「どうしてネギ……?」

「本当なら針なんだけど、わたしも呑みたくないしミクちゃんならネギって思って」 

 

二次創作の副産物とも言えるセットではあるものの、このミクにとってはさっぱりのようで。

満足そうに笑う文に対して苦笑で返すことしかできないミク。

 

「それじゃあ、またねミクちゃん!!」

「うん。ぼくもセカイも待ってるから」

 

Untitledを停止させ光に包まれる文を見送った。

 

彼女がいなくなった場所を埋めるように、枯れ草の荒野に冷たい風が吹く。

1人取り残されたミクは多少進んだところで馬を止めて、荷台の上からキャンプセットを取り出した。

 

少量の薪を辺りの枯れ草と一緒に燃やす。

すぐに薪へと燃え移り、焚き火の出来上がりだ。

こういった点においてはセカイさまさまと言えるだろう。

 

暖を取りながら積み荷の中にあった少量のチョコレートを口に含み、ゆっくりと味わう。

その味が消えないうちに、荷物の中から古びたペンと色褪せた本を取り出した。

 

『また1人、このセカイに本当の想いを見つけにやって来た。

 名前は鶴音文。ひとりぼっちの女の子。

 当然だけど本当の想いには気づいていないみたい。

 でも、頑張るよ。きっとまた笑って過ごせるように』

 

そこまで書いてページの片隅に日付を入れる。どうやら日記帳のようだ。

 

「これも随分と経っちゃったな」

 

そう呟いてペンを置く。見上げる空には未だ雲が覆い尽くしていた。

鈍色のセカイに光が灯るのか。それはセカイの住人でも知り得ない。

 

「──♪ ───♪ ──♪」

 

ひとりぼっちの歌姫は、音楽も、伴奏も無しに歌い始める。

それはしっとりとした歌声で、希望に満ちたものではない。

どのセカイにも似つかない、ただ自分の無力さを歌った曲。

それでもただ、生きているだけで嬉しいのだと綴った歌。

 

その歌声は誰の元へ届くことなく、消えゆくのみだった。




大切な人たちへ/傘村トータ


皆様ご無沙汰しております、kasyopaです。
これにてビビバス編は完結です。
基本的にビビミクさんとか書けてなかったので、
突貫工事で補った話ですが、書いてて楽しかったです。

次回からは外伝作品、小話をメインに数種類のお話を投稿させていただきます。
(エイプリルフール含む)

さて、これ以降の文章は活動報告じみたものになるので、
興味のある方のみ読み進めていただければと思います。
活動報告に移さないのは、ある程度の方に見ていただきたい、というのもあるので。

では、次回、外伝をお待ちいただければ。


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さて、以前お話させていただいた通り、
この話をもって「荒野の少女と一つのセカイ」の『第1部』とし、
一旦の完結とさせていただきます。

ここから先は『第2部』……と行きたかったのですが。
この小説のコンセプトの関係上、
メインストーリー編もびっくりなくらい既存キャラとの絡みが減ります。

外伝の関係上、タイミングを見て()()()()()()()させていただきます。
(主に書き貯めの生成と、次回モモジャン箱イベのストーリー待ち的な意味で)
短くて3日、長くて1週間頂くことになりますが、
その時投稿した話のあとがきおよび、小説情報・タグにも明記します。

また第2部投稿に向けて、小説情報の注意書きも変更させていただきます。
現状のままだと恐らく内容詐欺っぽくなっちゃうので……

ここまで読んでいただいた方々には、再び感謝を。
100話という話数だけみればすごいことになりましたが、
読んでいただけた皆様には感謝しかありません。

UA・感想・評価・誤字報告・ここすき・お気に入りなど、全てが励みになります。
これからも、鶴音姉妹──だけではないお話を見届けて頂ければ幸いでございます。

本当にありがとうございました。
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