突然の出会いに思わず目を何度も擦り、果てには頬まで引っ張り始める文。
「い、いひゃい……夢じゃない……?」
しかしそれは覚めることはなく、目の前にいる憧れの存在はその様子をまじまじと見つめていた。
「気は済んだ?」
「あ、うん。ごめんねミクちゃん。待たせちゃって」
「ううん。それより良かったら、乗っていかない?」
そういってミクは文に手を差し出す。
恐る恐る手を取れば、ぐいと引っ張られてミクの隣に座り込んだ。
「わ、わわ! ミクちゃんに触れる!?」
「ここはセカイだからね。さあ、いくよ」
もう片方の手で手綱を操り馬を進める彼女。
といっても急ぐわけでもなく、ゆっくりと景色を楽しむかのような速度であった。
「あ、あのあの、髪の毛触っていい?」
「邪魔しない程度ならね。好きなだけ……ってもう触ってる」
「ふわあああ、ツヤツヤだー!!」
実体を持っているとわかるや否や、その長い三つ編みに手を伸ばす。
最初は手櫛でほぐすようにしていたが、いつしか手のひらにのせたりと、やりたい放題だった。
「はう~……ありがとうミクちゃん、わたしいつでも死んでいいよ~」
「死んだらダメだよ。文ちゃんにはやってもらわなきゃいけないことがあるんだから」
一通り触った後にお礼をいい、感無量といった笑みを浮かべる文。
不謹慎な発言をするも、ミクに咎められる。
「やってもらわなきゃいけないことって?」
「文ちゃんは、このセカイで本当の想いを見つけなきゃいけないの」
「本当の……想い……」
その視線は道の先を見つめているが、声のトーンからして真剣であることがわかる。
それを無視できるほど文も能天気ではなかった。
「本当の想いを見つけると、どうなるの?」
「このセカイに来る前に、Untitledっていう曲を再生したでしょ?」
「あ、これだね」
懐にしまっていたスマホを取り出して画面を見つめる。
そこには今だ再生され続けているUntitledがあった。
「本当の想いを見つけられた時、それがウタになるの。
それでぼく達はそのウタを歌うことができる」
「うーん、よくわかんないよー」
そこまで難しい話ではないのだが、文からすればこの現象そのものでいっぱいいっぱいである。
それに魔法もびっくりな摩訶不思議が詰め込まれれば、頭がパンクするのも時間の問題だった。
ミクは説明を諦め、重要なことだけを口にする。
「初めてでこんなにたくさん説明したら解らないよね。
ちなみにUntitledを止めれば帰ることができるよ」
「……止めたら消えちゃったりしない?」
「消えることはないよ、文ちゃんなら。
だから今日はおやすみして、また今度会おう?」
「……わかった。でも、約束して!」
いくら憧れの存在の言葉とはいえ、やはり奇跡とも言えるこの体験を無駄にしたくない。
文はその一心で小指を差し出した。
「……? それは?」
「あ、ミクちゃんは知らないよね。指切りっていって大切な約束をする時にするんだよ」
ミクの空いた手を取り、同じように構えさせ小指を絡める。
「指切りげんまん、嘘吐いたらネギ千本呑ーます! 指切った!」
「どうしてネギ……?」
「本当なら針なんだけど、わたしも呑みたくないしミクちゃんならネギって思って」
二次創作の副産物とも言えるセットではあるものの、このミクにとってはさっぱりのようで。
満足そうに笑う文に対して苦笑で返すことしかできないミク。
「それじゃあ、またねミクちゃん!!」
「うん。ぼくもセカイも待ってるから」
Untitledを停止させ光に包まれる文を見送った。
彼女がいなくなった場所を埋めるように、枯れ草の荒野に冷たい風が吹く。
1人取り残されたミクは多少進んだところで馬を止めて、荷台の上からキャンプセットを取り出した。
少量の薪を辺りの枯れ草と一緒に燃やす。
すぐに薪へと燃え移り、焚き火の出来上がりだ。
こういった点においてはセカイさまさまと言えるだろう。
暖を取りながら積み荷の中にあった少量のチョコレートを口に含み、ゆっくりと味わう。
その味が消えないうちに、荷物の中から古びたペンと色褪せた本を取り出した。
『また1人、このセカイに本当の想いを見つけにやって来た。
名前は鶴音文。ひとりぼっちの女の子。
当然だけど本当の想いには気づいていないみたい。
でも、頑張るよ。きっとまた笑って過ごせるように』
そこまで書いてページの片隅に日付を入れる。どうやら日記帳のようだ。
「これも随分と経っちゃったな」
そう呟いてペンを置く。見上げる空には未だ雲が覆い尽くしていた。
鈍色のセカイに光が灯るのか。それはセカイの住人でも知り得ない。
「──♪ ───♪ ──♪」
ひとりぼっちの歌姫は、音楽も、伴奏も無しに歌い始める。
それはしっとりとした歌声で、希望に満ちたものではない。
どのセカイにも似つかない、ただ自分の無力さを歌った曲。
それでもただ、生きているだけで嬉しいのだと綴った歌。
その歌声は誰の元へ届くことなく、消えゆくのみだった。
大切な人たちへ/傘村トータ
皆様ご無沙汰しております、kasyopaです。
これにてビビバス編は完結です。
基本的にビビミクさんとか書けてなかったので、
突貫工事で補った話ですが、書いてて楽しかったです。
次回からは外伝作品、小話をメインに数種類のお話を投稿させていただきます。
(エイプリルフール含む)
さて、これ以降の文章は活動報告じみたものになるので、
興味のある方のみ読み進めていただければと思います。
活動報告に移さないのは、ある程度の方に見ていただきたい、というのもあるので。
では、次回、外伝をお待ちいただければ。
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さて、以前お話させていただいた通り、
この話をもって「荒野の少女と一つのセカイ」の『第1部』とし、
一旦の完結とさせていただきます。
ここから先は『第2部』……と行きたかったのですが。
この小説のコンセプトの関係上、
メインストーリー編もびっくりなくらい既存キャラとの絡みが減ります。
外伝の関係上、タイミングを見て
(主に書き貯めの生成と、次回モモジャン箱イベのストーリー待ち的な意味で)
短くて3日、長くて1週間頂くことになりますが、
その時投稿した話のあとがきおよび、小説情報・タグにも明記します。
また第2部投稿に向けて、小説情報の注意書きも変更させていただきます。
現状のままだと恐らく内容詐欺っぽくなっちゃうので……
ここまで読んでいただいた方々には、再び感謝を。
100話という話数だけみればすごいことになりましたが、
読んでいただけた皆様には感謝しかありません。
UA・感想・評価・誤字報告・ここすき・お気に入りなど、全てが励みになります。
これからも、鶴音姉妹──だけではないお話を見届けて頂ければ幸いでございます。
本当にありがとうございました。