荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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外伝はすべて1部終了後のお話ですが、
時系列的には色々バラバラです。ご容赦ください。


東雲姉弟×鶴音姉妹 その2

結局オニキスを手懐ける事は叶わず、

気を取り直して東雲姉弟は出揃った料理に舌鼓を打っていた。

 

「めちゃくちゃ旨いなこれ……」

「ほんと、下手したらチェーン店のより美味しいかも……」

 

2人はただただ出てくる料理に声を漏らしていた。

量も申し分なく、多少値が張るものの十分にその価値があるものだった。

それこそこんな場所でくすぶっていていいのか、とドン引きするレベルである。

 

「(今度皆にも教えてあげよ。まふゆにはちょっと悪いかもしれないけど)」

 

味覚が欠落している彼女は解らないかもしれないが、

それでも美味しい料理というものは心の活力になる。

 

少し前になるが、ニーゴのメンバーで保護猫カフェを訪れたことがあった。

そこも悪くはなかったが、ここを知ってしまってはもう戻ることはできない。

それほどにまで虜にされてしまいそうな魅力がこの店にはあった。

 

「お気に召したようで嬉しいわ。ところで2人はあの子達のお友達?」

「いや、友達っていうか知り合いっていうか……」

「知りません。特にお姉さんの方とは無関係です」

 

空のコップに水を注ぐオーナーの声に口を濁す彰人と、包み隠さずその態度で示す絵名。

そんなことはいざ知らず、鶴音姉妹は猫達と触れ合っていた。

 

「そうなの。てっきりお友達なら運がいいと思ったのだけど」

「運がいいって、それってどういう──」

 

含みのある言い方で彼女は姉妹の方へと視線を向ける。

こちらにとっては不運以外の何物でもない絵名も、それにつられて2人を見た。

 

「久しぶりだねオニキスー。ちゃんといい子にしてたー?」

「なぁ!?」

 

そこには先程まで不動の存在であった看板猫を、意図も容易く手懐けている文の姿があった。

オニキスも随分と機嫌がいいのか、ニャオニャオと鳴き声をあげている。

 

「なんで……あの子、ほとんど人に懐かないんじゃ……」

「ほとんど、って事はアイツだけ例外なんだろ。なんでかは知らねぇけど」

「元々捨て猫だったオニキスを連れてきてくれたのが、あの子だったから。

 オニキスも文ちゃんの事が忘れられないのね」

 

その説明を聞いて合点がいく彰人であったが、

それ以上に絵名は目の前の光景を悔しがっている。

 

唯一オニキスを手懐けられる存在、鶴音文。しかし彼女はあの鶴音言葉の妹である。

頼めば写真の1つや2つ撮らせてくれそうではあったが、頼む相手が悪すぎる。

文本人に罪はないが、言葉のいる場所で頭を下げるのはなんとしてでも避けたかった。

しかしそれではここに来た目的が果たせない。

 

プライドのためにロケーションを捨てるのか、その逆か。

仲間のまふゆに対して温厚になったものの、言葉は仲間でもなんでもない。

絵名にとって非常に難しい問題であった。

 

「ほら、お姉ちゃんも久しぶりだし撫でてあげて」

「うん。オニキス、おいで」

「(ああぁ……! オニキスがアイツの膝に乗って!)」

 

言葉もその名を呼べば、妹ほどではないものの手懐けることが出来る。

膝の上で丸くなるその背中を優しく撫でていた。

 

「そんなに恨めしそうに見るくらいなら素直に頼んだらいいだろ」

「それは嫌。それなら彰人が頼んでよ。クラスメイトなんでしょ」

「はあ? なんで俺が頼まなきゃいけないんだよ」

「別にいいでしょ頼むだけなんだから!」

「お姉さん、オニキスに触りたいんですか?」

 

いつもの流れでひと悶着あるか、といったところで文が絵名に声をかける。

名前を知らないからか、あるいは女性的な三人称なのか、彼女とは言わなかった。

 

「あ、うん。触りたいっていうか一緒に写真が撮りたいっていうか……」

「わかりました! オニキス、おいでー」

 

文が呼べば最優先で飛んでいく。

絵名が触れ合いコーナーに移動すればその元へ行くよう促してくれた。

そのお陰もあり絵名もオニキスを手懐けることに成功する。

 

「わ、ほんとに来た……」

「さあ、今のうちに写真いっぱい撮っちゃってください!」

「う、うん! ありがとう!」

 

感謝を述べつつ、様々な体勢で写真を撮り続ける絵名。

一方の言葉は邪魔しないようにテーブルへと移動する。

 

「なんか迷惑かけたみたいで悪いな」

「そんなことないよ。文も嬉しそうだし」

 

オニキスが機嫌を悪そうにすると文が構い、回復したところを見計らって撮影を行う。

見事な連係プレーだ。こうして絵名は文の協力もあり、無事目的を果たせたのである。

 

「そういえばまだ自己紹介してなかったよね。私は東雲絵名。よろしくね」

「あ、鶴音文です! よろしくお願いします!」

 

交流によって好感を得た者同士、仲良く自己紹介をしている。

その光景は彰人にとって珍しく、言葉にとってはいつものことだった。

 

「おーい、早く食べないと冷めちまうぞ」

「わかってるって。でももうちょっと」

「文もご飯冷めちゃうよ」

「はーい、でも少し待ってー」

 

彰人と言葉が呼び掛けるも、またも絵名は会話や自撮りに夢中になっていき、

それを文が加速させる。

こうなっては止まらないと諦め、2人は箸を進めることにした。

 

 

 

「ありがとうございましたー」

 

それから4人は保護猫カフェを後にし、ショッピングモールへと移動していた。

 

「へー、文ちゃんってダンスやってるんだね。動画とかあったりする?」

「ありますよー。はい!」

「うわ、え、嘘。こんな動き出来るんだ。ほら彰人、アンタのダンスの参考にしたら?」

「オレがやってるのはアクロバット競技じゃねえ。大体そんなの上から数えた方が早いレベルだぞ」

 

その道中も絵名と文は交流を深め、自分の趣味の話へと転じていた。

自分の内なる情熱をそのまま表現する文の舞踏は、同じ創作者として感激せざるを得ない。

 

「絵名さんも何かされてるんですか?」

「あ、えっと……自撮り、かな。ほら、さっき撮った写真だけど」

 

口ごもった返事と共に先程撮った写真の数々を文に見せ、

写真写りの違いやアプリの盛り方などをレクチャーしている。

 

「ふええ……最近のスマホ綺麗に撮れるからそういうの考えてなかったなー」

「綺麗に撮れるからこそやっぱりアラも目立つし、盛るのだってその人の腕次第なんだから」

 

その辺りを瑞希はわかっているのかいないのか謎だが、いつもその事で突っ込んでくる。

それに比べると文は物わかりもよく素直な為、絵名にとって好感触であった。

 

「東雲さんと文、すっかり仲良しさんだね」

「まぁ、そうだな」

 

仲睦まじげな2人を後ろから眺める言葉と彰人。

彰人からすれば何がそうさせたか解せないものの、すっかり気に入っている様子にも見えた。

 

ほどなくしてショッピングモールに到着すると、言葉が突拍子のない事を言い出した。

 

「東雲さん、もし良ければ文と2人で回って頂けませんか?」

「えっ? まあ、それは別にいいけど……どうしたのよ急に」

「いえ、特に深い意味はありません。それじゃあ東雲君、行こっか」

「それじゃあってなんだよ……あっ、おい!」

 

スタスタとその場から立ち去る言葉を放っておけず、彰人はその背中を追いかける。

こうして普段と違う組み合わせで店を巡る2組であった。

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