時系列的には色々バラバラです。ご容赦ください。
結局オニキスを手懐ける事は叶わず、
気を取り直して東雲姉弟は出揃った料理に舌鼓を打っていた。
「めちゃくちゃ旨いなこれ……」
「ほんと、下手したらチェーン店のより美味しいかも……」
2人はただただ出てくる料理に声を漏らしていた。
量も申し分なく、多少値が張るものの十分にその価値があるものだった。
それこそこんな場所でくすぶっていていいのか、とドン引きするレベルである。
「(今度皆にも教えてあげよ。まふゆにはちょっと悪いかもしれないけど)」
味覚が欠落している彼女は解らないかもしれないが、
それでも美味しい料理というものは心の活力になる。
少し前になるが、ニーゴのメンバーで保護猫カフェを訪れたことがあった。
そこも悪くはなかったが、ここを知ってしまってはもう戻ることはできない。
それほどにまで虜にされてしまいそうな魅力がこの店にはあった。
「お気に召したようで嬉しいわ。ところで2人はあの子達のお友達?」
「いや、友達っていうか知り合いっていうか……」
「知りません。特にお姉さんの方とは無関係です」
空のコップに水を注ぐオーナーの声に口を濁す彰人と、包み隠さずその態度で示す絵名。
そんなことはいざ知らず、鶴音姉妹は猫達と触れ合っていた。
「そうなの。てっきりお友達なら運がいいと思ったのだけど」
「運がいいって、それってどういう──」
含みのある言い方で彼女は姉妹の方へと視線を向ける。
こちらにとっては不運以外の何物でもない絵名も、それにつられて2人を見た。
「久しぶりだねオニキスー。ちゃんといい子にしてたー?」
「なぁ!?」
そこには先程まで不動の存在であった看板猫を、意図も容易く手懐けている文の姿があった。
オニキスも随分と機嫌がいいのか、ニャオニャオと鳴き声をあげている。
「なんで……あの子、ほとんど人に懐かないんじゃ……」
「ほとんど、って事はアイツだけ例外なんだろ。なんでかは知らねぇけど」
「元々捨て猫だったオニキスを連れてきてくれたのが、あの子だったから。
オニキスも文ちゃんの事が忘れられないのね」
その説明を聞いて合点がいく彰人であったが、
それ以上に絵名は目の前の光景を悔しがっている。
唯一オニキスを手懐けられる存在、鶴音文。しかし彼女はあの鶴音言葉の妹である。
頼めば写真の1つや2つ撮らせてくれそうではあったが、頼む相手が悪すぎる。
文本人に罪はないが、言葉のいる場所で頭を下げるのはなんとしてでも避けたかった。
しかしそれではここに来た目的が果たせない。
プライドのためにロケーションを捨てるのか、その逆か。
仲間のまふゆに対して温厚になったものの、言葉は仲間でもなんでもない。
絵名にとって非常に難しい問題であった。
「ほら、お姉ちゃんも久しぶりだし撫でてあげて」
「うん。オニキス、おいで」
「(ああぁ……! オニキスがアイツの膝に乗って!)」
言葉もその名を呼べば、妹ほどではないものの手懐けることが出来る。
膝の上で丸くなるその背中を優しく撫でていた。
「そんなに恨めしそうに見るくらいなら素直に頼んだらいいだろ」
「それは嫌。それなら彰人が頼んでよ。クラスメイトなんでしょ」
「はあ? なんで俺が頼まなきゃいけないんだよ」
「別にいいでしょ頼むだけなんだから!」
「お姉さん、オニキスに触りたいんですか?」
いつもの流れでひと悶着あるか、といったところで文が絵名に声をかける。
名前を知らないからか、あるいは女性的な三人称なのか、彼女とは言わなかった。
「あ、うん。触りたいっていうか一緒に写真が撮りたいっていうか……」
「わかりました! オニキス、おいでー」
文が呼べば最優先で飛んでいく。
絵名が触れ合いコーナーに移動すればその元へ行くよう促してくれた。
そのお陰もあり絵名もオニキスを手懐けることに成功する。
「わ、ほんとに来た……」
「さあ、今のうちに写真いっぱい撮っちゃってください!」
「う、うん! ありがとう!」
感謝を述べつつ、様々な体勢で写真を撮り続ける絵名。
一方の言葉は邪魔しないようにテーブルへと移動する。
「なんか迷惑かけたみたいで悪いな」
「そんなことないよ。文も嬉しそうだし」
オニキスが機嫌を悪そうにすると文が構い、回復したところを見計らって撮影を行う。
見事な連係プレーだ。こうして絵名は文の協力もあり、無事目的を果たせたのである。
「そういえばまだ自己紹介してなかったよね。私は東雲絵名。よろしくね」
「あ、鶴音文です! よろしくお願いします!」
交流によって好感を得た者同士、仲良く自己紹介をしている。
その光景は彰人にとって珍しく、言葉にとってはいつものことだった。
「おーい、早く食べないと冷めちまうぞ」
「わかってるって。でももうちょっと」
「文もご飯冷めちゃうよ」
「はーい、でも少し待ってー」
彰人と言葉が呼び掛けるも、またも絵名は会話や自撮りに夢中になっていき、
それを文が加速させる。
こうなっては止まらないと諦め、2人は箸を進めることにした。
・
・
「ありがとうございましたー」
それから4人は保護猫カフェを後にし、ショッピングモールへと移動していた。
「へー、文ちゃんってダンスやってるんだね。動画とかあったりする?」
「ありますよー。はい!」
「うわ、え、嘘。こんな動き出来るんだ。ほら彰人、アンタのダンスの参考にしたら?」
「オレがやってるのはアクロバット競技じゃねえ。大体そんなの上から数えた方が早いレベルだぞ」
その道中も絵名と文は交流を深め、自分の趣味の話へと転じていた。
自分の内なる情熱をそのまま表現する文の舞踏は、同じ創作者として感激せざるを得ない。
「絵名さんも何かされてるんですか?」
「あ、えっと……自撮り、かな。ほら、さっき撮った写真だけど」
口ごもった返事と共に先程撮った写真の数々を文に見せ、
写真写りの違いやアプリの盛り方などをレクチャーしている。
「ふええ……最近のスマホ綺麗に撮れるからそういうの考えてなかったなー」
「綺麗に撮れるからこそやっぱりアラも目立つし、盛るのだってその人の腕次第なんだから」
その辺りを瑞希はわかっているのかいないのか謎だが、いつもその事で突っ込んでくる。
それに比べると文は物わかりもよく素直な為、絵名にとって好感触であった。
「東雲さんと文、すっかり仲良しさんだね」
「まぁ、そうだな」
仲睦まじげな2人を後ろから眺める言葉と彰人。
彰人からすれば何がそうさせたか解せないものの、すっかり気に入っている様子にも見えた。
ほどなくしてショッピングモールに到着すると、言葉が突拍子のない事を言い出した。
「東雲さん、もし良ければ文と2人で回って頂けませんか?」
「えっ? まあ、それは別にいいけど……どうしたのよ急に」
「いえ、特に深い意味はありません。それじゃあ東雲君、行こっか」
「それじゃあってなんだよ……あっ、おい!」
スタスタとその場から立ち去る言葉を放っておけず、彰人はその背中を追いかける。
こうして普段と違う組み合わせで店を巡る2組であった。