荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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東雲姉弟×鶴音姉妹 その3

「何よアイツ、変に気使っちゃって……」

 

2つの背中を見送りつつも、少し不満を漏らす絵名。

おそらく気を使わせてしまったのだろう、と予測しつつも文の方へと向き直った。

 

「お姉さん行っちゃったみたいだけど、文ちゃんは良かったの?」

「あ、はい! お姉ちゃん、たまによくわかんないこと言ったりしますけど、

 大体うまく行くんで気にしてません」

「へぇ……信頼してるんだね。お姉さんのこと」

「当然です! だってわたしの自慢のお姉ちゃんですから!」

 

えっへん、と胸を張る彼女を見てあんな人物でも慕ってくれる誰かがいる、ということを再認識する。

血が繋がっていても分かり合えないことが多いのは絵名も知っていた。

 

「それじゃあ、私達も行こっか。どこか行きたいところはある?」

「あ、それなら……」

 

そう言って視線を向けた先にあったのは、とあるケーキ屋さん。

値段もお手頃ながら様々な種類のケーキが食べられることで有名な店だった。

 

「ちょっとさっきの量じゃ満足できなくって……ダメですか?」

「ううん、ダメじゃないけど……さっきも結構食べてなかった?」

「わたし、よく食べてよく動くタイプなんですよー。そのせいで燃費悪すぎって言われちゃうんですけど」

 

それこそカフェと言えど普通のレストランと変わらない量で、腹八分目くらいまで満たされている。

彼女に出された量はそれよりも多かったが、それでもまだ満足できないようで。

何より向かう場所の要望を聞いたのは絵名の為、断る理由もなかった。

 

・

 

・

 

テーブルの上にところ狭しと並べられた色とりどりのスイーツ。

 

「ねぇ、これ、写真撮らせてもらっていい?」

「いいですよー。むしろ撮っちゃって下さい!」

 

誰もが一度は憧れるシチュエーションだが、実際に食べられるかは別の問題である。

いくら『いいね稼ぎ』の為であっても、頼んだ分は全部食べきるのが最低限のマナー。

それを破るほど絵名は落ちぶれていなかった。

 

「なんかごめんね。食べるの遅くなっちゃって」

「そんな気にしないで下さいよー」

 

何度も配置や自分の撮る位置を代えて、納得のいくものが撮れたのはそれから10分後のこと。

それでも文は文句1つ言わず、むしろ配置替えを率先して行ってくれた。

 

今も笑いながら次々とケーキを頬張っていく文。

身内であり彰人であれば文句を言いながら急かしてきていたことだろう。

しかし彼女とは今日会ったばかりの関係。

姉とは浅からぬ縁があるものの、こちらの事情など一切知らないはず。

それでもここまで尽くしてくれるのは、ある意味異常であった。

 

「ねえ、どうしてそこまで私に付き合ってくれるの?」

 

だからこそ、その問いかけは必然だった。

それを聞いて匙を止める文。絵名はキョトンとするその目を見つめる。

 

「なんでって、絵名さん写真撮るの好きなんですよね?

 だったらできる限り応援してあげたいなって」

 

至って普通といった口調で話す彼女に、少し胸が締め付けられる。

 

違う。

自分が本当に好きなのは自撮り(現実逃避)じゃない。

自分を本当に満たしてくれるのは絵で認めてもらうこと。

認められるまで続けると誓ったはずなのに、また自分に嘘を吐いた。

 

しかし彼女の言葉は純粋。故に痛い。自分が絵描きなどということも知らない。

違うのに、まだ自分は自撮りを止められなかった。

 

「違うの。私の本当の趣味は──これ」

「絵名さん?」

 

これ以上、自分に嘘を吐きたくない。

絵名は意を決して自らのスマホを差し出した。

 

「これが本当の私。私の、好きなこと」

 

今はまだ日の目を見ていない出来損ない(最高傑作)が、そこに映し出されている。

雨上がりの空を見上げる女の子の絵。

それをただただ見つめる文。

 

『──絵名。お前は、お前が目指すような画家にはなれない』

 

例え否定されても、ただ作り続けるしかない。

必要としてくれる人がいる以上、諦めたくなかった。

そう絵名が思うことで、回りが違って見えてくる。

まふゆのことも、父親のことも。

 

「………」

「どう、かな?」

 

先ほどとは違って黙り込む文に、不安が過り思わず聞いてしまう。

咀嚼を続けていたそれを飲み込み、たっぷりと間を置いて口を開いた。

 

「わたし、絵とか全然解んないんですけど……この絵はすっごく素敵だなって思います。

 何より、一生懸命って感じが伝わってきて」

「あっ……」

 

それは何も知らないからなのか、それとも最初からお見通しだったのか。

文は絵そのものに対する感想ではなく、創作者に対する感情を抱いていた。

 

「淡い色使いとか、濡れてる表現とか……悲しくて辛くて、でも雨は止んでて。

 快晴じゃなくて……雨上がりっていうのが大事で……ごめんなさい。うまく言えなくて」

「ううん、いいの。感じたままのこと言っちゃって」

 

必死に言葉を捻り出す彼女に対して、穏やかに促す絵名。

 

「だから、その。絵名さんも、好きなことを諦めないで下さいね。

 絵を描くことも、自撮りだって!」

「あはは、ありがと。でも自撮りの方はもういいの」

「よくないです!」

 

いきなり文が立ち上がり空の皿が音を立てる。

他の客が何事かとこちらを見たが、それを気にせず文は言葉を続けた。

 

「どっちも一生懸命な絵名さん、素敵です!

 どっちも捨てられないなら欲張っちゃっていいんですよ!

 好きなことはいくつあってもいいんですから!」

「あっ……」

 

それは文の口癖だった。

絵名がそれを耳にするのは初めてであったものの、そう言ってくれる人は誰もいなかった。

才能ではなく、好きという自分の背中を押してくれる人。

 

「(そっか、そんな簡単なことだったんだ)」

 

意外にもその人物は自分の嫌いな人のそばにいて。

世界は思ったよりも広いようで狭いのだと実感する。

 

「ありがと、文ちゃん。これからも自撮り、続けていくね」

「それならよかったです!」

 

もっと早くにこの少女と出会っていれば、自分の人生は少し変わっていたかもしれない。

過去の自分が望んでいた物に、手が届いたかもしれない。

 

「──でも、あくまで本業は絵の方だからね!」

 

変わっていたら、絵名は『必要としてくれる人』と出会えなかったかもしれない。

天国へ導く救世主よりも、地獄を共に行く仲間の方が、今の絵名に必要だった。

 

自分に言い聞かせるように声を張る絵名に対し、文は満面の笑みで応えるのであった。

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